【完結】昭和アイドル好きの悪役令嬢、中途半端ぶりっこヒロインが許せないのでお手本を見せる

堀 和三盆

文字の大きさ
7 / 27
番外編

6 悪役令嬢と王太子

しおりを挟む

 俺はこの王太子が苦手だ。何を考えているのか分からない。モモリー様に冷たくしておきながら、今みたいにうっかり素を晒してしまった時などに、彼女にあんな目を向けてくる。

 探るような――
 縋るような――

 今に始まったことではない。昔から、それこそ俺が警護に就いてすぐのころには、結構頻繁にモモリー様はやらかしていた。部屋以外では奇行を行わないと誓ったものの、ついうっかり自然に身に付いた仕草は出てしまう。そのせいで教育係からはよく怒られていた。
 ただ、その頃は今ほど王太子と険悪な感じではなかった。むしろやらかしたモモリー様をからかいながらも、愛し気に話しかけていたのだ。

 王太子妃教育が進むにつれモモリー様もしっかりと公私を分けられるようになって、失敗の頻度は減っていった。その頃から、どんどん王太子は不満そうになっていった。そして、ごくごくわずかなやらかしを見つけるたびに、あんな目を向けてくるようになった。

 モモリー様が公の場でここまでやらかしたのは久しぶりだ。王太子は少し迷った様子を見せていたが、何かを言おうと口を開きかけ――。

「殿下、何を見ていらっしゃるの? あっ! 分かった、もしかして妖精さん?」

 男爵令嬢の鼻にかかった愛らしい声にかき消される形でその動きを止める。男爵令嬢はきゃぴきゃぴとあたりを見渡すと、「私も可愛い妖精さん見たいわ! どこかしら~」と言って走り出す。王太子は慌ててそれを追いかけて行った。

 王太子が追いつくと。男爵令嬢は僅かに振り返ってふっと嗤った。



「プンプン!」
 モモリー様が怒っている。

 帰宅後。メイドを下がらせると早速モモリー様は人差し指で角をはやした。

「婚約者が絡まれているのに助けもせずに、自分は浮気相手と高みの見物なんて」

 モモリー様の怒りはもっともだ。王太子にも影がついているから上に報告はされているはずなのだが。あの様子を見るに、注意はされていないに違いない。

「それにしても……あの子やるわね。完全にこちらが見えていたはずなのに、華麗に修羅場を回避しつつの、妖精さんを持ち出してのかわい子ぶりっこ……見事だわ」

「ただ……」そう言って、悔しそうに眉を下げると。
 腕をブンブン振り回して叫ぶ。

「あの、最後の表情はいただけないわ! どこで! 誰が! 見ているのか分からないのにあんな顔しちゃダメでしょう! せっかく自由にぶりっこできる立場にいるんだからやるなら徹底的にやりなさいよ。ああ、羨ましい……!」

 ブンブンブンブン……。

 怒りの方向が変わってきた。
 あと、絡んできた公爵家の二人の反応が微妙だったので、こっちの動きももう一度試してみたかったに違いない。
 ……まあ、こうして見るとこっちの動きもわるくない。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した

葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。 メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。 なんかこの王太子おかしい。 婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。

水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。 しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。 マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。 当然冤罪だった。 以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。 証拠は無い。 しかしマイケルはララの言葉を信じた。 マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。 そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。 もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。

【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること

夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。 そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。  女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。  誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。  ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。  けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。  けれど、女神は告げた。  女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。  ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。  リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。  そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。

処理中です...