魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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24 幸せな召喚生活と嫌な予感(王子視点)

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 その他にも色々あったな。ジャージとかいう着心地の良い服を貰ったり、カレーを食べさせてもらったり。アレはうまかった。
 ああ、対戦ゲームをしたこともあったっけ。

 対戦ゲームは鈴木さんにボロ負けしていたから、彼女とやると勝ちまくって気分が良かった。何故か、部屋でソフトを見かけなくなってあれから一度もやれていないけど。

 そして――

 温かいおやつを用意された時は正直嬉しくて泣きそうになった。丸い、二段重ねのシンプルなケーキ。わざわざ僕の召喚時間に合わせて彼女が焼き上げてくれたらしい。

 ハチミツのたっぷりかかったそれは、信じられないくらいに美味しかった。いくらでも食べられそうなほど美味しくて、でももったいなくて食べられなくて――ふと気が付けば彼女が自分の分を焼き上げていた。

 そしたら、よし食べよう! って気分になった。

 ああ、そうか。僕はこんなに美味しいものを一人で食べるのがもったいないなって思ったんだ。いつもみたいに一緒に食べたいなって。彼女が焼きたてのモノと交換してくれると言ったけど、僕はそれを断った。

 だって。僕のために焼いてくれたのはこの食べかけだ。出来立てを食べて、美味しいのはちゃんと分かっている。

 出来立てじゃなくなったって、冷めたって、やっぱり僕のために焼いてくれたというソレは美味しかった。後から出してくれたチョコレートをかけたらより美味しくなったし、やっぱり彼女を待って一緒に食べてよかったと思う。



「そういえば、一日に何回位召喚できるのかな?」

 彼女にそんなことを聞かれ、試してみたこともあった。今までの召喚主はそんな事聞いてくれたことなかったから初めての試みだ。

 結果は三回。正しく言えば、二回までは普通に召喚が出来て、三回目からは自動翻訳魔法がオフになっていた。魔力不足で節約モードに入ったのだ。何を言っているのか分からないし、彼女も僕が何を言っているのか分からない。

 正直、慌てた。言葉が通じるからこそ、意思の疎通が出来るのに。

 いったん帰るか――でも、何も説明できずこんな状態で帰ったら二度と召喚してもらえないんじゃないか。

 そんな風に思って泣きそうになった。

 でも、そんな状態でも彼女は会話を続けてくれた。言葉じゃなくて、身振り手振りで。お菓子を二つ出して、どっちがいい? とでも聞いているように首をかしげてくる。

 僕が片方を指さすと、それを渡してくれる。飲み物も同じだ。指さすと、指さした方を笑顔で渡してくれる。僕も、笑顔で受け取る。たったそれだけの事だけど、確かに伝わっているのが感じ取れて、少しずつ落ち着いた。そうしたら、段々それも楽しくなってきて。

 気が付けば、いつものようにゲームをやって、いつもの時間にいつものように帰っていた。



 そんな日々を送っていたから、毎日が本当に楽しくて。幽閉されていることが気にならないくらい充実していて。

 だから――。

 夏の暑さが落ち着いてきた頃。彼女が深刻そうに話しかけてきた時、すごく嫌な予感がした。


「実は、そろそろ学校始まるから今までのように召喚できなくなります」


 そう言われて、僕は目の前が真っ暗になった。



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