10 / 18
追記事項~その1
第10頁
しおりを挟む
「ハハッ! おどかしちまったか? 俺はワーフ。ドワーフ族のワーフだ!」
差し出された腕はまるで脚みたいな太さで、指なんて僕の手首くらいある。
「どうも、ジュークです。よろしく」
「……ロットリンデよ」
「ロットリンデ? はて、何か聞いたことあるな、ハハン?」
「いーえ、気のせいよ。私はただの駆け出し冒険者だもの」
「ハハッ! ただの駆け出しが、あんな強力な攻撃魔法を使えるはずがねえけど……まあイイか。こんな稼業だ、いろいろあらぁな」
「それで、ワーフさん。私たちに何かご用かしら?」
「ハハッ! ソレなんだがな。さっき言ってた、『緊急用の食料備蓄収納魔法』ってヤツぁ、売りモンなのか聞きたくてよ」
「いーえ。アレは私たちにしか扱えないから、お売りすることは出来かねますわ」
「ハハッ! そいつぁ残念だな。あの旨いスープを故郷の連中にも飲ましてやりたかったんだが……」
「えーっと、収納魔法は門外不出ですので、お売り出来ませんが……コッヘル商会として〝ソッ草〟を卸売りすることなら出来ますわよ?」
「なに? それは本当か!?」
「でもソッ草なら村の近くにバカみたいに生えてるから、むしって持って帰れば――――むぎゅふっ」
「もーーーーーーーーっ! ジュークはどうしてそう、ヲヴァカなの! 私たちはまがりなりにもコッヘル商会の従業員ですわよ。売り上げのチャンスをみすみす逃す人が居ますか!」
細い指先をつかんで、必死に引っぺがす。
「むがっ――でもさ、買うと結構するよ?」
「もーだから――はぁ。もう、いいわ。……と言うわけで村に帰ったら、この子にソッ草の群生地を案内させますわよ?」
「ガハハハハッハハハハハッ! オマエさんも、商売が上手そうには見えねえぜ」
体を揺らすと背中に背負った巨大な鉄杭が、ガキュガキュって鳴った。
一挙手一投足が騒々しいけど、良い人柄は伝わってくる。
「よし、気に入った。オマエさん達のとこから正式に、あの〝旨いスープの素〟を大量に買い付けたい」
「ソレでしたら、宿屋ヴィフテーキ……いえ、コッヘル商会までお越し下さい。女主人……いえ、商会長が懇切丁寧かつ誠実に対応させていただきますので」
「えー、商会長ってティーナさんの事だろ? 言うほど誠実じゃないよ。コレだって使用期限ギリギリのを売りつけられたしさ」
僕は弾帯をつかんで見せた。
「ガハハハハッハハハハハッ! ボゥズ、お前さんは本当に商売に向いてねえな」
盛大に笑われた。けど、バカにされてるわけじゃないから、我慢する。
「あのよぅ、横から悪ぃーんだけどライフル銃はドコの使ってんの? もし弾が安く買えるなら、少し欲しいんだよね」
僕達の話を聞いていた、別の冒険者が話に混ざってきた。
「うふふ、コレは違うんですのよ。中に詰まってるのは銃弾じゃなくて――――」
§
「ガハハハハッハハハハハッ! ボゥズ、お前さんは回復薬で何と戦うつもりなんだぁ? ガハハハハッハハハハハハッ!」
盛大に笑われた。これはバカにされてるから、我慢できない。
「ひ、酷いよロットリンデさん!」
「あら、勇ましくてイイじゃない。〝回復薬だけじゃないおー! 蘇生薬だって有るんだおー!〟」
また変な声色で小芝居をする淑女。変顔で小躍りするお嬢様なんて見たことないよ。
ば、バカにされてる。ロットリンデさんは、もはや敵だった。
「ちょっと待て、ボゥズ。いま蘇生薬も売りつけられたって言ったか? 嘘はいけねえな」
ピタリ。
ソレまで爆笑の渦に包まれていたキャンプ小屋が、静まりかえった。
「へ? 嘘じゃないよう。ほらコレ、紫色のは6本くらいしかないけど」
それに、言ったのは僕じゃなくて、変顔のロットリンデさんだよう。
「6本だと!? ソレ、一体いくらで――売りつけられたってんだ?」
「ちょっと高かったんだけど、回復薬とあわせて全部で5レルもしたよ」
僕からしたら結構な大金だ。散財しました的なニュアンスで、やれやれまいったなんて顔をしてたら――。
ワーフだけじゃなくて、周りに居た冒険者全員の顔が苦渋に満ちていく。
あれ? なんか変なこと言ったかな?
