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第三章 夢の続き
再会の時
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体調が戻ったからか、その日の夜は悪夢に魘されることはなかった。もしまたあの夢を見たらアリスやグレンを起こさなければめでたく前髪だけスタイルに刈られてしまう。二人も疲れているだろうから、それは気が引けていたので朝何事もなく目を覚ますことができたことにほっと一息ついた。
「あ、見えてきましたよ、ラザの町」
相変わらずの気温の中、昼過ぎくらいまで歩き続けるといつの間にか街並みが目の前に出現していた。もっとも、ずっと下を向いて歩いていたので、グレンに言われるまで気が付かなかっただけだが。
「あ、ほんとだ」
数日ぶりの人のいる気配に感動するかと思いきや、掠れて漏れた感想はそれだけだった。感情に消費する労力はもう残されていない。だが、ゴールが見えたことに安心してしまったのか、足腰は杖をついて歩きたいほどガクガクと震え、今にも膝をついてしまいそうだ。
あと数十メートルなのに、足が地面にくっついてしまったようだ。
こんなことなら、足を進めながら前を確認するべきだった。
「ユズハちゃん?大丈夫?」
「すみませ、足が・・・」
なかなか前に踏み出さない柚葉に、グレンが後ろから支えるようにそっと背中に手を当てる。そんなに倒れそうだったのだろうか。
後ろの会話に気が付いたアリスが、戻ってきて様子を訊ねてきたが、痺れた足を庇うかのようなへっぴり腰の柚葉にすぐに気が付き、ぐっと腕を自分の肩に回した。
「うへ!?」
そしてそのまま足も掴まれ、その背に軽々と乗っけられた。
「ななななにを?」
「歩けないんだろ」
「そう、ですけど・・・でも、」
「先が長いならともかく、あの町までの距離くらいならこうした方が早い」
「そう、ですけど・・・でも、」
「何だよ」
「どうせならお姫様抱っこがよかった」
「・・・・」
この世界に来たときは初対面だったのでそんなこと頼めなかったが、イケメンになら一度はされてみたいことだ。アリスとグレンの一時の沈黙の後、見事にスルーされたところを見ると、まだ望める程の仲良し度は確立していないらしい。
ラザの町は当然砂漠に接する町だ。空気は常に乾燥し、雨季はない。だが、水不足に悩まされていないところを見ると、そんな地域に住む人々の生活の知恵があるのだろう。町に入ってしまえば、とても砂漠のすぐ横にある町だとは思えない豊かなところだった。
砂漠越えをしてくる旅人が来ることも少なくないのか、宿を取るのに苦労はしなかった。宿の中が疲労を労うような声をかけてくれるくらい歓迎ムードだ。
「おやおや、お嬢ちゃんはばてちゃったかい。顔色も良くない。ゆっくりしておいきね」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて」
店の奥から出てきた体格のいい女性が、人のよさそうな笑みを浮かべてアリスの背に乗る柚葉の背中をポンポンと叩く。従業員に指示を出しているところを見ると、恐らくこの宿の主だろう。
女性につられて柚葉も口元を緩めながら頭を下げると、その饅頭のような顔がぐっと近寄ってきた。
「この人、あんたの恋人かい?まぁたえらい男前捕まえたね!」
「へ?い、いや、そんなんじゃ・・・」
「部屋はどこだ」
女性の声は小さくされているが、ここまで近いと聞こえているだろうに、アリスは全く反応もせずに無表情のまま女性にそう訊ねた。
「・・・愛想がないのが玉に瑕だね」
「それは私も思います」
「お嬢ちゃん、気が合うね!」
「そうですね!」
「いつか飲もうか!」
「未成年です!」
「いいから早く部屋を案内しろ」
一瞬で打ち解けてしまった女性は名をパロナといった。詳しい話を聞くと、この店の主は彼女ではなく、彼女の旦那らしいが、どうも経営手腕が鈍く、パロナが殆どのことをやっているらしいので、店主も同然ということだ。愚痴交じりに聞いたそんな事情と共に見たパロナの旦那は、確かに頼り甲斐のなさそうな、ひょろっとした中年の男だった。レジに立つ姿はヘラヘラしていて、どうも人に騙されそうで仕方なかった。
取った部屋は一つだったが、中は二つに区切られていて、三人で寝泊まりしても十分な広さだった。ベッドも三つあるので、ゆっくり眠れそうだ。それを見るとダイブして飛び込みたい衝動に駆られたが、それよりも風呂が先だ。汗と砂まみれ、さらには野獣の臭いも未だ香ってくる。こんな野性的な女、アリスはよく背負っていたと思う。
