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第三章 夢の続き
距離の遠さ
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寒い。
誰か、暖を、
冷たい。
誰か、
ああ、
暖かくなってきた。
暖かくて、熱い。
あつい。
「────暑っ!?」
じりじりと鉄板焼きされたような暑さで目を覚ました。勢いよく身を起こすと、身体の半分だけ太陽に照りつけられていた。半分だけ焼けたらどうする。
「んあ、おっはよー、ユズハちゃん」
「おはようございます・・・グレンさん、なんでそんなに綺麗に日陰に入れているんですか」
「なんでって、太陽の方向計算して寝たから」
「教えてほしかった!」
お陰で右側にだけ肌が痛い。
「教えるも何も、ユズハちゃん昨日殿下に寄っかかって寝ちゃったじゃん」
「あ・・・」
「寝かせたのは殿下だし、ちゃんと日が当たらないところになるよう考えてたはずだよ?」
「お前が自分から日に当たりに転がって行ったんだろうが」
「大変失礼いたしました」
岩陰からアリスが現れ、不機嫌そうに見下ろしてきた。聞いたところによると、柚葉は移動させてもさせても転がっていき、アリスとグレンの二人は途中から諦めて放っておいたらしい。
「殿下と相談してね、見えなくなる直前くらいまでは放っておこうって」
「どんな相談!?」
柚葉に文句は言えまい。
日に当たって寝ていたからか、ツキンと痛む頭を振り、出発の準備を進めた。
砂漠の道のりは、とにかく過酷だった。
まず進んでいる感が全くない。常に同じ景色で、グレンは一体何を頼りに道案内しているのか不思議な程だ。どのくらいあるか分からない距離を延々と歩くというのは、精神的に辛いものがある。それでも、横でグレンが話し相手になってくれ、気は紛れた。アリスはこの為にグレンを呼んでくれたのかもしれない。
そして、何よりも身体に負担がかかったのは、昼と夜の寒暖差だ。運動による身体の疲労は元より、これだけの気温の差がある日を何日も過ごしていたら、かなり環境の変化へのダメージがある。
朝暑さで目を覚ましては夜疲れきって寝る、そしてまた朝の暑さで起きる。そんな日をどのくらい繰り返しただろうか。疲れがどんなものだったか分からなくなってきて、逆にこれからいくらでも歩けそうだと、何かの扉を開きそうだった。
「ユズハ、ちょっとこっち来い」
「はい?」
暑さで目が覚めるのにいい加減ストレスを感じてきて、それなら日が昇る前、気温が上がる前に起きれば、そのストレスは軽減されるのではないかと、ここ何日かは朝早めに起きていた。いや、起こしてもらっていた。
今日も命懸けでグレンが起こしてくれたのだが、丁度見張りを交代する時間だったらしく、柚葉が起きたのを確認すると、彼は後一時間ほど寝る、と横になってすぐ寝息を立てだした。明るく振舞ってくれるが、彼もきっと疲れているのだろう。
まだ少し肌寒かったので、グレンに上着をかけてやっていると、アリスが静かに、けれど有無を言わさないような声で柚葉を呼んだ。
「・・・・・・何でそんな離れてる?」
「・・・え?・・・そうですか?普通じゃないですか?」
「グレンが丸ごと入る距離が普通と思ってんのか」
柚葉は呼ばれてアリスに近寄ったが、間に寝ているグレンを挟めた状態でアリスと向き合っていた。
どう考えても不自然すぎるのは分かっていたが、今の柚葉にはこれが精一杯の距離だった。
「・・・だ、だって・・・なんかいろいろ考えたら、許嫁がいる人の近くにむやみやたらに近付くのもどうかなって。テティさん、いい気持ちはしないだろうし・・・」
「はあ?テティは今ここにはいないだろうが」
それでも、柚葉は自分だったらと思うと、これ以上は近づけなかった。自分がテティの立場だって、嫌な思いをすることだろう。
「自分がされて嫌なことは他人も嫌だよって習いました」
「・・・はあ・・・この前からお前、妙に距離をとると思ってたら、そんなこと考えてたのか阿呆」
「な、なんですか・・・」
額を抑えながらアリスは盛大にため息をついた。
確かにここ何日か、気が付けばアリスと距離を取りまくっていた。というか、避けまくっていた。物を渡されるのにもグレンを通して受け取り、歩くのにも間にグレンを挟め、寝る時にもグレンの陰で眠り、朝もグレンに起こしてもらっていた。あ、今考えたらグレンにはいい迷惑だっただろう。
テティに触れるアリスを見た時のことを思い出すと、もしかしてテティもあんな思いをするかもしれない、しかも、許嫁は自分なのに、だ。
「だ、から、これからはこの距離の方が・・・」
「──────・・・じゃあお前は、お前に距離を取られる俺が、嫌な思いをしていないとでも・・・?」
「っ!」
彼と目を合わせていなかったのが悪かったのだ。
突然声が近くなったと思ったら、どうやっても視界から外せない距離にまでアリスが入ってきていた。