ジリジリと引き潮のように下がる人の波。
乾いた、かすかな笑いが場を満たしていく中、学者コートの小柄な女性が歩み出た。
「その紫色の小瓶、拝見させていただいてもよろしいかしら?」
手のひらを差し出されたから、小瓶を一つ手渡した。
小さくて分厚い金属板を取り出し、その上に小瓶を乗せる女性。
「――――驚愕ですが、純度は100%。正真正銘、本物の蘇生薬にまちがい有りません」
それはそうだ。ティーナさんはがめつい所が有るけど、嘘つきではない。
「つかぬ事をお訊きいたしますけど、現在の蘇生薬の市場価格はおいくらほどかしら?」
なんかロットリンデさんまで渋い顔で、小柄な女性に尋ねてる。
「(……金貨一枚は下りません)……ひそひそ」
顔をつきあわせて内緒話をしてるから、よく聞こえなかった。
でもロットリンデさんの口元が引きつっていくのが見える。
ティーナさんは、思っていた以上にがめつかったの……かも。
聞いたらガッカリしそうだから、聞かないでおく。
「じゃー、村に戻ったら店に顔を出すぜ」
そういって、逃げるみたいにいなくなるワーフさん。
コッヘル商会の商売っ気に、驚いたのかな。
「これ以上、悪目立ちしないよう気を付けなさい」
青ざめた顔の小柄な女性が、そういって小瓶を返してくれた。
「だいじょうぶですよう。みんな僕をからかうのにも飽きたみたいだし、これ以上目立つ事なんて――」
「いーからっ! お返事は!?」
なんでか、ロットリンデさんに念を押された。
「わ、分かったよ。気をつける」
僕は返してもらった小瓶を弾帯に戻した。
それにしても――。
「周りに誰も居なくなっちゃったね……少し寂しい」
まあ、いいか。今は宝箱を守るのが先だ。
ロットリンデさんが宝箱が入ったズッタ袋に、革紐を巻き付けてる。
うん、ソレなら落とす心配が無い。
その後、ソッ草倉庫の害獣よけのための仕掛けを念入りに作っていたら、日が落ちてしまった。
結局、この日は第二キャンプ設営予定地に出発することは出来なかった。
§
殺気で目が覚めた。
こんな辺境で暮らしていれば、日常茶飯事だ。
研ぎ澄まされたナイフの、切っ先みたいな気配。
たいていは、遠くの茂みで獲物を狙う動物たちや魔物たちの、血の方陣結界が干渉してるだけだ。
放っておいても問題ない。まだ眠い――スャァ。
「ジューク、起きて――」
「むにゃり? えー、まだ真っ暗だよう?」
いや、何か明るい。
ついたて代わりに横にしたテーブルの向こう。
暗闇に何個もの光の文様が、浮かび上がっている。
起き上がると、ソレは得物を構えた冒険者達で、魔物でも出たのかなと思ったけど……方陣結界の射出方向はコッチを向いている。
「ひゃぁぁぁぁっ!」
「ジューク、アナタこれ持って逃げなさい」
革紐で縛った宝箱を手渡される。
「コレってどういうこと? ひょっとして凄いお宝だってバレちゃった?」
僕は宝箱を腰に巻き付け、木刀をつかんだ。
「違うわ。狙われてるのは、蘇生薬よ」
「え? こんなの倉庫にゴロゴロしてるよ?」
「ソレがおかしいの! あの牝ギツネ……じゃなかった女主人はやっぱりとんだ食わせ者だったわっ!」
ロットリンデさんが、暗闇に爆煙を放つ!
