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14 アシュランス伯爵家の代替わり(竜王視点)
しおりを挟むリベルタがデビュタントに参加をしなくなってから。ヴァールの楽しみはもっぱら人間国から送られてくる令嬢達との交流だけとなった。
勿論、公務としての番の判別は行っているが、何故だかソコに自らの番がいるとは思えず、どうにも判別に身が入らない。その理由も分からない。
そうなってから何年が過ぎただろうか。ヴァールにとってはその程度の年月は誤差で、たいした時間ではない。なので、特に気にすることも無く、今年もデビュタントの日を迎えていた。
令嬢に対して行う番の判別を前に、令息向けの成人の儀を執り行っていたのだが。
「貴族としての責任と義務を心に刻み、国民の見本となるべく、しっかりと国に貢献するように――」
貴族、平民を問わず集められ行われる令嬢向けの成人の儀と違い、令息向けのそれはいたってシンプルなものだ。招待されるのは貴族だけだし、平民は集められることも無い。
番の判別がない分、個別に面会する必要がないので国王は全体に向かって言祝ぐのみ。
一応、成人を迎えた令息の代替わりの挨拶などが個別に行われることもあるが、その程度だった。
ただし、これは今が王の治世であるからだ。
新獣人国の王位の継承には性別による区別はない。重要なのは国王の子として産まれたのが竜人であるか、ということだけ。それで王族と認められれば性別に関係なく後継者となれる。
まだ前例がないものの、産まれたのが女で女王の治世となれば、国中の年頃の男子が集められ男女が逆転した成人の儀が執り行われることになるのだ。
成人の儀にかこつけた番判定が目的なので、そうせざるを得ない。
竜王ヴァールの治世の今は新成人を迎える貴族の令息たち全体への挨拶が終わり、個別の代替わりの挨拶が行われているところだった。
「養子に迎えた息子が今年、ようやく成人を迎えたので、伯爵家の家督はこの息子に譲り、私は妻と共に領地へ戻ろうと思います」
そう緊張した面持ちで国王に挨拶をするのは真面目そうな、年配の猫獣人の男だった。ヴァールは王宮で何度かその男を見かけたことがあるのだが、何故だかどうしても名前が出てこない。
年配の男の隣には同じく頭に猫耳を持つ年若い青年がいる。まだ、少年と言ってもいいくらいの見た目ではあるが、服装からすると彼が今年成人を迎えたという年配の男の養子だろう。
こちらも隣の父親同様に緊張をしているようだ。こうして並ぶと本当の親子にしか見えない。
獣人はその多くが耳やしっぽなどに、種族ごとの特徴がある。そのおかげで外見から家族関係が分かりやすかったりするのだが、種族が同じだと養子でも見分けがつかないようだ。
竜人も外見上は人間にしか見えないが、服を脱げばその身に持つ鱗で竜人であると判別がつく。ただし、あまり人に見せるようなものでもないので、実際にソレを目にするのは親か伴侶くらいのものだろう。
「なるほど。お前が話に出てきた養子だという跡継ぎ息子か。名は何という?」
「フランク・アシュランスです。これから成人した貴族として、竜王陛下の為、新獣人国の為に、誠心誠意尽くしていく所存でございます」
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