【完結】悪役令嬢と自称ヒロインが召喚されてきたけど自称ヒロインの評判がとんでもなく悪い

堀 和三盆

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クリスside

11 食糧不足と神官長の忠告

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 厄介なことも続いてしまうようで。

 魔物の大規模討伐を終えたその年、農地の収穫が思わしくなく、国内は食糧不足に陥った。
 更に、食糧不足は魔物にも言えるようで、食料を求めての小規模な襲撃も相次いだ。

 そんな中。皮肉にも、国民の命を繋いだのはヴィーナが用意した「非常用袋」だった。

 襲撃が発生しやすい場所にあらかじめ配布しておいたのが功を奏した。寒い冬。袋の中身の膝掛けや保温シートで暖をとり、乏しい食料しかないなか、小さいながらも栄養価の高い非常食は救援を送るまでの繋ぎに役立った。

 たしか、荷物はまだあったはずだ。放置してあった箱を神殿に取りに行くと。

「ヴィーナス様の用意した非常用袋はあれだけです。もうありません」

「そんな。使ったのはたったの三~四箱だろう。箱は全部で三十個近くあったのに、他の荷物はどこに行った」

「ヴィーナス様のお荷物はその四箱だけです。あとは、リリー様のお荷物でした」

「そんな馬鹿な! 神官長、どういうことだ!?」

 ヴィーナが召喚先から苦情が出るほどの散財をして集めた贅沢品と、残りで用意した国民のための非常用袋。それが、あの大量の荷物のほとんどではないのか?

「安全のため、箱の中身は全て女性神官に確かめさせましたが、ほとんどがリリー様のお荷物で、中身はお洋服やカバンや装飾品でした。それも、縫製のしっかりとした、質のいい物。装飾品も高級品ばかり」

「ヴィーナの物の間違いでは」

「サイズが違います。それに、荷物は既にリリー様が取りに来られました。王宮のどこかに仕舞ってあるでしょう。ああ、そうだ。一箱だけありました。これをお持ちになられればいい」

 そう言って出されたのは。

「『ダイエット食品』だそうですよ。カロリーが低く、けれど満腹感だけはしっかりと得られる。今、必要な物とは真逆ですが、ないよりはマシでしょう。『賞味期限が切れたからもういらない』と、リリー様が置いて行かれた物です。鑑定魔法ではまだ食べられるとお伝えしたのに」

「そ……んな。では、ヴィーナが用意した荷物は、あの、国民のための非常用袋だけ……?」

「いい機会だから言わせていただきます。あのとき、なぜ討伐を急いだのですか。農作物の不作はあの討伐のせいですよ。農地に、魔素が不足したからです」

「え……?」

「魔物の大規模襲撃は非常事態であると同時に、農地に魔素を取り入れるチャンスでもありました。食料を育てるにはある程度の魔素が必要です。魔物の大規模襲撃は、農地に活力がなくなった頃に起こるのですよ。だからこそ、魔物とやりあえる聖女が国中を回りながら、時間をかけて討伐を行う。そのお陰で、大地に魔素が行き渡る。一時的に農地は荒れますが、襲撃の後は豊作になるのでつり合いが取れていたのに。討伐を急いでしまったせいで、その恵みは限られた場所でしか得られなかった。しかも、強すぎる魔素は逆に毒になる。結果的に薄まるまで使えない土地まで出来てしまったのです。ヴィーナス様なら、決してこんなことはしなかった」

「リ……リリーは知らなかったんだ! 聖女教育も、ヴィーナほどは受けていないし」

「いいえ。最初にお教えしましたよ。一番大事なことですからね。ああ、これもいい機会だから言ってしまいましょう。リリー様は確かに理解が早い。ただし、『あーもー、知ってるわよ。こうこう、こういう設定でしょ。分かってるから次いって』と、こちらの話を適当に流している節がありました。だから能力が高くても、それを本当の意味で活用することができてないのです」

「……リリーは王太子妃だ。流石に不敬だろう。失礼な発言は許さない」

「そうですか。申し訳ございません。最後なのでお許しを」

「最後?」

「大神殿に、異動願いを出しました。この国の神官長を辞し、別の場所に移ります」

「な……っ」

 大神殿は各国の神殿を束ねる組織だ。救援組織としての側面が強いため、国に関係なく活動しているが、各国の神殿で働くのはやはりその国出身の者が多い。神に仕えるとはいえ、誰しも自国民の救済を一番に考えたいからだ。つまり。

「お前、この大変なときに、国を見捨てるのか」

 神殿は各国に一つ。異動を願い出るということは、そういうことだ。

「ご心配なさらずとも、事態が収束するまでは私が指揮いたします。そのための方法も考えてある。ですからどうか、今回は邪魔だけはなさらぬよう」

「な……っ、不敬だぞっ」

「罰を与えるなら事態が収束してからにしてください。全てが終わった後でなら、甘んじて受ける覚悟です。貴方を諫められなかった責任は私にもある。今回の件は、私が、責任を持って収束させます。ですが、これだけは言わせてください。……殿下、私はもう、限界なのですよ。考えなしの上のせいで、救えるはずだった命が目の前で消えていくのも、無駄に命が消えるのも。ならば私は正しく力が発揮でき、確実に誰かの命が救える場所で働きたいのです」



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