生贄の救世主

咲乃いろは

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第二章 繋がる命

救うもの、救われるもの

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しばらく渋っていたアリスだが、柚葉の方も折れるつもりはないと悟ったのか、限界を感じたら必ず教える、使う量はアリスが決めるということを条件に、しぶしぶ首を縦に振った。そうは言っても、柚葉は自分で魔力を使うことはできないから、使う量はアリスにお任せするしかない。
希望者はその場で募り、その足で各お宅へ訪問診察することになった。先程の様子からすると、我も我もと殺到するのかと思ったが、意外にも十人程度しか名乗り出るものはいなかった。恐らく、アリスの言葉が効いたのだろう。考えるような仕草を見せた人もちらちらと見え、最後まで迷った末、手を挙げた者、挙げなかった者。それぞれの思いで選択していたのだから、柚葉はそれはそれで良いと思った。

「突撃隣の晩ごはんですね」
「夕飯まで食べていく気か」

次が最後の十軒目だ。お宅訪問するところはどこもここも、もう家族が死ぬことになるだろうと覚悟を決めているところばかりだった。意識があるものはいなく、皆、骨と皮しかないようにやせ細っていた。もしかして、今回希望しなかった人の中にも、こんな人がいるのかもしれないと思うと、胸が痛くなる。
柚葉が対象者に触れ、その上からアリスが手を重ねると、少し体温が下がるのが分かる。魔力が流れていっている証拠だ。どのくらい流れたのかは分からないが、重ねた手の光が治まると、ミイラのような顔色だった人達は、息を吹き返したかのように血色が戻っていった。家族には神を崇め奉るように感謝され、お供え物をもらいそうにもなったが、丁重にお断りした。

「さっき饅頭みたいなのもらわなかったのは意外だったな」
「えー?だって、お礼されたくてやってるんじゃないですし、生活に困っていると分かっている人から貰い物なんてできませんよ」

そりゃあ美味しそうで一瞬手を出しそうになったけど。
鎮まれ私の右手・・・!と理性を総動員させたから、事なきを得た。

「あ、あれじゃないですか?次のお宅。あそこで女の子が手を振ってる」
「ああ」

丁度四つ角の向こう側、小さな女の子が必死に手を振っているのを見つける。渡された地図を確認しても、あの家に間違いないだろう。
女の子は待ちきれなくなったのか、こちらへ走ってきて、柚葉の手を引いた。

「こっち!こっちです・・!お願い・・・!」
「おお、ちょ、ちょっと待って・・・」

必死に引っ張る手は、同じ年齢くらいの子と比べると大分細い。だが、その力は強く、震えていた。

「お願いです。お姉ちゃんを・・・、お姉ちゃんを助けて・・・っ!」

その気持ちが、柚葉には痛いほど分かる。









「一週間前くらいから、意識もなくて・・・」

女の子に案内され、家にいくと、柚葉より少し年下くらいの少女がベッドに寝かされていた。今まで見てきた人たちと同じように、やせ細り、年頃の女の子としての凹凸は全くない。息はあるようだが、近付いて確認しないと分からないほど微かなもの。柚葉は、妹の方の手を握り、安心させるように微笑んだ。

「大丈夫。・・・大丈夫だよ。あなたのお姉ちゃんはきっと強い」
「・・・・はい・・・っ」

初めて会った柚葉に何が分かるというのか。だが、目に涙を溜めた妹は、柚葉の言葉に強く、強く頷いた。
それを見ると、アリスにこれは急がないとまずいと小さく耳打ちされ、柚葉は急いで眠る少女の手を優しく包んだ。アリスの手が重ねられると、温かい光が燈るとともに、また体温が下がっていく。

(・・・生きて)

それだけを考えていた。
隣で不安そうに見つめる妹の為でも、この少女本人の為でもなかったような気がする。誰に対して思ったことなのかも分からない。
ただ、姉と妹。それだけが同じ境遇なだけなのに、この先、この子が姉を失った未来を想像すると、そう思わずにはいられなかったのだ。




「終わったぞ」
「・・・・・、ふぅ・・・」

無意識に力が入ってしまっていたのか、アリスの声を聞くと、柚葉は息を吐いた。肩と手の力が抜ける。
横たわる少女は意識がないままだが、先程より呼吸音が大きくなっている。顔にもわずかに血色が戻った。

「・・・お姉ちゃん・・・!」

目に見えて良くなったのが分かったからだろう。妹の方は飛びつくように姉へ抱きついた。
この家にはこの二人しか住んでいる様子はない。夫婦の写真が飾られているところを見ると、彼女達の両親は亡くなっているのだろう。想像でしかないが、恐らく、この村の魔力の減少が原因で。

「分かると思うが、完全には治っていない。この子の症状は特に重かったが、皆に同じ分だけの魔力を与えている。・・・それは、分かってくれ」
「・・・は、はい、もちろんです。ありがとうございます。えっと、お姉さんも・・・本当に・・・」
「ううん。ちゃんと治せなくてごめんね。・・・でも、あなたのお姉さんはあなたを悲しませるようなことはきっとしない。私が、させないように、頑張るから」

大丈夫。

柚葉が、生贄となれば、この二人は救われる。



一人の人に固執するのはよくないかもしれない。でも、それが自分の糧となり、全てを救うことになるのなら。









***









最後で気が抜けたのか、家を後にした柚葉の身体は一気に冷たくなった。この前と同じように、瞼が重く、激しい睡魔が襲ってくる。一歩足を踏み出す度にかくりかくりと首が揺れた。

「大丈夫か」
「・・・え・・・あ、・・・はい」

危なげな足取りに、アリスが腕を掴んで支えてくれるが、それもよく分からない。いっそこの場で眠ってしまいたかった。もう野宿だって経験しているから問題ない。むしろ人が住んでいる中で野宿できるのなら、安心安全だ。森なんかより全然いい。

「アリスさん・・・・先、帰っててください・・・私、ちょっと・・・ここで仮眠を・・・」
「!」

狭くなっていた視界がぐらりと揺れ、平衡感覚を失う。そのことは分かったのだが、どうも身体が重く、言うことをきかなかった。このままいくと地面に身体を打ち付けるのも分かっているが、手を出すのも億劫だ。もういい、打ち身程度で死ぬわけじゃあるまいし、このまま流れに身を任せて寝てしまおう。

だが、いつまで経っても地面に横たわることができなかったのは、アリスが柚葉と地面の間に入り、柚葉の身体を受け止めてくれたからだ。

「・・・・馬鹿。だからちゃんと言えっていっただろうが」

アリスの不機嫌そうな声を遠くで聞いて、柚葉は目を閉じた。

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