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追記事項~その1
第13頁
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キノコがひしめくキャンプ周辺。
そのキノコが、たまたま生えなかった空間。
僕で言ったら20人分くらい。ワ-フさんだと5人分くらいの狭い空間。
切り取ったキノコで入ってきた穴は塞いだから、さっきみたいな大騒ぎをしなければ追っ手に見つかることもない。
「んー? 私から漏れた魔力が無属性の攻撃力に変換されてるのかしら?」
僕の顔をさんざん揉みくちゃにしたロットリンデさんが、それでも飽きずに僕の頭をつかんで左右に振ったりしてる。
「ハハッ、しかし、いまだに信じられねーぜ。お嬢ちゃんが、あの光暦の悪虐令嬢だったなんてよ」
「光暦のなんて言うのは止して下さる? 私こう見えてもまだ18ですのよ?」
ようやく僕の頭を放してくれた悪虐令嬢が、大鍋に盛られたキノコ板を爆発魔法で燻していく。
灼きキノコを大量に作っているのは、非常食にするためだ。
「ハハッ、おいボウズ。思ってたよか状況がややこしいぞ? ……ひそひそ」
「ややこしいのはコッチだよう。……えっとみぞおちと左眼、右肩と左手の小指を通って右眼の視界を広げ……る?」
正直さっぱり分からない。
「〝方陣記述魔法〟で描けば良いなら、お手本さえ有れば、たぶん出来るのに」
「暗闇で敵に襲われてる最中に、そんな光るモノ出してる余裕無いでしょーが」
「俺は〝方陣記述魔法〟のほうが、よっぽどややこしいぜ」
「アタイもー。エンチャント装備は使うけどさ」
腰から抜かれた細身の剣。その刀身にうっすらと方陣結界が浮き出ているのが見えた。
「じゃあ、魔力を発動したあと、一点に定めないで〝ただ普通に見なさい〟」
「ただ、普通に見る?」
目を閉じる。呼吸をする。体内の血流を把握する。
一つ選んだ血の一滴が、体内を一周した。
冒険者達が、一斉に僕の背後に回るのが見えた。
「あ、見えた。ワーフさんが大鍋を部屋の隅に持ってって。ロットリンデがなんでか杖を持って僕の正面に立ってる」
「あら? 正解。上手く行ったみたいだけど、ジューク……目は開いてて良いのよ?」
「え? いま目、閉じてた?」
僕は目を開けた――とたんに真っ暗になった。
「わ!? 灯り消したの!?」
さっきまで付いてたランタンが消されていた。
ブォン――ゴチン!
頭に走る鋭い痛み――HP8/51!
「ひどいよ。もうそろそろ蘇生薬飲んでおかないと、死んじゃうよ~!」
支給品の獣皮の帽子なんかじゃ、大猿系女子の一閃は防げるもんじゃない。
「じゃあ、今度は目を閉じて!」
風切り音。月明かりに照らされてるみたいに落ちてくる魔法杖が見えた――ゴチン!
再び頭に走る鋭い痛み――HP2/51!
たとえ振り下ろす軌道が見えたところで、悪虐令嬢ロットリンデの魔の一閃を僕みたいな駆け出しの冒険者がかわせるはずもない。
「もうやめて、死んじゃうから」
同じ所を打ち付けられたら痛いの痛くないのって、スッゴく痛い。
僕は目を閉じたままキノコ際まで下がり、弾帯から回復薬と蘇生薬を引っこ抜いた。
グビグビ――HP34/51!
ふう。トゥナのヘルメットみたいな本格的な防具を早く買おう。
無事に村に帰ったら、スグに装備を買いに行こう。
ワーフさんに相談するのも良いな。値段的に手が出ないかもだけど。
グビグビ――HP35/51!
