双子の狐は愛を語らう

ユーリ

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後編


ーー盗みは好きだ。
月明かりの下、屋根に三角座りをする壱歌は考えていた。
価値があるもの、キラキラ光るもの、ありとあらゆるお宝をこの手にできる瞬間はワクワクする。
魔法を使いつつ身ひとつで忍び込むスリリングさも好き。
そもそも、好きも嫌いも飛び越えたところに家系というものが存在した。
盗んで当たり前。それが狐神家だ。
「でも、僕と弍歌くんを認めてくれないこの家は嫌いだよ。…長なんかなりたくないのに」
狐の長でなければ今頃、大好きな弍歌との仲を認めてくれたのかな、なんて思ってしまう。
双子だから、兄弟だから…そんな小さなものに狐神家は囚われない。
ただ、長だからだ。
壱歌が強大な力を持つ狐の長『コン』だから。
「今日は僕の出番がなかったらいいなあ」
この屋根の下、大金持ちらしい人物のコレクションルームに狐神家の兄やら姉やらが忍び込んでいる。
きっと今頃、金目の物をたくさん運んでいるに違いない。
ふと、壱歌は気づく。張っていた結界が小さく綻び、警備の人間が数人やってきたことを。
壱歌は息を吐く。
目元だけを隠す狐の半面を装着する。
そして、狐の長であるコンだけに持つことを許された扇子を取り出した。
「僕は盗みが嫌いじゃないよ。ただ…弍歌くんと一緒にいたいだけ」
屋根を跳ね、天井のガラスを蹴り破って地上へと降りた。
案の定、警備の人間はすでに来ていた。狐神家の兄姉たちは少しばかりいつものフォーメーションが崩れているようだ。
突如現れた半面の狐面に、警備の人間が驚いている。
壱歌はにんまりと笑った。
「どうもこんばんわ、盗賊集団『狐』の長のコンでございます。ああ今宵も月が美しい」
金で縁取られた赤色の扇子を勢いよく広げる。
足元に小さな風が巻くと同時に、壱歌の尻から大きな狐の尻尾が現れた。
「あなた方に用はございません。僕たちが欲しいのはそのお宝。指を咥えて見ていてくだされば危害は与えません」
しかし警備の人間が襲いかかってくる。壱歌はひらりと避けた。
「おやおや、忠告はしたというのに」
足元にビカビカと輝く光を見て「魔法が使えるんですね」と笑い、発動前に扇子で二度ほど仰いでやる。
光が、消えた。
「コンの前では魔法など無意味。さあ兄様姉様、存分に舞いましょう」
パッと扇子を開き、ぽっかりと開いた屋根向かって扇いだ。
警備の人間たち全員が宙に浮き、旋風に巻き込まれる。
「さあご一緒に。この世の金銀財宝全て僕のもの。この世の金銀財宝全て狐のもの」
同じく狐面を被った男女が声を上げて歌いながらお宝を手にしては出ていく。中には魔法を使って飛ばす兄姉もいた。
「狐の長、コンの命令でございます。ーーこの世の全て、奪いましょう?」



名前もよく覚えていない兄の運転で、壱歌は帰っていた。
七人乗りの車に狐神家の兄やら姉やらが乗り込み、車内は楽しそうだった。
「いやー、今日も壱歌の口上はいいなー!」
「やっぱ壱歌ちゃんじゃないとテンション上がんないわよ。何ていうの? 戦況がひっくり返るっていうか」
「そうそう。やっぱり壱歌じゃなきゃな」
「ーーなあ壱歌。弍歌が破門になったって本当か?」
誰かがひとり、そう言った。
一気に車内に気まずい雰囲気が流れた。
「そうだよ」
壱歌はしれっと答える。
「僕も破門にされたい」
「何言ってんだ壱歌! お前は狐の長だろ?」
「狐の長だってなりたくてなったわけじゃない。僕は弍歌くんと一緒にいたい」
「結婚相手だったら探せばいいじゃない。男でも女でも一緒に探してあげるわよ」
「いやだ。弍歌くんじゃなきゃ僕はいやだ。ーー僕はこんなものいらない」
窓を開け、狐の半面と扇子を外に放り投げた。
「ねえ兄様姉様。大事なものなくしちゃった。誰か僕を破門にしてよ」
車が止まる。
六人が、壱歌を見つめた。
「考え直せ壱歌。そんな選択をしてもいつか絶対に後悔する日がくる」
「後悔ならしてるよ。こんな家に生まれてきたことを」
「壱歌ちゃん、それは一時の感情よ。狐神家なら兄や姉、弟や妹と恋をしても許される。でもーー弍歌くんは絶対にダメ。あなたと弍歌くんじゃ釣り合わない。壱歌ちゃん、あなたは大事な大事な長なのよ」
ぽとりと、壱歌から涙がこぼれ落ちた。
「僕もういやだ…全部投げ出したい…。なんで僕は大好きな人と一緒にいちゃいけないの?」
「だから弍歌だけはやめとけと言ってるんだ。弍歌は…狐として弱い。魔力も魔法も弱い。お前に釣り合わないんだ」
「釣り合うとか釣り合わないとか、そんなの関係ないよ。僕は弍歌くんと一緒にいたい」
「だからっ!」
兄姉のひとりが声を荒げる。しかしすぐにハッとし再び車内は静かになる。
その時だ。ひとりが、声を上げた。
「…もう奪うしかねえな。もう少し自由にさせたかったけど」
壱歌の頭の中がぐるりと渦を巻く。いつの間にか魔法にかかっていたようだ。
視界が歪む。思考が途切れる。
意識を失う寸前、壱歌は手のひらを唇に当てて「弍歌くんへ」と小さく呟いた。




手のひらを唇に当てた弍歌が、小さく笑う。
「受け取ったぜえ、兄さん」
狐神家本家。いつも通り中へ入り、中央の部屋へ入ると眠る壱歌を抱き抱えた兄姉に出会した。
全員が狐面を被っている。
弍歌が手のひらを差し出した。
「よお、兄上姉上。久しぶりだな。壱歌兄さんを迎えに来たんだ。返してくんね?」
「…破門にされたくせにノコノコと来やがって」
「しょうがねえだろ? 大好きな兄さんがお前らに奪われちまったもんで」
「壱歌はお前のものではない。少なくとも弱い狐のお前のものではない」
「ふーん。じゃあ俺が兄さんよりもお前らよりも強かったらいいってわけ? そのときは兄さん破門にしてくれるか?」
「いいだろう。そんな約束果たされないがな」
「言質取った」
ニヤリと笑うと誰かが魔法を使ったらしい、鋭い旋風に切られた弍歌の頬から血が噴き出た。
「あーあー、兄さんが好きな俺の顔に怪我させやがって。まあ、いいか」
親指で血を拭うと傷口自体が消え、それを見た狐面がざわつく。
「俺にこんな魔法使えないって? 実は使えましたー、なんてな」
楽しそうに両手を開く弍歌は、ヒビの入った狐の半面と金縁の赤い扇子を持っていた。
「来る途中に拾ったんだ。これはいらん」
そう言って狐の半面をその場に叩きつける。完全にふたつに割れた。
狐面が口を開く。
「…扇子を返せ。それは狐の長にしか使えないものだ」
「それは壱歌ちゃんのものよ」
「お前のようなやつが触れていいものではない」
「ーーそもそもお前さえいなければ壱歌は惑わされずに済んだんだ」
ぴくりと弍歌が反応する。
「大事な大事な長が、っつーか弟が取られて悔しいか。悪いな、俺と兄さんは生まれる前から約束してんだ。一緒にいる、ってな」
「そもそもお前に何ができる。まともな魔法すら使えないくせに」
「今ならまだなかったことにできる。出ていけ」
弍歌は笑った。
「そもそもさあお前ら、変だと思ったことねえの? なんで双子なのに片割れの壱歌兄さんに魔力が集中してんのか」
弍歌が扇子をパッと開くと、赤い閃光が足元を駆け巡る。
小さな煙も舞い上がり、弍歌の尻から大きな狐の尻尾が現れた。
一族の誰よりも、長である壱歌よりもはるかにその尻尾は大きかった。
「知ってるか? 人間の魔法使いは魔力の譲渡ができる。まあそこには色々と規制があるらしいが。ーーそう、ご名答。俺と兄さんも魔力の受け渡しができんだよ。それも双子だからかな、接触なしに離れた場所でも可能だ。なんで誰も気づかなかった? 初めから俺の魔力の全てを兄さんに渡していると」
扇子を掲げる。赤い閃光が部屋を包み込んだ。
「さっき返してもらったよ。言っとくが、兄さんより俺の方が魔法の使い方上手いぜ?」
兄姉に抱き抱えられる壱歌に扇子を向け、壱歌にだけ結界を張る。
弍歌はくるくると扇子を回してみせた。
「俺の初めての口上だ。ーーこの世の金銀財宝全て俺のもの。かわいい壱歌兄さん俺のもの」
バキバキと屋敷自体から嫌な音が聞こえる。
咄嗟に兄姉たちが屋敷に結界を張ろうとしたものの「遅い」と笑う弍歌に全てを打ち消された。
勢いよく扇子を広げた。
「さあ兄上姉上、存分に嫌な目に遭え。狐の長、コンの弟が命ずるーー俺と壱歌兄さんの恋路を邪魔するお前ら全員消えやがれ」




「弍歌くんキミさあ、やりすぎだと思うんだよねえ」
屋敷を見た壱歌が、あはは、と乾いた笑いを浮かべる。
「半壊っていうか全壊だし、なんか跡形もないし」
「うむ、さすがにやりすぎたか。久しぶりに魔法で全力出したから加減がわかんなかったなあ」
「絶対ウソでしょそれ。キミの全力こんなもんじゃないでしょ」
「さっすが兄さん、俺のことわかってるー」
そう言って額に口付けられた。
「屋敷にいた人どこにいるか聞いていい?」
「聞かねえ方がいいと思う」
「あー、うん、そんな感じね…。じゃあ聞きません」
「そうそう、兄さんが寝てる間に兄さん破門にされたよ」
「ホント!? やった! これで自由の身だーっ!」
壱歌はぴょんとジャンプして弍歌に抱きつく。弍歌は嬉しそうに抱き止めた。
「これで俺らを止めるヤツはいなくなったな」
「そうだね、弍歌くん。僕たちこれでようやく一緒になれるね!」
「ああ、そうだな。これからどうする? 俺としては田舎に一軒家でも買って住もうかと思うんだが」
「いいねー、僕は家庭菜園しちゃお」
「ベタだなあ兄さん」
「じゃあそういう弍歌くんは何するのさ」
「んー、犬とか猫でも飼うか?」
「そっちこそベタじゃん」
「お、そうだ。学校にも通おう」
「通いたいね! 弍歌くんと一緒に青春だ!」
「兄さんと青春楽しみだなあ。ま、時間も金もたくさんある。ふたりで外の世界見ながら残りの長い人生謳歌しようぜ」
「うんっ」
ふたりは抱き合った。
まるでお腹の中にいたときみたいだね、とお互い笑い合った。

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