壊れた方陣結界の欠片が飛び散るから、真っ黒い煙の輪郭がみえる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!」
「っきゃーっ!」
爆煙は冒険者達の革鎧を、次々と焦がしていく。
手加減はしてるけど、穏やかじゃないし、穏便じゃない。
もう既に戦いの火ぶたは切られている。
冒険者達を引きつけるつもりか、果敢に飛び込むお嬢様。
ボボボボボグワァァァァァアァアッ!
爆煙が起こす衝撃が、遠くなっていく。
「――――ハハッ! ボゥズ、悪いな」
後ろから、厳つい声――
いつの間に回り込まれたのか――
振りかぶる鉄杭のシルエット――
ソレは僕の木刀なんかじゃとても防げない!
「しまったっ! ジューク、逃げてっ!」
ムリ。僕は木刀を抱えてうずくまる。
ゴッ――――鉄杭が振り下ろされ、
ゴガンッ――――――さらに、無骨なガントレットで地面に打ち込まれた!
ゴッゴゴゴゴゴゴ、グゥゥゥゥゥヮァァァァァァアッァ!
その衝撃は地面を水面のように波打たせた。
広がっていく巨大な方陣結界。
「あわわわわっ!」
凄まじい振幅が僕を――通り抜けていく。
木刀を杖代わりにして、へたり込むことしか出来ない。
「ギャッ!」「グワァッ!」「ギャーー!」「ウッホッ!」
バタバタバタッ!
次々に倒れる冒険者達。キャンプに暗闇と静寂がもどった。
チリチリとした鋭利な気配が消えている。
なんか、ロットリンデさんの大猿みたいな叫び声も聞こえたけど、大丈夫かな。
§
「ハハッ! 悪いなボゥズ。助けに入るのが遅くなっちまってよ!」
謀反者全員を一人で制圧したワーフさんの手には特別報償金一枚。
『灯り』の魔法で、丸太小屋の中は昼間よりも明るくなっている。
起きるにはだいぶ早い時間だけど、みんな起きてしまった。
床に寝てるのは、ワーフさんの鉄杭攻撃を受けた冒険者達だけだ。
「まあ、全員悪気はないと言うか、それなりの理由と覚悟の上、行動したのだろうから恨まないでやってくれ」
出番がなかった大剣を壁に立てかける青年。
「当然、償いはさせますので――ギュギュッ」
小柄な女性が、倒れた冒険者達を縛り上げていく。
あのぅ……ロットリンデさんは放してあげて下さい。
§
「えっ!? 蘇生薬って金貨一枚もするの? ひと瓶、1レルもしなかったけど?」
「ええ、それを聞いた全員が思いましたよ。なんで幻と言われる秘薬がそんな、ゴミみたいな値段で売られてるんだって――ギュギュギュッ?」
ロットリンデさんの縛り具合を念入りに確かめながら、小柄な女性が教えてくれた。
「ゴミみたいな値段……なけなしの全財産だったんだけど」
しかも今回、彼らから支度金としてもらった前払いのお金なわけで。
いろいろと、いたたまれない気持ちになった。
「とても貴重なモノで、ウチのギルドでも扱ってるけど、年に一本入荷するかどうかだ」
「おかしいな……こんなのウチの倉庫にゴロゴロしてそうだし、そもそもティーナさんや寺院の職員さんに頼めば、ツケで蘇生も出来るのに?」
なんて言って首を傾げていたから、この時のみんながどんな顔をしていたかはわからない。
カンカンカンカンカンカンカンカンッ――――♪
突然、外から警鐘が聞こえてきた。
「んにゃっ!? ――――ちょっと、どーなってんの、何コレ!? 今すぐ、ほどきなさいよ! ジューク! たぁすぅけぇてぇ~!」
あ、お嬢様が起きた。
差し出された腕はまるで脚みたいな太さで、指なんて僕の手首くらいある。
「どうも、ジュークです。よろしく」
「……ロットリンデよ」
「ロットリンデ? はて、何か聞いたことあるな、ハハン?」
「いーえ、気のせいよ。私はただの駆け出し冒険者だもの」
