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71 不機嫌な先輩
しおりを挟む「――で、鈴木さんて誰?」
午後の講義の後。何故かケーキ屋さんへと連れて来られた私。ここは、以前にサークルの手伝いをしたときに先輩から報酬代わりのケーキを買ってもらった有名店だ。
カフェも併設されているからと、無理矢理連れて来られた。ノートを写させてもらったお礼らしい。
別にノートを写すくらい気にしなくていいのに。そう言ったんだけど先輩からは眼鏡越しの笑顔で流された。まあ、朝からぶっ続けの授業で疲れているので甘いものは嬉しいが。
「――で、誰? 普通、ただのお客さんに電話なんかしないだろ」
「ああ、鈴木さんは元々が知り合いだったんですよ。偶然バイト先のコンビニに来てくれて、後から常連さんになっただけで」
「いや、お前の知り合いに『鈴木』はいない。高校のとき確かにクラスに二人ほどいたが、一人は女子だけど運動部で忙しく、お前とは席も離れていて接点がないし、一人は男子生徒で生徒会の役員だったけど彼とは特に交流はなかったはずだ。二人と会話があったにしてもあいさつ程度だろう。図書委員にも一人いたが、学年が違うし、ルカとは当番の日がズレていたから話したことすらなかったはずだ」
スッと、ごく自然な動きで眼鏡をあげながら。目を細めて冷静に過去の私の交友関係を分析する先輩。そう言えばそうだ、と思い出す。鈴木さんて、多い名字だけど確かに知り合いにはいなかったな。
「流石です先輩。昔っから情報通だから、私のこと私以上に詳しいですよね。言われるまで気が付きませんでした! あ、でも、鈴木さんとは大学生になってから知り合ったんですよ。あはは、私、命の恩人なんですって。鈴木さんてば私のこと『スポーツドリンクの女神』とか呼んでくるんですよ。最近は何だっけ。えーと、心の妹とか何とか……」
感心しつつ、鈴木さんとの出会いを話す。
フリーマーケットで熱中症をおこしていた鈴木さんを助けたこと。
ラグを買ったこと。それをきっかけに私のこと気にかけてくれていて、偶然バイト先のコンビニで再会して色々相談にのってもらったこと。
それ以来バイト先の常連になってくれたこと。
王子のことだけ誤魔化して、うまいこと説明をした。
いや、だって……。王子のことを話したら絶対、根掘り葉掘り聞かれるし。下手したら家に押しかけてきそうだし。騒がれて壁ドンでもされたらたまらない。1人暮らしだもん。ご近所からの胸キュンしない方の壁ドンがとにかく怖い。
魔法陣とか、召喚とか、先輩のオカルト趣味の方向性を考えると必要以上に興味を持たれると思うんだよね。先輩のことは嫌いじゃないし、どっちかと言ったら好きだけど、ゲーム時間を邪魔されるのは嫌だ。
「ラグ?」
「ええと、ちっちゃいカーペットですね。ま……模様がオシャレで気に入ったから中古を鈴木さんから買いました。えー、それで趣味が近いというか。それ以来、気にかけてくれていたみたいで」
「……」
「先輩?」
「――で、ソレが去年の6月あたりだったってことか」
「えっ!? すごい。よく分かりましたね。私、日付なんて言いましたっけ??」
「…………ちょうどそのあたりから急にお前との遭遇率が減ったからな。おかしいと思った……」
先輩が何やらボソボソと言っているが、あまりよく聞こえなかった。とんでもなくマイペースで気難しいところがある先輩ではあるけれど、いつだって私とは楽しそうに話してくれていたのに。
今日は珍しく機嫌が悪そうだ。いったいどうしたのだろう?
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