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6 妻の日記 2
しおりを挟む○月×日
空腹に耐えきれず思い切って街へ出た。少しだけ持っていたお金で食べ物を買った。持っていたお金は無くなってしまったけれど、とても美味しかった。なんだ。こちらの国の方も味覚は一緒なのね。旦那様がいらっしゃるときは食べられるものが出されていたから、もしかしたらそうではないかと思っていたけれど……だとしたらやはり、これは私個人に対する嫌がらせ。
こちらの国のお料理が美味しいと分かったのは嬉しいけれど、屋敷の人間からの明確な悪意まで見えてきてしまったのがとてもつらい。
○月×日
落ち込んでいても始まらないわ。屋敷に居ても食事は出ない。自分で何とかしなければ。街に行けば食料が買えるのが分かった。持ってきたお金が無くなってしまったから、どうにかしてお金を作ろう。確か、街には買取をしているという店がある筈よ。前に本で読んだもの。
○月×日
街でそれらしき店を見つけた。どんなものが売れるのか話を聞いたら今着ている服でいいと言われた。実家から持ってきたお気に入りのドレスだけれど……仕方ないわね。
一度帰って着替えてこようと思ったのだけど、お店の方に買取金額から差し引いてあげるからここで違う服を買えばいいと言われた。――が、どれも高い。
一番安いのは……使用人が着ているのと大差ない服。少しだけ悩んだけれどそれにした。
最近、着替える時に使用人が嫌な顔をするのがつらかったけど、コレなら一人で着替えられそうだったから…………。
○月×日
中古で購入した服はなかなか着心地が良かった。最近は洗濯も嫌がられるし……一度ドレスを見よう見まねで洗ってみたらダメにしてしまった。余計なことをせずに売ればご飯が食べられたのに……勿体ないことをしたわ。でも、中古で買った服は自分で洗ってもどうにかなった。
お茶会や夜会はお義母様から出るなと言われているし、この際、華やかなドレスは売ってしまおう。旦那様から贈られた思い出のドレスだから泣くほど辛いけれど……空腹もつらいもの。
○月×日
ドレスを売ったお金はあっという間に消えていく。美味しいだけあって、屋台のお料理って高いのね。
○月×日
中古で買った服なら私でも洗えるからドレスを売ったお金で2着買った。庶民の服も高いのね。せっかくのお金がそれだけで消えちゃったわ。
○月×日
手持ちのお金が無くなってドレスを売りに行った時に、通りかかった旅人がその店は『ぼったくり』だと教えてくれた。私がドレスを売っていた店は不当に安く買いたたいていたらしい。だから、庶民の服があんなに高かったのね。中古なのに……。
通りかかった親切な旅人はしっかりとした店を教えてくれた。そちらで査定して貰ったら今までの十倍以上の値段でドレスが売れた。宝石がたくさん付いているから、これでも低い方らしい。なんでも最近質の良い中古のドレスがたくさん入ったからコレしか出せないのだとか。見せて貰ったら私が売った物だった。
街の人に騙されたのは哀しかったけれど、旦那様が贈ってくれたドレスは質のいいモノだったらしい。良かった。金額で愛が決まるわけではないけれど、あまりに安く買い取られていくから旦那様の愛情を少し疑ってしまっていた。
お義母様のことを相談しても聞いてくれないし。
出張先から送られてくるプレゼントは街で売っているお土産品と同じような品物だし。
どうせなら食べ物のほうがよかったわ。どんなにキレイでも絵葉書は食べられないもの……。
嫌だわ、空腹で気持ちが荒んでしまっている。私がこんな考えだから酷い目に遭っているのかしら?
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