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第二章 繋がる命
選ばれる命
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住宅街は、そんな名前をつける程のものではなかった。一応建物は並んでいるが、閑散としていて、一通りも少ない。それでも柚葉達がこの村に着いた時よりはいくらか暖かい雰囲気があった。
結局、詰め寄る柚葉に折れて、アリスが付き添ってここに来ることになった。
「一応、お店とかあるんですね」
「魔力が減少していること以外は普通の村だからな」
キョロキョロと見回しても、普通の建物、普通の人。初めて見た時に感じた物悲しい空気は、極端に魔力が減っていたからなのか。
進んでいくと、やはりアリスの姿は目立つのか、彼を見付けた村人がわらわらと寄ってきた。
「アリス殿下!」
「ああ、アリス様よ!かっこいいっ!」
「アリス坊ちゃんだ!」
「坊ちゃんはやめろ!」
寄ってくる人集りにため息をつきながら流されているが、坊ちゃんにだけは過剰に反応していた。ここでも言われるのか。
「アリス殿下、この村はこれからどうなるんでしょう?」
「先日も、かなり危ない時があったと伺いました!・・・もちろん、殿下方が私たちの為に手を尽くして下さっているのは分かっています・・・それでも、私たちは不安で・・・」
口々に不安を吐露する村人達に、アリスは何も言わず、それをじっと聞いていた。無視しているのではない。受け止めているのだ。不安も、恐怖も、不満も、焦りも、全て。彼だけが背負うことはないのに。
「アリスさ・・・」
「あっ!お母さん、あの人だ!」
見ている柚葉の方が胸が締め付けられるようになって、だが村人を止める術は知らなくて、どうしようもなくアリスに手を伸ばした時だった。
人集りから少し離れた位置で、一組の親子がこちらを見ている。子どもは興奮気味に指を指してきていた。
「僕見たんだよ!あの人がすごい魔力使ってたとこ!アリス王子にぎゅーってされて!多分あの人がこの村救ってくれたんだ!」
「・・・はい?」
集まっていた村人は一斉に口を噤み、少年の指さす方向を見た。つまりは、アリスに向いていた視線が、少年の素晴らしい指揮によって、柚葉に向けられたのだ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
数秒。
ここにいる皆が状況を理解するまでに沈黙が流れた。柚葉の瞬きの音が聞こえてきそうだ。
誰かが息を呑んだのを皮切りに、堰を切ったように柚葉の周りを人が囲んだ。
「ほっ、本当か、嬢ちゃん!あんたが!?」
「ああ!ありがとうっ!ありがとうございます!」
「命の恩人だな!」
「えっ、いや、えーと、あの・・・」
わっと詰め寄り、抱き締められたり手を握られたりすることに、柚葉はどうしていいか分からず、アリスに視線を送って助けを求める。
「な、何でこんなことに・・・?」
「爪が甘かった・・・。あの少年、相当目がいい。結界の中まで見る目を持っているようだ」
ちっ、とアリスが面倒なことになったと舌打ちをする。こんなことになるから、結界の中で魔力の供給をしたのだが、まさかこんなところに結界透視の目を持つ者がいたなんて、アリスには誤算だったのだ。
「ということは、あなたにはそんなに魔力が!?」
「へえ!すごいな!かわいい顔して!」
賞賛、感謝、驚愕。
様々な声が聞こえたが、それに混じって、聞こえてきたものもあった。
「じゃ、じゃあ!その魔力、少し分けてくれないかしら!」
「!」
瞬間、アリスの瞳孔が開いた気がした。
「そ、そうだ!少しでいいから!」
「小さい息子の病気が治らないの!!お願い!」
「うっ、うちも!妻が、妻が寝込んだままで・・・!」
賞賛も感謝も驚愕も一瞬で懇願に姿を変えた。
尊いものを見る眼差しは、縋るようなものに変わり、柚葉の身体を掴む手は強く、熱くなっていった。
「え・・・あ、・・・あの、」
