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難度SSSダンジョン最下層で発見された░░░░に、命を狙われている件について。
第2頁
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「どうぞ。ソッ茶ですが」
ココは僕の家だ。
正確には、村にある唯一の宿屋で幼なじみの家だけど。
「あら、ありがとう。いただくわ」
フーフー、ゴクリ。
「おいしいっ♪ コクがあって、まるでスープみたい」
「フカフ村の名産だよ。栄養もあるから、僕みたいな駆け出しの冒険者にはありがたいんだ」
「ふうん、食い詰めてるって聞いたから、馬小屋にでも案内されるのかと思ったけど、立派なもんじゃないの」
気に入ったわ♪
そういって、魔物役者さんがベッドに寝ころんだとき――
「こらぁーーっ、ジューク! 帰ってきたら、戦果報告に来なさいって言ったでしょーーっ!」
バーン!
乱暴にドアを開けて部屋に飛び込んできたのは、質素なメイド装束にヘルメット姿の小柄な少女。
「あー、トゥナ。ただいま~」
魔物さんが体を起こして背筋を伸ばした。
「あらコチラ、どなた? 使用人の方……かしら?」
かるく首をかしげて頬に手を当てる。
その仕草は本当に、お話の中に出てくるお姫様みたいで。
「はうっ!? ジュークがものスゴイ綺麗な女の人をっ、部屋に連れ込んでるーーっ!」
「紹介するね。この人は、えっと魔物役者の……誰だっけ?」
まだ名前も聞いてなかった。
「だれが、魔物かっ! コホン――お初にお目に掛かるわ、私はルシランツェ……、いえ、ただのロットリンデよ」
立ち上がり、細身のスカートをつまんであいさつした。
魔物役者さんは、ロットリンデさんというのか。
振る舞いとか綺麗な服とかアクセサリーとか。
たぶん、大きな家のお嬢さんなんだと思う。
けど、そう言うのには、僕も村人も馴れてない。
案の定、トゥナ(ヘルメットメイド)が、「お母さんに、言いつけてやるんだかぁらぁ~~~~~~~~っ!」と叫びながら飛び出していった。
「いいの? 泣きながら走って行っちゃったけど……」
トゥナは小さい頃から人見知りなトコがあるから、突然のお嬢様の来訪にビックリしたんだと思う。
「いいのいいの、いつものことだし……カチャカチャ」
僕は、小さいテーブルの上の食器を片付ける。
「よっこらしょ!」
ズッタ袋に入れておいた、戦利品を取り出す。
ゴットン。
「これ私が投げた宝箱ね?」
そう、そして僕が試しに描いた方陣結界に一緒に飛ばされて来ちゃったモノだ。
「えーっと、ロットリンデさんって呼べば良いのかな?」
「構わないわ、好きに呼んでちょうだい」
「えっとじゃあ、トリデさん。宝箱について相談なんだけど――」
「ちょっとまって、なにその〝トリデさん〟って?」
「あ、馴れ馴れしかった? ゴメンね。じゃあ、トリデ様にするね。トリデ様の――」
「あー、やっぱりまって。それだとまるで国境防衛の要みたいで、おおよそ女性の呼び名に聞こえないわ」
「こっきょうぼうえいのかなめ……? 早口言葉みたいですね。さすが役者さんだ」
なんて尊敬のまなざしを向ける少年に、返す言葉が見つからなかったのか、淑女はいろんな言葉を呑み込んだ。
「うーん。込み入った話をするのも面倒だし、……私は〝役者のロットリンデ〟よ。それでイイかしら?」
「はい、わかりました。ロットリンデ様」
「様は要らないわ。それで、宝箱がどうしたの?」
「えっとね。この中身が売れたら、その代金を山分けにしてもイイですか?」
「え? ソレは元からあそこに有った〝本物の宝箱〟だから、アナタの戦利品よ?」
本物の? じゃあ、ロットリンデさんが入ってた大きい宝箱は偽物なのか?
そのワリには、随分豪華な飾りが付いてた気もするけど。
「でも、コレを投げたのはロットリンデだし……」
とりあえず質素で真四角な、あまり装飾のない箱を開いてみる。
ググッ――鍵が掛けられていて開かなかった。
ハァハァ、つ、疲れた。
どうして僕はこんなに、ひ弱なんだろう。
宝箱が入ったズッタ袋だって、ロットリンデさんに持ってもらったし。
「開けてあげるわ――」
床に倒れ込む僕を見かねたロットリンデさんが、〝方陣記述魔法〟を使おうとして――爆発した。
――ボッムワン!
