20 / 30
20 姉の痛みを知る(ルシクラージュ視点)
しおりを挟むそのまま王太子殿下とルシクラージュの婚約は結ばれた。
クアリフィカの最期を見て恐怖を抱いたルシクラージュはどうにか逃げる道を探したけれど、卒業パーティーで大々的に発表をしてしまった以上、婚約の辞退は認められなかった。
王太子妃教育は初歩のマナーから躓いた。
ことあるごとに姉が注意をして両親がそれを怒っていたけれど。ルシクラージュもそれを妹イジメだと思っていたけれど。ようやく理解した。あれは姉の方が正しかったのだ。
気取ったように見えた姉の所作の一つ一つは彼女が努力して身に付けたものだった。ルシクラージュがいざやろうと思っても、思ったように身体が動かない。
あの頃しっかりと姉の言うことを聞いていれば――後悔してももう遅い。マナー講師が匙を投げるほどに酷いルシクラージュの所作を矯正するのに、いったいどれだけの時間がかかるのか。
王妃教育が遅れれば遅れるほど毒杯を飲む可能性が上がると聞いて慌てて遅れを取り戻そうとしたけれど、追い詰められると頭が真っ白になって却って大きな失敗をしてしまう。
そもそもルシクラージュはクアリフィカほど学ぶことが好きではないし、姉ほど優秀でもないのだ。
そのうえ、学べば学ぶほど自分には荷が重すぎることを理解できる程度の頭はあるので、先に進むのが怖くて堪らない。
――結局。ルシクラージュが王太子妃として許される最低限のマナーを身に付けるだけで姉の倍以上の時間がかかってしまった。その間ずっと死の恐怖を感じながら、薄氷の上を歩き続けているようだった。
ルシクラージュは何とかおまけのギリギリで及第点に達しはしたものの、優秀な姉には遠く及ばない。そんな完璧な姉ですら毒杯を飲まされたのだ。
それを思うと怖くなり、王妃から王家の秘密を教わる段階になって聞きたくないと思いっきり抵抗をしたけれど無駄だった。毒杯処分されたいのかと言われれば大人しく聞くしかなかった。
王家の秘密云々ではなく、既にルシクラージュは王太子の婚約者として後戻りできないところにまで来ていたのだ。
そして、王家の秘密を学んだことでルシクラージュはこれまで何となく悟っていたことを正しく理解した。王妃教育を修了していたクアリフィカが婚約破棄をされるということは、毒杯を飲むしかなかったのだ。
しかも、やけになって情報漏洩したりしないように、婚約を破棄されればその場で速やかに毒杯を飲まされて、遺体が残されることもない。
持ち出し禁止の教本にあった記録では過去にも毒杯処分を受けた者がいたことから、公爵家当主だった父親もある程度その辺の事情は知っていたのだろう。
だからこそ、姉のクアリフィカが王太子の婚約者に選ばれたことは間違いだとルシクラージュや母親がいくら騒いでも、父親は絶対に動こうとしなかったのだ。
それはルシクラージュへの愛情からだとは思うが、それならば何故最後までそれを貫き通してくれなかったのか。ルシクラージュが後戻りできぬほど進んでしまう前に、どうして止めてくれなかったのか。
王妃教育では毒杯を飲むことは『すごく苦しい』としか教わらなかったけれど、幼い頃からクアリフィカを見てきたルシクラージュには解る。あの鼻につくほど優秀な姉が人前であそこまでの醜態をさらしたのだ。毒杯に入れられた毒はそれほどまでに恐ろしい痛みをもたらすものなのだ。
4,390
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
婚約破棄をしてきた婚約者と私を嵌めた妹、そして助けてくれなかった人達に断罪を。
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーで私は婚約者の第一王太子殿下に婚約破棄を言い渡される。
全て妹と、私を追い落としたい貴族に嵌められた所為である。
しかも、王妃も父親も助けてはくれない。
だから、私は……。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる