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第一章 使命の伝承
魔法のいたるところ
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荷物を抱え、先程の場所から数十メートル離れたところで、アリスがもう一度火を焚く。
作ってくれたスープは、さっきの一件で全てこぼれてしまった。食糧が限られている中もったいないし、アリスに悪いことをしてしまった。
「落ち着いたか」
「はい・・・あの、すみません、スープ・・・」
「仕方ないだろう。どうせ残っていたところで今飲める状態じゃないだろ」
その通りです。
思い出しただけでしばらく何も食べたくない。
考えてみれば、何もショックを受けるようなことではないはずなのだ。動物の命を血肉として生きている人間には、そのくらいのことは受け止めなければならない。食物連鎖とは残酷で、醜い。そしてそれが分かっていて従う人間はもっと醜い。どうにか抗おうとしている先程の野獣達のような存在の方が、よっぽど真っ当な生き方なのかもしれない。
「いやぁ、想像してたより全然キツかったです。剣を持ってるってことはどこかで闘いもあるんだろうと思ってはいたんですけど、平和な日本では耐性の付けようがなくて」
「んなもん、付けんでいい。いいから今日は早く寝ろ。明日も早く出るぞ」
投げて寄越された夜具を顔で受け取り、広げて素直に横になる。脳裏に焼き付いて離れない光景が、寝かせてくれないと思ったが、身体の疲労はそれを易々と圧倒してくれていたみたいだ。目を閉じた瞬間に柚葉は寝息を立てだした。
「・・・早すぎ」
***
目覚めは突然だった。
枕替わりにしていた丸太を外され、地面に頭を強かに打ち付ける。
「あ痛!?」
「起きろ」
今日もイケメンなアリスは、やっぱり結構な角度から見下ろしていてもイケメンだ。丸太が結構離れたところまで転がっているのは、きっと彼が蹴ったからだろう。
「てめぇ、今度から野獣のそばに寝かせるぞ」
「えっ、い、嫌!」
よく見ればまたアリスの頬が腫れている。
・・・またなんかしでかしてしまったのか。
「わ、わざとじゃないんです・・・」
「わざとだったら今度はお前に野獣と戦ってもらいます」
「ひぃっ!」
柚葉がアリスに謝り倒した後、軽い朝食をとって森の奥へ入っていった。昨日は暗くてよく分からなかったが、草花が綺麗に咲いていて、こうして見れば恐怖を感じる森ではないようだった。だが、それでも昨夜のような野獣がいるのだ。用心するに越したことはない。
周りをキョロキョロと忙しなく見回す柚葉に勘づいたアリスが、ちゃんと前見て歩けと喚起した。
「心配しなくても、野獣は夜行性だ。昼間に襲ってくることはまずない」
「そ、そうですか」
アリスによると夕方くらいには森を抜けられるそうだ。アリス一人なら昼すぎには抜けれると言っていたから、柚葉が休憩を何度か挟みたいことがよく分かってらっしゃる。
森は奥へ奥へと入る程に急な斜面が多くなっていった。アリスが言っていた通り、野獣などに出くわすことはなかったが、亀裂が入って飛び越えないといけない道、苔が張って滑りまくる地面、森じゃなくて山じゃないかと思えてきた。
「へええええ・・・・これは無理っすアリスさん」
「泣き言いうな」
「私は特訓か何か受けているんでしょうか」
誰かが、何かが倒したのか、または寿命で倒れたのか、直径が柚葉の身長ほどある大木が横倒しに行く手を阻んでいた。もちろん、アリスはそれが柵か何かとでも言うように、軽々と飛び越えていたのだが、柚葉は上に手をかけるのがやっとだ。懸垂でもできればよかったのだが、生憎そんな筋肉は持ち合わせていない。