蘇生薬も飲んでおく。
腕輪を見たらコッチは1しか回復しなかったけど、この『1』は一回だけ必ず残る魔法の盾なんだそうだ。
使用期限は今日までだから効果は怪しいかもだけど。
「うまくないですわねー。正確に把握出来ない魔法を常駐させるわけにもいきませんし……ブツブツ」
僕の周りをうろつきだしたロットリンデさんを目を閉じたまま目で追っかけてたら――――
それは、さっきまで辺りを漂っていた月明かりみたいな冷たい光だった。
ただ、その波打つ鼓動みたいな光を見て――見ないでいたら光の強さが、どんどん増して――――
「うわーーーーっ!?」
声が出た。
「「「「「な、なんだっ!?」」」」」
一斉に武器を構える気配。
「ななななななんか遠くの方で、スッゴい光ってるのが居るっ!!!」
あまりの眩しさに目をひらくと、ソッチには巨大キノコが生えてるだけだった。
「ハハッ? ソッチは例のモクブートが消えた方角だぜ?」
「まってソレちょっと気になるわねー。前に王都で見たときはモンスターが消えたあたりで、ちょっとしたお宝が見つかったような――――」
「「「「「お宝!?」」」」」
冒険者達の食いつきが、半端なかった。
「もぉー、しかたがないですわね。ジュークがいま使ってる魔法がなんなのか、探る手がかりになりそうだし……行ってみましょうか」
「でも、いま戻ったら、ギルドの人たちと出くわすんじゃ?」
頬に手を当て、目を閉じるご令嬢。
「まあ、そうなんですけれども、よく考えたら私……別に世を忍ぶ必要もありませんのよね」
パチリ、切れ長の両眼が開かれ、その口元から笑みがこぼれた。
私~面倒くさくなってきたから~、大暴れでもしたくなってきましたわ~♪
って顔に書いてある。これはほっといたらダメなヤツだ。
「で、でも、ティーナさんに怒られるよ! しかも、もの凄く本気で!」
全力で止めないと、僕がティーナさんに叱られる。もの凄く本気で。
「う、それは、イヤですわねー」
悪虐令嬢の腰が退けている。
目を閉じた。
ロットリンデさんの両手に流れ込んでいた〝魔力〟が散り散りになってしぼんでいくのが見えた。
『夜眼』の魔法は、まだうまく出来ないけど、この良く分からない魔法はひょっとしたら便利なのかもしれない。
§
「ほんとうに何にもありませんのねー?」
誰もいないのを確認したご令嬢が斜面を降りていく。
僕達は逃げてきた道を戻らず、進む先を大きく曲げることで目的地に到達した。
ソコは、巨大な寸胴鍋をひっくり返したみたいな、何も無い空間。
高さがあって、周囲を平らなキノコの壁で覆われている。
そして、むき出しの地面には、何かがほじくり返したような崩れた大穴があった。
そして道中、ロットリンデさんが暇つぶしにって話してくれたのは、〝どうして名家のご令嬢だった彼女が吸血鬼ロットリンデとまで呼ばれることになってしまったのか〟で。
それは、こんな話だった。
✦
「ハハッ? じゃあ、お前さんは、自分の家にあった、出所不明の古代魔法ってぇヤツを使うために、王都全員の命を奪ったと?」
「そうなりますわね。ただ、発動したのは、たわいのない猛獣召喚で興ざめでしたわ」
「おかしらーじゃなかった、サーイエッサー! それって王都を壊滅しかけたって話ですかい?」
「いいえ、壊滅なんておこがましくてよ。せいぜい王宮の外壁とルシランツェル家の所有物件とその周辺、あと劇場前の噴水程度でしてよ……本当に壊滅したならそれはそれで面白かったのだけれど……ブツブツ」
「ってだめじゃんか! 人の命を奪ったら! ロットリンデは本当に悪虐令嬢じゃんか!」
僕は自分の足で小走りで付いていく。もちろん目は閉じたままだ。
「最後まではなしをお聞きなさい。確かに命を奪うことになってしまいましたけど、全員ではなくってよ? たしか王都全域で14名ほどだったかしら」
「ハハッ、14人? なんか話がずいぶん違うぜ?」
「でもでも、たとえ少なくたって人の命を奪うのは、とても悪いことだろっ!?」
「そうねー。ですから、ルシランツェル家の財力を持ってな・ん・と・か工面いたしましたわ」
「「「「「「「なにを?」」」」」」」
「もちろん、ソレですわよ」
先頭をすすむ、ご令嬢が爆発魔法を放つのをやめて、引き返してきた。
僕の体に袈裟懸けにされた小瓶の束を、指先ではじく。
「「「「「「「蘇生薬?」」」」」」」
「そうよ、どうにか人数分かき集められて良かったですわ。もっとも足りない分をイチから作ることになって、家宝や家財のほぼ全てを処分する事になってしまいましたけれど」
クルリと向き直り、再び爆発魔法でキノコ内部を掘りすすむ、悪虐ご令嬢。
✦
なんだか思ってたより全然軽い話だった。
ロットリンデさんが上級位のオークロードみたいな恨み顔で話してた〝宰相〟て人が、この話の首謀者に当たるらしい。
それでも王都が完全に復旧するまでには4年の歳月が必要だったほどの大事件ではあるので、責任は取らざるを得なくなって、簡単に言えば歳を取らない方法でほとぼりが冷めるまで隠遁していたと。
全ての辻褄が合うし、コレが事実なんだろう。
けど、ロットリンデさんは例え改心したところで、泣き寝入りするようなタマじゃない。
この話には多少のカラクリが有ることが僕にはわかる。
けど、彼女が言い伝えられるような〝悪虐令嬢〟でも〝吸血鬼〟でもないことがわかってホッとした。
逆に残念がるのは冒険者達。
「なんでい、おかしらはー悪の権化じゃなかったんッスかー?」
「ソウわね。なんか興ざめダわー」
「あっしもでサぁー」
「あらぁ、そうぉう? 私、吸血鬼なんて呼ばれる前から、悪虐令嬢と揶揄されていたのですけれど――なにか文句がお有りかしるぁーーーー?」
細腕に流れ込んでいく強い光。
その眩しさに、僕は目を開ける。
「「「「「ひぃぃぃぃぃ!?」」」」」
震え上がる冒険者達。
そ、ソレでこそ、おかしらだ~!
懐くんじゃ有りませんよ、サーをお付けなさい。
「「「「「サーイェッサー!」」」」」
「ハハッ、悪虐令嬢……じゃなかった、お嬢ちゃんには頼もしい仲間が付いてるから大丈夫みてえだな」
「だよね、冒険者さん達は強くて、とても頼りになる」
「違う違う、頼もしいってのはお前さんのことだぜ、ボウズ」
「はぁ? 何言ってるの、ワーフさんは。僕の弱さをバカにしたらいけない。なんせ、幼なじみの女の子の尻に敷かれただけで死んだことあるからね」
ワーフさんに死ぬほど笑われたあとで、「ハハッ、お前さんのそういう所が頼もしいって言ってんだ」なんて言われた。
「なんにしても、悪虐令嬢・吸血鬼ロットリンデの二つ名は伊達じゃねえ。良くねえ奴らが寄ってこねえとも限らねえ。お前等全員ココから出られたら、俺の工房に来い。最高の武器を作ってやる!」
願ってた話だったけど――――精悍な声にさえぎられた。
「――――ソレは羨ましい。名工と謳われるアナタの武器なら俺も一つ欲しいくらいですよ!」
空洞キノコの天辺が大きく切り取られた。
開けた空には巨大な月がふたつ顔をのぞかせていた。
少し小さい方が真っ青な、ルィノ。
少し大きい方が真っ赤な、ウェレ。
二つの月がまたたき、揺らめく大気が紫色に染まっていく。
その濃密な月光漂う空に、突き刺さり停止する大剣。
ソコに器用に脚を掛け、僕達を見下ろすのは学者コートの青年。
背負われた小柄な女性の姿も見える。
「チッ! 追っ手ですわぁ! ヤロウどもっ、私を全力でお守りなさいっ!」
ロットリンデさん、それって完全に舞台の悪役だよね。
しかも真っ先にやられて逃げてく小物クラスじゃんか。
サーイェッサー!!!!!
あー、冒険者のみなさんも何かやる気だしさー。
僕は、目を閉じてロットリンデさんの魔力の流れを――――
それはちょうど僕の真下。
息づく様に鼓動する魔力の流れ。
ソレは生きている。
――――はっくしゅん!
