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追記事項~その1
第12頁
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縦も横も巨大なキノコで、みっちりと埋まってる。
――ボッシュゴッガァァァァッァンッ!
そんな中を、隊長の爆発魔法で無理矢理進んでいくロットリンデ隊。
プスプスプスプス。
ドカドカドカッ――――焦げた横穴を、悪い顔の冒険者達が切りつけ、一瞬で立派な通路にしてしまう。
見た目も中身も悪党気味だけど、キャンプ設営に駆り出されただけあって、彼らは腕が良かった。
「おかしらー、なんか旨そうなニオイがしやすぜ?」
「ほんとだ。おかしら、お腹空いたわー」
「あっしもでさぁ」
「どわれが、おかしらか! サーをつけなさい!」
「「「「「「サーイェッサー!」」」」」」
ロットリンデさんが言わせてる言葉の意味は分からない。本人もうろ覚えで使ってるみたいだし。
けど、それが軍隊式の規律であることは伝わってくる。
でも、ロットリンデさんがいくらオークみたいな顔で睨み付けたところで、僕からしたらロットリンデさんで有ることに変わりない。むしろ、その形相が僕に向いてない分、居心地良い。
「ロットリンデー、他のみんなは~?」
「知りませんわよ。でも逃げ遅れたのは私たちだけだから、どうにか無事じゃないかしら…………なんか、本当にお腹空いてきましたわ…………」
ベリベリッ……パクリ。モグモグ、ごくん。
「あら、イケるわよこのカベ? ほらっ」
――ムグリ。モグモグ、ごくん。
「ホントだ旨ぇー!」
むしり取った焦げたカベを、無理矢理口に押し込まれたけど――ステーキの付け合わせによく合いそうな上品な味だった。
「「「「「なんだって!?」」」」」
俺にもくれ、アタイにも、あっしにもくだせえ!
僕に群がらなくても幾らでも生えてるって言うか――悪人顔を責める気は無いけど……少し怖い。
「その辺、むしればイイじゃないですか!」
ソウだな。ソウわね。じゃあ、あっしも。
思い思いに通路を拡張し始める無軌道な冒険者達。
「ちょっと、お待ちなさい!」
隊長の鋭い号令がかかり、途端に緊迫の度合いを高めていく菌糸類通路。
そりゃそうだ。今はモクブートとの一大決戦中で――
「――ちゃんと火を通してからになさい。いま灼いてさしあげあげますから」
§
「なんっか、飲み物欲しーですわねー。あ、そうだジュークの回復薬があるじゃありませんの」
なんて言って、ロットリンデさんが僕の弾帯を掴んだとき、ロットリンデ隊の頭上が抜けた。
「――――何をしているのですか?」
苦い顔の小柄な女性。
隣にはワーフさんや、青年の顔もあった。
よかった、みんな無事だったみたいだ。
「どうかされましたかしらぁ? 皆さんお揃いで……モグモグ、うふふー♪」
あー、あの顔は食堂が終わった後に、美味しいまかない料理を食べて完全に気が緩んでる時の顔だ。
「いえまあ、無事なら無事でいいのですが。それ……何を、お召し上がりに?」
小柄な女性の疑問はもっともだ。焦げたキノコ通路の真ん中で、焦げた何かを旨い旨いと食べ散らかしてるのだから。
「ああコレ、斑色のどぎついのが塩で。真っ白いのはジューク特製のソッ草ソースがとっても合うんですのよ、うふふー♪」
あれ? すこしご機嫌すぎる気もしてきた。
あ、いつの間にか回復薬の空き瓶が転がってる。
まさか、中身お酒じゃないよなっ!?
もし、お酒だったとしても、小瓶ひとつでこんなに出来上がらないだろうけど――
「モクブート達は、どうなったんですか!?」
「ハハッ、おうボウズ。それがよ、群れを覆い隠してた〝一番でっけーキノコ〟を切ってみたらよ――」
「――ひょっとしたらぁ、うふふー♪ もぬけの殻でしたのかしらぁ~? ……モグモグ」
予言者ロットリンデのキノコをつまむ手は止まらない。
「よっと――アナタには分かっていたのですか?」
大剣をキノコの天井に突き刺し、切っ先に乗ってザクザクと降りてくる青年。
ワーフさんほどじゃなくてもパワーファイターと思ってたけど、随分と器用だな。
「ええまあ、昔似たようなことが王都であったのを思い出しましてー、うふふー♪ ……モグモグ♪」
「王都……いやまさかな」
なんか考え込む青年。そしてご令嬢の食欲に際限はなかった。
あとで、「なんで止めて下さらなかったのっ!」て爆発魔法で攻撃されそうだから、口を挟んでおく。
「ロットリンデ、太るよ? ……ぼそり」
「なっ、なななな、何ですって! 痩身は淑女のたしなみですわよ! この私、ロットリンデ・ナァク・ルシランツェルの名にかけて、1ダルトたりとも肥えたりなんて致しませんことよーーーーっ!?」
――――――!!!!
あわてて、ロットリンデさんの口を押さえようとしたけど軽くひねられて――ムギュリ!
背中に座られてしまった。
――――ガギィンッ!
――――シャキンッ!
――――ガッシャリッ!
間近で大剣が、頭上で魔法杖と鉄杭が構えられる気配。
「なんだなんだぁ、俺っちたちのおかしらに文句有んスかぁ!?」
ソウだぜ! ソウわよ! あっしもでさぁ!
「サーがぬけてましてよ? ……モグモグ♪」
「「「「「サーイェッサー!」」」」」
悪虐令嬢・吸血鬼ロットリンデの悪名が轟いていたのは結構昔らしく、最近生まれた僕もトゥナも聞いたことがなかった。
ティーナさんは当時の本人と会ったこともあって、その上で「まー、いまのロットリンデちゃんはジュークという魔術的なでっかいハンデ付きだから、せいぜい出来てもフカフ村四分の一壊滅が関の山なので、心配要りませんよぉ」なんて言ってたし。
たとえロットリンデさんが本当に悪逆非道だったとしても、人類に対してソレほどの脅威ではないはず。たぶん。
それでも、人を束ねる青年達やワーフさんには〝僕に座る女性のフルネーム〟に聞き覚えが有り、こうして即時敵対されるくらいには、〝何かをやった〟ことも確かっぽい。
――ど、どうしよう!?
「あ、あの、ロットリンデさんは魔物みたいに意地悪な顔をする時があるけど、根は優しく……もないけど決して悪い魔物じゃなくて――――」
「どわれが魔物か! まったく、弁解ベタにもほどがありましてよ?」
「そーだぜー、ジュークのぼっちゃん。おかしらが本気で怒ったらこんなもんじゃねーぜ」
「ソウわよ。魔物なんか目じゃねーわよ」
「あっしも、そう思いまさぁ」
「アナタが彼の悪名高い、〝悪虐令嬢〟というのは確かか!? とても光陣暦50年生まれには見えないが!?」
――ヴッヴォウゥン!
あーなんか大剣が、凄い色に光りだした。
「フフッ、さすがは宮廷魔導師、バレちゃぁ仕方が有りませんわっ! そうよ私が、かの悪名高い〝悪逆令嬢、吸血姫ロットリンデ〟よ!」
――ボムボムボボボボボボォム、ボボボムッワン!
彼女の手から噴き出す大爆煙。
ロットリンデさんの口調は、どこか芝居じみてるって言うか、魔物役者としての血がソウさせるのかも知れないけど。
「……宮廷魔導師? ティーナさんはいま居ないよ?」
「おだまりなさい、舌を噛みますわよ」
細腕が僕を持ち上げたと思ったら、放り投げられた。
「ホソヒゲ、バクチの両名はそのままジュークを確保。全員ついてきなさーい」
ウェェェェェィ!
