魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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357 ずっとこのまま(王子視点)

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 悪夢を見ているようならおまじないをかけてあげようと思ったけれど、寝顔がどことなく嬉しそうに見えるからそれなりに夢見はいいようだ。今にも泣き出しそうな顔を見てしまった後だけに、そのことにホッとする。

 働き者の召喚主は明日も早朝からバイトだろうし、彼女を起こさないようにできるだけ静かにしていなければいけない。
 ドキドキとうるさい心臓の音が彼女に聞こえなければいいけれど……

 自分を落ち着かせるために彼女の腕の中でゆっくりと深呼吸をすると、すごくいい匂いがする。お気に入りのクマちゃんと同じ、お風呂上がりの石鹸の香りだ。それと、スーパーの特売品で時折変化する、髪の長い召喚主の使うシャンプーの香り。

 ああ、これは春に買ったお一人様一つまでの桜の香りのやつだな。僕も買い物に付き合わされたからよく覚えてる。


 お日様をたっぷり浴びた、生命力あふれる元気な桜……の下で召喚主と半分こして食べたほかほかの肉まんあんまん。コンビニで買った熱々のコーヒー。

 月明りを浴びた神秘的な夜の桜……を見た後にやった二人での宴会。

 初めて飲んだコーラのお酒はすごく美味しかったけれど、お兄さんの言う通り、召喚主はもうお酒を飲まない方がいいと思う……ほら、その、色々と心配だし……ごにょごにょ。


 いつもよりも鋭い嗅覚の影響だろうか。香りに紐づけされた楽しい思い出までもが芋づる式に呼び起こされて、僕の心が満たされていく。

 お気に入りの香りと共に優しく僕を包み込む彼女の体温が心地好い。


 今の季節はそうでもないけれど、僕が住む石造りの幽閉塔は冬の冷え込みがとても厳しい。それなのに、国を取り巻く情勢の悪化や管理者のうっかりで幽閉塔にかけられた適温魔法が切られてしまったことが何度もあるのだ。
 その経験から着想を得て、今では余剰魔力を魔法陣に横流しするために、自分の限界を見極めてこっそりと適温魔法を切ったりするようにもなったけれど、管理側の不手際で死にかけたことも一度や二度じゃない。
 国が平和な時はいいけれど、僕のような存在は扱いが難しいというか、色々と立場が不安定なのだ。適温魔法を切られるどころか、まともに食事が出されなかったことすらある。

 そんな状態でもこの生活を大人しく受け入れているのは、自分がやらかしたことへの大きな後悔と負うべき責任があるからだ。


 自分の残り時間よりも残される僕を気遣ってくれた元婚約者。……永遠に喪ってしまった、僕の大切な幼馴染。


 どんなに反省しても今更その過去を変えることはできないけれど、あれ以来、僕には心に決めていることがある。


 大事な人を二度と傷つけたくなくて。
 泣かせたくなくて。笑っていてほしくて。

 だから――


(召喚主が笑顔でいてくれるのなら、ずっとこの姿のままでいてもいいかな)

 自分でコントローラーを握れないのは不便だけれど、召喚主がゲームする姿を温かな膝の上で眺めていればいいし――


 僕がそんなことを考えた瞬間、魔法が解けて元の姿に戻った。




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