柚葉の視覚全部を、アリスの濃紺の瞳が支配する。
「そっ、れは・・・」
「・・・分かったら余計な気使う前に自分のこと考えてろ」
「った・・・」
ぺちん、と額を手のひらで叩かれた。こんな簡単に、触れてくる。
「何でそんな顔色悪いんだよ」
「そう・・・ですか?・・・普通だと思いますけど・・・」
「この気温の中、そんな青白い顔に隈作ってるやつのどの辺が普通だと?」
「あ、いや・・・・・・そんな分かります・・・?」
「夜見たら祓われそうだな」
「悪霊!?」
今は持っていないが、鏡があれば、柚葉は自分でも酷い顔をしているんではないかと自覚はあった。自分で自分を祓いそうな程。
もちろん、疲労もある。だが、多分一番の理由はそれではない。
「ちょっと・・・夢見が悪くて・・・あまりゆっくり寝れないんです」
あれだけグレンにも睡眠は大事だと念を押されていたのに。早く寝るようにはしているが、夜中に何度も起きて、身体が疲れて、また寝て、また飛び起きて。こんなことは初めてで、熟睡の悪魔の異名を家族を始めクラス中に轟かせた柚葉としては、最近の眠りの浅さには自分でも信じられなかった。
「夢っていうのは、またあの夢か?」
「・・・だと思います。起きた時にはいろんな感情に支配されてるみたいに、あまりよく覚えていられなくなりました」
「いつから」
「えっと・・・ナリスの町を出た後くらい、から・・・ア、アリスさん・・・?ちょ、顔、顔怖いっす!」
質問に答える度にアリスの表情は曇り、眉間の皴が深くなり、何か触れてはいけないオーラを漂わせてくる。今から気温は上がろうとしている時なのに、さ、寒い。
「おまえ・・・、早く言えよ」
「す、すみま千円?」
何で怒られたかは分からないが、謝らないと凍死させられそうだ。心無い謝罪になってしまうが、死ぬよりましだ、とりあえず謝っておこうと思っていたら、本心に逆らえなかったのか、心無いものどころかふざけた謝罪になってしまった。さらに死語だ。確実に殺される。
「・・・一応、眠らせる魔法はある。それなら脳内まで休ませることができるはずだから夢を見ることはないだろう。今日も眠れなそうだったら言えよ」
「あ、はい・・・」
後で聞いた話だが、その魔法は精神干渉の魔法だから、本当はむやみに使っていいものではないらしい。使える人も限られていて、グレンには使えないので、アリスに頼むしかなさそうだ。だが、ここで意地を張ってても仕方がない。これで体調でも崩したら本末転倒だし、今夜は異名に恥じない睡眠を摂らせてもらおう。
誰か、暖を、
冷たい。
誰か、
ああ、
暖かくなってきた。
暖かくて、熱い。
あつい。
「────暑っ!?」
じりじりと鉄板焼きされたような暑さで目を覚ました。勢いよく身を起こすと、身体の半分だけ太陽に照りつけられていた。半分だけ焼けたらどうする。
「んあ、おっはよー、ユズハちゃん」
「おはようございます・・・グレンさん、なんでそんなに綺麗に日陰に入れているんですか」
「なんでって、太陽の方向計算して寝たから」
「教えてほしかった!」
お陰で右側にだけ肌が痛い。
「教えるも何も、ユズハちゃん昨日殿下に寄っかかって寝ちゃったじゃん」
「あ・・・」
「寝かせたのは殿下だし、ちゃんと日が当たらないところになるよう考えてたはずだよ?」
「お前が自分から日に当たりに転がって行ったんだろうが」
「大変失礼いたしました」
岩陰からアリスが現れ、不機嫌そうに見下ろしてきた。聞いたところによると、柚葉は移動させてもさせても転がっていき、アリスとグレンの二人は途中から諦めて放っておいたらしい。
「殿下と相談してね、見えなくなる直前くらいまでは放っておこうって」
「どんな相談!?」
柚葉に文句は言えまい。
日に当たって寝ていたからか、ツキンと痛む頭を振り、出発の準備を進めた。
砂漠の道のりは、とにかく過酷だった。
まず進んでいる感が全くない。常に同じ景色で、グレンは一体何を頼りに道案内しているのか不思議な程だ。どのくらいあるか分からない距離を延々と歩くというのは、精神的に辛いものがある。それでも、横でグレンが話し相手になってくれ、気は紛れた。アリスはこの為にグレンを呼んでくれたのかもしれない。
そして、何よりも身体に負担がかかったのは、昼と夜の寒暖差だ。運動による身体の疲労は元より、これだけの気温の差がある日を何日も過ごしていたら、かなり環境の変化へのダメージがある。
朝暑さで目を覚ましては夜疲れきって寝る、そしてまた朝の暑さで起きる。そんな日をどのくらい繰り返しただろうか。疲れがどんなものだったか分からなくなってきて、逆にこれからいくらでも歩けそうだと、何かの扉を開きそうだった。
「ユズハ、ちょっとこっち来い」
「はい?」
暑さで目が覚めるのにいい加減ストレスを感じてきて、それなら日が昇る前、気温が上がる前に起きれば、そのストレスは軽減されるのではないかと、ここ何日かは朝早めに起きていた。いや、起こしてもらっていた。
今日も命懸けでグレンが起こしてくれたのだが、丁度見張りを交代する時間だったらしく、柚葉が起きたのを確認すると、彼は後一時間ほど寝る、と横になってすぐ寝息を立てだした。明るく振舞ってくれるが、彼もきっと疲れているのだろう。
まだ少し肌寒かったので、グレンに上着をかけてやっていると、アリスが静かに、けれど有無を言わさないような声で柚葉を呼んだ。
「・・・・・・何でそんな離れてる?」
「・・・え?・・・そうですか?普通じゃないですか?」
「グレンが丸ごと入る距離が普通と思ってんのか」
柚葉は呼ばれてアリスに近寄ったが、間に寝ているグレンを挟めた状態でアリスと向き合っていた。
どう考えても不自然すぎるのは分かっていたが、今の柚葉にはこれが精一杯の距離だった。
「・・・だ、だって・・・なんかいろいろ考えたら、許嫁がいる人の近くにむやみやたらに近付くのもどうかなって。テティさん、いい気持ちはしないだろうし・・・」
「はあ?テティは今ここにはいないだろうが」
それでも、柚葉は自分だったらと思うと、これ以上は近づけなかった。自分がテティの立場だって、嫌な思いをすることだろう。
「自分がされて嫌なことは他人も嫌だよって習いました」
「・・・はあ・・・この前からお前、妙に距離をとると思ってたら、そんなこと考えてたのか阿呆」
「な、なんですか・・・」
額を抑えながらアリスは盛大にため息をついた。
確かにここ何日か、気が付けばアリスと距離を取りまくっていた。というか、避けまくっていた。物を渡されるのにもグレンを通して受け取り、歩くのにも間にグレンを挟め、寝る時にもグレンの陰で眠り、朝もグレンに起こしてもらっていた。あ、今考えたらグレンにはいい迷惑だっただろう。
テティに触れるアリスを見た時のことを思い出すと、もしかしてテティもあんな思いをするかもしれない、しかも、許嫁は自分なのに、だ。
「だ、から、これからはこの距離の方が・・・」
「──────・・・じゃあお前は、お前に距離を取られる俺が、嫌な思いをしていないとでも・・・?」
「っ!」
彼と目を合わせていなかったのが悪かったのだ。
突然声が近くなったと思ったら、どうやっても視界から外せない距離にまでアリスが入ってきていた。
柚葉の視覚全部を、アリスの濃紺の瞳が支配する。
「そっ、れは・・・」
「・・・分かったら余計な気使う前に自分のこと考えてろ」
「った・・・」
ぺちん、と額を手のひらで叩かれた。こんな簡単に、触れてくる。
「何でそんな顔色悪いんだよ」
「そう・・・ですか?・・・普通だと思いますけど・・・」
「この気温の中、そんな青白い顔に隈作ってるやつのどの辺が普通だと?」
「あ、いや・・・・・・そんな分かります・・・?」
「夜見たら祓われそうだな」
「悪霊!?」
今は持っていないが、鏡があれば、柚葉は自分でも酷い顔をしているんではないかと自覚はあった。自分で自分を祓いそうな程。
もちろん、疲労もある。だが、多分一番の理由はそれではない。
「ちょっと・・・夢見が悪くて・・・あまりゆっくり寝れないんです」
あれだけグレンにも睡眠は大事だと念を押されていたのに。早く寝るようにはしているが、夜中に何度も起きて、身体が疲れて、また寝て、また飛び起きて。こんなことは初めてで、熟睡の悪魔の異名を家族を始めクラス中に轟かせた柚葉としては、最近の眠りの浅さには自分でも信じられなかった。
「夢っていうのは、またあの夢か?」
「・・・だと思います。起きた時にはいろんな感情に支配されてるみたいに、あまりよく覚えていられなくなりました」
「いつから」
「えっと・・・ナリスの町を出た後くらい、から・・・ア、アリスさん・・・?ちょ、顔、顔怖いっす!」
質問に答える度にアリスの表情は曇り、眉間の皴が深くなり、何か触れてはいけないオーラを漂わせてくる。今から気温は上がろうとしている時なのに、さ、寒い。
「おまえ・・・、早く言えよ」
「す、すみま千円?」
何で怒られたかは分からないが、謝らないと凍死させられそうだ。心無い謝罪になってしまうが、死ぬよりましだ、とりあえず謝っておこうと思っていたら、本心に逆らえなかったのか、心無いものどころかふざけた謝罪になってしまった。さらに死語だ。確実に殺される。
「・・・一応、眠らせる魔法はある。それなら脳内まで休ませることができるはずだから夢を見ることはないだろう。今日も眠れなそうだったら言えよ」
「あ、はい・・・」
後で聞いた話だが、その魔法は精神干渉の魔法だから、本当はむやみに使っていいものではないらしい。使える人も限られていて、グレンには使えないので、アリスに頼むしかなさそうだ。だが、ここで意地を張ってても仕方がない。これで体調でも崩したら本末転倒だし、今夜は異名に恥じない睡眠を摂らせてもらおう。
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