生贄の救世主

咲乃いろは

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第一章 使命の伝承

密偵の報告

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グレン=マルガートはいわば密偵だ。

昔、元近衛兵小隊長だったのも事実。僅か十二歳で入隊、とんとん拍子にのし上がり、十五歳で小隊長になった。一つ下の年齢のアリスとは、友達のように、兄弟のように育ってきた。最初はお互い死ぬほど嫌いで、物理的に一定の距離を保っていたのも、今はいい思い出だ。
変装するような、容姿を変える魔法が得意だと小隊長になってから分かり、その能力を買われて密偵となったのだが、彼が密偵に向いていたのはそれだけではない。密偵になってから発揮したのは、順応性、俊敏性、頭の回転の速さ。グレンほど密偵に向いた存在がこれまでにいただろうかと誰もが思ったほどだった。だが、アリス曰く、密偵に向いている存在だったのではなく、彼が密偵に向いた存在に自らなったのだ。カメレオンだと、そう呟いていた。






「・・・で?お仲間はどうした?」
「”元”仲間ね!俺だって好きで仲間になってたんじゃ・・・」
「あーはいはい。分かったから報告しろ」
「はーい」

宿に戻り、柚葉をベッドに寝かせると、アリスはグレンに報告を促した。ある程度は把握しているものの、アリスのいないところで行われていたこと、彼目線での意見、その他諸々聞かなければならない。

「結果から申し上げますと、野獣の違反狩猟集団はこの町の自警団に引き渡しました。その内刑務所へ収監されるでしょう」
「そうか。それで、結局やっていたのは違反狩猟だけか?」
「ええ。慈善活動をしている団体に自分たちの魔力を売って荒稼ぎしている連中でしたね。最初は無償で魔力の提供をしていたようで、団体も彼らを信じていたようですが、そのうち金を取るようになり、それがどんどん値上がりしていったと。それでも魔力に飢えていたんでしょうね。ああいう団体は魔力を使って生活しているところが多い」

医療現場や親のいない子どもたち、孤独になった高齢者、自分たちでは魔力が使えない、足りないところへ供給していく団体がどの国にも存在する。だが、その団体の持つ魔力も無限ではない。ほぼボランティアで魔力を分けてもらえる人を募ったり、必要とあらば売買もありうる。近年は魔力が強い人間はどんどん減っている為、需要に対して供給量が間に合っていなかった。

「・・・その件に関しては、いずれ整備しないといけないフィールドだな。慈善活動の根幹が違反狩猟だと元も子もない」
「まぁ、根絶やしにするのは骨が折れそうですがね」

悪意のない黒に染まっていた人間がいる時が、一番厄介だ。そういうときは大体が広がってしまっていて、殆どが手を染めてしまっている。そうなったら防ぎようがなくなってしまうのだ。

「それで?あの地下にいた連中が全員か?」
「一応。俺が知っている範囲は適当に理由付けて集まってもらっていたのでね。あそこは野獣の巣窟になっているって噂があったみたいで、人も近寄らないし、隠れ処に最適だったみたいですよ」

俺はもうごめんですけど、とグレンは疲れた声を漏らした。魔力を使って変装していたのだ。周りに怪しまれない程度に野獣を口にして、魔力は上がっていたものの、大した量ではない。ほぼ己の精神力だけであの場にいた。それに、もう野獣を食うなんて仕事でも嫌だと何回も言っていたので、相当不味かったのだろう。

「でも良かったですよ。早々に殿下が乗り込んできて頂いて。あとちょっと遅かったら、俺今頃闇に堕ちてますね」
「お前が?闇に堕ちるタマかよ」
「えー!俺純粋だから!殿下ならご存じでしょうに!」
「うるさい。ユズハが起きるだろうが」
「おっと、そうでした」

グレンがすぐ後ろでベッドに入っている柚葉を肩越しに確かめると、すーすーと寝息を立てている。その顔は幼い少女のようだが、その寝相は凶暴な野獣のようだ。
ついさっき掛けなおした布団がもう下に落ちている。

「それにしたって、この子、よくあの地下まで連れてきましたね。大丈夫だったんですか?」

グレンは、あーあ、と落ちてしまった布団を拾い、パタパタとはらってからもう一度柚葉にかけてやる。一見、普通の少女だ。着ているものは見たことない服だったが、異世界から来ているのは違いないので、別に驚きはしなかった。

「・・・まぁ、いろいろあってな。途中までは意識保ってたんだが、最後の最後で持っていかれて、今その状態」
「いたいけな少女を殴って気絶させたと」
「人聞きの悪いこと言うな。お前が遅かったからだろうが」
「それまだ言いますー!?あれでもちょー急いだんですよ!」
「あ、おい!」

ベストなタイミングだったでしょうが、と騒ぐグレンに反応したのか、柚葉の瞼が僅かに震えた。グレンは慌てて黙ったが、遅かったようで、そのまま柚葉は目をぱっちりと開けきってしまった。

「・・・・・んあ・・・ここ、・・・どこ・・・?」
「あー、ごめんね、ユズハちゃん。起こしちゃったね」
「・・・・・誰?」

グレンを真っ直ぐ見つめる瞳はまだトロンとしていたが、見覚えのない人物だとは分かっているのか、柚葉は枕に頭をつけたまま首を傾げた。

「グレン=マルガートといいます。アリス殿下の・・・・えーと・・・何ですかね?」
「召使いだ」
「え!?俺そうだったの!?」

話を振った相手が悪かった。アリスの淀みない答えに、グレンが目を剥く。大好きな仲間だよ!と言われるとは思っていなかったが、まさかそんな立ち位置だったとは。

「グレン=マルゲリータさん・・・」
「ん!?違うね!それピザだね!?」
「ピザ=マルゲリータさん・・・」
「完全にピザになったね!」

柚葉はおいしそうな名前ですね、とヘラっと笑った。寝ぼけているだけかと思ったが、後からアリスに聞くと、どうも素で言っているらしい。アリスが地下に柚葉を連れて行った理由が分かった気がする。

「あい、ててて・・・なんか、お腹が痛い・・・?」
「まだ寝てろ」
「あ、アリスさん」

起き上がろうとして身を持ち上げると、柚葉の腹にズキズキと痛みが走る。ぶつけたような痛みで、押さえるとじわりと痛みが波紋する。アリスが額を押さえたことによって頭を枕に戻されてから、彼がここにいることに気付いたようだ。

「殴ってるからな。しばらくすれば治まるだろ」
「殴っ・・・?いたいけな少女を?」
「言っとくけどな?お前らのせいだからな」
「うお、飛び火」

まだぼんやりとした頭で柚葉は状況を整理した。
多分ここは宿だ。アリスの他に、何やら美味しそうな名前の青年。アリスと仲睦まじい様子なので悪い人ではないのだろう。
地下で、閉じ込められたことは覚えている。それから少しアリスと話をしていて、そこからの記憶がない。

「えーと・・・私、何してましたっけ?」
「・・・・・もういいから、黙って明日まで寝てろ」
「明日までって、まだ夕方・・・」

何時間寝させる気だろう。
だが、柚葉はアリスの言葉に従うことにした。明日まで寝れるかは分からないが、とりあえず今はまだ眠たい。思い出すのは、それからでもいいだろう。

「おやすみなさい・・・」



















「もしかして、庇いました?」
「誰が、何を」
「殿下がユズハちゃんを。闇に堕ちていたとはいえ、殿下を襲ったなんて言ったら、傷ついちゃうから」
「抜かせ」



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