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クリスside
10 不貞の疑い
金色の髪に紫の目。
王家の者に多く出る特徴だ。初代の王に魔王の血が流れていたことによる、魔力の影響らしい。
ただ、かなり血も薄まり、それは絶対ではない。けれど、流石に黒髪黒目はあり得ない。この国にはその特徴を持つ者はいないし、調べた限りのリリーの血縁にもいない。むしろ、他国が呼び出しているという「聖女」や「勇者」と呼ばれるものの特徴に一致する。そして、二人が召喚されてしまったあの世界の人間が持つ特徴に。
とにかく、黒髪黒目の王族が産まれたという前例はない。
みんな言葉には出さないが、不貞があったのではないか。その疑いがみんなの目に宿っている。そして、僕の目にも。
出産を終え、身なりを整えたリリーと赤ん坊、二人との対面の場で。僕がそれを告げると、リリーの目にはみるみる涙が溜まっていった。
「ごめんなさい。私のせいだわ。私が異世界に召喚されてしまったばかりに、その影響が……」
その言葉に、僕ははっとした。
そうだ。今まで、黒髪黒目の子供が産まれた前例はない。しかし、聖女が異世界へ召喚されてしまった前例もないのだ。
「殿下もご存じでしょう? 私が召喚されてしまった国の人間が持つ特徴。揃ったように、みんなが黒髪黒目。生活も食べ物も全く違うし、あの国には魔法もなかった。魔力もこちらとは違うのかもしれない。何かしらの――召喚されたことによる影響で、この子が産まれたのね」
はらはらと涙を流しながら、リリーは産まれたばかりの赤ん坊をそっと抱きしめる。
出産を終えたばかりのその姿はとてもはかなげで――僕は疑ったことを後悔した。
この国に黒髪黒目の者はいない。
そして、純潔でなければ使えない聖女の力を、リリーはあの世界から帰った後も使っていた。
それこそがリリーが僕を裏切っていない証拠じゃないか。
討伐が終わったあの夜に、彼女の初めてを奪ったのはこの僕だ。それなのに、一番リリーの純潔を知っている筈の僕が疑うなんて……!
「ごめんよ、リリー! 僕が間違っていた。どんな外見だろうと関係ない。この子は、僕が認めた僕の子だ。僕が父親として、君とこの子を守っていくよ。だから、一瞬でも疑ったことを許してくれ」
「クリス……! ありがとう! 貴方がこの子と私を認めてくれるなら、私も、私の精一杯で貴方に尽くすわ」
僕はリリーと僕の赤ん坊を抱きしめ、そっと、部屋の隅に待機する神官長に目をやった。
彼の手には魔道具である真偽の水晶がある。嘘を感知すると粉々に崩れ去る、使い捨ての魔道具だ。古いダンジョンなどから見つかることがある希少な物で、よっぽどのことがないと使われない。流石に事が事だけに使われることが決まったが、反応はない。
リリーの言葉に嘘はない。
僕はそのことに安心し、二人を抱きしめる手に力を込めた。
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