木の反対側から盛大なため息が聞こえてきた。こうやって何度アリスに呆れられているか分からないが、柚葉にとって、空を飛べと言われて飛べませんといっているのと同じなのだ。でも野獣は怖い。置いてかないで。
「早くしろ」
「え?」
やるだけやってみるかと飛び越えるハードルの高さを確認しようとした。だが確認する前に、目にはアリスの手が映り込んできた。剣など知りそうにはない、だが異性のものだと分かる骨ばった手。この手で、あの斬撃が繰り広げられた。
「わん!」
「お手じゃない!」
「あれ?違う?」
「絶対合っていると思っているお前の育った環境が心配だわ!」
柚葉が指先だけ重ねた手を手首まで滑らせ、彼女のタイミングも気にせず上に引っ張り上げる。子どもでも持ち上げるかのように軽々と浮いた身体は、腰を引き寄せられて、木の上で着地した。
「・・・そ、空飛んだ・・・?」
「阿保言ってないで行くぞ」
「ぎゃああ!!」
「うるさい!」
柚葉を抱えたまま飛び降りたアリスは、着地するとすぐに鼓膜破壊となりそうな原因から距離を取った。あと数分歩けば森を抜けられる。そうすれば隣町はすぐ目の前だ。
「アリスさんアリスさん」
名を呼ばれて振り返ると、柚葉は先程の着地地点から一歩も動いていない。アリスに向かって手を振っているだけだ。
「早く来・・・」
「足捻りました!」
「・・・・・・」
「捻りました!」
「・・・・・・」
「ひね・・・あ痛!?」
突然額を弾かれたと思うと、アリスが目の前まで来ていた。見上げると、その表情は瞳孔が開いている。
「いや、ね?不可抗力と言いますか」
「ほう?どこがどう不可抗力なのか、詳しく聞かせてもらおうか」
「こう、アリスさんが急に飛び降りるもんだから、着地の時に変なふうにに足をつきまして」
「俺のせいだと?」
「た、多少?」
物怖じしない精神力は大したものだが、柚葉は少し自分の身の安全を心配した方が良い。
アリスの機嫌取りはしようとしないが、キレられているのは分かっているのか、柚葉は視線を泳がせている。
「・・・・・座って足だせ」
「へい?」
「あと返事はまともなものにしろ」
「へい!」
心外な。居酒屋でも人情劇でも「へい!」なんてよく言ってるんだからまともなはずだ。柚葉は言われたとおりに捻った方の足を伸ばして地面に座る。ローファーと靴下を脱いだら、空気が触れて気持ちが良かった。あ、履きっぱなしだが臭いは大丈夫だろうか。
「腫れてんな」
「このまえのアリスさんの頬っぺたほどないですよ!」
「この足斬られたいのか」
「失礼しました」
そんなに時間は経ってないのに、踝辺りがみるみるうちに腫れあがっていく。我慢しようとして諦めたほどだ。相当変な方向に捻ってしまったのだろう。もしかしたら骨にヒビが、なんて悪い予感が巡るが、怖くなって考えるのをやめた。柚葉が今まで負った一番大きな怪我は捻挫と突き指くらいだ。骨折なんて考えただけでも恐ろしいなんて思っていたら、ひやりと冷たいアリスの手が柚葉の足首に触れた。それだけで足全体に痛みが走る。
「った・・・」
「我慢しろ」
気が付いたときには、アリスが触れているところに淡い黄緑色の光が灯り、それが吸い出しているように痛みが引いていく。段々と温かくなり、眠くなりそうだった。
「・・・・お前、怪我はしても病気はするなよ」
「するなと言われてどうにかできるもんでもないですけど・・・何でですか?」
「病気は怪我とは違って魔法では治せない」
「では、怪我したらいくらでも治してくれるんですね!」
「そういうことじゃない」
内側からの影響である病気は外からの魔法では作用しないとか、そもそも怪我だって完全に治せないとか、アリスは説明してくれたが、柚葉の頭には留まりそうにはない。そうしているうちにアリスの手は離れ、足首から痛みは完全に消えていた。立ち上がってぴょんぴょん跳ねても痛くない。
「すごい!ベンチに一人ほしいマネージャーですね!」
