魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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230 王子様は召喚主を逃がさない

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『コホン。あー、あー。テステス……』

 相変わらず耳栓から聞こえる王子の咳払いと発声練習。

 慌てて耳栓の装着を手で確認するも……間違いなくついている。その間も、『あーあー、フフーン♪』と耳元から流れる王子の声が続いている。

 あ、今の『フフーン♪』は聞き覚えがありますね。前回、耳栓使用時に気付いた、王子の鼻歌……って、え!?

 ソレに気付いて驚いて王子を見ると、お似合いの眼鏡をクイっと上げて、レンズの奥でス……っと目を細め。

 珍しく顔の印象そのままに。ちょっぴり意地悪なドヤ顔で。

『――うん、やっぱり僕の実験は成功したみたいだな。では、早速……』


 ――と、本日二回目となる機密情報漏洩ツアーを開始した。


『いやー、竜族の番への愛の重さは有名だが、この内装はちょっと凄いよな。わが国では神的な存在なのに、威厳も何もあったもんじゃない。流石にゲームじゃ再現できないが、甘ったるい香まで焚いて、居心地が悪いったら。空気が甘々過ぎて気軽に無駄話にも行けないよ、まあ行くけど。幽閉中では他に行くところもないから仕方ない。日々の散歩コースにも入れているしな。――で、続き部屋になっている真ん中のここは夫婦の部屋だって。まだ、番も見つかってないのに闇堕ち竜も気が早いよね。と、いう訳で相手の種族が分からないから、このバカでかいサイズのベッドなんだそうだ。妖精から巨人までを視野に入れて用意したらしいよ。大は小を兼ねるからって。相変わらず竜族は好みが幅広いなあ。見つかったら紹介するって言われているから、食人する種族でないことを祈ってる。番優先の竜族はきっと止めないだろうからね。それだと僕、食べられちゃうし。国民も食べられちゃうから、それはそれで国が滅びそうな気がするし。――で、夫婦の寝室から更に続き部屋になっている、最初と似たようなこの部屋が闇堕ち竜の番の部屋。見つけたらなるべく番とは離れたくないから、どっちの部屋でも番がくつろげるように…と、あえて同じインテリアにしたんだって。そういう事じゃない気がするんだけどなあ。竜族も繊細なようで大雑把だからなあ。まあ、絶対に落ち着く部屋っていうのがあるのも分かるけどね。僕も召喚主の部屋は落ち着くし……って、いやいやコホン。それはそうと、ここの三部屋、真ん中の夫婦の部屋を中心に左右対称だから頭の中がバグりそう。方向感覚がなくなるよ。この先もしばらくは左右対称で罠も同じだし。まあ、地形の問題もあるから、ここから先は罠も造りも大幅に変わるけど。見て、ほら、ここ。足音に反応する魚がいるから気を付けて。5、6回フェイクで音出すと、面倒くさくなって魚が出てこなくなるから、その隙に駆け抜けるんだ。じゃないと丸呑みしてくるから、生臭くて後が大変だよ。ああいや、僕は丸呑みされてはいないけどね? ホラ、抵抗したから半分だけだし! 服には品質保持魔法をかけていたし! ちょっぴりセイレーンっぽさは味わえるけど、あまりお勧めはしないかな。僕もしばらくは魚が食べられなくなったから、君もここを通るときは絶対に気を付けた方がいい。それでここを進むと分かれ道があって、この真ん中の罠を発動させると次々に壁が動いてここの道が通れるようになるんだ。壁が動いて押しつぶす系の罠だから、ソレが発動して壁が元の位置に戻る間に走り抜けなくちゃいけない。途中にほら、こんなふうに宝箱があるんだけど、それは絶対にスルーして。壁が戻って取り残されちゃうし、窒息するし、そうでなくても下手するとつぶされちゃうからね。そんでここはこうして、あーして、そうすると手で触れるだけで通れるから、気にせず進んじゃって構わない。それで、その先にはシンプルな弓矢の罠があるんだけど、センサーになっているこの像に布をかけると無効化できるから、心配しなくても大丈夫。でも、時間が経つと警報音鳴ってうるさいから、罠を無効化して通った後は、面倒でも必ず一回一回、かけた布をとって解除するんだ。じゃないと通りすがりの真っ黒い感じの人が大慌てで止めにくるからね。アレはなあ…何だろうなあ……昔っから、たまに見かけるんだけど、どうしても顔が覚えられないんだよね。まあ、いいや。それでココに魔物部屋があるんだけど、こっち側を通れば入らなくて済むから無視しちゃって構わない。だけど、アイツらたまに布系の素材を落とすから……』


 耳栓をしても外しても。逃れられない王子の声。垂れ流される機密情報。一度見ちゃうと目が離せない、完璧に再現されているダンジョンの巨大建築を案内されながらの強制解説。

 しかも、最初のは召喚主が聞いてなかったみたいだから……と、わざわざスタート地点に戻ってから解説をやり直す余計な気遣い付きでの反復学習とかやめてほしい。

 ただでさえ途中までは頭と耳に残っているし、二度目ともなると王子も解説慣れしてきていて解りやすい上に、耳栓をつけると耳元で。外すとすぐ隣で。……の、逃げられない二重音声で、しっかり全体像が記憶に残っちゃって……。


 どうしてくれんの、コレ。いやもう、本当に……っ!!!!



「……あー、もう、分かった! 分かったから! この先は、こう、こう、こう――で、ここを真っすぐいった所にある隠し扉で城に繋がっているんでしょ! 分かったから!! もう解説しなくていいから!!!」


 手遅れ感半端ないが、これ以上の反復学習は御免被ると、王子からコントローラーを奪い、途中で解説を切り上げる。


「うん! そうそう! いやぁ、嬉しいよ、召喚主が完璧に覚えてくれたみたいで!! これで君もいつでも城に入れるね! ……………………………………………………って、あれ……僕、さっきそこまで案内したかなぁ………………??」





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