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240 しょんぼり王子と行くのんびり散歩
しおりを挟む「あそこまで野菜まみれにしなくてもいいと思わないか……」
その日の午後の召喚で早速王子が弱っていた。いや、もう予想を裏切らないというか何と言うか……。
…ってか、偽王子(腹黒)さん仕事早っ!
とりあえず王子の精神に追い打ちをかけそうな野菜チップスは気付かれる前に素早く引っ込め、おやつは彼の大好物であるポテトチップスへと変更した(ただし少量)。
それでどうにか気を取り直した王子が、数少ないポテトチップスを大事そうにチビチビ食べながらグチグチ語ってくれた説明を聞いたところによると。
モーニングを食べてギリギリまでこっちで遊んだ後、塔に戻ると昼食にこれでもかってほど山盛りの野菜サラダを出されてしまったらしい。――で、その他のおかずも野菜尽くしのフルコース。……うん、まあ、間違いなく時間外召喚を実現させるためにごねて見張りを遠ざけるという、幽閉中の王子様にあるまじき暴挙に出た事への制裁ですね。
しかも、ちょっとでも残すと『国民の血税が生ごみに』とか『幽閉中の分際で』とか、素人が台本を読むように発せられる棒読みヒソヒソ話BGMがメイドさん達から聞こえてくるので泣きながら完食をしたそうだ。腹黒さんも容赦ない……しかも陰湿。
え? 何? でも彼女達が帰ってくれないと午後の召喚に間に合わなくなるから頑張ったんだ、褒めてくれ……って、あーこれは懲りていませんね。うん。これはやり過ぎちゃう腹黒さんの気持ちもよく分かる。
……それにしても。
王子ってば、いくらなんでも音を上げるのが早すぎやしませんかね? まだ、数時間ですよ?
まあ、正直こうなるような気はしていたけれど。
「……あ…………♡」
「な、何? 変な声出してどうしたの? ……嫌な予感しかしないんだけど」
「あ、いや……範囲…ちょっぴり広がったみたいで」
またですか!!
……どうやら。
『コイツならやると思ってました』とか『ああ、もうしょうがないなー、だから言ったのに(やれやれ)』――ってな状況に陥るとマイナス方向への信頼度がいい感じに発動するらしい。
そういえば少し前に、『僕、ちょっと呆れた顔で召喚主に褒められるのが好きなんだよ』なんて、嬉しそうに宣っていましたね。あれってもしやこういうのを期待して……?
おっと、いけない、いけない。これ以上の分析はやめておきましょう。マイナス方向への信頼度って、油断すると爆上がりしそう。特にこの王子の場合は危険な気がする。
それに、あまりこういう方向性でサクサクっと行動可能範囲を広げさせて、調子づかれても困りますからね。この辺でおバカな行動は止めさせないと。まあ、若干手遅れな気はするけれど。
でも私、人と人との信頼関係って、本来そういうものじゃないと思うの。
とりあえずは再び範囲が広がったことで王子のやる気が復活したみたいなので、再度、今度は運動の為のお出かけです。少量とはいえ、予定外に高カロリーのポテトチップスを食べさせちゃいましたからね。その分のカロリー消費も含めて、しっかりお散歩させますよ!
「朝はこの辺までだったが、まだ言葉が通じているな!」
「あ、本当だ。これならこの横断歩道も渡れそうだね」
大きめの交差点を前に話し合う私と王子。
先ほどのマイナス方向への信頼度ちょっぴりUP♡ …のお陰で朝よりもかなり行動可能範囲が広がっているようだ。駅へと続く道なのだが、朝はここの横断歩道辺りで言葉が通じなくなったので、念の為に信号を渡らずに引き返していた。
ゴリ押しで進むと強制召喚終了を食らって碌なことにならないと身をもって学んだやらかし王子は、行動可能範囲に限っては安全運転モードです。今もですが、不安になるとお手手つないでくるので分かりやすいですね。
まあ、一度横断歩道でやらかしているし、朝はこの辺までだったしで、王子が不安に思うのもよく分かる。ペナルティ期間を終えて、戻ってきたばかりの頃もこんなだったもんね。
あれから比べると、積極的に行ける範囲を調べようと外に出るだけ進化したもんだ。うんうん、王子は頑張ってるよ! 方向性は相変わらず『???』だけど。
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