【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

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58 思いの先(ヴィクトリア視点)

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「あの子達のいない人生なんて私には考えられなかった。奪われたままでは幸せになんかなれないと思った。だから決断に後悔はないわ。でも――」

 無意識に。ヴィクトリアは痛むばかりで喜びを感じなくなったそこに手をやった。悲しみに覆い隠されていたヴィクトリア自身はあまり覚えていないけれど、竜人にとって大切なソレを番から奪ってしまった自覚だけはある。

 ロイエを狂わせた、喪ったら生きていられないほどの幸せをヴィクトリアのために棄てさせてしまったのだ。


「私のせいで。無関係だった貴方の幸せまで犠牲にしてしまった」

「……私は犠牲だなんて思っておりません」


 胸元を握り締め痛みを堪えるような表情を浮かべるヴィクトリアとは対照的に。まるで愛おしい何かに触れるように、そっと同じ位置にある自らの胸元に手をやり幸せそうに微笑む騎士団長。


「貴女様の笑顔が無くては私の幸せも無かったのです。そして、あの子達の存在が無くては貴女様が笑うことは出来なかった。ヴィクトリア様の為にも国民の為にも、この帝国を継ぐ者が必要でした。皆の幸せの為にはこれが最良の選択です。私は自分が幸せになるために自分で決断したのです。そのことに後悔などあろうはずがありません。それに知っていますか? 皇帝陛下よりも、私の方が御子様達と過ごした時間は長いのですよ。ヴィクトリア様を笑顔にしてくれるあの子達を、もう一度この手に抱きたかったのは私も同じです」


 番を拒むために竜鱗を焼いたヴィクトリア。
 番を愛するがゆえに竜鱗を焼いた騎士団長。


 不思議なことに、真逆の感情が根底にあっても、とった行動はお互い同じなのだ。

 喪ったものは戻らない。――ならば取り戻した幸せと皆の笑顔の為に生きて行った方がいい。
 ヴィクトリアはそう納得し、痛む竜鱗から手を離した。

 魅了薬が使われたその時点で。
 国民の為にそうするべきと、既に帝国は舵を切ったのだから。




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