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第三章 夢の続き
テティとは
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大切な夕食の前に寄るところがあると言ったくせに、今日はそのまま宿に直行した。本当は城に寄る予定だったらしいのだが、その前にテティの方から来てしまい、さらに体調を崩してしまったので、明日に改めることにしたようだ。結局夕食は宿で取ることになるのだが、何故かあまり食事が喉を通らない。こんなにお腹すいてるのに。
「どうした?」
「え?」
「え、じゃなくて。いつもは早送り再生のように飯食うだろ。手が進んでないのうに見えるのは気のせいか?」
「あ・・・いや、ちょっと考え事を!」
既に食べ終えたアリスが物珍しく見ていたことにも気づかなかった。柚葉は慌ててポイポイと口に食事を運んだ。食欲がないわけではないので、美味しくいただける。
「考え事って何の」
「乙女はいろいろ考えることが多いんですよ。それを訊くなんて野暮と言うものです」
「ほう・・・乙女・・・」
「探すな」
目の前にいるだろうが。
失礼な、と思いながら柚葉は残っていた夕食を平らげた。ごちそうさまでした、と手を合わせてからしばし考え、ずっと考えていたことをおそるおそるアリスにぶつけてみた。
「アリスさん」
「なんだ?」
「もしかしてテティさんって許嫁ですか?」
「っ!?」
アリスは飲もうとしていた水を盛大に噴き出した。そんなに驚くことだったのか。
確定要素は散りばめられていたのだ。先の町でのダリアの話、このカリナ国に入ってからのアリスのため息の数、二人の仲睦まじい様子。それだけの証拠物件を見せ付けられて、気付かない方がおかしい。もっとも、アリスがため息をつく程何に悩んでいたのかは分からないが。
「おま・・・っ、な、んでそれを・・・っ」
「何でって、そりゃいくら私でもあれだけのもの見せられちゃ嫌でも気付きますよ」
「何を見せた!?」
「あーんなことやこんなこと?」
「如何わしい言い方をすな!」
何も許嫁を匂わせるようなことはしてないだろうとアリスは言うが、女の勘は鋭いのだ。甘く見たら酷い目に遭うぞ。兄に彼女がいたことを三年も気付かなかった柚葉だが、それは今はちょっと置いておこう。
「あー、もう・・・面倒だからお前には言いたくなかったのに」
「面倒って何ですか!旅の仲間に隠し事はなしですよ!」
「じゃあお前のスリーサイズ言ってみろ!」
「78、56、80!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・いや・・・すまなかった」
何故謝る!
聞いた方が謝りたくなるスリーサイズとでも言いたいのかと責め立てると、そういうことじゃない俺が悪かったからもうやめてくれ、とひと息で言われた。
「・・・まあ、仕方ない。いずれ言うつもりだったしな」
「・・・テティさんを紹介してくれるつもりだったんですか?」
俺の許嫁ですよろしく、と。
「あ?あぁ、まあ・・・。この国に寄ればテティには会っとかないと後でうるさいし、その時会わせることになるとは思ってたからな」
「なんですかそのご両親に挨拶みたいな」
「は?何怒ってんだ?」
「怒ってませんよ超ご機嫌ですよ」
「だったら何でさっきから息継ぎ無しなんだ!」
そんなの柚葉にだって分からない。
反論する言葉も見つからず、空になった食器をカウンターに返して先に部屋に戻った。
明日は城に行くと言っていた。否応なしにまたテティと顔を会わせることになるだろう。
嫌だな、会いたくない。
テティが嫌いな訳ではない。可愛くて可憐で、むしろ見ているだけで女子力上がりそうで大変な好みだ。こんな出会いじゃなければストーカーになっていたかもしれない。