悪虐令嬢を先頭に、僕を抱えたロットリンデ隊は、菌糸類通路を一目散に掘り進み始めた。
§
「ロットリンデー。そろそろ自分で走るよー」
「もう少しお待ちなさい。いま迷子になられると面倒ですのよ」
「こんな一本道で迷子になんてならないよう。降ろしてよー」
「ハハッ、そりゃ無理な相談だぜボウズ。お前さん夜目が利かねえだろ?」
「その声――ワーフさん!? いつの間に!?」
「腕輪時間で四分の一目盛りほど前からですわ」
「でも、ワーフさんもロットリンデを、やっつけようとしてたんじゃ!?」
「ハハッ、やっつけるって、ボウズ。お嬢ちゃんは魔物じゃねえだろ?」
「でも、ロットリンデは魔物役者の吸血鬼で大飯ぐらいの――HP18/51!
暗闇から伸びてきた白い手に顔をはたかれた。
「ハハッ、悪虐令嬢の名は、いろんな意味で年季がはいってるってこった。あとで説明してやる」
「レディーに向かって〝年季がはいってる〟ですって、聞き捨てなりませんでしてよー」
もう、腕輪時間で一目盛り分。両手の厚みのステーキがじっくりと焼き上がるくらいの時間、彼女は爆発魔法を連発している。
ティーナさんだって草刈りに魔法を使ったとき、十分の二目盛りくらいで休憩してた。
それをこの悪虐令嬢でお馴染みのお嬢様は、回復薬(小瓶)も増強薬(大瓶)もなしに打ち続けている。
「ハハッ、お嬢ちゃんにはあとで詳しいはなしを聞かせてもらわなきゃな。けどボウズ、『夜眼』のひとつも使えねえんじゃ、この先、このお嬢ちゃんに付いてくのは至難の業だぜ?」
スグそばから厳つい声が聞こえる。ガチャガチャとした装備や鉄杭が鳴る音が聞こえるだけで、暗闇しかない。
冒険者さん達は商売柄|(?)、夜目が利くんだとしても、ワーフさんだってこうして使えている。
冒険者としてはポピュラーなスキルみたいだ。
§
「こうかな――――?」
ギュヴァギギギギィィィィィィィィン!!
――――ボッガァァァァァァァァァン!
「ぅ危っぶねーー! ぼっちゃん、あっしを殺す気ですかい!?」
横っ飛びに僕の視線を避けた〝バクチ〟さんが怒ってる。
そりゃそうだ、さっきまで彼が腰掛けていた大きな岩が丸ごと粉砕されている。
「ハハッ! さすがは、吸血鬼ロットリンデの弟子って事……か? しかし旨えなこのキノコ……モグモグ♪」
「私、弟子を取ったことなど有りませんでしてよ。ああでも少し前、素質がある小っさいのに教えましたけど」
少し前ってのはウン十年も昔のことで、小っさいのってのはティーナさんのことだ。
いまはボバボーンで、全然小さくないけど。
そしてココは、キノコが生えてない大きな隙間みたいな場所で、追っ手も撒いたみたいだしと休憩中。
「ふふふ、丁度良い腹ごなしになりそうですわねー♪」
なんて言って、ロットリンデさんが両手をニギニギしながらにじり寄ってくる。
その瞳には妖しい光が灯ってる。
――ボッシュゴッガァァァァッァンッ!
そんな中を、隊長の爆発魔法で無理矢理進んでいくロットリンデ隊。
プスプスプスプス。
ドカドカドカッ――――焦げた横穴を、悪い顔の冒険者達が切りつけ、一瞬で立派な通路にしてしまう。
見た目も中身も悪党気味だけど、キャンプ設営に駆り出されただけあって、彼らは腕が良かった。
「おかしらー、なんか旨そうなニオイがしやすぜ?」
「ほんとだ。おかしら、お腹空いたわー」
「あっしもでさぁ」
「どわれが、おかしらか! サーをつけなさい!」
「「「「「「サーイェッサー!」」」」」」
ロットリンデさんが言わせてる言葉の意味は分からない。本人もうろ覚えで使ってるみたいだし。
けど、それが軍隊式の規律であることは伝わってくる。
でも、ロットリンデさんがいくらオークみたいな顔で睨み付けたところで、僕からしたらロットリンデさんで有ることに変わりない。むしろ、その形相が僕に向いてない分、居心地良い。
「ロットリンデー、他のみんなは~?」
「知りませんわよ。でも逃げ遅れたのは私たちだけだから、どうにか無事じゃないかしら…………なんか、本当にお腹空いてきましたわ…………」
ベリベリッ……パクリ。モグモグ、ごくん。
「あら、イケるわよこのカベ? ほらっ」
――ムグリ。モグモグ、ごくん。
「ホントだ旨ぇー!」
むしり取った焦げたカベを、無理矢理口に押し込まれたけど――ステーキの付け合わせによく合いそうな上品な味だった。
「「「「「なんだって!?」」」」」
俺にもくれ、アタイにも、あっしにもくだせえ!
