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番外編
6 悪役令嬢と王太子
しおりを挟む俺はこの王太子が苦手だ。何を考えているのか分からない。モモリー様に冷たくしておきながら、今みたいにうっかり素を晒してしまった時などに、彼女にあんな目を向けてくる。
探るような――
縋るような――
今に始まったことではない。昔から、それこそ俺が警護に就いてすぐのころには、結構頻繁にモモリー様はやらかしていた。部屋以外では奇行を行わないと誓ったものの、ついうっかり自然に身に付いた仕草は出てしまう。そのせいで教育係からはよく怒られていた。
ただ、その頃は今ほど王太子と険悪な感じではなかった。むしろやらかしたモモリー様をからかいながらも、愛し気に話しかけていたのだ。
王太子妃教育が進むにつれモモリー様もしっかりと公私を分けられるようになって、失敗の頻度は減っていった。その頃から、どんどん王太子は不満そうになっていった。そして、ごくごくわずかなやらかしを見つけるたびに、あんな目を向けてくるようになった。
モモリー様が公の場でここまでやらかしたのは久しぶりだ。王太子は少し迷った様子を見せていたが、何かを言おうと口を開きかけ――。
「殿下、何を見ていらっしゃるの? あっ! 分かった、もしかして妖精さん?」
男爵令嬢の鼻にかかった愛らしい声にかき消される形でその動きを止める。男爵令嬢はきゃぴきゃぴとあたりを見渡すと、「私も可愛い妖精さん見たいわ! どこかしら~」と言って走り出す。王太子は慌ててそれを追いかけて行った。
王太子が追いつくと。男爵令嬢は僅かに振り返ってふっと嗤った。
「プンプン!」
モモリー様が怒っている。
帰宅後。メイドを下がらせると早速モモリー様は人差し指で角をはやした。
「婚約者が絡まれているのに助けもせずに、自分は浮気相手と高みの見物なんて」
モモリー様の怒りはもっともだ。王太子にも影がついているから上に報告はされているはずなのだが。あの様子を見るに、注意はされていないに違いない。
「それにしても……あの子やるわね。完全にこちらが見えていたはずなのに、華麗に修羅場を回避しつつの、妖精さんを持ち出してのかわい子ぶりっこ……見事だわ」
「ただ……」そう言って、悔しそうに眉を下げると。
腕をブンブン振り回して叫ぶ。
「あの、最後の表情はいただけないわ! どこで! 誰が! 見ているのか分からないのにあんな顔しちゃダメでしょう! せっかく自由にぶりっこできる立場にいるんだからやるなら徹底的にやりなさいよ。ああ、羨ましい……!」
ブンブンブンブン……。
怒りの方向が変わってきた。
あと、絡んできた公爵家の二人の反応が微妙だったので、こっちの動きももう一度試してみたかったに違いない。
……まあ、こうして見るとこっちの動きもわるくない。
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