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第二章 繋がる命
守り抜くもの
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柚葉の体力が戻ったのを確認して、村を出発することになった。ラウズガードが村の終わりまで見送りに来てくれた。
「じゃあ、殿下、ユズハちゃん、気をつけて」
「ラウズガードさん、お世話になりました!」
なんだかんだ、柚葉の身の回りの世話をしてくれたのはラウズガードだった。気が利いて、村にいる間何の不自由もしなかったのは、彼のお陰だ。柚葉はラウズガードに深く頭を下げる。
「あーいやいや、頭を上げてくれ、ユズハちゃん。救われたのは俺たちの方。貴重な魔力をありがとな」
「いえ、こんなことしかできませんし、昨日ラウズガードさんがこっそりご飯を持ってきてくれなきゃ私は飢え死にしてました!」
「あ、馬鹿」
ラウズガードは柚葉の言葉を制止しようとしたが、ぷんすか怒る彼女を止められはしなかった。あちゃー、とアリスを目を向けたら、柚葉とラウズガードを黒い顔で見下ろしている。
「ほう・・・?」
「ユズハちゃん、内緒だって言ったでしょ。俺が殺される!」
「あっ・・・」
柚葉も慌てて口を押さえてアリスを見上げるが、時既に遅し。
「約束破った罰として飯抜きだったのに・・・ラウズガードさん、一体何をしたか分かってるんですか・・・?」
「あー・・・いや、あの、そのね。雨に打たれた仔犬みたいな目で見られたら、つい、ね」
「ラウズガードさんは悪くないですよ!いつもご飯くれるいい人ですから!」
「俺の認識ってそんなんだったの?」
気付いてないかもしれないけど、結界も張ったし、あなたが寝てる間に小さな傷を治してあげたりしたんだよ?と目で訴えてみてが、見事にスルーされた。
今はアリスとの激闘に夢中らしい。
「一国の騎士の隊長クラスを飯炊き係にするな!」
「そんなんじゃないですよ!少なくとも、アリスさんよりはいい人ですもん!」
「それは飯を貰ったからだろ!餌付けされてんなよ!」
「失礼な!そんなに私が食べ物をくれる人誰でもホイホイついて行くと思ってんですか!」
「どこか違うとこでも?」
「違いません!大正解おめでとう!」
「ありがとな!」
また始まった、とラウズガードは二人の様子にため息をついた。昨日から同じようなやり取りを一体何回繰り返せば気が済むのだろうと、とりあえず長引きそうなので、その場で腰を下ろした。
「むうぅぅぅっ!もうアリスさん嫌いです!」
「ああ、喜ばしいことだな!」
「褒めてくれるまで口聞きませんから!」
「まだ言ってんのか、それ!しつこいやつだな!」
柚葉はふい、と顔を背けてさっさと道を進んで行ってしまう。アリスは前髪をくしゃりと握り、短く息を吐いた。
「・・・手こずってんねぇ」
「・・・別に、そんなんじゃ・・・」
「アリス」
柚葉との距離が遠くなりすぎないうちに後を追おうとしたアリスに、ラウズガードが短く呼び止めた。振り返った先の顔は、かつての”先輩”の顔だった。
「あの子、面白いもの持ってると思うぞ」
「・・・・・・阿呆ですからね」
「そうじゃない」
よいしょ、と立ち上がり、ラウズガードは元来た道を戻る方へ足を踏み出した。
「守れ。奪われんじゃねーぞ」
アリスの顔を見ることはせず、右手だけ振って別れを告げた。
「分かってますよ」
***
土を踏む足音と、アリスが持つ剣が揺れる金属音と、自然の音だけが二人の間には流れていた。口を尖らせたままの柚葉の後ろを人一人分ほどの間を空けてアリスがついていく。こうした状態が小一時間。ラウズガードと別れてから一切会話はなかったのだが、何を思ったのか、柚葉が不機嫌な顔のままぱっとアリスへ振り向いた。
「・・・・朝から思ってましたけど」
アリスの足は思わず止まり、ずいっと近寄ってくる柚葉に押されて少し仰け反った。
小さいけれどまんまるとした大福のような顔が視界いっぱいに広がると、その頬を握ってみたくなる衝動に駆られた。
「アリスさん、顔色悪くないですか?」
「は?」
まだ全然怒りを引き摺っているような声色で、何を訊いてくるのか。