僕に群がらなくても幾らでも生えてるって言うか――悪人顔を責める気は無いけど……少し怖い。
「その辺、むしればイイじゃないですか!」
ソウだな。ソウわね。じゃあ、あっしも。
思い思いに通路を拡張し始める無軌道な冒険者達。
「ちょっと、お待ちなさい!」
隊長の鋭い号令がかかり、途端に緊迫の度合いを高めていく菌糸類通路。
そりゃそうだ。今はモクブートとの一大決戦中で――
「――ちゃんと火を通してからになさい。いま灼いてさしあげあげますから」
§
「なんっか、飲み物欲しーですわねー。あ、そうだジュークの回復薬があるじゃありませんの」
なんて言って、ロットリンデさんが僕の弾帯を掴んだとき、ロットリンデ隊の頭上が抜けた。
「――――何をしているのですか?」
苦い顔の小柄な女性。
隣にはワーフさんや、青年の顔もあった。
よかった、みんな無事だったみたいだ。
「どうかされましたかしらぁ? 皆さんお揃いで……モグモグ、うふふー♪」
あー、あの顔は食堂が終わった後に、美味しいまかない料理を食べて完全に気が緩んでる時の顔だ。
「いえまあ、無事なら無事でいいのですが。それ……何を、お召し上がりに?」
小柄な女性の疑問はもっともだ。焦げたキノコ通路の真ん中で、焦げた何かを旨い旨いと食べ散らかしてるのだから。
「ああコレ、斑色のどぎついのが塩で。真っ白いのはジューク特製のソッ草ソースがとっても合うんですのよ、うふふー♪」
あれ? すこしご機嫌すぎる気もしてきた。
あ、いつの間にか回復薬の空き瓶が転がってる。
まさか、中身お酒じゃないよなっ!?
もし、お酒だったとしても、小瓶ひとつでこんなに出来上がらないだろうけど――
「モクブート達は、どうなったんですか!?」
「ハハッ、おうボウズ。それがよ、群れを覆い隠してた〝一番でっけーキノコ〟を切ってみたらよ――」
「――ひょっとしたらぁ、うふふー♪ もぬけの殻でしたのかしらぁ~? ……モグモグ」
予言者ロットリンデのキノコをつまむ手は止まらない。
「よっと――アナタには分かっていたのですか?」
大剣をキノコの天井に突き刺し、切っ先に乗ってザクザクと降りてくる青年。
ワーフさんほどじゃなくてもパワーファイターと思ってたけど、随分と器用だな。
「ええまあ、昔似たようなことが王都であったのを思い出しましてー、うふふー♪ ……モグモグ♪」
「王都……いやまさかな」
なんか考え込む青年。そしてご令嬢の食欲に際限はなかった。
あとで、「なんで止めて下さらなかったのっ!」て爆発魔法で攻撃されそうだから、口を挟んでおく。
「ロットリンデ、太るよ? ……ぼそり」
「なっ、なななな、何ですって! 痩身は淑女のたしなみですわよ! この私、ロットリンデ・ナァク・ルシランツェルの名にかけて、1ダルトたりとも肥えたりなんて致しませんことよーーーーっ!?」
――――――!!!!
あわてて、ロットリンデさんの口を押さえようとしたけど軽くひねられて――ムギュリ!
背中に座られてしまった。
――――ガギィンッ!
――――シャキンッ!
――――ガッシャリッ!
間近で大剣が、頭上で魔法杖と鉄杭が構えられる気配。
「なんだなんだぁ、俺っちたちのおかしらに文句有んスかぁ!?」
ソウだぜ! ソウわよ! あっしもでさぁ!