誰が何を言っているか分からない程言葉に言葉が重なり、恐怖さえ芽生えてくる。浅ましい人の欲望を目にした中で、柚葉が何よりも思ったのは、恐ろしさではない。
こんなに、飢えていたのか。こんなに、苦しかったのか。
柚葉の人生に於いて、人の貧富を目の当たりにしたのは初めてだった。当たり前に生きていたことが、場所を変えれば当たり前ではなくなる。それがどんなに残酷なことか。
柚葉は人々の言葉に為す術なく、先程のアリスのようにただ黙って聞いているだけだった。
「静まれ!!」
カァン、と楽器でも鳴らしたかのように、アリスの声が辺りを支配した。
息でも止まったかのように人々の声は止み、動きが止まった。視線が自分に向いたのを確認すると、アリスは静かに続けた。
「確かに、こいつの魔力保有量は多く、先日この村に供給した。かなりの量だ」
「で、では!苦しんでいる家族を・・・!」
「言いたいことは分かる。お前たちが長年苦しまされているのも、俺は生まれた時から聞かされてきた」
そうか、アリスは、この国の王子だ。
「俺は、俺にできる全力を尽くしてきた。これからもだ。決して、この命に誓って、皆を見捨てたりはしない」
静かだが、熱のこもる言葉、声。
アリスたる所以が、そこにはある。
「この度の供給は、応急処置だ。そして、その応急処置だけでも、魔力を・・・膨大な魔力を、こいつは消費した。・・・分かるか?丸二日だ。暇さえあれば腹が減ったと口をついて出てくるこいつが、丸二日、何も口にせず、公害レベルの寝相を封印し、ただただ眠り続けた」
柚葉は嘘でしょ?と目を剥く。空腹の宣言も、寝相も、そんな風に思われていたなんて。
「この村は、この国は、必ず俺が守る。それでもまだ、こいつに酷使させたいのなら、俺がやってやる」
もう、口を開く者はいなかった。
皆、自分が言ったことを悔やみ、口を抑えた。
不安も、不満も、恐怖もあるだろう。
時にはそれらを口にして、ぶちまけなければどうにかなってしまう程。だが、それを受け止めてくれる人がいる。黙って、それを聞き入れてくれる人がいるだけで、彼らはどんなに心強いだろう。
それが分かっていたから、人々は黙ってしまったのだ。
「あ、のぉー・・・」
沈黙が流れ、しゅんとした雰囲気が辺りを包んでしまってから、柚葉は言いにくそうに手を上げた。
「お嬢さん、悪かった。身勝手なこと言っちまって」
「ごめんね!あなたはもう充分助けてくれたのに!」
「いや、あの!」
今度は謝罪の言葉が飛び交うようになってしまった。だが柚葉はそれを聞きたくて口を開いたのではない。
「ちょっと聞いてください!」
アリスのように一斉に皆を黙らせることはできなかったが、繰り返しているうちに、声が通るくらいには静かになった。それを確認して、柚葉は続けた。
「えー、あの、私は、大丈夫ですよ?」
「は?」
主語がなかったからか、アリスも村もきょとんとしていた。
「えーと、アリスさん。結局はアリスさんがいないとできないでしょうから、アリスさんが良ければ、ですけど」
段々と言いたい事が分かってきたのか、アリスの顔色が変わってくる。
「私は、その病気の人?に魔力あげてもいいですよ?」
「!・・・っ、おま、何言って・・・!」
何を口走るんだ、とアリスの手が柚葉の手首を引っ張った。身体は簡単にアリスの方へ傾いたが、彼の胸で受け止められた。
「分かってんのか!いくら魔力の保有量が多くても、酷使することは危険だ!」
「アリスさん声が大きい!皆に聞こえたら頼みづらくなっちゃうでしょ!」
「頼みづらくていいんだよ!」
「とりあえず、魔力はなくならなければ死なないし、休めば元に戻るんでしょ?」
「そ、れはそうだが」
「じゃあ、別に大丈夫ですよ。そこら辺はアリスさんがうまく調整して使ってくれるでしょ?」
どこか不敵な笑みに、アリスは言葉を失った。
「救えるものを放っておくなんて、一国の王子の名折れですよ」
救えるから救う、それだけだ。