脈動のまぶしさに、くしゃみが出た。
もう強すぎて目を閉じていられない。
土に埋もれたソレは、僕達が探していた光るお宝だった。
ソレは、ひと抱えはある巨大な卵形。
「まさか、お宝って、モクブートのタマゴ!?」
そのキノコが、たまたま生えなかった空間。
僕で言ったら20人分くらい。ワ-フさんだと5人分くらいの狭い空間。
切り取ったキノコで入ってきた穴は塞いだから、さっきみたいな大騒ぎをしなければ追っ手に見つかることもない。
「んー? 私から漏れた魔力が無属性の攻撃力に変換されてるのかしら?」
僕の顔をさんざん揉みくちゃにしたロットリンデさんが、それでも飽きずに僕の頭をつかんで左右に振ったりしてる。
「ハハッ、しかし、いまだに信じられねーぜ。お嬢ちゃんが、あの光暦の悪虐令嬢だったなんてよ」
「光暦のなんて言うのは止して下さる? 私こう見えてもまだ18ですのよ?」
ようやく僕の頭を放してくれた悪虐令嬢が、大鍋に盛られたキノコ板を爆発魔法で燻していく。
灼きキノコを大量に作っているのは、非常食にするためだ。
「ハハッ、おいボウズ。思ってたよか状況がややこしいぞ? ……ひそひそ」
「ややこしいのはコッチだよう。……えっとみぞおちと左眼、右肩と左手の小指を通って右眼の視界を広げ……る?」
正直さっぱり分からない。
「〝方陣記述魔法〟で描けば良いなら、お手本さえ有れば、たぶん出来るのに」
「暗闇で敵に襲われてる最中に、そんな光るモノ出してる余裕無いでしょーが」
「俺は〝方陣記述魔法〟のほうが、よっぽどややこしいぜ」
「アタイもー。エンチャント装備は使うけどさ」
腰から抜かれた細身の剣。その刀身にうっすらと方陣結界が浮き出ているのが見えた。
「じゃあ、魔力を発動したあと、一点に定めないで〝ただ普通に見なさい〟」
「ただ、普通に見る?」
目を閉じる。呼吸をする。体内の血流を把握する。
一つ選んだ血の一滴が、体内を一周した。
冒険者達が、一斉に僕の背後に回るのが見えた。
「あ、見えた。ワーフさんが大鍋を部屋の隅に持ってって。ロットリンデがなんでか杖を持って僕の正面に立ってる」
「あら? 正解。上手く行ったみたいだけど、ジューク……目は開いてて良いのよ?」
「え? いま目、閉じてた?」
僕は目を開けた――とたんに真っ暗になった。
「わ!? 灯り消したの!?」
さっきまで付いてたランタンが消されていた。
ブォン――ゴチン!
頭に走る鋭い痛み――HP8/51!
「ひどいよ。もうそろそろ蘇生薬飲んでおかないと、死んじゃうよ~!」
支給品の獣皮の帽子なんかじゃ、大猿系女子の一閃は防げるもんじゃない。
「じゃあ、今度は目を閉じて!」
風切り音。月明かりに照らされてるみたいに落ちてくる魔法杖が見えた――ゴチン!
再び頭に走る鋭い痛み――HP2/51!
たとえ振り下ろす軌道が見えたところで、悪虐令嬢ロットリンデの魔の一閃を僕みたいな駆け出しの冒険者がかわせるはずもない。
「もうやめて、死んじゃうから」
同じ所を打ち付けられたら痛いの痛くないのって、スッゴく痛い。
僕は目を閉じたままキノコ際まで下がり、弾帯から回復薬と蘇生薬を引っこ抜いた。
グビグビ――HP34/51!
ふう。トゥナのヘルメットみたいな本格的な防具を早く買おう。
無事に村に帰ったら、スグに装備を買いに行こう。
ワーフさんに相談するのも良いな。値段的に手が出ないかもだけど。
グビグビ――HP35/51!