例によって腰の曲がった老人のような足取りで風呂場に向かい、蓄積された汚れを落としまくった。至る所から出てくる砂に目を疑ったが、それにいちいち驚いていると外からグレンに心配されたので口に力を入れて全身を洗浄した。
風呂から上がった時には、疲労が少しとれたからか、支えがなくても歩けるようになっていた。
「お風呂、先にありがとうございました」
「しーっ」
「あっ、」
ほかほかで水分を拭きながら部屋に戻ると、グレンが指を立てて声を立てないよう促した。グレンの視線を追うと、アリスがソファで入りきらない身体を投げ出して、寝息を立てていた。
「ユズハちゃんがお風呂に入った途端寝ちゃって」
「・・・やっぱり、疲れてたんですね」
「まあ、見張りを交代でしていたといっても、殆どは殿下がしてくれてたから。なんだかんだ、周りを気遣ってくれる人なんだよ」
「・・・うん、知ってます」
近付くとまた起こしてしまうかもしれない。柚葉はその場でアリスの寝顔を見つめた。
改めて見ると、少し痩せて、顔色も悪そうに感じる。ずっと見ていたのに、何故気付かなかったのだろう。自分のことで精一杯だったなんて、言い訳するのは狡いと思った。胸が、きゅうっと締め付けられる。
「グレンさんも、お風呂入ってきてください」
「うん。じゃあ殿下をよろしくね」
「はい」
よろしくと言われたところで、何をするわけでもないのだが、グレンの兄弟を見るような目に感化されてしまった。たまにする、彼のそんな目が柚葉は好きだった。明るい性格に隠された、アリスを見守っているような、いつでも近くにいるような、穏やかな目が。
グレンが風呂に入るのを見送ってから、柚葉はベッドから掛けるものを引っ張ってきて、そうっとそうっと、ドミノの最後の一つを置くように極めてそうっとアリスに被せた。足音も忍ばせて、まるで泥棒にでもなった気分だ。
離れて向かい側のソファに座るまで息を潜めて、腰を落としてアリスが起きないのを確認したところではあっと息を吐いた。・・・ものすごく疲れた。
「早く言えよ、は自分じゃん・・・」
柚葉はコップにストローを刺して、冷たい水をちゅうちゅう吸いながら口を尖らせる。
テティに悪いと思って取っていた距離もあっという間に詰められてしまって、自分でも気付かない不調に気付かれて、何だか負けた気分だ。今すぐ雪辱を果たしたいところではあるが、今は気持ちよく眠ってもらいたいからやめておこう。
「アリスさん、ありがとう」
抱えた膝に顎を乗せてアリスを見つめる表情は、自分でも分かるくらいに綻んでいた。
睡眠不足に疲労が溜まっていたのだろう。アリスが目を覚ましたのは外が暗くなってしまってからだった。人が近くにいる中でそんなに寝入るのは珍しいとグレンは面白がっていたが、目を覚ました低血圧魔王に、何故起こさなかったのかと理不尽極まりない理由で殴られていたのは仕方ない。自分でも予期せぬうたた寝に機嫌はものすごく悪かったが、顔色が戻っていたので、柚葉は少し安心した。
「どうした?」
「え?」
人知れずため息を漏らしたはずだが、アリスの目にはとまってしまったようだ。
「熱、上がったか?」
「あ、いえ。ちょっと、安心しただけです」
「安心?」
アリスは柚葉の横に腰を下ろし、怪訝な表情を浮かべた。グレンを殴った手を振っている。
「アリスさんが目を覚まして」
「は?そりゃ覚ますだろ」
「はは、ですよね」
和葉は覚まさなかった。
ただ眠っているだけのようだったのに、二度と彼女の瞳を見ることはできなかった。最後の最後まで、荼毘に付されるまで、目を開けると思っていたのに。柚葉の思いは、希望は、願いは、無残に焼かれていった。いい加減しつこいと自分でも思うのだが、焼け跡は今でもずっと消えないでいる。
「っ!」
無意識に胸をきゅっと押さえていると、アリスの顔が目の前に来ていた。思わず仰け反ったら、背もたれに背中を強かにぶつけた。
「やっぱ何か変だな、お前」
「ど、どこが?」
「・・・顔」
「それは生まれつきだからどうしようもありません」
後ろに引くだけアリスは寄ってくる。胸を押し、距離を取ろうとするがアリスの身体はびくともしない。
もうこれ以上どこにも逃げようがないところまできたとき、突然部屋のドアが音を立てて勢いよく開かれた。
「お母さん!私のお気に入りのパンツど――――・・・こ・・・いっ、た」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
パンツ?
