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第一章 使命の伝承
出来心
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「お腹空きま」
「我慢しろ」
「まだ全部言ってません」
柚葉が最後まで言い終わる前にアリスが割って入る。人の話は最後まで聞くものだ。
「何言うかなんて分かるわ」
「分かんないかもしれないでしょー?空きません!かもしれないでしょー?最後の逆転勝利あるかもしれないでしょー?」
「お前は何と戦ってるんだ」
「空腹」
アリスには無視された。結局お腹空いてんじゃねぇかという突っ込みさえ入れてくれない。
次は小さな村に行くようなのだが、そこまでには結構距離があるらしい。先日の森ほどいばら道ではないので、順調に進んではいたのだが、距離が距離だけに一度野宿を挟まざるが負えない。
ちなみに、夕食は終えている。グレンと出会った町で調達した食料で、アリスが簡単に調理してくれた。
「つーか、何でお前そんなに燃費悪いんだよ。さっき食ったばっかだろ」
「そうですけど、パンとスープだけじゃさすがにお腹空きますよ。タンパク質が食べたいです」
「だったらその辺の野ウサギでも捕まえて食ってろ」
「やだかわいそう!」
その間にもアリスはもう寝る体制に入っていて、柚葉に背を向けていた。これ以上無駄な言い争いで体力を消費するつもりはないらしい。
パチパチと薪が弾ける音だけが響いている。
アリスが話し相手をしてくれなくなったので、柚葉は膝を抱えてその火を見つめていた。何となくこのまま寝れる気もしない。
火の向こう側にはアリスの細くて広い背中が横たわっている。今夜はあまり寒くないから、彼はシャツ一枚のままだからか、肩甲骨のラインが見える。その背がなんとなく気になって、気付かれないよう、そうっと、そうっと近付いた。
(・・・男の人、)
身近にいる異性は父親と兄ぐらいしかまじまじと見たことはなかった。彼氏はいないし、クラスメイトだって学校内でしか会わない。考えてみれば、こんなに長い間家族以外の男の人と一緒にいるのは初めてだった。
横の方から覗き込んで、アリスの顔を見る。こうやってみて改めて思ったが、こんなにも整った顔立ちだったなんて。いや、気付いてはいた。最初からイケメンだとは思っていたが、ここまで近付いても縒れることのないきめ細やかな肌や、繊細な線を描くひとつひとつのパーツ。どこか一つでも自分と入れ替えたら美人になれそうだ。
柚葉は思わずアリスの顔に手を伸ばしていた。それは、興味だったのかもしれない。
その頬に触れて、冷たい体温が伝わる。
だが、その瞬間だった。
パシリと手を掴まれ、ぐっと引き寄せられる。
「う、わっ!」
あっという間に身体は反転させられ、何が起こったか理解できないまま防衛反応で身を固くすると、冷たい金属が首元に当たっていた。
「・・・・・・、アリスさ・・・」
「・・・っ、お、前・・・、」
柚葉の両手は頭の上で束ねられ、馬乗りにされて身動きが取れない。首筋に当てられているものが、いつの間にか抜かれていた短刀だと気付き、熱を感じたと思うと、タラリと地面に血液が流れた。痛みはない。驚きすぎて今はアリスの顔を見るのに必死になっていた。
「ご、めんなさ・・・」
「・・・・・・・・・」
しばらく二人とも固まって、見開いた目を合わせていた。
長く吐いた息を合図に、アリスは柚葉から身を退かし、手を開放する。自由になった途端、手がピリピリと痺れだした。血が止まっていたのだろう。手首は赤くなっている。
「頼むから」
「え?」
アリスは片手で目を覆い、少し荒れた息を吐き出すように言った。
「気張ってる時に変なことしないでくれ・・・敵だと思うだろ・・・」
「・・・すみません・・・」
父を起こしに行って悪戯しても、兄を起こしに行ってドッキリを仕掛けても、驚かせてかなり叱られたりしたが、一度もこんなことにはなった事がない。悪意はなくとも、一応許可なしに家族でもない異性に手を出したのは柚葉が悪かった。素直に謝り、頭を下げた。
「・・・いや、違うな。・・・すまん、こっち来い」
柚葉の表情を片目で見たアリスは、気を取り直したように髪をかきあげると、柚葉の腕を引っ張る。少し、汗をかいているのが見えた。
「横向け」
「っつ・・・」
優しく顎を横に押され、首を張るとピリッと今更な痛みが走った。そこにアリスの指が当てられ、いつかと同じようにそこからじわりと光が広がった。ほんの数秒で光は消え、それとともに痛みもなくなった。
「おおすごい。魔法みたい!」
「魔法だよ」
そうでした。
そこに手を当てても傷も痕らしきものもない。べとりと手に付くのは、残ってしまった自分の血だろう。
「今後はやめろよ。俺だけじゃない。訓練された者は大抵、寝る瞬間は一番気を張っている。無防備になるからな」
そこに少しでも刺激を与えると、頭より早く身体が反応してしまう、と柚葉のの首筋を自分の袖で拭いながらそう言った。下手すると命がないぞ、とも言っていた。
冷静になって考えてみれば、当たり前のことだ。ここは日本ではないし、剣も魔法も存在する世界だ。野獣も出てくれば、何に襲われるか分からない中で、呑気にアリスに触れてみようなんて考えているのは柚葉だけだ。