彼女の手のひらから立ちのぼる、小さなキノコ雲。
「探湯や柔に海鼠は護靈魔の徒望にれ卦妙棄て魚を面前柔笛四海波ー猫步で!」
部屋に飛び込む、突然の高速詠唱。
――――ドザッパァーン!
何も無い空中から滝のような水が流れ落ちて、僕とロットリンデさんは部屋の隅まで押し流された。
「ごぽごぷぁ、な、なにごとかしらっ!」
「ぷはぁ、ひどいよー、ティーナさぁん。……ただいまー」
「はぁい、おかえりなさぁい。ダメよ、部屋の中で爆発魔法なんて使っちゃ、メッ!」
部屋に飛び込んできたのは、トゥナの母親のティーナさん。
「爆発魔法?」
むずかしい顔のロットリンデさんが、〝方陣記述魔法〟をもう一度使おうとして――再爆発した。
――ボワン!
彼女の手のひらから立ちのぼる、小さな煙。
ティーナさんの水魔法で湿気ったからか、今度の爆発は凄く小さかった。
「探湯や柔に海鼠は護靈魔の徒望にれ卦妙棄て魚を面前柔笛四氷波ー猫步で!」
そしてもう一度、高速詠唱される濁流。
頭の中を一瞬で駆け抜ける高速呪文の意味は、何度聞いてもさっぱり分からな――
――――ザッパン!
僕とロットリンデさんは、ふたたび滝に呑まれた。
ソレでも今度の水魔法は、湿気った小爆発に対応したのか、僕達を押し流すほどではなかった。
「ごぽごぷぁ、な、詠唱魔法ですって!? 一体、どこの宮廷魔導師!?」
「ぷはぁ、宮廷魔導師じゃないよ。トゥナのお母さんのティーナさんだよ」
「初めましてぇ。私、宿屋〝ヴィフテーキ〟の主人、ティーナ・コッヘルと申しまぁす~❤」
腰くらいまでの長くて太いお下げ髪。それでも全然子どもっぽく見えないのは、たぶんボバボーンとした体つきのせい。
さっきのロットリンデさんみたいにエプロンドレスをつまみ上げる。
その顔はとても優しいけど、真っ白な仕事着には返り血らしき物が飛び散っていて――バタリ。
返り血を見たロットリンデさんが卒倒した。
§
「3番テーブル、ツーハンドとスリーフィンガー、上がったわよー♪」
ツーハンドってのは、両手の平を並べたくらいの肉の厚みのこと。
スリーフィンガーは指三本分の厚み。
「はぁーーい、今行きまーす。よっと、三番テーブルの方ー、大変お待たせいたしましたぁー♪」
非力な僕と違って、ずっしりとした焼き肉と鉄板皿を、軽々と運ぶロットリンデさん。
「こちら、モクブートの魔山椒ステーキと、トリコケの香草ステーキになりまーす♪」
モクブートとトリコケは近くの大森林で狩れる、4バーテル位の大きさの動物だ。
1バーテルが僕の木刀くらいの長さだから、結構大きい。だから、とても食べがいがある。
「こらっ、ジューク! かき入れ時にボーっとしてる暇なんて無いわよっ! 働きなさい馬車馬のようにっ!」
そう言うトゥナは小さいナイフで、香草や野菜を華麗に寸断していく。
ティーナさんはソッ草と魚介類のスープを煮込み続けているし、僕だって魔山椒の殻を割ったりして大忙しだ。
あ、竈の火が弱まってる。このままだと肉の外側がパリッと焼き上がらなくて、最高の焼き加減でお客さんに出すことが出来なくなる。
「火力が落ちたー。ロットリンデー、早く来てー」
「はぁーい、よろこんでー♪ 注文取ったら行くわー」
彼女の返事はたまに変なときがある。
美人だし、愛想が良くてウケてるからイイけど。
「――よいっしょぉー! 竈の方陣結界が水に濡れて壊れちゃったときには、どうしようかと思ったけど、何とかなるものねー」
女主人がエビギパの氷付けを鋏で冷蔵庫から引っ張り出しながら言う。
あのー、水魔法やったのアナタですよね。別にイイけど。
「でもコレ、どのくらいで元に戻るんですか?」
コレってのはもちろん、〝僕の描いた方陣結界がロットリンデが居ないと発動しないこと〟だ。
「え、戻らないわよ? ジュークとロットリンデちゃんの〝血の方陣結界〟は完全にパスが通って、一つの方陣結界を形成しているもの」
――グワラランッ!
落ちたお盆の音にふりむくと、ロットリンデさんが立ちすくんでいた。
――――シュゴォォォォォォッ!
