魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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69 先輩と一緒

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「あっ、来た。先輩ここです。こっち、こっち!」
「ルカ!」

 講義開始前。ギリギリの時間に先輩はやってきた。

 夏真っ盛り。冷房がガンガンにかかっているとはいえ、先輩はいつものごとく真っ黒いローブを着込んでいるので目立つ……と思うんだけど。

 相変わらず何故か周囲に馴染んで存在が埋没している。何でだろう……。

 とりあえず講義室へと入ってくるなり声をかけ、私が取っておいた席へと誘導すると、先輩は嬉しそうに私の隣へと座った。

 相変わらずの品の良い、手入れの行き届いた高そうな眼鏡には曇り一つない。どんなに寝坊して来るのが遅くなろうとも、眼鏡の手入れを怠らないその姿勢は素晴らしいと思う。

 私が確保しておいた席は黒板の正面の少し前の方。一番目立つ場所ではあるが、あまり後ろだと板書が写しづらいし、何より何故か存在感のない先輩は目立たない席だと教授に出席を取ってもらえない可能性がある。

 出席を取ってもらいさえすれば、あとはあてられることもないそうなので、先輩にとってはこのくらいの場所がいいらしい。

 まあ、私は授業中はサボらないタイプなので、どの席だろうが構わない。それにノートが取りやすいこの位置は私にとっても都合がいいので二人の需要が一致した結果ともいえる。



 大学は既に夏休み。とはいえ、夏休み中にも単位が取れる講義があると聞いて、しっかりと申し込んでおいたのだ。

 去年、先輩に履修相談をしたときにお勧めされたのだが、先輩もこの講義を取っていたらしく、講義初日に偶然会ったのをきっかけに一緒に受講することにした。

 先輩とは元々高校の先輩と後輩という関係。学年が違うので一緒に授業を受けるのは不思議な感じがするが、これも大学ならではなのだろう。

 なんにしても、大学で友達を作り損ねた私は知り合いと講義を受けられるというだけでもちょっと楽しい。

 授業前に先輩と少し話をしようと思っていたのだが、すぐに教授が来てしまったので、雑談に興じるのは休み時間か昼休み以降になりそうだ。

 出欠の点呼が始まったので先輩がちゃんと出席をとってもらえているのかを確認しつつ、私も元気に返事をした。



 王子が離宮に送られ、召喚が出来なくなってからは約一週間が過ぎた。時折、おやつを置いて確認をしているが、反応はまだない。そして私は現在、当初からの予定通りに先輩と共に大学の集中講義を受けている。

 ちなみに。塔に王子がいる、いないに関係なく、この講義を受講することはずっと前から決めていたことだ。ちゃんと事前に王子にも伝えてあった。

 効率的に単位が取れるのは嬉しいが、朝から夕方までみっちり講義がいれられているので、おやつの時間は召喚できない。

 その代わり、集中講義受講中はコンビニのバイトをお休みさせてもらったので、召喚を夜にずらして、ちょっぴり夜更かしの召喚を楽しむつもりだったのだ。
 夜のスーパーで値引き販売の夜食を買って……とか、前から王子と二人で色々と計画を立てていたのだけれど。

 王子は3D酔いの食欲不振から健康状態を疑われ、静養のために離宮へと送られてしまったので、その計画は中止となった。

 王子がこの計画を結構楽しみにしていたのを知っているので、彼の気持ちを考えると少しばかりツライものがある。


 今頃王子は何をしているのやら。方向性を間違えた努力を重ねていなければいいが……。


 そっと、ため息をつく私。おっと。いけない、いけない。出欠は取り終え、教授は既に講義中。講義の最後にはテストもあるし、しっかりと集中しなくては。


 王子のことは心配だし気にはなるが、今は目の前の講義に集中!


 気持ちを奮い立たせて、ノートをとるスピードを上げる私。必死に教授の講義と板書に付いていく。

 だから。

 私のついたため息に反応し。探るような目で私を見ていた先輩の視線にはまったく気が付くことが出来なかった。




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