「ハハッ! ただの駆け出しが、あんな強力な攻撃魔法を使えるはずがねえけど……まあイイか。こんな稼業だ、いろいろあらぁな」
「それで、ワーフさん。私たちに何かご用かしら?」
「ハハッ! ソレなんだがな。さっき言ってた、『緊急用の食料備蓄収納魔法』ってヤツぁ、売りモンなのか聞きたくてよ」
「いーえ。アレは私たちにしか扱えないから、お売りすることは出来かねますわ」
「ハハッ! そいつぁ残念だな。あの旨いスープを故郷の連中にも飲ましてやりたかったんだが……」
「えーっと、収納魔法は門外不出ですので、お売り出来ませんが……コッヘル商会として〝ソッ草〟を卸売りすることなら出来ますわよ?」
「なに? それは本当か!?」
「でもソッ草なら村の近くにバカみたいに生えてるから、むしって持って帰れば――――むぎゅふっ」
「もーーーーーーーーっ! ジュークはどうしてそう、ヲヴァカなの! 私たちはまがりなりにもコッヘル商会の従業員ですわよ。売り上げのチャンスをみすみす逃す人が居ますか!」
細い指先をつかんで、必死に引っぺがす。
「むがっ――でもさ、買うと結構するよ?」
「もーだから――はぁ。もう、いいわ。……と言うわけで村に帰ったら、この子にソッ草の群生地を案内させますわよ?」
「ガハハハハッハハハハハッ! オマエさんも、商売が上手そうには見えねえぜ」
体を揺らすと背中に背負った巨大な鉄杭が、ガキュガキュって鳴った。
一挙手一投足が騒々しいけど、良い人柄は伝わってくる。
「よし、気に入った。オマエさん達のとこから正式に、あの〝旨いスープの素〟を大量に買い付けたい」
「ソレでしたら、宿屋ヴィフテーキ……いえ、コッヘル商会までお越し下さい。女主人……いえ、商会長が懇切丁寧かつ誠実に対応させていただきますので」
「えー、商会長ってティーナさんの事だろ? 言うほど誠実じゃないよ。コレだって使用期限ギリギリのを売りつけられたしさ」
僕は弾帯をつかんで見せた。
「ガハハハハッハハハハハッ! ボゥズ、お前さんは本当に商売に向いてねえな」
盛大に笑われた。けど、バカにされてるわけじゃないから、我慢する。
「あのよぅ、横から悪ぃーんだけどライフル銃はドコの使ってんの? もし弾が安く買えるなら、少し欲しいんだよね」
僕達の話を聞いていた、別の冒険者が話に混ざってきた。
「うふふ、コレは違うんですのよ。中に詰まってるのは銃弾じゃなくて――――」
§
「ガハハハハッハハハハハッ! ボゥズ、お前さんは回復薬で何と戦うつもりなんだぁ? ガハハハハッハハハハハハッ!」
盛大に笑われた。これはバカにされてるから、我慢できない。
「ひ、酷いよロットリンデさん!」
「あら、勇ましくてイイじゃない。〝回復薬だけじゃないおー! 蘇生薬だって有るんだおー!〟」
また変な声色で小芝居をする淑女。変顔で小躍りするお嬢様なんて見たことないよ。
ば、バカにされてる。ロットリンデさんは、もはや敵だった。
「ちょっと待て、ボゥズ。いま蘇生薬も売りつけられたって言ったか? 嘘はいけねえな」
ピタリ。
ソレまで爆笑の渦に包まれていたキャンプ小屋が、静まりかえった。
「へ? 嘘じゃないよう。ほらコレ、紫色のは6本くらいしかないけど」
それに、言ったのは僕じゃなくて、変顔のロットリンデさんだよう。
「6本だと!? ソレ、一体いくらで――売りつけられたってんだ?」
「ちょっと高かったんだけど、回復薬とあわせて全部で5レルもしたよ」
僕からしたら結構な大金だ。散財しました的なニュアンスで、やれやれまいったなんて顔をしてたら――。
ワーフだけじゃなくて、周りに居た冒険者全員の顔が苦渋に満ちていく。
あれ? なんか変なこと言ったかな?