「サーがぬけてましてよ? ……モグモグ♪」
「「「「「サーイェッサー!」」」」」
悪虐令嬢・吸血鬼ロットリンデの悪名が轟いていたのは結構昔らしく、最近生まれた僕もトゥナも聞いたことがなかった。
ティーナさんは当時の本人と会ったこともあって、その上で「まー、いまのロットリンデちゃんはジュークという魔術的なでっかいハンデ付きだから、せいぜい出来てもフカフ村四分の一壊滅が関の山なので、心配要りませんよぉ」なんて言ってたし。
たとえロットリンデさんが本当に悪逆非道だったとしても、人類に対してソレほどの脅威ではないはず。たぶん。
それでも、人を束ねる青年達やワーフさんには〝僕に座る女性のフルネーム〟に聞き覚えが有り、こうして即時敵対されるくらいには、〝何かをやった〟ことも確かっぽい。
――ど、どうしよう!?
「あ、あの、ロットリンデさんは魔物みたいに意地悪な顔をする時があるけど、根は優しく……もないけど決して悪い魔物じゃなくて――――」
「どわれが魔物か! まったく、弁解ベタにもほどがありましてよ?」
「そーだぜー、ジュークのぼっちゃん。おかしらが本気で怒ったらこんなもんじゃねーぜ」
「ソウわよ。魔物なんか目じゃねーわよ」
「あっしも、そう思いまさぁ」
「アナタが彼の悪名高い、〝悪虐令嬢〟というのは確かか!? とても光陣暦50年生まれには見えないが!?」
――ヴッヴォウゥン!
あーなんか大剣が、凄い色に光りだした。
「フフッ、さすがは宮廷魔導師、バレちゃぁ仕方が有りませんわっ! そうよ私が、かの悪名高い〝悪逆令嬢、吸血姫ロットリンデ〟よ!」
――ボムボムボボボボボボォム、ボボボムッワン!
彼女の手から噴き出す大爆煙。
ロットリンデさんの口調は、どこか芝居じみてるって言うか、魔物役者としての血がソウさせるのかも知れないけど。
「……宮廷魔導師? ティーナさんはいま居ないよ?」
「おだまりなさい、舌を噛みますわよ」
細腕が僕を持ち上げたと思ったら、放り投げられた。
「ホソヒゲ、バクチの両名はそのままジュークを確保。全員ついてきなさーい」
ウェェェェェィ!
悪虐令嬢を先頭に、僕を抱えたロットリンデ隊は、菌糸類通路を一目散に掘り進み始めた。
§
「ロットリンデー。そろそろ自分で走るよー」
「もう少しお待ちなさい。いま迷子になられると面倒ですのよ」
「こんな一本道で迷子になんてならないよう。降ろしてよー」
「ハハッ、そりゃ無理な相談だぜボウズ。お前さん夜目が利かねえだろ?」
「その声――ワーフさん!? いつの間に!?」
「腕輪時間で四分の一目盛りほど前からですわ」
「でも、ワーフさんもロットリンデを、やっつけようとしてたんじゃ!?」
「ハハッ、やっつけるって、ボウズ。お嬢ちゃんは魔物じゃねえだろ?」
「でも、ロットリンデは魔物役者の吸血鬼で大飯ぐらいの――HP18/51!
暗闇から伸びてきた白い手に顔をはたかれた。
「ハハッ、悪虐令嬢の名は、いろんな意味で年季がはいってるってこった。あとで説明してやる」
「レディーに向かって〝年季がはいってる〟ですって、聞き捨てなりませんでしてよー」
もう、腕輪時間で一目盛り分。両手の厚みのステーキがじっくりと焼き上がるくらいの時間、彼女は爆発魔法を連発している。
ティーナさんだって草刈りに魔法を使ったとき、十分の二目盛りくらいで休憩してた。
それをこの悪虐令嬢でお馴染みのお嬢様は、回復薬(小瓶)も増強薬(大瓶)もなしに打ち続けている。
「ハハッ、お嬢ちゃんにはあとで詳しいはなしを聞かせてもらわなきