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344 王家の影と身代わり召喚(偽王子⦅大⦆視点)
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元々、この『身代わり業務』は影本来の仕事ではなく、幽閉中のくせにやたらと行動範囲の広い王子の不在を表向き誤魔化すためのものだった。
以前は上司がたった一人で対応していたそうだが、他にも仕事があるために上司一人では王子の動向が把握しきれず、まあいいかと見逃していた結果、そんな状態になっていたらしい。
今更王子の行動を制限するわけにもいかないので、慌てて人手の方を増やしたのだ。私の騎士団から影への移動はそういった経緯があってのことだった。
色々と本末転倒ではあるが、部署が違うのでその辺はまあ仕方がないと思う。私も騎士団に所属していた頃は王家の影の存在なんて知らなかったし、まさか自分がそこへ所属することになるなんて思わなかったし。
そうしてなし崩し的に始まった異世界での王子の身代わり業務だったが、これは予想以上に快適だった。
最初こそ私の生来の口下手も手伝って、色々と勝手の違う異世界で違和感なく王子のふりをしなくてはならないという使命感で雁字搦めになっていたが、困っていると召喚主の女性がさりげなく手助けしてくれるので特に不自由なく過ごせているし、久しぶりに食べる甘味はこちらと違って多種多様ですごく美味しいし。
それに召喚主からお勧めされたチェスによく似たゲームは、騎士団で覚えた様々な戦術を私に思い出させてくれた。
城や幽閉塔をリアルに再現したゲームからは、職務を果たす上で重要なヒントを得られることもある。なので、変更があったらすぐに情報を書き換えて常に最新の状態が保たれるようにしている。
細かい部分については機密管理の観点から影の記憶に頼っている部分もあるので、おそらく現状ではどの部署が持っている地図よりも正確に違いない。たまに警備体制を見直す際に使わせてもらっているくらいなのだ。
今日の王子は部屋で読書をして過ごすらしい。見慣れぬ文字の本はおそらくあちらから持ってきた物だ。王子と情報共有するために、隙を見て私も読んだ方がいいのかもしれない。
できればスポーツものか格闘ものだといいのだが――
『なるほど、これは王太子がざまぁされても仕方ないな! いいぞ、もっとやれ!』
とかいう声が聞こえたから希望は薄そうだ。
下にある王子の部屋からはパラパラとページをめくる音が聞こえてくる。あの王子が途中でやめるとも思えないので、残りの冊数からするとしばらくここで過ごすことになりそうだ。
こうして仄かに魔術の光が灯る狭く暗い空間に潜んでいると、あの異世界での時間が夢のように思えてくる。
ピンク色の花が空いっぱいに広がって、ハラハラと花びらが舞う美しい光景――あれは季節限定のものらしいが、そんなキレイな風景を見ながら味わう黒い何かが入った丸くて甘いパンも素晴らしかった。
召喚主は見慣れているのか、『ピザまん美味し~♪』と言いながらパンの方に夢中になっていた。どうやら私が食べたものとは味が違うらしい。
それほど美味しいのかとじっと見ていたら、召喚主が『ピザまん』を少し分けてくれた。そちらも大変素晴らしかった。この生活をしていると、温かい食べ物はそれだけで貴重なのだ。
そんな大満足の身代わり生活だったのに――ある時を境に私は召喚主によって、毎日のように運動に連れ出してもらえるようになった。
以前は上司がたった一人で対応していたそうだが、他にも仕事があるために上司一人では王子の動向が把握しきれず、まあいいかと見逃していた結果、そんな状態になっていたらしい。
今更王子の行動を制限するわけにもいかないので、慌てて人手の方を増やしたのだ。私の騎士団から影への移動はそういった経緯があってのことだった。
色々と本末転倒ではあるが、部署が違うのでその辺はまあ仕方がないと思う。私も騎士団に所属していた頃は王家の影の存在なんて知らなかったし、まさか自分がそこへ所属することになるなんて思わなかったし。
そうしてなし崩し的に始まった異世界での王子の身代わり業務だったが、これは予想以上に快適だった。
最初こそ私の生来の口下手も手伝って、色々と勝手の違う異世界で違和感なく王子のふりをしなくてはならないという使命感で雁字搦めになっていたが、困っていると召喚主の女性がさりげなく手助けしてくれるので特に不自由なく過ごせているし、久しぶりに食べる甘味はこちらと違って多種多様ですごく美味しいし。
それに召喚主からお勧めされたチェスによく似たゲームは、騎士団で覚えた様々な戦術を私に思い出させてくれた。
城や幽閉塔をリアルに再現したゲームからは、職務を果たす上で重要なヒントを得られることもある。なので、変更があったらすぐに情報を書き換えて常に最新の状態が保たれるようにしている。
細かい部分については機密管理の観点から影の記憶に頼っている部分もあるので、おそらく現状ではどの部署が持っている地図よりも正確に違いない。たまに警備体制を見直す際に使わせてもらっているくらいなのだ。
今日の王子は部屋で読書をして過ごすらしい。見慣れぬ文字の本はおそらくあちらから持ってきた物だ。王子と情報共有するために、隙を見て私も読んだ方がいいのかもしれない。
できればスポーツものか格闘ものだといいのだが――
『なるほど、これは王太子がざまぁされても仕方ないな! いいぞ、もっとやれ!』
とかいう声が聞こえたから希望は薄そうだ。
下にある王子の部屋からはパラパラとページをめくる音が聞こえてくる。あの王子が途中でやめるとも思えないので、残りの冊数からするとしばらくここで過ごすことになりそうだ。
こうして仄かに魔術の光が灯る狭く暗い空間に潜んでいると、あの異世界での時間が夢のように思えてくる。
ピンク色の花が空いっぱいに広がって、ハラハラと花びらが舞う美しい光景――あれは季節限定のものらしいが、そんなキレイな風景を見ながら味わう黒い何かが入った丸くて甘いパンも素晴らしかった。
召喚主は見慣れているのか、『ピザまん美味し~♪』と言いながらパンの方に夢中になっていた。どうやら私が食べたものとは味が違うらしい。
それほど美味しいのかとじっと見ていたら、召喚主が『ピザまん』を少し分けてくれた。そちらも大変素晴らしかった。この生活をしていると、温かい食べ物はそれだけで貴重なのだ。
そんな大満足の身代わり生活だったのに――ある時を境に私は召喚主によって、毎日のように運動に連れ出してもらえるようになった。
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