「緊急処置だ。組織は脆くなってるから調子に乗るなよ」
「はーい!」
「言ったそばから跳ねるな!」
二人が森を抜け、隣町についたのは日が暮れてからだった。
作ってくれたスープは、さっきの一件で全てこぼれてしまった。食糧が限られている中もったいないし、アリスに悪いことをしてしまった。
「落ち着いたか」
「はい・・・あの、すみません、スープ・・・」
「仕方ないだろう。どうせ残っていたところで今飲める状態じゃないだろ」
その通りです。
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考えてみれば、何もショックを受けるようなことではないはずなのだ。動物の命を血肉として生きている人間には、そのくらいのことは受け止めなければならない。食物連鎖とは残酷で、醜い。そしてそれが分かっていて従う人間はもっと醜い。どうにか抗おうとしている先程の野獣達のような存在の方が、よっぽど真っ当な生き方なのかもしれない。
「いやぁ、想像してたより全然キツかったです。剣を持ってるってことはどこかで闘いもあるんだろうと思ってはいたんですけど、平和な日本では耐性の付けようがなくて」
「んなもん、付けんでいい。いいから今日は早く寝ろ。明日も早く出るぞ」
投げて寄越された夜具を顔で受け取り、広げて素直に横になる。脳裏に焼き付いて離れない光景が、寝かせてくれないと思ったが、身体の疲労はそれを易々と圧倒してくれていたみたいだ。目を閉じた瞬間に柚葉は寝息を立てだした。
「・・・早すぎ」
***
目覚めは突然だった。
枕替わりにしていた丸太を外され、地面に頭を強かに打ち付ける。
「あ痛!?」
「起きろ」
今日もイケメンなアリスは、やっぱり結構な角度から見下ろしていてもイケメンだ。丸太が結構離れたところまで転がっているのは、きっと彼が蹴ったからだろう。
「てめぇ、今度から野獣のそばに寝かせるぞ」
「えっ、い、嫌!」
よく見ればまたアリスの頬が腫れている。
・・・またなんかしでかしてしまったのか。
「わ、わざとじゃないんです・・・」
「わざとだったら今度はお前に野獣と戦ってもらいます」
「ひぃっ!」
柚葉がアリスに謝り倒した後、軽い朝食をとって森の奥へ入っていった。昨日は暗くてよく分からなかったが、草花が綺麗に咲いていて、こうして見れば恐怖を感じる森ではないようだった。だが、それでも昨夜のような野獣がいるのだ。用心するに越したことはない。
周りをキョロキョロと忙しなく見回す柚葉に勘づいたアリスが、ちゃんと前見て歩けと喚起した。
「心配しなくても、野獣は夜行性だ。昼間に襲ってくることはまずない」
「そ、そうですか」
アリスによると夕方くらいには森を抜けられるそうだ。アリス一人なら昼すぎには抜けれると言っていたから、柚葉が休憩を何度か挟みたいことがよく分かってらっしゃる。
森は奥へ奥へと入る程に急な斜面が多くなっていった。アリスが言っていた通り、野獣などに出くわすことはなかったが、亀裂が入って飛び越えないといけない道、苔が張って滑りまくる地面、森じゃなくて山じゃないかと思えてきた。
「へええええ・・・・これは無理っすアリスさん」
「泣き言いうな」
「私は特訓か何か受けているんでしょうか」
誰かが、何かが倒したのか、または寿命で倒れたのか、直径が柚葉の身長ほどある大木が横倒しに行く手を阻んでいた。もちろん、アリスはそれが柵か何かとでも言うように、軽々と飛び越えていたのだが、柚葉は上に手をかけるのがやっとだ。懸垂でもできればよかったのだが、生憎そんな筋肉は持ち合わせていない。
木の反対側から盛大なため息が聞こえてきた。こうやって何度アリスに呆れられているか分からないが、柚葉にとって、空を飛べと言われて飛べませんといっているのと同じなのだ。でも野獣は怖い。置いてかないで。
