生贄の救世主

咲乃いろは

文字の大きさ
8 / 60
第一章 使命の伝承

晴天の空の下

しおりを挟む
「本日は晴天なり」

そう声に出したくなるほど出立の日は快晴だった。

「出してるけどな」
「モノローグに突っ込まないでください」

日はすぐに過ぎていったが、考えてみれば準備することなど何もなかった。まず私物がない。あるとしたら着ているこの制服くらいだ。アリスも特に大きな荷物はなかった。腰に少し長めの剣を差しているくらいだ。ちなみに、必要最低限の荷物はあるのだが、何故かそれが入ったリュックは柚葉が持っている。あまり重くはないのだが、女子が何故。

「何故私は従者のような扱いに・・・?」
「その方が怪しまれないだろ、いろいろ」
「怪しまれるようなところに行くんですか」
「この国では俺は大抵顔が割れてるからな。面倒な噂を広めたがる輩も少なからずいるんだよ」

要は、第二王子が年頃の女を連れ歩いていた噂したがる物好きな奴は、どの世界にもいるということだ。一度広まってしまっては、そうではないと否定するのも骨が折れるし、柚葉と一緒にいる理由を行く先々で言って回るわけにもいかない。アリスの言う通り、荷物を持っていた方が、全てとは言わないまでも、ある程度は余計な噂をされるのは防げるだろう。

「さいですか。・・・して、私はやっぱり制服のままなんですね」

もっとこう、動きやすい服を貸してくれるとかなかったのか。アリスと一緒にいるより、この世界でこの恰好の方が怪しまれそうだ。

「お前が貧弱すぎてどれもサイズが合わなかったんだろうが」
「そうでした」

柚葉はがっくりと肩を落とす。城にある服をメイドに手伝ってもらって手当たり次第に試着したのだが、どれもこれもブカブカで、とてもじゃないが着れたものじゃなかった。特に胸が。この世界の女たちは皆豊満なブツを持っているのかというほど、ウエストが合っても胸がスカスカ、丈が合っても胸がガバガバ。ウエストや丈を詰めることはできても、胸の部分は固いパットのようなもので覆われていて、調節することはできなかった。大きいなんて思ったことはなかったが、特に小さいと自覚させられる機会はなかったので、意外と落ち込んだ。和葉は大きかったのに。

「それで、ニブルっていう森でしたっけ?これから向かうの」
「ああ。言っておくが遠いぞ」
「言っておきますが私体力ないぞ」
「その時は紐付けて引き摺ってやるから安心していいぞ」
「ありがとうございます」

ニブル森は最果てだと言っていた。正確には、この世界の最北端。ここ、アステリア王国は南に位置するから、全くの正反対になる。それも、直進できる道はなく、西側をぐるりと回って行かなければならないので相当な距離になるらしい。

「大丈夫だよユズハ。アリスはこれでも面倒見はいい方だから」
「面倒の見方の話ですよイヴァンさん」

見送りに来てくれていたイヴァンは安心させるように柚葉の頭を撫でた。できることならイヴァンと一緒に行けたらよかった。彼ならせめて担いでくれるくらいはしてくれそうだ。

「ユズハ、これを」

目を細めてそう言ったイヴァンはそっと柚葉の左手を取り、自分の方へ近寄らせる。イヴァンは女性のような綺麗な手をしているが、それでも柚葉のそれより一回り大きいし、力を込めていないようなのに、あっという間に身体は引き寄せられた。あまりにも動作が美しすぎて見とれ、一瞬何をされたのか気付かなかったが、いつの間にか柚葉の首にはネックレスが掛けられていた。

「お前、それは・・・」
「国王様がね、ユズハにこれを、と」
「・・・綺麗」

年季が入ったものではあるが、しっかりと手入れがされている。よく見ると、赤い宝石のようなものがネックレストップになっている。

「ルビー?」
「ただの色のついたガラスだ」
「ガラス?」

アリスの視線は柚葉ではなく、そのネックレスに注がれていた。それをよく知っているような目をしていた。

「国王様、ユズハのことを相当気に入っちゃったんだね。これはお守りに持ってなさいとのこと」
「お守り・・・」

国王は忙しくこの場に顔を見せていない。イヴァンによるとかなり顔を出したいとごねていたようだが、臣下が羽交い絞めにしてどこかへ連れて行ったらしい。先日の王の威厳はどこに消えたのか。

「遅くなる。もういくぞ、ユズハ」
「えっ、あっ、じゃ、じゃあイヴァンさん!行ってきます!痛い、アリスさん引っ張らないで!」
「気を付けてね」

制服の首元を引っ張るアリスに対し、笑顔で手を振ってくれるイヴァン。やっぱり、イヴァンと旅したかった。

「アリスさんアリスさん」
「なんだ」
「人間、前向いて歩くように作られてるから、このままずっとこの後ろ向きの状態だと、いつか足がもげそうです」
「ああそうか」

言うが早いか、アリスは柚葉の後ろ襟を離すと、前の首元に手をかけた。

「アリスさんアリスさん!?」
「なんだ」
「前向きならいいと言うわけではなくてですね!?」

引っ張るなといいたいんだ。どうにかアリスの倍の数足を動かすから、一人で歩かせてほしい。
じゃあちゃんとついてこいよと言うと、アリスは城下町を抜けようと先を急いだ。

「アリスさんアリスさん」
「今度はなんだ」
「名前呼んでくれたの二回目ですね!」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

処理中です...