ただ、今はアリスとテティが一緒にいる光景を見ることになると思うと、そんな我儘な感情が芽生えてくるのだ。
「風邪でもひけば行かなくて済むかな」
風邪を身体の弱いテティにうつしたりしたら大変だ。ここでお留守番しておくことになるだろう。
柚葉はできる限りの薄着で布団も被らず、髪も濡れたままで寝ることにした。
***
お母さん、元気な身体に産んでくれてありがとう。
期待して朝起きたのに、一発くしゃみをかましたくらいで、柚葉の身体は元気ピンピンだった。風邪どころか、不貞腐れて早く寝たお陰で絶好調だ。何故こんなことに。
そこへ、ノックが聞こえたかと思うと、返事もしていないのに扉が開く。
「おいユズハ、行く、ぞ・・・って・・・お前なんて格好で寝てんだ。風邪ひくぞ」
「ええ、そうだったら良かったのに」
「はあ?」
ずーん、という効果音が聞こえてきそうな程項垂れる柚葉に、かつかつと足音を立ててアリスが近付いてくるのが分かった。足元にアリスの靴が見えたかと思うと、すっと顎あたりに手が添えられる。抵抗する間もなく、顔を上に向けられた。
「本当に体調悪いんじゃないだろうな?熱は・・・ないみたいだけど」
「・・・っ、ち、違います!触らないで下さい変態タラシ!」
「はあああ?」
アリスの胸を力いっぱい押して彼から離れる。すぐ準備するから出ていってと、怪訝な表情のアリスを無理矢理部屋から追い出した。
触らないでほしい。
テティに向けたものと同じ優しさで。
触れられたところが、冷たい。
カリナ国の城は群青色だ。
深い海の底のような色が、褪せることなく全体を染め上げている。その美しさは近くで見ると言葉を失うほどのものだった。
「・・・・・・、ほああ・・・綺麗・・・」
「まあ、実際のところ、この色を保つには半年に一回の大規模な手入れが必要になり、もうやめようかと思ってると国王が漏らしてたけどな」
「・・・そんな裏事情聞きたくなかったです」
そこら辺大変そうだとちょっと思ってたけど。
球技場レベルの庭を歩いていると、少し遠くからアリスの名前を呼ぶ声がした。
昨日と同じ声だ。
柚葉は思わず目を伏せた。
「アリス様!お待ちしておりました!」
「テティ、馬鹿走るな!」
横に控えるメイドも慌ててテティを止めている。そっち行くからそこで待ってろと、少し早足で歩くアリスの後ろを、柚葉はバレないくらいにゆっくりついて行った。
「あの後、大丈夫だったか?」
「ええ、お陰様で。ユズハさんもいらっしゃい」
「あ、はい・・・でも、私も入って良かったんですか?部外者では・・・」
「そんなこと!・・・世界を救う方でしょ?決して部外者ではないですよ」
軽率に生贄だと言わないテティはやはり王女なのだと思う。光に透ける金髪を靡かせて微笑みを向けられては、こちらも頬が緩んでしまうではないか。
「気持ち悪い顔だな」
「うるさいですよ。テティさん見てると可愛くてどうしても顔が緩むんです」
「ユズハさんったら、お上手ですね!でも嬉しいです」
会いたくないなんて思ってごめんなさい。
会ってよかった。こんなに麗しい笑顔を何回も見せてくれるなんて。これだけで肌がプルプルになりそうです。
テティは思いついたように、キラキラした笑顔をぱっと変化させると、柚葉の手を両手で握った。
「そうだ!ユズハさん、少しお茶でもしませんか?」
「へ、へ!?」
「アリス様は今からお父様のところに行かれるんでしょ?その間の時間だけです。駄目ですか?」
「だ、駄目っていうか」
そ、そんな上目遣い反則だ!無意識でやってるから余計タチが悪い。テティに魅せられてしまった柚葉には、もう断る術は持ち合わせていない。助けを求めるようにアリスに目をやった。
「行ってこいよ。ここは城の中だから警備も厳重だし、国王との謁見に邪魔だしな」