「それはお前が面倒ばかり言うからだろ」
「違いますよ!目の下、少し隈がありますし、なんかあの村に行く前よりやつれた気がします」
「・・・・・」
「むぐ」
アリスは無言で柚葉の頬を掌で押して視界から外す。やっぱり大福みたいな感触だと思ったのはとりあえず知らない振りをした。
「・・・誰のせいだと・・・」
「はい?何か言いました?」
「うるさい」
「はあ!?」
誰のせいだと思ってる。
そんなことを言ったって多分柚葉には伝わらない。だからそのまま呑み込んだ。
正直なところ、そんな些細なことに気付かれたのには驚いた。特に体調不良を感じているほどではないが、昨夜はラウズガードと明け方まで資料を眺めていた。目の下の隈はそのせいだろう。自分でも鏡に近づいてみないと分からない程度なのに。
「仕方ないですね」
「?」
柚葉は腰に手を当て、少し遠くを見た後、アリスに人差し指を立てて誇らしく言った。
「今夜は膝枕して差し上げましょう!」
「・・・・・・は?」
本人はまるでいいアイデアだとでも言うように、ほくほく顔で言っているが、アリスには全く脈絡が分からない。どこからどうなったらそうなったのか。というか、膝枕って誰の。
「アリスさんは意地悪ですけど、倒れた私を運んでくれたり、ずっと付いててくれたのは分かってます。ご飯抜かれたけど」
「そりゃ、俺だってその辺に放っておくほど鬼畜じゃねぇよ」
「その点は感謝してるんです。ご飯抜かれたけど」
「結局食ったんだろ」
「だから今度はアリスさんがよく眠れるように、わた」
「断る」
「何故!」
短い言葉で遮って、柚葉の横をさっさと歩いていく。柚葉が後ろから服を引っ張ってくるのが非常に煩わしい。
「何で俺がお前に膝枕されねばならん」
「よく眠れるように!」
「枕がよく喋りそうで寝れる気はしないな」
「私だって静かな枕になれますよ!」
「もしできたら死んでんじゃないかと心配で逆に寝れんな。第一、膝枕なんぞなくてもよく寝てやるわ阿保」
柚葉の額を人差し指で弾いて、服から手を離させる。
肉がついていない柚葉の膝枕なんて硬くて寝心地が悪そうだ。荷物を枕にした方がいくらかよく寝れるだろう。そんなことを思いながら、アリスは追ってくる柚葉に目もくれずザクザクと前に進んでいった。
「じゃあ、殿下、ユズハちゃん、気をつけて」
「ラウズガードさん、お世話になりました!」
なんだかんだ、柚葉の身の回りの世話をしてくれたのはラウズガードだった。気が利いて、村にいる間何の不自由もしなかったのは、彼のお陰だ。柚葉はラウズガードに深く頭を下げる。
「あーいやいや、頭を上げてくれ、ユズハちゃん。救われたのは俺たちの方。貴重な魔力をありがとな」
「いえ、こんなことしかできませんし、昨日ラウズガードさんがこっそりご飯を持ってきてくれなきゃ私は飢え死にしてました!」
「あ、馬鹿」
ラウズガードは柚葉の言葉を制止しようとしたが、ぷんすか怒る彼女を止められはしなかった。あちゃー、とアリスを目を向けたら、柚葉とラウズガードを黒い顔で見下ろしている。
「ほう・・・?」
「ユズハちゃん、内緒だって言ったでしょ。俺が殺される!」
「あっ・・・」
柚葉も慌てて口を押さえてアリスを見上げるが、時既に遅し。
「約束破った罰として飯抜きだったのに・・・ラウズガードさん、一体何をしたか分かってるんですか・・・?」
「あー・・・いや、あの、そのね。雨に打たれた仔犬みたいな目で見られたら、つい、ね」
「ラウズガードさんは悪くないですよ!いつもご飯くれるいい人ですから!」
「俺の認識ってそんなんだったの?」
気付いてないかもしれないけど、結界も張ったし、あなたが寝てる間に小さな傷を治してあげたりしたんだよ?と目で訴えてみてが、見事にスルーされた。
今はアリスとの激闘に夢中らしい。
「一国の騎士の隊長クラスを飯炊き係にするな!」
「そんなんじゃないですよ!少なくとも、アリスさんよりはいい人ですもん!」
「それは飯を貰ったからだろ!餌付けされてんなよ!」
「失礼な!そんなに私が食べ物をくれる人誰でもホイホイついて行くと思ってんですか!」
「どこか違うとこでも?」
「違いません!大正解おめでとう!」
「ありがとな!」