「ごめんなさい・・・つい、出来心だったんです・・・」
「何の取り調べ?これ」
「我慢しろ」
「まだ全部言ってません」
柚葉が最後まで言い終わる前にアリスが割って入る。人の話は最後まで聞くものだ。
「何言うかなんて分かるわ」
「分かんないかもしれないでしょー?空きません!かもしれないでしょー?最後の逆転勝利あるかもしれないでしょー?」
「お前は何と戦ってるんだ」
「空腹」
アリスには無視された。結局お腹空いてんじゃねぇかという突っ込みさえ入れてくれない。
次は小さな村に行くようなのだが、そこまでには結構距離があるらしい。先日の森ほどいばら道ではないので、順調に進んではいたのだが、距離が距離だけに一度野宿を挟まざるが負えない。
ちなみに、夕食は終えている。グレンと出会った町で調達した食料で、アリスが簡単に調理してくれた。
「つーか、何でお前そんなに燃費悪いんだよ。さっき食ったばっかだろ」
「そうですけど、パンとスープだけじゃさすがにお腹空きますよ。タンパク質が食べたいです」
「だったらその辺の野ウサギでも捕まえて食ってろ」
「やだかわいそう!」
その間にもアリスはもう寝る体制に入っていて、柚葉に背を向けていた。これ以上無駄な言い争いで体力を消費するつもりはないらしい。
パチパチと薪が弾ける音だけが響いている。
アリスが話し相手をしてくれなくなったので、柚葉は膝を抱えてその火を見つめていた。何となくこのまま寝れる気もしない。
火の向こう側にはアリスの細くて広い背中が横たわっている。今夜はあまり寒くないから、彼はシャツ一枚のままだからか、肩甲骨のラインが見える。その背がなんとなく気になって、気付かれないよう、そうっと、そうっと近付いた。
(・・・男の人、)
身近にいる異性は父親と兄ぐらいしかまじまじと見たことはなかった。彼氏はいないし、クラスメイトだって学校内でしか会わない。考えてみれば、こんなに長い間家族以外の男の人と一緒にいるのは初めてだった。
横の方から覗き込んで、アリスの顔を見る。こうやってみて改めて思ったが、こんなにも整った顔立ちだったなんて。いや、気付いてはいた。最初からイケメンだとは思っていたが、ここまで近付いても縒れることのないきめ細やかな肌や、繊細な線を描くひとつひとつのパーツ。どこか一つでも自分と入れ替えたら美人になれそうだ。
柚葉は思わずアリスの顔に手を伸ばしていた。それは、興味だったのかもしれない。
その頬に触れて、冷たい体温が伝わる。
だが、その瞬間だった。
パシリと手を掴まれ、ぐっと引き寄せられる。
「う、わっ!」
あっという間に身体は反転させられ、何が起こったか理解できないまま防衛反応で身を固くすると、冷たい金属が首元に当たっていた。
「・・・・・・、アリスさ・・・」
「・・・っ、お、前・・・、」
柚葉の両手は頭の上で束ねられ、馬乗りにされて身動きが取れない。首筋に当てられているものが、いつの間にか抜かれていた短刀だと気付き、熱を感じたと思うと、タラリと地面に血液が流れた。痛みはない。驚きすぎて今はアリスの顔を見るのに必死になっていた。
「ご、めんなさ・・・」
「・・・・・・・・・」
しばらく二人とも固まって、見開いた目を合わせていた。
長く吐いた息を合図に、アリスは柚葉から身を退かし、手を開放する。自由になった途端、手がピリピリと痺れだした。血が止まっていたのだろう。手首は赤くなっている。
「頼むから」
「え?」
アリスは片手で目を覆い、少し荒れた息を吐き出すように言った。
「気張ってる時に変なことしないでくれ・・・敵だと思うだろ・・・」
「・・・すみません・・・」
父を起こしに行って悪戯しても、兄を起こしに行ってドッキリを仕掛けても、驚かせてかなり叱られたりしたが、一度もこんなことにはなった事がない。悪意はなくとも、一応許可なしに家族でもない異性に手を出したのは柚葉が悪かった。素直に謝り、頭を下げた。
「・・・いや、違うな。・・・すまん、こっち来い」
柚葉の表情を片目で見たアリスは、気を取り直したように髪をかきあげると、柚葉の腕を引っ張る。少し、汗をかいているのが見えた。
「横向け」
「っつ・・・」
優しく顎を横に押され、首を張るとピリッと今更な痛みが走った。そこにアリスの指が当てられ、いつかと同じようにそこからじわりと光が広がった。ほんの数秒で光は消え、それとともに痛みもなくなった。
「おおすごい。魔法みたい!」
「魔法だよ」
そうでした。
そこに手を当てても傷も痕らしきものもない。べとりと手に付くのは、残ってしまった自分の血だろう。
「今後はやめろよ。俺だけじゃない。訓練された者は大抵、寝る瞬間は一番気を張っている。無防備になるからな」
そこに少しでも刺激を与えると、頭より早く身体が反応してしまう、と柚葉のの首筋を自分の袖で拭いながらそう言った。下手すると命がないぞ、とも言っていた。
冷静になって考えてみれば、当たり前のことだ。ここは日本ではないし、剣も魔法も存在する世界だ。野獣も出てくれば、何に襲われるか分からない中で、呑気にアリスに触れてみようなんて考えているのは柚葉だけだ。
「ごめんなさい・・・つい、出来心だったんです・・・」
「何の取り調べ?これ」
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