開け放たれたドアの向こうに立っていたのは、赤茶色いショートカットを跳ねさせた、小柄な女の子だった。年は柚葉と同じか少し上くらいか。華奢な体つきなのに、出るとこ出ている。本当に、この世界の女達はなんでこうもスタイルがいいのか。
「し・・・失礼しましたー・・・・」
柚葉、アリス、グレンの三人の視線を一斉に浴び、風船が縮むように小さくなった少女はドアと共に後退りながら申し訳なさそうに消えていった。
「・・・・・間違えたのか・・・?」
「隣、確か管理人室でしたから、もしかしてパロナの娘さんでしょうか。ていうかパンツ?」
勝負下着ということでしょうか、とデリカシーのないことを言いながらグレンは床に転がったままだった身体を起こした。アリスに殴られて伸びていたのだ。
「かもしれんな。・・・――ユズハ?」
「・・・―――ってる・・・」
「あ?」
動きを止めたまま、ドアの方へ目線を固定してしまっている柚葉をアリスが覗き込む。掠れている声がさらに薄くなって出てくる。
「私・・・・今の人知ってる・・・・」
会ったことなどないはずなのに。
「あ、見えてきましたよ、ラザの町」
相変わらずの気温の中、昼過ぎくらいまで歩き続けるといつの間にか街並みが目の前に出現していた。もっとも、ずっと下を向いて歩いていたので、グレンに言われるまで気が付かなかっただけだが。
「あ、ほんとだ」
数日ぶりの人のいる気配に感動するかと思いきや、掠れて漏れた感想はそれだけだった。感情に消費する労力はもう残されていない。だが、ゴールが見えたことに安心してしまったのか、足腰は杖をついて歩きたいほどガクガクと震え、今にも膝をついてしまいそうだ。
あと数十メートルなのに、足が地面にくっついてしまったようだ。
こんなことなら、足を進めながら前を確認するべきだった。
「ユズハちゃん?大丈夫?」
「すみませ、足が・・・」
なかなか前に踏み出さない柚葉に、グレンが後ろから支えるようにそっと背中に手を当てる。そんなに倒れそうだったのだろうか。
後ろの会話に気が付いたアリスが、戻ってきて様子を訊ねてきたが、痺れた足を庇うかのようなへっぴり腰の柚葉にすぐに気が付き、ぐっと腕を自分の肩に回した。
「うへ!?」
そしてそのまま足も掴まれ、その背に軽々と乗っけられた。
「ななななにを?」
「歩けないんだろ」
「そう、ですけど・・・でも、」
「先が長いならともかく、あの町までの距離くらいならこうした方が早い」
「そう、ですけど・・・でも、」
「何だよ」
「どうせならお姫様抱っこがよかった」
「・・・・」
この世界に来たときは初対面だったのでそんなこと頼めなかったが、イケメンになら一度はされてみたいことだ。アリスとグレンの一時の沈黙の後、見事にスルーされたところを見ると、まだ望める程の仲良し度は確立していないらしい。
ラザの町は当然砂漠に接する町だ。空気は常に乾燥し、雨季はない。だが、水不足に悩まされていないところを見ると、そんな地域に住む人々の生活の知恵があるのだろう。町に入ってしまえば、とても砂漠のすぐ横にある町だとは思えない豊かなところだった。
砂漠越えをしてくる旅人が来ることも少なくないのか、宿を取るのに苦労はしなかった。宿の中が疲労を労うような声をかけてくれるくらい歓迎ムードだ。
「おやおや、お嬢ちゃんはばてちゃったかい。顔色も良くない。ゆっくりしておいきね」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて」