「ああ、でも皆さん、擦り傷切り傷とか、唾つけときゃ治るレベルのものはちょっとご遠慮ください。一応私にも限界がありますので」
来るものは拒まない。
あとは皆の良心を信じるだけだ。
「私、これから救うものがたくさんあるので、その分残しとかなきゃいけないんです」
謝ってくれた彼らなら、分かってくれるはずだ。
結局、詰め寄る柚葉に折れて、アリスが付き添ってここに来ることになった。
「一応、お店とかあるんですね」
「魔力が減少していること以外は普通の村だからな」
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進んでいくと、やはりアリスの姿は目立つのか、彼を見付けた村人がわらわらと寄ってきた。
「アリス殿下!」
「ああ、アリス様よ!かっこいいっ!」
「アリス坊ちゃんだ!」
「坊ちゃんはやめろ!」
寄ってくる人集りにため息をつきながら流されているが、坊ちゃんにだけは過剰に反応していた。ここでも言われるのか。
「アリス殿下、この村はこれからどうなるんでしょう?」
「先日も、かなり危ない時があったと伺いました!・・・もちろん、殿下方が私たちの為に手を尽くして下さっているのは分かっています・・・それでも、私たちは不安で・・・」
口々に不安を吐露する村人達に、アリスは何も言わず、それをじっと聞いていた。無視しているのではない。受け止めているのだ。不安も、恐怖も、不満も、焦りも、全て。彼だけが背負うことはないのに。
「アリスさ・・・」
「あっ!お母さん、あの人だ!」
見ている柚葉の方が胸が締め付けられるようになって、だが村人を止める術は知らなくて、どうしようもなくアリスに手を伸ばした時だった。
人集りから少し離れた位置で、一組の親子がこちらを見ている。子どもは興奮気味に指を指してきていた。
「僕見たんだよ!あの人がすごい魔力使ってたとこ!アリス王子にぎゅーってされて!多分あの人がこの村救ってくれたんだ!」
「・・・はい?」
集まっていた村人は一斉に口を噤み、少年の指さす方向を見た。つまりは、アリスに向いていた視線が、少年の素晴らしい指揮によって、柚葉に向けられたのだ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
数秒。
ここにいる皆が状況を理解するまでに沈黙が流れた。柚葉の瞬きの音が聞こえてきそうだ。
誰かが息を呑んだのを皮切りに、堰を切ったように柚葉の周りを人が囲んだ。
「ほっ、本当か、嬢ちゃん!あんたが!?」
「ああ!ありがとうっ!ありがとうございます!」
「命の恩人だな!」
「えっ、いや、えーと、あの・・・」
わっと詰め寄り、抱き締められたり手を握られたりすることに、柚葉はどうしていいか分からず、アリスに視線を送って助けを求める。
「な、何でこんなことに・・・?」
「爪が甘かった・・・。あの少年、相当目がいい。結界の中まで見る目を持っているようだ」
ちっ、とアリスが面倒なことになったと舌打ちをする。こんなことになるから、結界の中で魔力の供給をしたのだが、まさかこんなところに結界透視の目を持つ者がいたなんて、アリスには誤算だったのだ。
「ということは、あなたにはそんなに魔力が!?」
「へえ!すごいな!かわいい顔して!」
賞賛、感謝、驚愕。
様々な声が聞こえたが、それに混じって、聞こえてきたものもあった。
「じゃ、じゃあ!その魔力、少し分けてくれないかしら!」
「!」
瞬間、アリスの瞳孔が開いた気がした。
「そ、そうだ!少しでいいから!」
「小さい息子の病気が治らないの!!お願い!」
「うっ、うちも!妻が、妻が寝込んだままで・・・!」
賞賛も感謝も驚愕も一瞬で懇願に姿を変えた。
尊いものを見る眼差しは、縋るようなものに変わり、柚葉の身体を掴む手は強く、熱くなっていった。
「え・・・あ、・・・あの、」
誰が何を言っているか分からない程言葉に言葉が重なり、恐怖さえ芽生えてくる。浅ましい人の欲望を目にした中で、柚葉が何よりも思ったのは、恐ろしさではない。
こんなに、飢えていたのか。こんなに、苦しかったのか。