蘇生薬も飲んでおく。
腕輪を見たらコッチは1しか回復しなかったけど、この『1』は一回だけ必ず残る魔法の盾なんだそうだ。
使用期限は今日までだから効果は怪しいかもだけど。
「うまくないですわねー。正確に把握出来ない魔法を常駐させるわけにもいきませんし……ブツブツ」
僕の周りをうろつきだしたロットリンデさんを目を閉じたまま目で追っかけてたら――――
それは、さっきまで辺りを漂っていた月明かりみたいな冷たい光だった。
ただ、その波打つ鼓動みたいな光を見て――見ないでいたら光の強さが、どんどん増して――――
「うわーーーーっ!?」
声が出た。
「「「「「な、なんだっ!?」」」」」
一斉に武器を構える気配。
「ななななななんか遠くの方で、スッゴい光ってるのが居るっ!!!」
あまりの眩しさに目をひらくと、ソッチには巨大キノコが生えてるだけだった。
「ハハッ? ソッチは例のモクブートが消えた方角だぜ?」
「まってソレちょっと気になるわねー。前に王都で見たときはモンスターが消えたあたりで、ちょっとしたお宝が見つかったような――――」
「「「「「お宝!?」」」」」
冒険者達の食いつきが、半端なかった。
「もぉー、しかたがないですわね。ジュークがいま使ってる魔法がなんなのか、探る手がかりになりそうだし……行ってみましょうか」
「でも、いま戻ったら、ギルドの人たちと出くわすんじゃ?」
頬に手を当て、目を閉じるご令嬢。
「まあ、そうなんですけれども、よく考えたら私……別に世を忍ぶ必要もありませんのよね」
パチリ、切れ長の両眼が開かれ、その口元から笑みがこぼれた。
私~面倒くさくなってきたから~、大暴れでもしたくなってきましたわ~♪
って顔に書いてある。これはほっといたらダメなヤツだ。
「で、でも、ティーナさんに怒られるよ! しかも、もの凄く本気で!」
全力で止めないと、僕がティーナさんに叱られる。もの凄く本気で。
「う、それは、イヤですわねー」
悪虐令嬢の腰が退けている。
目を閉じた。
ロットリンデさんの両手に流れ込んでいた〝魔力〟が散り散りになってしぼんでいくのが見えた。
『夜眼』の魔法は、まだうまく出来ないけど、この良く分からない魔法はひょっとしたら便利なのかもしれない。
§
「ほんとうに何にもありませんのねー?」
誰もいないのを確認したご令嬢が斜面を降りていく。
僕達は逃げてきた道を戻らず、進む先を大きく曲げることで目的地に到達した。
ソコは、巨大な寸胴鍋をひっくり返したみたいな、何も無い空間。
高さがあって、周囲を平らなキノコの壁で覆われている。
そして、むき出しの地面には、何かがほじくり返したような崩れた大穴があった。
そして道中、ロットリンデさんが暇つぶしにって話してくれたのは、〝どうして名家のご令嬢だった彼女が吸血鬼ロットリンデとまで呼ばれることになってしまったのか〟で。
それは、こんな話だった。
✦
「ハハッ? じゃあ、お前さんは、自分の家にあった、出所不明の古代魔法ってぇヤツを使うために、王都全員の命を奪ったと?」
「そうなりますわね。ただ、発動したのは、たわいのない猛獣召喚で興ざめでしたわ」
「おかしらーじゃなかった、サーイエッサー! それって王都を壊滅しかけたって話ですかい?」
「いいえ、壊滅なんておこがましくてよ。せいぜい王宮の外壁とルシランツェル家の所有物件とその周辺、あと劇場前の噴水程度でしてよ……本当に壊滅したならそれはそれで面白かったのだけれど……ブツブツ」
「ってだめじゃんか! 人の命を奪ったら! ロットリンデは本当に悪虐令嬢じゃんか!」
僕は自分の足で小走りで付いていく。もちろん目は閉じたままだ。
「最後まではなしをお聞きなさい。確かに命を奪うことになってしまいましたけど、全員ではなくってよ? たしか王都全域で14名ほどだったかしら」
「ハハッ、14人? なんか話がずいぶん違うぜ?」
「でもでも、たとえ少なくたって人の命を奪うのは、とても悪いことだろっ!?」
「そうねー。ですから、ルシランツェル家の財力を持ってな・ん・と・か工面いたしましたわ」