「邪魔ってどういう・・・!?」
「本当ですかっ?嬉しいっ!私、もっとユズハさんと喋ってみたかったんです」
「へ?・・・な、なんで・・・」
それは生贄だから?気持ち悪い顔してたから?興味本位でだろうか。
「私もう少し褒められたいのでっ!」
恥ずかしそうに笑う彼女は、多分本当にDNAから可愛い人だ。
「どうした?」
「え?」
「え、じゃなくて。いつもは早送り再生のように飯食うだろ。手が進んでないのうに見えるのは気のせいか?」
「あ・・・いや、ちょっと考え事を!」
既に食べ終えたアリスが物珍しく見ていたことにも気づかなかった。柚葉は慌ててポイポイと口に食事を運んだ。食欲がないわけではないので、美味しくいただける。
「考え事って何の」
「乙女はいろいろ考えることが多いんですよ。それを訊くなんて野暮と言うものです」
「ほう・・・乙女・・・」
「探すな」
目の前にいるだろうが。
失礼な、と思いながら柚葉は残っていた夕食を平らげた。ごちそうさまでした、と手を合わせてからしばし考え、ずっと考えていたことをおそるおそるアリスにぶつけてみた。
「アリスさん」
「なんだ?」
「もしかしてテティさんって許嫁ですか?」
「っ!?」
アリスは飲もうとしていた水を盛大に噴き出した。そんなに驚くことだったのか。
確定要素は散りばめられていたのだ。先の町でのダリアの話、このカリナ国に入ってからのアリスのため息の数、二人の仲睦まじい様子。それだけの証拠物件を見せ付けられて、気付かない方がおかしい。もっとも、アリスがため息をつく程何に悩んでいたのかは分からないが。
「おま・・・っ、な、んでそれを・・・っ」
「何でって、そりゃいくら私でもあれだけのもの見せられちゃ嫌でも気付きますよ」
「何を見せた!?」
「あーんなことやこんなこと?」
「如何わしい言い方をすな!」
何も許嫁を匂わせるようなことはしてないだろうとアリスは言うが、女の勘は鋭いのだ。甘く見たら酷い目に遭うぞ。兄に彼女がいたことを三年も気付かなかった柚葉だが、それは今はちょっと置いておこう。
「あー、もう・・・面倒だからお前には言いたくなかったのに」
「面倒って何ですか!旅の仲間に隠し事はなしですよ!」
「じゃあお前のスリーサイズ言ってみろ!」
「78、56、80!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・いや・・・すまなかった」
何故謝る!
聞いた方が謝りたくなるスリーサイズとでも言いたいのかと責め立てると、そういうことじゃない俺が悪かったからもうやめてくれ、とひと息で言われた。
「・・・まあ、仕方ない。いずれ言うつもりだったしな」
「・・・テティさんを紹介してくれるつもりだったんですか?」
俺の許嫁ですよろしく、と。
「あ?あぁ、まあ・・・。この国に寄ればテティには会っとかないと後でうるさいし、その時会わせることになるとは思ってたからな」
「なんですかそのご両親に挨拶みたいな」
「は?何怒ってんだ?」
「怒ってませんよ超ご機嫌ですよ」
「だったら何でさっきから息継ぎ無しなんだ!」
そんなの柚葉にだって分からない。
反論する言葉も見つからず、空になった食器をカウンターに返して先に部屋に戻った。
明日は城に行くと言っていた。否応なしにまたテティと顔を会わせることになるだろう。
嫌だな、会いたくない。
テティが嫌いな訳ではない。可愛くて可憐で、むしろ見ているだけで女子力上がりそうで大変な好みだ。こんな出会いじゃなければストーカーになっていたかもしれない。
ただ、今はアリスとテティが一緒にいる光景を見ることになると思うと、そんな我儘な感情が芽生えてくるのだ。
「風邪でもひけば行かなくて済むかな」
風邪を身体の弱いテティにうつしたりしたら大変だ。ここでお留守番しておくことになるだろう。
