24 / 364
24 幸せな召喚生活と嫌な予感(王子視点)
しおりを挟むその他にも色々あったな。ジャージとかいう着心地の良い服を貰ったり、カレーを食べさせてもらったり。アレはうまかった。
ああ、対戦ゲームをしたこともあったっけ。
対戦ゲームは鈴木さんにボロ負けしていたから、彼女とやると勝ちまくって気分が良かった。何故か、部屋でソフトを見かけなくなってあれから一度もやれていないけど。
そして――
温かいおやつを用意された時は正直嬉しくて泣きそうになった。丸い、二段重ねのシンプルなケーキ。わざわざ僕の召喚時間に合わせて彼女が焼き上げてくれたらしい。
ハチミツのたっぷりかかったそれは、信じられないくらいに美味しかった。いくらでも食べられそうなほど美味しくて、でももったいなくて食べられなくて――ふと気が付けば彼女が自分の分を焼き上げていた。
そしたら、よし食べよう! って気分になった。
ああ、そうか。僕はこんなに美味しいものを一人で食べるのがもったいないなって思ったんだ。いつもみたいに一緒に食べたいなって。彼女が焼きたてのモノと交換してくれると言ったけど、僕はそれを断った。
だって。僕のために焼いてくれたのはこの食べかけだ。出来立てを食べて、美味しいのはちゃんと分かっている。
出来立てじゃなくなったって、冷めたって、やっぱり僕のために焼いてくれたというソレは美味しかった。後から出してくれたチョコレートをかけたらより美味しくなったし、やっぱり彼女を待って一緒に食べてよかったと思う。
「そういえば、一日に何回位召喚できるのかな?」
彼女にそんなことを聞かれ、試してみたこともあった。今までの召喚主はそんな事聞いてくれたことなかったから初めての試みだ。
結果は三回。正しく言えば、二回までは普通に召喚が出来て、三回目からは自動翻訳魔法がオフになっていた。魔力不足で節約モードに入ったのだ。何を言っているのか分からないし、彼女も僕が何を言っているのか分からない。
正直、慌てた。言葉が通じるからこそ、意思の疎通が出来るのに。
いったん帰るか――でも、何も説明できずこんな状態で帰ったら二度と召喚してもらえないんじゃないか。
そんな風に思って泣きそうになった。
でも、そんな状態でも彼女は会話を続けてくれた。言葉じゃなくて、身振り手振りで。お菓子を二つ出して、どっちがいい? とでも聞いているように首をかしげてくる。
僕が片方を指さすと、それを渡してくれる。飲み物も同じだ。指さすと、指さした方を笑顔で渡してくれる。僕も、笑顔で受け取る。たったそれだけの事だけど、確かに伝わっているのが感じ取れて、少しずつ落ち着いた。そうしたら、段々それも楽しくなってきて。
気が付けば、いつものようにゲームをやって、いつもの時間にいつものように帰っていた。
そんな日々を送っていたから、毎日が本当に楽しくて。幽閉されていることが気にならないくらい充実していて。
だから――。
夏の暑さが落ち着いてきた頃。彼女が深刻そうに話しかけてきた時、すごく嫌な予感がした。
「実は、そろそろ学校始まるから今までのように召喚できなくなります」
そう言われて、僕は目の前が真っ暗になった。
58
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされ、谷に落ちた女は聖獣の血を引く
基本二度寝
恋愛
「不憫に思って平民のお前を召し上げてやったのにな!」
王太子は女を突き飛ばした。
「その恩も忘れて、お前は何をした!」
突き飛ばされた女を、王太子の護衛の男が走り寄り支える。
その姿に王太子は更に苛立った。
「貴様との婚約は破棄する!私に魅了の力を使って城に召し上げさせたこと、私と婚約させたこと、貴様の好き勝手になどさせるか!」
「ソル…?」
「平民がっ馴れ馴れしく私の愛称を呼ぶなっ!」
王太子の怒声にはらはらと女は涙をこぼした。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
婚約を破棄したら
豆狸
恋愛
「ロセッティ伯爵令嬢アリーチェ、僕は君との婚約を破棄する」
婚約者のエルネスト様、モレッティ公爵令息に言われた途端、前世の記憶が蘇りました。
両目から涙が溢れて止まりません。
なろう様でも公開中です。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
婚約破棄までの七日間
たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?!
※少しだけ内容を変更いたしました!!
※他サイト様でも掲載始めました!
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる