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22 王子様と夜の召喚(王子視点)
しおりを挟む毎日が楽しい。
美味しいおやつを食べて、ゲームをやって漫画を読んで。以前の召喚主だった鈴木さんにもよくしてもらったけど、今度の召喚主はとても気が利く。
ジュースは炭酸が抜けてないし、氷も入れてくれる。ポテトチップスもしけっていない。
鈴木さんに召喚されていた時も好物を色々用意してくれていたけれど、出勤前から出しっぱなしのジュースはぬるいし、おやつは機械に入るサイズに砕かれているからちょっと切なかった。
それが今ではおやつは皿に盛り付けられて日替わりだし、飲み物もおやつに合わせてくれるし、至れり尽くせりだ。何より、さり気なくゲームに出てきたおやつを用意してくれたりするのがすごく嬉しい。
何か、見られているんだなって。孤独な塔の生活では絶対に得られないものだから、そんな些細な気遣いにじんわりきてしまう。
だから、たまにあちらやこちらの都合で召喚がないときは凄く寂しいと感じる。
夏頃だったか。たまたま用事が被って3日間位召喚が途絶えることが決まって、落ち込んでいたことがあった。事前に分かってはいたが、やはり召喚が途絶えると不安になってしまうのだ。
彼女を信用していない訳ではない。
しかし、同じように信用していた人から別れの言葉なく放り出されてしまった経験から、どうしても不信感が拭えない。1人でいると最悪の事態を考えてしまう。だから、あの日は早めに寝てしまおうと思っていた。
風呂に入って、パジャマを着て。
でも、そのとき。
ふと気がついたら彼女の部屋にいた。夜に召喚してくれたのだ。彼女もビックリしていたから偶然らしい。何があったのかとラグの上を見れば、美味しそうな何かとホットミルク。それで理解した。
「あ~。おやつに反応したのか」
謎は解けた。彼女が自分用に用意したモノに反応してしまったのだ。魔法陣の発動条件は「おやつを置くこと」のみだから。
時間帯やなんかは召喚主と取り決めているだけで、魔力さえ足りていればいつだって反応してしまうのだ。
説明不足を怒られるかと思ったが、彼女が気にするのは僕の身の安全だけだった。
風邪を引くと大変だからと言って、温かい何かで髪まで乾かしてくれた。本当はこんなの魔法を使えば一瞬で乾かせるのだけど、久しぶりにそんなことまで世話を焼かれるのが嬉しくて、つい言い出せなかった。正直、ちょっとはしゃいでいた。
今日はもう会えないと。
もしかしたら二度と会えないかもと。
そんな風に思い詰めてしまっていたから、例え間違い召喚でも嬉しかった。これで、今日も安心して眠れる。
そう思ったのに。
彼女は追い返すことなく、そのままおやつを分けてくれて、召喚を続けてくれたんだ――。
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