【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆

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20 姉の痛みを知る(ルシクラージュ視点)

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 そのまま王太子殿下とルシクラージュの婚約は結ばれた。

 クアリフィカの最期を見て恐怖を抱いたルシクラージュはどうにか逃げる道を探したけれど、卒業パーティーで大々的に発表をしてしまった以上、婚約の辞退は認められなかった。

 王太子妃教育は初歩のマナーから躓いた。

 ことあるごとに姉が注意をして両親がそれを怒っていたけれど。ルシクラージュもそれを妹イジメだと思っていたけれど。ようやく理解した。あれは姉の方が正しかったのだ。

 気取ったように見えた姉の所作の一つ一つは彼女が努力して身に付けたものだった。ルシクラージュがいざやろうと思っても、思ったように身体が動かない。

 あの頃しっかりと姉の言うことを聞いていれば――後悔してももう遅い。マナー講師が匙を投げるほどに酷いルシクラージュの所作を矯正するのに、いったいどれだけの時間がかかるのか。

 王妃教育が遅れれば遅れるほど毒杯を飲む可能性が上がると聞いて慌てて遅れを取り戻そうとしたけれど、追い詰められると頭が真っ白になって却って大きな失敗をしてしまう。
 そもそもルシクラージュはクアリフィカほど学ぶことが好きではないし、姉ほど優秀でもないのだ。

 そのうえ、学べば学ぶほど自分には荷が重すぎることを理解できる程度の頭はあるので、先に進むのが怖くて堪らない。


 ――結局。ルシクラージュが王太子妃として許される最低限のマナーを身に付けるだけで姉の倍以上の時間がかかってしまった。その間ずっと死の恐怖を感じながら、薄氷の上を歩き続けているようだった。

 ルシクラージュは何とかおまけのギリギリで及第点に達しはしたものの、優秀な姉には遠く及ばない。そんな完璧な姉ですら毒杯を飲まされたのだ。

 それを思うと怖くなり、王妃から王家の秘密を教わる段階になって聞きたくないと思いっきり抵抗をしたけれど無駄だった。毒杯処分されたいのかと言われれば大人しく聞くしかなかった。
 王家の秘密云々ではなく、既にルシクラージュは王太子の婚約者として後戻りできないところにまで来ていたのだ。

 そして、王家の秘密を学んだことでルシクラージュはこれまで何となく悟っていたことを正しく理解した。王妃教育を修了していたクアリフィカが婚約破棄をされるということは、毒杯を飲むしかなかったのだ。

 しかも、やけになって情報漏洩したりしないように、婚約を破棄されればその場で速やかに毒杯を飲まされて、遺体が残されることもない。

 持ち出し禁止の教本にあった記録では過去にも毒杯処分を受けた者がいたことから、公爵家当主だった父親もある程度その辺の事情は知っていたのだろう。
 だからこそ、姉のクアリフィカが王太子の婚約者に選ばれたことは間違いだとルシクラージュや母親がいくら騒いでも、父親は絶対に動こうとしなかったのだ。

 それはルシクラージュへの愛情からだとは思うが、それならば何故最後までそれを貫き通してくれなかったのか。ルシクラージュが後戻りできぬほど進んでしまう前に、どうして止めてくれなかったのか。

 王妃教育では毒杯を飲むことは『すごく苦しい』としか教わらなかったけれど、幼い頃からクアリフィカを見てきたルシクラージュには解る。あの鼻につくほど優秀な姉が人前であそこまでの醜態をさらしたのだ。毒杯に入れられた毒はそれほどまでに恐ろしい痛みをもたらすものなのだ。




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