魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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108 変わったこと変わらないこと

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「――で、そっちは変わりなかったか?」


 こっちの考え(ツッコミ)など知る由もない王子はそうやってニコニコと悪気なく聞いてくる。

 変わりはなかったが代わりは来ていた。

 それを伝えようとして――。


「……………が………来て……」


 声が出せないことに気が付いた。


「王子、久しぶりに見たけどやっぱ似合うね、その眼鏡」

「え? あ、そうか。ありがとう。い、いや、急にどうした??」


 ……何でもないことは口に出せるのに、なぜかあの黒いローブの人達のことだけ言葉にできない。何度か王子に話そうと試みたけど、やっぱり言葉にはできなかった。

 なんか、腹黒さんからは記憶を消す的なこと言われて焦ったけど、普通に偽王子さん達の顔も姿も好みも思い出せるし何も変わっていないじゃないか――と安心していたんだけど。

 うん。どうやら偽王子さんたちのことは王子に話せないようになっているらしい。何一つ忘れなくて済んだっぽいのはよかったけれど、なんか発言に制限をかけられたようだ。魔法か何かだと思う。


 でも……面白いな、これ。
 いったい、何をどこまで話せるんだろう?


 まあ、それは追々試すとして。とりあえず王子への答えを考える。確かに色々あったし、怖い思いもしたけれど。

 私が王子の留守中にやっていたことといえば、おやつを供えての王子召喚。

 やってきたのが王子じゃなくて偽王子だっただけで、私の行動は変わっていない。少なくとも王子(本物)から聞かされたような訳の分からない妙な冒険はしていない。うん。まったくもって通常営業。

 ――ということで。


「別にいつも通りかな。おやつを供えて王子召喚を試して」

 ……偽者さんがやってきて。

「そうか。変わりなくてよかった!」


 そう言って笑う王子は健康そうに日焼けをした偽王子(大)さん風にはなっているけれど、やっぱり笑顔は王子のままで。
 やっと日常が戻ってきたのだと実感できた。

 そして、私は一番大事なことを伝えていないことに気が付いた。


「お帰りなさい、塔に幽閉中の王子様。また、今日からよろしくね!」

 笑顔でそう言ったら眼鏡王子はパチパチと目を瞬いて。

「ああ!」

 といって満面の笑みを浮かべていた。



 こうして再び――名前も知らない幽閉中の王子様を召喚する生活が始まった。




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