弱まっていた竈が、不意に火力を取り戻す。
その色は、血の気が引いた新米ウェイトレスの顔色みたいに、青白かった。
ココは僕の家だ。
正確には、村にある唯一の宿屋で幼なじみの家だけど。
「あら、ありがとう。いただくわ」
フーフー、ゴクリ。
「おいしいっ♪ コクがあって、まるでスープみたい」
「フカフ村の名産だよ。栄養もあるから、僕みたいな駆け出しの冒険者にはありがたいんだ」
「ふうん、食い詰めてるって聞いたから、馬小屋にでも案内されるのかと思ったけど、立派なもんじゃないの」
気に入ったわ♪
そういって、魔物役者さんがベッドに寝ころんだとき――
「こらぁーーっ、ジューク! 帰ってきたら、戦果報告に来なさいって言ったでしょーーっ!」
バーン!
乱暴にドアを開けて部屋に飛び込んできたのは、質素なメイド装束にヘルメット姿の小柄な少女。
「あー、トゥナ。ただいま~」
魔物さんが体を起こして背筋を伸ばした。
「あらコチラ、どなた? 使用人の方……かしら?」
かるく首をかしげて頬に手を当てる。
その仕草は本当に、お話の中に出てくるお姫様みたいで。
「はうっ!? ジュークがものスゴイ綺麗な女の人をっ、部屋に連れ込んでるーーっ!」
「紹介するね。この人は、えっと魔物役者の……誰だっけ?」
まだ名前も聞いてなかった。
「だれが、魔物かっ! コホン――お初にお目に掛かるわ、私はルシランツェ……、いえ、ただのロットリンデよ」
立ち上がり、細身のスカートをつまんであいさつした。
魔物役者さんは、ロットリンデさんというのか。
振る舞いとか綺麗な服とかアクセサリーとか。
たぶん、大きな家のお嬢さんなんだと思う。
けど、そう言うのには、僕も村人も馴れてない。
案の定、トゥナ(ヘルメットメイド)が、「お母さんに、言いつけてやるんだかぁらぁ~~~~~~~~っ!」と叫びながら飛び出していった。
「いいの? 泣きながら走って行っちゃったけど……」
トゥナは小さい頃から人見知りなトコがあるから、突然のお嬢様の来訪にビックリしたんだと思う。
「いいのいいの、いつものことだし……カチャカチャ」
僕は、小さいテーブルの上の食器を片付ける。
「よっこらしょ!」
ズッタ袋に入れておいた、戦利品を取り出す。
ゴットン。
「これ私が投げた宝箱ね?」
そう、そして僕が試しに描いた方陣結界に一緒に飛ばされて来ちゃったモノだ。
「えーっと、ロットリンデさんって呼べば良いのかな?」
「構わないわ、好きに呼んでちょうだい」
「えっとじゃあ、トリデさん。宝箱について相談なんだけど――」
「ちょっとまって、なにその〝トリデさん〟って?」
「あ、馴れ馴れしかった? ゴメンね。じゃあ、トリデ様にするね。トリデ様の――」
「あー、やっぱりまって。それだとまるで国境防衛の要みたいで、おおよそ女性の呼び名に聞こえないわ」
「こっきょうぼうえいのかなめ……? 早口言葉みたいですね。さすが役者さんだ」
なんて尊敬のまなざしを向ける少年に、返す言葉が見つからなかったのか、淑女はいろんな言葉を呑み込んだ。
「うーん。込み入った話をするのも面倒だし、……私は〝役者のロットリンデ〟よ。それでイイかしら?」
「はい、わかりました。ロットリンデ様」
「様は要らないわ。それで、宝箱がどうしたの?」
「えっとね。この中身が売れたら、その代金を山分けにしてもイイですか?」
「え? ソレは元からあそこに有った〝本物の宝箱〟だから、アナタの戦利品よ?」
本物の? じゃあ、ロットリンデさんが入ってた大きい宝箱は偽物なのか?
そのワリには、随分豪華な飾りが付いてた気もするけど。
「でも、コレを投げたのはロットリンデだし……」
とりあえず質素で真四角な、あまり装飾のない箱を開いてみる。
ググッ――鍵が掛けられていて開かなかった。
ハァハァ、つ、疲れた。
どうして僕はこんなに、ひ弱なんだろう。
宝箱が入ったズッタ袋だって、ロットリンデさんに持ってもらったし。
「開けてあげるわ――」
床に倒れ込む僕を見かねたロットリンデさんが、〝方陣記述魔法〟を使おうとして――爆発した。
――ボッムワン!
彼女の手のひらから立ちのぼる、小さなキノコ雲。
「探湯や柔に海鼠は護靈魔の徒望にれ卦妙棄て魚を面前柔笛四海波ー猫步で!」
部屋に飛び込む、突然の高速詠唱。
――――ドザッパァーン!