柚葉はできる限りの薄着で布団も被らず、髪も濡れたままで寝ることにした。
***
お母さん、元気な身体に産んでくれてありがとう。
期待して朝起きたのに、一発くしゃみをかましたくらいで、柚葉の身体は元気ピンピンだった。風邪どころか、不貞腐れて早く寝たお陰で絶好調だ。何故こんなことに。
そこへ、ノックが聞こえたかと思うと、返事もしていないのに扉が開く。
「おいユズハ、行く、ぞ・・・って・・・お前なんて格好で寝てんだ。風邪ひくぞ」
「ええ、そうだったら良かったのに」
「はあ?」
ずーん、という効果音が聞こえてきそうな程項垂れる柚葉に、かつかつと足音を立ててアリスが近付いてくるのが分かった。足元にアリスの靴が見えたかと思うと、すっと顎あたりに手が添えられる。抵抗する間もなく、顔を上に向けられた。
「本当に体調悪いんじゃないだろうな?熱は・・・ないみたいだけど」
「・・・っ、ち、違います!触らないで下さい変態タラシ!」
「はあああ?」
アリスの胸を力いっぱい押して彼から離れる。すぐ準備するから出ていってと、怪訝な表情のアリスを無理矢理部屋から追い出した。
触らないでほしい。
テティに向けたものと同じ優しさで。
触れられたところが、冷たい。
カリナ国の城は群青色だ。
深い海の底のような色が、褪せることなく全体を染め上げている。その美しさは近くで見ると言葉を失うほどのものだった。
「・・・・・・、ほああ・・・綺麗・・・」
「まあ、実際のところ、この色を保つには半年に一回の大規模な手入れが必要になり、もうやめようかと思ってると国王が漏らしてたけどな」
「・・・そんな裏事情聞きたくなかったです」
そこら辺大変そうだとちょっと思ってたけど。
球技場レベルの庭を歩いていると、少し遠くからアリスの名前を呼ぶ声がした。
昨日と同じ声だ。
柚葉は思わず目を伏せた。
「アリス様!お待ちしておりました!」
「テティ、馬鹿走るな!」
横に控えるメイドも慌ててテティを止めている。そっち行くからそこで待ってろと、少し早足で歩くアリスの後ろを、柚葉はバレないくらいにゆっくりついて行った。
「あの後、大丈夫だったか?」
「ええ、お陰様で。ユズハさんもいらっしゃい」
「あ、はい・・・でも、私も入って良かったんですか?部外者では・・・」
「そんなこと!・・・世界を救う方でしょ?決して部外者ではないですよ」
軽率に生贄だと言わないテティはやはり王女なのだと思う。光に透ける金髪を靡かせて微笑みを向けられては、こちらも頬が緩んでしまうではないか。
「気持ち悪い顔だな」
「うるさいですよ。テティさん見てると可愛くてどうしても顔が緩むんです」
「ユズハさんったら、お上手ですね!でも嬉しいです」
会いたくないなんて思ってごめんなさい。
会ってよかった。こんなに麗しい笑顔を何回も見せてくれるなんて。これだけで肌がプルプルになりそうです。
テティは思いついたように、キラキラした笑顔をぱっと変化させると、柚葉の手を両手で握った。
「そうだ!ユズハさん、少しお茶でもしませんか?」
「へ、へ!?」
「アリス様は今からお父様のところに行かれるんでしょ?その間の時間だけです。駄目ですか?」
「だ、駄目っていうか」
そ、そんな上目遣い反則だ!無意識でやってるから余計タチが悪い。テティに魅せられてしまった柚葉には、もう断る術は持ち合わせていない。助けを求めるようにアリスに目をやった。
「行ってこいよ。ここは城の中だから警備も厳重だし、国王との謁見に邪魔だしな」
「邪魔ってどういう・・・!?」
「本当ですかっ?嬉しいっ!私、もっとユズハさんと喋ってみたかったんです」
「へ?・・・な、なんで・・・」
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