店の奥から出てきた体格のいい女性が、人のよさそうな笑みを浮かべてアリスの背に乗る柚葉の背中をポンポンと叩く。従業員に指示を出しているところを見ると、恐らくこの宿の主だろう。
女性につられて柚葉も口元を緩めながら頭を下げると、その饅頭のような顔がぐっと近寄ってきた。
「この人、あんたの恋人かい?まぁたえらい男前捕まえたね!」
「へ?い、いや、そんなんじゃ・・・」
「部屋はどこだ」
女性の声は小さくされているが、ここまで近いと聞こえているだろうに、アリスは全く反応もせずに無表情のまま女性にそう訊ねた。
「・・・愛想がないのが玉に瑕だね」
「それは私も思います」
「お嬢ちゃん、気が合うね!」
「そうですね!」
「いつか飲もうか!」
「未成年です!」
「いいから早く部屋を案内しろ」
一瞬で打ち解けてしまった女性は名をパロナといった。詳しい話を聞くと、この店の主は彼女ではなく、彼女の旦那らしいが、どうも経営手腕が鈍く、パロナが殆どのことをやっているらしいので、店主も同然ということだ。愚痴交じりに聞いたそんな事情と共に見たパロナの旦那は、確かに頼り甲斐のなさそうな、ひょろっとした中年の男だった。レジに立つ姿はヘラヘラしていて、どうも人に騙されそうで仕方なかった。
取った部屋は一つだったが、中は二つに区切られていて、三人で寝泊まりしても十分な広さだった。ベッドも三つあるので、ゆっくり眠れそうだ。それを見るとダイブして飛び込みたい衝動に駆られたが、それよりも風呂が先だ。汗と砂まみれ、さらには野獣の臭いも未だ香ってくる。こんな野性的な女、アリスはよく背負っていたと思う。
例によって腰の曲がった老人のような足取りで風呂場に向かい、蓄積された汚れを落としまくった。至る所から出てくる砂に目を疑ったが、それにいちいち驚いていると外からグレンに心配されたので口に力を入れて全身を洗浄した。
風呂から上がった時には、疲労が少しとれたからか、支えがなくても歩けるようになっていた。
「お風呂、先にありがとうございました」
「しーっ」
「あっ、」
ほかほかで水分を拭きながら部屋に戻ると、グレンが指を立てて声を立てないよう促した。グレンの視線を追うと、アリスがソファで入りきらない身体を投げ出して、寝息を立てていた。
「ユズハちゃんがお風呂に入った途端寝ちゃって」
「・・・やっぱり、疲れてたんですね」
「まあ、見張りを交代でしていたといっても、殆どは殿下がしてくれてたから。なんだかんだ、周りを気遣ってくれる人なんだよ」
「・・・うん、知ってます」
近付くとまた起こしてしまうかもしれない。柚葉はその場でアリスの寝顔を見つめた。
改めて見ると、少し痩せて、顔色も悪そうに感じる。ずっと見ていたのに、何故気付かなかったのだろう。自分のことで精一杯だったなんて、言い訳するのは狡いと思った。胸が、きゅうっと締め付けられる。
「グレンさんも、お風呂入ってきてください」
「うん。じゃあ殿下をよろしくね」
「はい」
よろしくと言われたところで、何をするわけでもないのだが、グレンの兄弟を見るような目に感化されてしまった。たまにする、彼のそんな目が柚葉は好きだった。明るい性格に隠された、アリスを見守っているような、いつでも近くにいるような、穏やかな目が。
グレンが風呂に入るのを見送ってから、柚葉はベッドから掛けるものを引っ張ってきて、そうっとそうっと、ドミノの最後の一つを置くように極めてそうっとアリスに被せた。足音も忍ばせて、まるで泥棒にでもなった気分だ。
離れて向かい側のソファに座るまで息を潜めて、腰を落としてアリスが起きないのを確認したところではあっと息を吐いた。・・・ものすごく疲れた。
「早く言えよ、は自分じゃん・・・」
