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プロローグ
授業の間の休み時間、自分を呼ぶ声が聞こえた気がして、日賀崎芙由(ひがさきふゆ)は顔を上げるとキョロキョロと辺りを見回した。
「姉さん」
すると、教室の後ろのドアから、弟の恢琉かいるが手招きしているのに気づく。
「何?」
疑問に思いながら、芙由は席を立って彼の元へ歩み寄っていった。
教室や廊下にいる生徒たちの大半が、ちらりちらりと恢琉に視線を投げかけていくのが見える。
「これ、家に忘れてったよ。今日使うって言ってたろ?」
笑顔の弟が差し出したのは、古文の授業で使う辞書だった。
一瞬動きを止め、ぐるぐると脳みそを動かした芙由は、直後に「ああ」と驚きの表情になる。
「そうだった。午後の授業、変更になったんだ」
そう言いつつ、彼から辞書を受け取った。
「ありがと。それにしても、わたしも忘れてたのによく憶えてたね」
「姉さんがドジなんだよ」
素直に感謝する姉に対し、恢琉はからかい口調で答えた。
芙由は頬を膨らませたものの、それが単なる弟の照れ隠しだということを知っている。
恢琉は幼い頃からいつも、ここぞという時に自分のことを助けてくれ、味方になってくれる。
彼女が何も言わなくても気持ちを分かってくれ、励ましてくれる。
多少女癖が悪いのが難点だが、芙由にはいつでも優しかったし、そんな弟を彼女も誰よりも頼りにしていた。
「じゃ、俺教室戻るから」
「うん。わざわざありがとね」
「今度牛丼奢ってよ。それでチャラな」
歩き出しながら、恢琉はにやっと笑ってそんな約束を押し付けてくる。
「はいはい。忘れなかったらね」
「大丈夫俺が憶えとく」
最後にそう保証してみせ、手を振りながら廊下の向こうに去っていく弟の後ろ姿を、芙由はいくらか苦笑しつつ見送っていた。
「姉さん」
すると、教室の後ろのドアから、弟の恢琉かいるが手招きしているのに気づく。
「何?」
疑問に思いながら、芙由は席を立って彼の元へ歩み寄っていった。
教室や廊下にいる生徒たちの大半が、ちらりちらりと恢琉に視線を投げかけていくのが見える。
「これ、家に忘れてったよ。今日使うって言ってたろ?」
笑顔の弟が差し出したのは、古文の授業で使う辞書だった。
一瞬動きを止め、ぐるぐると脳みそを動かした芙由は、直後に「ああ」と驚きの表情になる。
「そうだった。午後の授業、変更になったんだ」
そう言いつつ、彼から辞書を受け取った。
「ありがと。それにしても、わたしも忘れてたのによく憶えてたね」
「姉さんがドジなんだよ」
素直に感謝する姉に対し、恢琉はからかい口調で答えた。
芙由は頬を膨らませたものの、それが単なる弟の照れ隠しだということを知っている。
恢琉は幼い頃からいつも、ここぞという時に自分のことを助けてくれ、味方になってくれる。
彼女が何も言わなくても気持ちを分かってくれ、励ましてくれる。
多少女癖が悪いのが難点だが、芙由にはいつでも優しかったし、そんな弟を彼女も誰よりも頼りにしていた。
「じゃ、俺教室戻るから」
「うん。わざわざありがとね」
「今度牛丼奢ってよ。それでチャラな」
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