何も無い空中から滝のような水が流れ落ちて、僕とロットリンデさんは部屋の隅まで押し流された。
「ごぽごぷぁ、な、なにごとかしらっ!」
「ぷはぁ、ひどいよー、ティーナさぁん。……ただいまー」
「はぁい、おかえりなさぁい。ダメよ、部屋の中で爆発魔法なんて使っちゃ、メッ!」
部屋に飛び込んできたのは、トゥナの母親のティーナさん。
「爆発魔法?」
むずかしい顔のロットリンデさんが、〝方陣記述魔法〟をもう一度使おうとして――再爆発した。
――ボワン!
彼女の手のひらから立ちのぼる、小さな煙。
ティーナさんの水魔法で湿気ったからか、今度の爆発は凄く小さかった。
「探湯や柔に海鼠は護靈魔の徒望にれ卦妙棄て魚を面前柔笛四氷波ー猫步で!」
そしてもう一度、高速詠唱される濁流。
頭の中を一瞬で駆け抜ける高速呪文の意味は、何度聞いてもさっぱり分からな――
――――ザッパン!
僕とロットリンデさんは、ふたたび滝に呑まれた。
ソレでも今度の水魔法は、湿気った小爆発に対応したのか、僕達を押し流すほどではなかった。
「ごぽごぷぁ、な、詠唱魔法ですって!? 一体、どこの宮廷魔導師!?」
「ぷはぁ、宮廷魔導師じゃないよ。トゥナのお母さんのティーナさんだよ」
「初めましてぇ。私、宿屋〝ヴィフテーキ〟の主人、ティーナ・コッヘルと申しまぁす~❤」
腰くらいまでの長くて太いお下げ髪。それでも全然子どもっぽく見えないのは、たぶんボバボーンとした体つきのせい。
さっきのロットリンデさんみたいにエプロンドレスをつまみ上げる。
その顔はとても優しいけど、真っ白な仕事着には返り血らしき物が飛び散っていて――バタリ。
返り血を見たロットリンデさんが卒倒した。
§
「3番テーブル、ツーハンドとスリーフィンガー、上がったわよー♪」
ツーハンドってのは、両手の平を並べたくらいの肉の厚みのこと。
スリーフィンガーは指三本分の厚み。
「はぁーーい、今行きまーす。よっと、三番テーブルの方ー、大変お待たせいたしましたぁー♪」
非力な僕と違って、ずっしりとした焼き肉と鉄板皿を、軽々と運ぶロットリンデさん。
「こちら、モクブートの魔山椒ステーキと、トリコケの香草ステーキになりまーす♪」
モクブートとトリコケは近くの大森林で狩れる、4バーテル位の大きさの動物だ。
1バーテルが僕の木刀くらいの長さだから、結構大きい。だから、とても食べがいがある。
「こらっ、ジューク! かき入れ時にボーっとしてる暇なんて無いわよっ! 働きなさい馬車馬のようにっ!」
そう言うトゥナは小さいナイフで、香草や野菜を華麗に寸断していく。
ティーナさんはソッ草と魚介類のスープを煮込み続けているし、僕だって魔山椒の殻を割ったりして大忙しだ。
あ、竈の火が弱まってる。このままだと肉の外側がパリッと焼き上がらなくて、最高の焼き加減でお客さんに出すことが出来なくなる。
「火力が落ちたー。ロットリンデー、早く来てー」
「はぁーい、よろこんでー♪ 注文取ったら行くわー」
彼女の返事はたまに変なときがある。
美人だし、愛想が良くてウケてるからイイけど。
「――よいっしょぉー! 竈の方陣結界が水に濡れて壊れちゃったときには、どうしようかと思ったけど、何とかなるものねー」
女主人がエビギパの氷付けを鋏で冷蔵庫から引っ張り出しながら言う。
あのー、水魔法やったのアナタですよね。別にイイけど。
「でもコレ、どのくらいで元に戻るんですか?」
コレってのはもちろん、〝僕の描いた方陣結界がロットリンデが居ないと発動しないこと〟だ。
「え、戻らないわよ? ジュークとロットリンデちゃんの〝血の方陣結界〟は完全にパスが通って、一つの方陣結界を形成しているもの」
――グワラランッ!
落ちたお盆の音にふりむくと、ロットリンデさんが立ちすくんでいた。
――――シュゴォォォォォォッ!
弱まっていた竈が、不意に火力を取り戻す。
その色は、血の気が引いた新米ウェイトレスの顔色みたいに、青白かった。
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