柚葉はコップにストローを刺して、冷たい水をちゅうちゅう吸いながら口を尖らせる。
テティに悪いと思って取っていた距離もあっという間に詰められてしまって、自分でも気付かない不調に気付かれて、何だか負けた気分だ。今すぐ雪辱を果たしたいところではあるが、今は気持ちよく眠ってもらいたいからやめておこう。
「アリスさん、ありがとう」
抱えた膝に顎を乗せてアリスを見つめる表情は、自分でも分かるくらいに綻んでいた。
睡眠不足に疲労が溜まっていたのだろう。アリスが目を覚ましたのは外が暗くなってしまってからだった。人が近くにいる中でそんなに寝入るのは珍しいとグレンは面白がっていたが、目を覚ました低血圧魔王に、何故起こさなかったのかと理不尽極まりない理由で殴られていたのは仕方ない。自分でも予期せぬうたた寝に機嫌はものすごく悪かったが、顔色が戻っていたので、柚葉は少し安心した。
「どうした?」
「え?」
人知れずため息を漏らしたはずだが、アリスの目にはとまってしまったようだ。
「熱、上がったか?」
「あ、いえ。ちょっと、安心しただけです」
「安心?」
アリスは柚葉の横に腰を下ろし、怪訝な表情を浮かべた。グレンを殴った手を振っている。
「アリスさんが目を覚まして」
「は?そりゃ覚ますだろ」
「はは、ですよね」
和葉は覚まさなかった。
ただ眠っているだけのようだったのに、二度と彼女の瞳を見ることはできなかった。最後の最後まで、荼毘に付されるまで、目を開けると思っていたのに。柚葉の思いは、希望は、願いは、無残に焼かれていった。いい加減しつこいと自分でも思うのだが、焼け跡は今でもずっと消えないでいる。
「っ!」
無意識に胸をきゅっと押さえていると、アリスの顔が目の前に来ていた。思わず仰け反ったら、背もたれに背中を強かにぶつけた。
「やっぱ何か変だな、お前」
「ど、どこが?」
「・・・顔」
「それは生まれつきだからどうしようもありません」
後ろに引くだけアリスは寄ってくる。胸を押し、距離を取ろうとするがアリスの身体はびくともしない。
もうこれ以上どこにも逃げようがないところまできたとき、突然部屋のドアが音を立てて勢いよく開かれた。
「お母さん!私のお気に入りのパンツど――――・・・こ・・・いっ、た」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
パンツ?
開け放たれたドアの向こうに立っていたのは、赤茶色いショートカットを跳ねさせた、小柄な女の子だった。年は柚葉と同じか少し上くらいか。華奢な体つきなのに、出るとこ出ている。本当に、この世界の女達はなんでこうもスタイルがいいのか。
「し・・・失礼しましたー・・・・」
柚葉、アリス、グレンの三人の視線を一斉に浴び、風船が縮むように小さくなった少女はドアと共に後退りながら申し訳なさそうに消えていった。
「・・・・・間違えたのか・・・?」
「隣、確か管理人室でしたから、もしかしてパロナの娘さんでしょうか。ていうかパンツ?」
勝負下着ということでしょうか、とデリカシーのないことを言いながらグレンは床に転がったままだった身体を起こした。アリスに殴られて伸びていたのだ。
「かもしれんな。・・・――ユズハ?」
「・・・―――ってる・・・」
「あ?」
動きを止めたまま、ドアの方へ目線を固定してしまっている柚葉をアリスが覗き込む。掠れている声がさらに薄くなって出てくる。
「私・・・・今の人知ってる・・・・」
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