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第四歌
3
「ふざけるな……っ! 今すぐ取り消せ!!」
「おっと。……ハッ、何だ、ゲイルやる気か? いいさ、かかって来いよ!!」
弟との兄弟喧嘩なんて久しぶりのことだった。
王子教育が始まって、朧気ながらも自分たちが背負うものの重さを理解してからは、弟は私に対してどこか遠慮をしていたし、兄弟がこうして正面から向き合うことなどなかったのだ。
その、懐かしい感覚に心が弾む。
「二人ともやめて!!!!」
この高揚感を得られるのならば殴られるくらいなんてことはなかったが、激高する弟を止めたのは他でもない、この言い合いの原因となった幼馴染のグレースだった。
どうやら王太子の伴侶となる件で、私たちの幼馴染は父親の公爵共々城へ呼び出されていたらしい。
「国王陛下からお話は伺ったわ。冥妃様もその場に同席なさっていたから、私もこの国の貴族として今回のお話をお受けすることにしたの。だから二人とも、もう喧嘩はしないでちょうだい」
「な……っ!? 待ってくれ、グレース! 悪役令嬢の役目を担うのは誰でもいいんだ。何も君が犠牲になることはない! 僕が、父上を説得するから」
「いいの。心配しないで、ゲイル殿下。既に決まったことだもの。それに私は公爵家の三女よ? 姉二人は家の為に嫁いで貴族としての役目を立派に果たしているし、私には他に兄も弟もいる。公爵家には政略の手駒が余っているの。だから、この件は私の父も同意をしているわ」
「そん……な」
「王族も貴族も背負う物はそれほど変わらないわ。国の為、家の為に政略結婚を受け入れて、たとえ愛していない人とでも添い遂げる。私も貴族として生まれた以上その義務を果たすだけよ。だからこのお話をお受けしたの。カイル殿下もそれでいいわよね? 貴方は王族として。私は貴族として。人生を賭して、愛していない相手と添い遂げる。きっと貴方の気持ちを正しく理解できるのは、幼い頃から二人と一緒に過ごしてきた私だけだわ」
「ああ、もちろんだ、グレース。それでいい」
『愛していない』
あえてそれを強調する幼馴染の言葉は正直面白くなかったが、小さい頃から見てきたからこそ彼女の心の在処は知っていたし、そんな状態で口先だけで自分への愛を語られたところで白けるだけだ。
私としては幼馴染のこういう飾らない性格も気に入っていたし、彼女が自分のものになるのならば心がどこを向いていようが構わない。
たとえどんな形であっても、弟が心を寄せている相手を手に入れることが出来るのだから――。
そうやって。
真っすぐだった弟が絶望して、自分と同じ場所まで堕ちてくる様子を眺めて優越感に浸っていたのに――。
兄弟が揃って成人を迎える日に、左手の薬指に冥婚の証が現れたのは――私ではなく弟のゲイルの方だった。
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