魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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10 バナナはおやつに入るんですか?

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 そして翌日の夜。予定通りにバイトを終わらせて帰る途中、商店街を通るとお祭りをやっていた。ああ、いいなー。せっかくだから何か買って帰るか。とも思うが時間が遅いせいか夜店は片付けを始めている。
 少し遅かったか。でも、まだちらほら売っている店もある。

 その中でチョコバナナが目に入った。あ、小腹も満たせるし祭りっぽいし丁度いいかも。しかも安いし!


「すいませーん、1つください!」

「いらっしゃい! じゃんけんの勝敗でサービスするよー。せーの、じゃ~んけ~ん」

 パー(店主)
 グー(私)

 残念! 負けてしまった――んだけど。


「はい残念賞~!」


 とか言って、店先にあった5本全部くれた。

 お会計は200円。え。安い。安いけど……流石にこんなには……。


「さー、売り切れ売り切れ♪」


 ……と言ってサッサと片付けを始める夜店のおじさん。
 売れ残りを押し付けられた感あるけど、随分と得したからまあ、いいか。笑顔でしっかりとお礼を言ってお祭りを後にした。

 流石に量が量だけに袋に入れてもらって、食べながら帰るのは諦めた。確か、買ったばかりの牛乳が冷蔵庫にまだあったはずだ。最近では王子のミルクティー用に必ず常備しているから。

 あれだ。寝る前だし、ホットミルクでも作って食べればいいか。バナナダイエットってのがあったくらいだし、丁度いいよね。でも5本か。食べきれるかな?

 そんなことを思いつつ、帰宅してホットミルクを用意する。チョコバナナと共にお盆にのせて、取りあえずテレビの前のラグに載せた――途端。





「え」
「え」


 目の前に王子が現れた。

 ……え!? あれ!? なんで!?

 王子も目を見開いて固まっている。いつものようなゴテゴテキラキラの王子ルックではなく、寝間着に肩からタオルの完全に風呂上り。

王子はラグの上のチョコバナナ+ホットミルクを見て。


「あ~。おやつに反応したのか」


 ――と緊張を解いた。どういうことかと尋ねてみれば、どうやら時間に関係なく「おやつを置くこと」で魔法陣は反応をしてしまうらしい。しかも、今日は召喚されていなかったから魔力が有り余ってて反応が鋭かった……そうだ。

 なるほど。そして、このことによって私は一つの結論にたどり着くことが出来た。


 とりあえず『チョコバナナ』はおやつに入るらしい。




「そうだったのね。ごめんなさい、驚かして。それで、今って大丈夫なの? メイドさんとかにこっち来るトコ見られてない?」


 こんな時間に王子が現れた事情は分かったが大問題が残っている。なんてったって、王子は絶賛幽閉中。フラフラ遊ぶために異世界に召喚してもらっているのがバレたらまずいはずだ。だからこそ、周囲に見つかる危険のないおやつの時間前後に呼び出していたのだから。
 今のは完全に不意打ちのイレギュラー。


「ああ、いや。この時間は食事も風呂も終わっているから人は来ない。その……風呂も、着替えも自分で……やらされているから。――幽閉中の身だからな」


 フ…………って、愁いを含んで自嘲した顔してますが、それこっちじゃ普通ですよ。小学生だって一人で風呂入って着替えしているからね? 意味わからん。

 そう言ってやったら驚いていた。そんな王子の髪からはポタポタ水が垂れている。風邪をひかれても困るのでとりあえずドライヤーで乾かしてやった。


「あはは! 温かいな。なんだこれ~」


 出てくる温風にはしゃぐ王子。小学生か。

 とりあえず髪がきれいに乾いたところで、都合がいいことに気が付いた。バナナダイエットとか言って自分を誤魔化そうとしていたけれど、あくまでこれはチョコバナナ。夜にこれは絶対太る。チョコレートのカロリーを甘く見てはいけない。

 と、いうわけで。

「えーと、王子。もし、時間が大丈夫なら今からおやつをどうですか?」

 と誘ってみたら、王子は二つ返事で頷いた。

 王子召喚、夜の部開幕です。




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