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Act 8. 夏の小鳥

水無瀬家2

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「外暑かったでしょ。今冷たいお茶いれるわね」

 と通されたクーラーの効いた涼しいリビングは昔の面影を大きく残していた。

 壁紙や家具こそは全て新しくなっているものの、梁のある場所、テレビとソファの位置等何一つ変わっていなかった。
 ただ違うのは、昔より大きくなったテーブルとソファ。
 壁際においてあった本棚等は全て綺麗になくなり、スッキリとしたリビングだった。

「おお、帰ったか」

 ソファに深く座り込み、新聞を読んでいた人物が俺たちの帰省に気づいて振り返った。
 その顔を見て思わず、ドキっと心臓が跳ねる。

 ――雅人だった。

 20年近くの歳月からか、髪には僅かに白髪が混じり始めているが、エネルギーに満ちあふれた瞳はそのまま。昔のような少し浮ついた印象はどこへやら、今は油断したらグッと持って行かれそうな強い眼光を目に讃えていた。

 苦労を乗り越えた目。

 力のある実業家の大半は、こんな目をしている事が多い。
 その苦労を知る事も出来ず、どこか遠くなってしまった雅人に、胸が空虚になった感覚を覚えた。

「ただいま」

「今日からお世話になります、小鳥遊伊織です。よろしくお願いします」

 そう挨拶すれば、雅人が新聞を置いて立ち上がった。
 昔よりも大きく見える雅人は、それだけで迫力があった。俺が小さくなっただけなのかもしれないし、醸し出す雰囲気がそう見えているのか。
 多分どちらもだろう。

「ハーフさんか?」

「クォーターって説明した」

「あーそうだったか」

 「最近記憶力が悪くなってきていてな、悪いな」と雅人は笑いながら、俺の頭をぽんぽんと撫でながら、台所でパタパタと準備を進める伽耶さんの方へ向かった。
 頭をポンポン撫でる雅人の癖は何も変わっておらず、目頭がカッと熱くなった。懐かしさに、気を抜けば涙が出そうだった。

 出されたスイカとお茶を食べながら、ソファーに4人座り色々な話をした。

 薫の日常的な生活の様子から、俺の海外留学の事や家族の事。
 薫の家の話も少し聞く事が出来た。

 話によると、家を二世帯住宅へとリフォームしたらしい。昔隣に住んでいた老夫婦が、息子達と同居する事になり、空いた土地を買って新しい家を立てたようだった。
 昔の家と新しい家は、中で繋がっているらしい。廊下の奥へ曲がればそれが見えるから、後で案内するとの事も教えてもらった。

 そうこうしている内に、1,2時間があっという間に過ぎ去り、昼ご飯と墓参りを兼ねて外に出ようか、という話になった。

「墓参り……」

 脳裏に寛人だった時の自分が浮かぶ。
 曾祖父母が眠る墓の隣に、寛人だった時の俺の骨は埋まっているのだろうか。
 そう考えると不思議でならなかった。

「暑いし、ランチ食べたら薫ちゃんと小鳥遊君は家に送るから、墓参りは一緒に来なくて大丈夫よ」

 2人で遊んでて。と笑う雅人のお嫁さんに、俺は首を振った。

「あの、墓参り一緒に行っちゃ駄目ですか?」

 そう言えば、伽耶さんは大きい目を更に大きくした。

「本当に気を使わなくていいのよ」

「や、あの。僕の家、宗派が違うので、日本の墓というのを見てみたいんです」

 小鳥遊の父方の方は生粋の日本家屋という事もあり、知らない訳はないのだが、自分の今の外見上そう言えば納得されるという事は嫌という程知っていた。初対面の人に英語で話しかけられる事も良くある事だ。

「そうなのか? それなら一緒に来るか?」

 薫を見れば、薫は「伊織がみたいなら」と頷いていて、俺は無理を言ってしまった事にお詫びを入れた。
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