「「「「「「「なにを?」」」」」」」
「もちろん、ソレですわよ」
先頭をすすむ、ご令嬢が爆発魔法を放つのをやめて、引き返してきた。
僕の体に袈裟懸けにされた小瓶の束を、指先ではじく。
「「「「「「「蘇生薬?」」」」」」」
「そうよ、どうにか人数分かき集められて良かったですわ。もっとも足りない分をイチから作ることになって、家宝や家財のほぼ全てを処分する事になってしまいましたけれど」
クルリと向き直り、再び爆発魔法でキノコ内部を掘りすすむ、悪虐ご令嬢。
✦
なんだか思ってたより全然軽い話だった。
ロットリンデさんが上級位のオークロードみたいな恨み顔で話してた〝宰相〟て人が、この話の首謀者に当たるらしい。
それでも王都が完全に復旧するまでには4年の歳月が必要だったほどの大事件ではあるので、責任は取らざるを得なくなって、簡単に言えば歳を取らない方法でほとぼりが冷めるまで隠遁していたと。
全ての辻褄が合うし、コレが事実なんだろう。
けど、ロットリンデさんは例え改心したところで、泣き寝入りするようなタマじゃない。
この話には多少のカラクリが有ることが僕にはわかる。
けど、彼女が言い伝えられるような〝悪虐令嬢〟でも〝吸血鬼〟でもないことがわかってホッとした。
逆に残念がるのは冒険者達。
「なんでい、おかしらはー悪の権化じゃなかったんッスかー?」
「ソウわね。なんか興ざめダわー」
「あっしもでサぁー」
「あらぁ、そうぉう? 私、吸血鬼なんて呼ばれる前から、悪虐令嬢と揶揄されていたのですけれど――なにか文句がお有りかしるぁーーーー?」
細腕に流れ込んでいく強い光。
その眩しさに、僕は目を開ける。
「「「「「ひぃぃぃぃぃ!?」」」」」
震え上がる冒険者達。
そ、ソレでこそ、おかしらだ~!
懐くんじゃ有りませんよ、サーをお付けなさい。
「「「「「サーイェッサー!」」」」」
「ハハッ、悪虐令嬢……じゃなかった、お嬢ちゃんには頼もしい仲間が付いてるから大丈夫みてえだな」
「だよね、冒険者さん達は強くて、とても頼りになる」
「違う違う、頼もしいってのはお前さんのことだぜ、ボウズ」
「はぁ? 何言ってるの、ワーフさんは。僕の弱さをバカにしたらいけない。なんせ、幼なじみの女の子の尻に敷かれただけで死んだことあるからね」
ワーフさんに死ぬほど笑われたあとで、「ハハッ、お前さんのそういう所が頼もしいって言ってんだ」なんて言われた。
「なんにしても、悪虐令嬢・吸血鬼ロットリンデの二つ名は伊達じゃねえ。良くねえ奴らが寄ってこねえとも限らねえ。お前等全員ココから出られたら、俺の工房に来い。最高の武器を作ってやる!」
願ってた話だったけど――――精悍な声にさえぎられた。
「――――ソレは羨ましい。名工と謳われるアナタの武器なら俺も一つ欲しいくらいですよ!」
空洞キノコの天辺が大きく切り取られた。
開けた空には巨大な月がふたつ顔をのぞかせていた。
少し小さい方が真っ青な、ルィノ。
少し大きい方が真っ赤な、ウェレ。
二つの月がまたたき、揺らめく大気が紫色に染まっていく。
その濃密な月光漂う空に、突き刺さり停止する大剣。
ソコに器用に脚を掛け、僕達を見下ろすのは学者コートの青年。
背負われた小柄な女性の姿も見える。
「チッ! 追っ手ですわぁ! ヤロウどもっ、私を全力でお守りなさいっ!」
ロットリンデさん、それって完全に舞台の悪役だよね。
しかも真っ先にやられて逃げてく小物クラスじゃんか。
サーイェッサー!!!!!
あー、冒険者のみなさんも何かやる気だしさー。
僕は、目を閉じてロットリンデさんの魔力の流れを――――
それはちょうど僕の真下。
息づく様に鼓動する魔力の流れ。
ソレは生きている。
――――はっくしゅん!
脈動のまぶしさに、くしゃみが出た。
もう強すぎて目を閉じていられない。
土に埋もれたソレは、僕達が探していた光るお宝だった。
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