ジリジリと引き潮のように下がる人の波。
乾いた、かすかな笑いが場を満たしていく中、学者コートの小柄な女性が歩み出た。
「その紫色の小瓶、拝見させていただいてもよろしいかしら?」
手のひらを差し出されたから、小瓶を一つ手渡した。
小さくて分厚い金属板を取り出し、その上に小瓶を乗せる女性。
「――――驚愕ですが、純度は100%。正真正銘、本物の蘇生薬にまちがい有りません」
それはそうだ。ティーナさんはがめつい所が有るけど、嘘つきではない。
「つかぬ事をお訊きいたしますけど、現在の蘇生薬の市場価格はおいくらほどかしら?」
なんかロットリンデさんまで渋い顔で、小柄な女性に尋ねてる。
「(……金貨一枚は下りません)……ひそひそ」
顔をつきあわせて内緒話をしてるから、よく聞こえなかった。
でもロットリンデさんの口元が引きつっていくのが見える。
ティーナさんは、思っていた以上にがめつかったの……かも。
聞いたらガッカリしそうだから、聞かないでおく。
「じゃー、村に戻ったら店に顔を出すぜ」
そういって、逃げるみたいにいなくなるワーフさん。
コッヘル商会の商売っ気に、驚いたのかな。
「これ以上、悪目立ちしないよう気を付けなさい」
青ざめた顔の小柄な女性が、そういって小瓶を返してくれた。
「だいじょうぶですよう。みんな僕をからかうのにも飽きたみたいだし、これ以上目立つ事なんて――」
「いーからっ! お返事は!?」
なんでか、ロットリンデさんに念を押された。
「わ、分かったよ。気をつける」
僕は返してもらった小瓶を弾帯に戻した。
それにしても――。
「周りに誰も居なくなっちゃったね……少し寂しい」
まあ、いいか。今は宝箱を守るのが先だ。
ロットリンデさんが宝箱が入ったズッタ袋に、革紐を巻き付けてる。
うん、ソレなら落とす心配が無い。
その後、ソッ草倉庫の害獣よけのための仕掛けを念入りに作っていたら、日が落ちてしまった。
結局、この日は第二キャンプ設営予定地に出発することは出来なかった。
§
殺気で目が覚めた。
こんな辺境で暮らしていれば、日常茶飯事だ。
研ぎ澄まされたナイフの、切っ先みたいな気配。
たいていは、遠くの茂みで獲物を狙う動物たちや魔物たちの、血の方陣結界が干渉してるだけだ。
放っておいても問題ない。まだ眠い――スャァ。
「ジューク、起きて――」
「むにゃり? えー、まだ真っ暗だよう?」
いや、何か明るい。
ついたて代わりに横にしたテーブルの向こう。
暗闇に何個もの光の文様が、浮かび上がっている。
起き上がると、ソレは得物を構えた冒険者達で、魔物でも出たのかなと思ったけど……方陣結界の射出方向はコッチを向いている。
「ひゃぁぁぁぁっ!」
「ジューク、アナタこれ持って逃げなさい」
革紐で縛った宝箱を手渡される。
「コレってどういうこと? ひょっとして凄いお宝だってバレちゃった?」
僕は宝箱を腰に巻き付け、木刀をつかんだ。
「違うわ。狙われてるのは、蘇生薬よ」
「え? こんなの倉庫にゴロゴロしてるよ?」
「ソレがおかしいの! あの牝ギツネ……じゃなかった女主人はやっぱりとんだ食わせ者だったわっ!」
ロットリンデさんが、暗闇に爆煙を放つ!