柚葉の人生に於いて、人の貧富を目の当たりにしたのは初めてだった。当たり前に生きていたことが、場所を変えれば当たり前ではなくなる。それがどんなに残酷なことか。
柚葉は人々の言葉に為す術なく、先程のアリスのようにただ黙って聞いているだけだった。
「静まれ!!」
カァン、と楽器でも鳴らしたかのように、アリスの声が辺りを支配した。
息でも止まったかのように人々の声は止み、動きが止まった。視線が自分に向いたのを確認すると、アリスは静かに続けた。
「確かに、こいつの魔力保有量は多く、先日この村に供給した。かなりの量だ」
「で、では!苦しんでいる家族を・・・!」
「言いたいことは分かる。お前たちが長年苦しまされているのも、俺は生まれた時から聞かされてきた」
そうか、アリスは、この国の王子だ。
「俺は、俺にできる全力を尽くしてきた。これからもだ。決して、この命に誓って、皆を見捨てたりはしない」
静かだが、熱のこもる言葉、声。
アリスたる所以が、そこにはある。
「この度の供給は、応急処置だ。そして、その応急処置だけでも、魔力を・・・膨大な魔力を、こいつは消費した。・・・分かるか?丸二日だ。暇さえあれば腹が減ったと口をついて出てくるこいつが、丸二日、何も口にせず、公害レベルの寝相を封印し、ただただ眠り続けた」
柚葉は嘘でしょ?と目を剥く。空腹の宣言も、寝相も、そんな風に思われていたなんて。
「この村は、この国は、必ず俺が守る。それでもまだ、こいつに酷使させたいのなら、俺がやってやる」
もう、口を開く者はいなかった。
皆、自分が言ったことを悔やみ、口を抑えた。
不安も、不満も、恐怖もあるだろう。
時にはそれらを口にして、ぶちまけなければどうにかなってしまう程。だが、それを受け止めてくれる人がいる。黙って、それを聞き入れてくれる人がいるだけで、彼らはどんなに心強いだろう。
それが分かっていたから、人々は黙ってしまったのだ。
「あ、のぉー・・・」
沈黙が流れ、しゅんとした雰囲気が辺りを包んでしまってから、柚葉は言いにくそうに手を上げた。
「お嬢さん、悪かった。身勝手なこと言っちまって」
「ごめんね!あなたはもう充分助けてくれたのに!」
「いや、あの!」
今度は謝罪の言葉が飛び交うようになってしまった。だが柚葉はそれを聞きたくて口を開いたのではない。
「ちょっと聞いてください!」
アリスのように一斉に皆を黙らせることはできなかったが、繰り返しているうちに、声が通るくらいには静かになった。それを確認して、柚葉は続けた。
「えー、あの、私は、大丈夫ですよ?」
「は?」
主語がなかったからか、アリスも村もきょとんとしていた。
「えーと、アリスさん。結局はアリスさんがいないとできないでしょうから、アリスさんが良ければ、ですけど」
段々と言いたい事が分かってきたのか、アリスの顔色が変わってくる。
「私は、その病気の人?に魔力あげてもいいですよ?」
「!・・・っ、おま、何言って・・・!」
何を口走るんだ、とアリスの手が柚葉の手首を引っ張った。身体は簡単にアリスの方へ傾いたが、彼の胸で受け止められた。
「分かってんのか!いくら魔力の保有量が多くても、酷使することは危険だ!」
「アリスさん声が大きい!皆に聞こえたら頼みづらくなっちゃうでしょ!」
「頼みづらくていいんだよ!」
「とりあえず、魔力はなくならなければ死なないし、休めば元に戻るんでしょ?」
「そ、れはそうだが」
「じゃあ、別に大丈夫ですよ。そこら辺はアリスさんがうまく調整して使ってくれるでしょ?」
どこか不敵な笑みに、アリスは言葉を失った。
「救えるものを放っておくなんて、一国の王子の名折れですよ」
救えるから救う、それだけだ。
「ああ、でも皆さん、擦り傷切り傷とか、唾つけときゃ治るレベルのものはちょっとご遠慮ください。一応私にも限界がありますので」
来るものは拒まない。
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