また始まった、とラウズガードは二人の様子にため息をついた。昨日から同じようなやり取りを一体何回繰り返せば気が済むのだろうと、とりあえず長引きそうなので、その場で腰を下ろした。
「むうぅぅぅっ!もうアリスさん嫌いです!」
「ああ、喜ばしいことだな!」
「褒めてくれるまで口聞きませんから!」
「まだ言ってんのか、それ!しつこいやつだな!」
柚葉はふい、と顔を背けてさっさと道を進んで行ってしまう。アリスは前髪をくしゃりと握り、短く息を吐いた。
「・・・手こずってんねぇ」
「・・・別に、そんなんじゃ・・・」
「アリス」
柚葉との距離が遠くなりすぎないうちに後を追おうとしたアリスに、ラウズガードが短く呼び止めた。振り返った先の顔は、かつての”先輩”の顔だった。
「あの子、面白いもの持ってると思うぞ」
「・・・・・・阿呆ですからね」
「そうじゃない」
よいしょ、と立ち上がり、ラウズガードは元来た道を戻る方へ足を踏み出した。
「守れ。奪われんじゃねーぞ」
アリスの顔を見ることはせず、右手だけ振って別れを告げた。
「分かってますよ」
***
土を踏む足音と、アリスが持つ剣が揺れる金属音と、自然の音だけが二人の間には流れていた。口を尖らせたままの柚葉の後ろを人一人分ほどの間を空けてアリスがついていく。こうした状態が小一時間。ラウズガードと別れてから一切会話はなかったのだが、何を思ったのか、柚葉が不機嫌な顔のままぱっとアリスへ振り向いた。
「・・・・朝から思ってましたけど」
アリスの足は思わず止まり、ずいっと近寄ってくる柚葉に押されて少し仰け反った。
小さいけれどまんまるとした大福のような顔が視界いっぱいに広がると、その頬を握ってみたくなる衝動に駆られた。
「アリスさん、顔色悪くないですか?」
「は?」
まだ全然怒りを引き摺っているような声色で、何を訊いてくるのか。
「それはお前が面倒ばかり言うからだろ」
「違いますよ!目の下、少し隈がありますし、なんかあの村に行く前よりやつれた気がします」
「・・・・・」
「むぐ」
アリスは無言で柚葉の頬を掌で押して視界から外す。やっぱり大福みたいな感触だと思ったのはとりあえず知らない振りをした。
「・・・誰のせいだと・・・」
「はい?何か言いました?」
「うるさい」
「はあ!?」
誰のせいだと思ってる。
そんなことを言ったって多分柚葉には伝わらない。だからそのまま呑み込んだ。
正直なところ、そんな些細なことに気付かれたのには驚いた。特に体調不良を感じているほどではないが、昨夜はラウズガードと明け方まで資料を眺めていた。目の下の隈はそのせいだろう。自分でも鏡に近づいてみないと分からない程度なのに。
「仕方ないですね」
「?」
柚葉は腰に手を当て、少し遠くを見た後、アリスに人差し指を立てて誇らしく言った。
「今夜は膝枕して差し上げましょう!」
「・・・・・・は?」
本人はまるでいいアイデアだとでも言うように、ほくほく顔で言っているが、アリスには全く脈絡が分からない。どこからどうなったらそうなったのか。というか、膝枕って誰の。
「アリスさんは意地悪ですけど、倒れた私を運んでくれたり、ずっと付いててくれたのは分かってます。ご飯抜かれたけど」
「そりゃ、俺だってその辺に放っておくほど鬼畜じゃねぇよ」
「その点は感謝してるんです。ご飯抜かれたけど」
「結局食ったんだろ」
「だから今度はアリスさんがよく眠れるように、わた」
「断る」
「何故!」
短い言葉で遮って、柚葉の横をさっさと歩いていく。柚葉が後ろから服を引っ張ってくるのが非常に煩わしい。
「何で俺がお前に膝枕されねばならん」
「よく眠れるように!」
「枕がよく喋りそうで寝れる気はしないな」
「私だって静かな枕になれますよ!」
「もしできたら死んでんじゃないかと心配で逆に寝れんな。第一、膝枕なんぞなくてもよく寝てやるわ阿保」
柚葉の額を人差し指で弾いて、服から手を離させる。
肉がついていない柚葉の膝枕なんて硬くて寝心地が悪そうだ。荷物を枕にした方がいくらかよく寝れるだろう。そんなことを思いながら、アリスは追ってくる柚葉に目もくれずザクザクと前に進んでいった。
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