「早くしろ」
「え?」
やるだけやってみるかと飛び越えるハードルの高さを確認しようとした。だが確認する前に、目にはアリスの手が映り込んできた。剣など知りそうにはない、だが異性のものだと分かる骨ばった手。この手で、あの斬撃が繰り広げられた。
「わん!」
「お手じゃない!」
「あれ?違う?」
「絶対合っていると思っているお前の育った環境が心配だわ!」
柚葉が指先だけ重ねた手を手首まで滑らせ、彼女のタイミングも気にせず上に引っ張り上げる。子どもでも持ち上げるかのように軽々と浮いた身体は、腰を引き寄せられて、木の上で着地した。
「・・・そ、空飛んだ・・・?」
「阿保言ってないで行くぞ」
「ぎゃああ!!」
「うるさい!」
柚葉を抱えたまま飛び降りたアリスは、着地するとすぐに鼓膜破壊となりそうな原因から距離を取った。あと数分歩けば森を抜けられる。そうすれば隣町はすぐ目の前だ。
「アリスさんアリスさん」
名を呼ばれて振り返ると、柚葉は先程の着地地点から一歩も動いていない。アリスに向かって手を振っているだけだ。
「早く来・・・」
「足捻りました!」
「・・・・・・」
「捻りました!」
「・・・・・・」
「ひね・・・あ痛!?」
突然額を弾かれたと思うと、アリスが目の前まで来ていた。見上げると、その表情は瞳孔が開いている。
「いや、ね?不可抗力と言いますか」
「ほう?どこがどう不可抗力なのか、詳しく聞かせてもらおうか」
「こう、アリスさんが急に飛び降りるもんだから、着地の時に変なふうにに足をつきまして」
「俺のせいだと?」
「た、多少?」
物怖じしない精神力は大したものだが、柚葉は少し自分の身の安全を心配した方が良い。
アリスの機嫌取りはしようとしないが、キレられているのは分かっているのか、柚葉は視線を泳がせている。
「・・・・・座って足だせ」
「へい?」
「あと返事はまともなものにしろ」
「へい!」
心外な。居酒屋でも人情劇でも「へい!」なんてよく言ってるんだからまともなはずだ。柚葉は言われたとおりに捻った方の足を伸ばして地面に座る。ローファーと靴下を脱いだら、空気が触れて気持ちが良かった。あ、履きっぱなしだが臭いは大丈夫だろうか。
「腫れてんな」
「このまえのアリスさんの頬っぺたほどないですよ!」
「この足斬られたいのか」
「失礼しました」
そんなに時間は経ってないのに、踝辺りがみるみるうちに腫れあがっていく。我慢しようとして諦めたほどだ。相当変な方向に捻ってしまったのだろう。もしかしたら骨にヒビが、なんて悪い予感が巡るが、怖くなって考えるのをやめた。柚葉が今まで負った一番大きな怪我は捻挫と突き指くらいだ。骨折なんて考えただけでも恐ろしいなんて思っていたら、ひやりと冷たいアリスの手が柚葉の足首に触れた。それだけで足全体に痛みが走る。
「った・・・」
「我慢しろ」
気が付いたときには、アリスが触れているところに淡い黄緑色の光が灯り、それが吸い出しているように痛みが引いていく。段々と温かくなり、眠くなりそうだった。
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「するなと言われてどうにかできるもんでもないですけど・・・何でですか?」
「病気は怪我とは違って魔法では治せない」
「では、怪我したらいくらでも治してくれるんですね!」
「そういうことじゃない」
内側からの影響である病気は外からの魔法では作用しないとか、そもそも怪我だって完全に治せないとか、アリスは説明してくれたが、柚葉の頭には留まりそうにはない。そうしているうちにアリスの手は離れ、足首から痛みは完全に消えていた。立ち上がってぴょんぴょん跳ねても痛くない。
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