【完結】何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので魔法で言えないようにしてみた

２４ 思い出の味

　挿絵に出てくる魔法使いそのままに。真っ黒な服を着た彼はそちらにばかり目が行きがちだけれど、引きこもり生活で得た白い肌に切れ長の怜悧な目を持つ彼は、相当に整った容姿をしている。

　それにも拘らず本人にまったくその自覚がないのは、迫害を恐れ、長年人目を避けてきたからに違いない。うちの伯爵領に移住してからも、顔の認識を阻害するような魔法をかけているそうだ。

　もう、そんな必要ないのに――と言いつつも。念の為にと魔法をかけ続けている彼を無理に変えさせようとは思わない。それだけ心の傷が深いのだろう。本人が安心するならそれでいいし、この格好良さを知るのが自分だけだと思うとちょっとした独占欲みたいなものが満足する。

　あまりにも長々と見惚れてしまい恥ずかしくなって目線を下げれば。彼が魔法で自分の焼き菓子をス……っと、私のお皿に入れてくれていた。


「ありがとう。でも、嬉しいけどダメよ。貴方にも食べてもらいたくてわざわざ作ったのだから。はい、あーん」


　風邪の時。亡くなったお母様からこんな風に食べさせてもらったなぁ……と思いながら。貰った焼き菓子はそのままに自分の分をフォークに刺して口元に差し出せば、無表情の高位の魔法使いは大人しくソレを食べてくれた。

「…………今まで食べた中で一番美味い……」
「え……じゃあ、失敗かしら……？」
「――は！？」


　目を見開き驚きの声を上げる魔法使い。ほんの少し……本当にほんの少しだけれど、無表情が崩れている。

　彼と結婚してから数年。たまにこうした様子が見られるようになった。私以外にはその変化は分からないだろうけれど、お陰でいつもより表情が読みやすい。

　私の反応が予想と違ったからか高位の魔法使いは不満そうだ――が、こればかりは仕方がないのだ。