壊れた方陣結界の欠片が飛び散るから、真っ黒い煙の輪郭がみえる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!」
「っきゃーっ!」
爆煙は冒険者達の革鎧を、次々と焦がしていく。
手加減はしてるけど、穏やかじゃないし、穏便じゃない。
もう既に戦いの火ぶたは切られている。
冒険者達を引きつけるつもりか、果敢に飛び込むお嬢様。
ボボボボボグワァァァァァアァアッ!
爆煙が起こす衝撃が、遠くなっていく。
「――――ハハッ! ボゥズ、悪いな」
後ろから、厳つい声――
いつの間に回り込まれたのか――
振りかぶる鉄杭のシルエット――
ソレは僕の木刀なんかじゃとても防げない!
「しまったっ! ジューク、逃げてっ!」
ムリ。僕は木刀を抱えてうずくまる。
ゴッ――――鉄杭が振り下ろされ、
ゴガンッ――――――さらに、無骨なガントレットで地面に打ち込まれた!
ゴッゴゴゴゴゴゴ、グゥゥゥゥゥヮァァァァァァアッァ!
その衝撃は地面を水面のように波打たせた。
広がっていく巨大な方陣結界。
「あわわわわっ!」
凄まじい振幅が僕を――通り抜けていく。
木刀を杖代わりにして、へたり込むことしか出来ない。
「ギャッ!」「グワァッ!」「ギャーー!」「ウッホッ!」
バタバタバタッ!
次々に倒れる冒険者達。キャンプに暗闇と静寂がもどった。
チリチリとした鋭利な気配が消えている。
なんか、ロットリンデさんの大猿みたいな叫び声も聞こえたけど、大丈夫かな。
§
「ハハッ! 悪いなボゥズ。助けに入るのが遅くなっちまってよ!」
謀反者全員を一人で制圧したワーフさんの手には特別報償金一枚。
『灯り』の魔法で、丸太小屋の中は昼間よりも明るくなっている。
起きるにはだいぶ早い時間だけど、みんな起きてしまった。
床に寝てるのは、ワーフさんの鉄杭攻撃を受けた冒険者達だけだ。
「まあ、全員悪気はないと言うか、それなりの理由と覚悟の上、行動したのだろうから恨まないでやってくれ」
出番がなかった大剣を壁に立てかける青年。
「当然、償いはさせますので――ギュギュッ」
小柄な女性が、倒れた冒険者達を縛り上げていく。
あのぅ……ロットリンデさんは放してあげて下さい。
§
「えっ!? 蘇生薬って金貨一枚もするの? ひと瓶、1レルもしなかったけど?」
「ええ、それを聞いた全員が思いましたよ。なんで幻と言われる秘薬がそんな、ゴミみたいな値段で売られてるんだって――ギュギュギュッ?」
ロットリンデさんの縛り具合を念入りに確かめながら、小柄な女性が教えてくれた。
「ゴミみたいな値段……なけなしの全財産だったんだけど」
しかも今回、彼らから支度金としてもらった前払いのお金なわけで。
いろいろと、いたたまれない気持ちになった。
「とても貴重なモノで、ウチのギルドでも扱ってるけど、年に一本入荷するかどうかだ」
「おかしいな……こんなのウチの倉庫にゴロゴロしてそうだし、そもそもティーナさんや寺院の職員さんに頼めば、ツケで蘇生も出来るのに?」
なんて言って首を傾げていたから、この時のみんながどんな顔をしていたかはわからない。
カンカンカンカンカンカンカンカンッ――――♪
突然、外から警鐘が聞こえてきた。
「んにゃっ!? ――――ちょっと、どーなってんの、何コレ!? 今すぐ、ほどきなさいよ! ジューク! たぁすぅけぇてぇ~!」
あ、お嬢様が起きた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる