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6 幸せの終わり
しおりを挟む「ふふふ。奥様の新しいドレス似合っておられますわ。御主人様の御色ですわね。同じ色合いだからネックレスもお似合いです。そうだ、せっかくだから爪も合わせましょうか。きっと御主人様もお喜びになりますわ。早くお見せしたいですわね。ああ、本当にお可愛らしい……」
そう言って、うっとりと爪を塗ってくれる年配のメイド。
あれから。私の状況は一変した。陰口をたたいたり面と向かって暴言を吐いたり、公爵様の目の届かない所で意地悪をしていた使用人たちはいっせいに解雇され、ずっと丁寧に接してくれていた心優しい人たちだけが残った。
その中でも、いつも楽し気に私の世話を焼いてくれていた年配のメイドが正式に私付きになり、甲斐甲斐しく身の回りの世話を焼いてくれる。おかげで心休まる日々を送れるようになった。
「私は病気で足が悪くなってしまい、もう仕事を辞めるしかないかと思っていたのですが、御主人様が奥様付きのこの仕事を与えて下さったおかげで、どうにか公爵家での仕事を続けることができそうです」
――と、いう事らしい。しかし、そんな事情を抱えているとはまったく気が付かないくらいに、彼女はずっと丁寧な仕事をしてくれていた。
本人から言われて、初めて彼女の足が悪いことに気が付いたくらいだ。
公爵様が居ないときでも彼女がしっかりと世話をしてくれるので、食事を抜かれたり入浴できなかったりすることはなくたった。内緒よ、と言いながら「むしろ、御主人様が居ないときの方がこまごまとお世話ができて楽しい」とこっそり教えてくれた。
自分がとても大切にされているのが分かる。
そんな彼女が一番張り切るのが領地の仕事から戻る公爵様を迎える私を磨き上げて着飾らせること。
大好きな彼女に世話をしてもらって、愛する公爵様をこうして出迎えられるのがすごく嬉しい。
公爵様の色に包まれて。公爵様の温もりに包まれて。
身体の隅々まで公爵様の愛で満たされる生活。
頭の先から足の先に至るまで、公爵様に触れられていない場所なんてどこにもない。
初めてここに連れて来られた時にはこんな幸せが待っているなんて思わなかった。ここまで愛してもらえるとは思わなかった。
けれど……そんな幸せな生活はある日突然終わりを告げる。
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