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12 第一王子は執着する
しおりを挟む人気のない石造りの見張り台の上。明らかにおかしいこの状況。いくら戦時下じゃなく平和な治世だとしても、この状況はありえない。この場所には絶えず見張りの兵士がいるはずだ。……人払いでもされていない限り。
公爵令嬢が乗って崩れた石壁を見て――私は確信を深めた。確かに古い物だが、どう考えても事故ではない。これは――。
「第一王子殿下。この石壁に細工をしましたね?」
「ああ。思いのほか計画通りだったな」
「……っ! なんて危ないことをっ!! もし、公爵令嬢が落下でもしたら」
「下には念の為、王国管轄外のもぐりの魔女たちを配備した。浮遊魔法と治癒魔法限定で一時的に制約を解除した。だから誰が落下したとしても、いざというときの備えも万全だ。……それに、アイツがミーティス嬢を落とすとも思えん。家族愛だろうが恋愛だろうが、アイツの優先順位は昔から変わらんからな」
淡々と。私を見つつ無表情に語る第一王子殿下。その、ブレることのない視線が怖い。
小さい頃から。王国認定魔女だったお婆様に荷物を届けるのは私の役目だった。そのついでに王宮内の図書室に入り浸っていた。
穏やかな午後のひととき。
真剣に読書をする第二王子殿下と――何をするでもなく、ただただ私を見てくる第一王子殿下。何を考えているのか分からないその無表情が怖かった。でも――。
――それこそが兄上の感情表現なんだよ。表情が消えるほど別のことに夢中になっているときの! ああっあんなに無表情になるなんて、よほど……――
いつも、何を考えているのか分からない無表情で私をガン見していた第一王子殿下。そして盗聴魔法で聞いた第二王子殿下の言葉。アレが真実なのだとしたら、もしかして第一王子殿下は……。
その時。第一王子殿下が石の床に膝をついた。夕焼けに照らされて。無表情な顔がオレンジ色に染まる。相変わらず表情は何もないけれど、私を見る目はやはりどこまでもブレなくて――。
「言っただろう。この場所で君にプロポーズをすると。あの言葉に嘘はない。この一カ月、弟を追いかけまわす君を見るのが苦痛で仕方なかった。何で弟ではなく、私に魅了魔法をかけなかったのだと苛立ちが隠せなかった。だからとっとと君に手を貸して、この状態を終わらそうと思った。この件が解決したらすぐにでも言うつもりだったんだ。アイノー・ザルゲージ王国認定魔女殿。王国の盾であり剣でもある貴女に申し込む。私の妻となってくれ」
「そ…の……この場所を選んだのは?」
「罠を仕掛けた場所で都合が良かったからだ。公爵令嬢がかかるとは思わなかったが。当初の予定では君を奪い返しに来た第二王子の予定だった。落ちそうになり逃げられない状況に弟を追い込んで君に魅了魔法を解かせようと……ああ、弟の命を取るつもりはなかったから安心してくれ。先ほども言った通り非合法でもぐりの魔女を用意してしっかり安全対策は取っていた。何の問題もない」
「夕日が美しいこの時間だったのは」
「逆光で石壁の細工に気が付かれにくいと思ったからだ」
「………………もし、断ったら」
「本気で王位を狙い、君を手に入れるために仕事に打ち込むしかないな。国を発展させ、権力を確固たるものにして、逃げ道をふさぐ。その場合はいかなる手段も選んではいられないだろう」
そう言う第一王子殿下は相変わらず無表情で、何を考えているのか分からない。でもその目は――子供の頃から一切変わることなく、私を捉え続けていた。
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