生贄の救世主

咲乃いろは

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第一章 使命の伝承

閉ざされたもの

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アリスと、アリス以外の複数の男の声がする。

柚葉は明日の晩御飯を考えながらも、聞こえてくる声に耳を澄ませた。男の声はあまり呂律も回っていなく、何を言っているのか聞き取れない。何やら揉めているようで、時々荒げた口調の中で、アリスの平坦な声が一際目立つ。

(アリスさんの声はよく聞こえるなぁ)

聞き慣れてしまった声だからだろうか。柚葉の耳には、その音だけ貫いてくるように鮮明に聞こえる。そして、一瞬柚葉の名前が聞こえた気がするが、それは気のせいだろう。柚葉とは面識もない男たちとの会話で、しかも本人がいない中で話題に上がるわけがない。

「和風ハンバーグデミグラスソースかけ、ポテトサラダマヨネーズ多め、豆腐とトンカツの味噌汁・・・」

メニューネタならいくらでも出せる。実在するかどうかは分からない。
湧いて出るアイデアを呟きながら、奥の会話にも耳を傾けるという、結構高等テクニックを今柚葉はやっている。特技としてプロフィールに足していいかもしれない。

男たちの声が、脅しているものから段々小さく、怯えているものに変わっていくのが分かった。いつの間にかアリスが優位に立っている。









「逃げろ!!」

弾かれたように響いた男の声と共に、地面が揺れるような足音が近付いてくる。

「っ」

柚葉はきゅっと身を縮こまらせ、見えないように隅の方に寄った。バタバタと横を通る足は一人、二人、三人・・・六、七人はいただろうか。膝を抱えてできるだけ体積を小さくしていたので、見上げることもできず、どこが終わりかも分からない。


もう、行ってしまっただろうか。


――――アリスは、大丈夫だろうか。


足の太さから見て、相当屈強な男たちだった。あのアリス細身の身体で、立ち向かえるはずがない。せめて、怪我をしてなければいいけど。

(・・・アリスさん?)

もう声は聞こえてこない。遠ざかっていく男たちの足音を聞きながら、少し奥の方へ身を乗り出してみる。
何も見えない。火が消されたのか、明かりはなくなってしまい、真っ暗になってしまった。絶対に動くなと言われたので、動くつもりはないが、これでは動きようはない。
どうしたもんかと晩御飯の続きを考えることも忘れていた。自分は生贄だから、まさか置いて行かれるということはなかろうが、視覚も聴覚も一人の世界は思いのほか恐怖が支配してくる。

途端、ジャリ、と足音が耳に入ってきた。

「!」

まだ、男たちが全員行ってしまったのではなかったのか。やばい、見つかる、と再びダンゴムシのように丸まった。



足音はゆっくり、だが段々と近付いてきて、柚葉のすぐ横で止まった。



「やだ!私食べても美味しくな―――・・・・アリスさん」
「お前のその食に対する執着は何なんだ」
「ありがとうございます」
「褒めてねぇよ」

アリスは抜き身のままだった剣を腰にしまい、柚葉の腕を引っ張って立たせる。血管を圧迫したままだったために足がビリビリと痺れていた。

「・・・・・」
「・・・・・なんだ」
「いや、何でも」

アリスを上から下までジロジロと見る柚葉に、不審な目を向けるアリスは、柚葉に食われるかもしれないと思っていたことだろう。美味しそうな部位を探していたのだろうと。

「追いかけるぞ」
「え?あ、あのでかい男たちをですか?」
「他に誰がいる」

まあそうだよな、と思いながらも、柚葉は不安そうな顔をした。見たところ、アリスに怪我はなさそうだから今のところ大丈夫そうだが、あの身体も数も大きい男たちと一戦交えるとすると、アリスは無事でいられるのだろうか。

「・・・・お前、俺があいつらに負けると思ってるだろう」
「はい」
「正直でよろしい。・・・・ま、どうでもいいけどな」

興味なさそうに呟いたアリスは男たちが逃げていった方へ足を進めだした。柚葉も気が乗らないからといってここにいるわけにもいかず、アリスの後を追うが、その瞬間だった。




ガラガラガラガラッ、と何かが崩れるような音とともに、地面が地震のように揺れた。




思わず立っていられなくなってよろめくと、アリスの背中にぶつかった。彼を見上げると、天井や出口のほうを厳しい目で睨んでいた。

「な、なに!?地震?」
「・・・まさか、あいつら・・・」

チッ、と舌打ちし、アリスは揺れが治まらないうちに走り出した。

「ちょ、ちょっと待って・・・!」

右に左に壁にぶつかりながら、アリスを追っていく。
























「ちょっ、ちょっと、待って・・・・っアリスさ・・・っ」

こんなところでも自分の体力のなさが恨まれた。外に出たら走り込みでもしよう。せめて50メートル走を全力で走れるくらいの体力はつけよう。今は10メートルが限界だ。

「・・・・やられたな」
「はぁっ、はぁっ、・・・っ、な、にが・・・」

膝に手をつき、肩で息をしてとりあえず呼吸を整える。数秒間繰り返すと、顔を上げるくらいはできるようになり、目の前に広がる光景に目をパチクリしてしまった。

「これは?」
「土砂だな」
「土砂ですね」
「というか崩れた天井だな」
「崩れた天井ですね」

積み上げられた土石。隙間などない。それは新たな壁として、そこに誕生していた。まだパラパラと降ってくる粉塵が二人の頭にも雨のように降り注ぐが、そんなことにも気にしてられないほど、目に映った現実は絶望的なものだ。



ここの地下は入口出口は一つ。
行きも帰りも同じ道で、暗くても迷うことがないのは、他に道がないからだ。



「・・・・い、生き埋め・・・?」


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