生贄の救世主

咲乃いろは

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第一章 使命の伝承

堕ちる

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「牛丼のホワイトシチュー、胡瓜の生クリーム仕込み、生鮭の味噌汁」
「うっぷ」
「どうしました?」
「た、頼むから心の中で呟いてくれ」

一時間程はこうしているだろうか。
一応アリスが剣で砕いてみたり、魔法を使ってみたりしたが、申し訳ないくらいのへこみができたくらいだった。無駄に体力を使うのも憚れ、結局こうして二人して座っている。アリスによると、誰かが助けにきてくれることを待とうということなのだが、果たして当てがあるのかどうかも分からない。

「声に出さないと寝ちゃいそうで」
「いっそ寝てろよ」
「寝たらまた闇に呑まれちゃうじゃないですか!」
「・・・・・・」

アリスの片眉がピクリと上がった。クソ面倒くせぇ、とその動きだけで分かる。

「というか、本当に助けなんてくるんですか?正義のヒーロー?」
「多分な。少なくとも、俺たちがここにいることは知っているはずだし、出られない状況も分かっているはずだ」
「誰が?」
「・・・・・・・・・・・会ったら分かる」

かなり面倒臭がられた。
柚葉が会ったら分かる人なんてこの世界にはアリスとイヴァンと王様しかいない。城にいたメイドは何人か覚えているが、会ったら分かるというほどはっきり顔が思い出せない。

「こういうのって魔法でバーンってできないもんなんですね。ヘッポコだから?」
「誰がヘッポコか。・・・地下(ここ)ではあまり力は出せない。闇に溶けてしまって消費魔力が多すぎる」
「でもさっきあの人達と話してた時、なんか難しい精神干渉の魔法がどうのこうのって話してたじゃないですか」

聞いてたのか、と煩わしそうな顔をされた。盗み聞きしたわけじゃない。聞こえてきたんだ。
精神干渉の魔法は魔力の量も使うとかなんとか言っていた。なのにあの時使おうとしていたのは、なんだったのだろう。

「ハッタリだよ」
「ハッタリ?嘘、ということですか?そんな魔法使えないんですね!」
「違う!使うと言ったことが、だ!魔法自体は使える!」

悔しかったのか、アリスは柚葉の方へ身を乗り出して反論する。思わずとってしまった行動だったが、予想外に顔が近くなってしまって、二人の動きが止まった。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・アリスさん」
「なんだ」
「わ、たし・・・・」

それでも目を逸らさず、丸いビー玉のような瞳でアリスを捉えた。捕まえた、とでも言うように視界から消えないように努力した。







努力したんだけど。






「・・・私、・・・やば、い、かも・・・」
「え・・・・」






それは一瞬だった。

ここに来た時のように、じわじわと染みるようなレベルではなかった。

だから何の策も講じることができず、シャッターが勢いよく閉まるように、目の前がブラックアウトした。

































ギィン!と刃物が地面を弾く音が響いた。



「・・・っ、くっそ・・・まじ、か・・・!」


気が付いた時にはもう遅かった。
ちょうど、近付いていたのが悪かったのだ。柚葉の様子がおかしいのに気が付いて、すぐに距離をとればよかった。・・・いや、早く気が付けばよかった。



闇に、堕ちた。



アリスの腰にあった剣は柚葉に抜き取られ、彼女の手にある。
その目は何も映さず、その耳は何も聞こえず、その心は何も感じない。自分の動きに身体がついていけないのか、息は上がり、ふらついている。
当たり前だ。柚葉にはアリスの剣を持つだけでも精一杯のはずなのに、それをアリスに向かって振り回している。アリスがかわし切るくらいの動きでしかないが、彼女の魔力が作用しているのか、その威力は壁や地面を大きく削るほどだ。

「っ・・・!目を覚ませ・・・・・!」

かわしながら掛ける声は、おそらく聞こえていない。
これは、彼女の意思ではなく、彼女の気持ちではない。

アリスの声に反応はできないのは分かっている。






「・・・・・ア、リスさ・・・・」
「!」





聞き間違いか。





剣を振る音、剣と壁や石がぶつかる音に交じって、柚葉がアリスを呼ぶ声が聞こえた気がした。





「アリ、ス・・・さ・・・」
「・・・っ、ユズハ・・?」

もう一度。

何も映っていない目、変わらない顔を必死で動かして、口がそう言葉を紡いだ。




「っ、起きろ!ユズハ!」




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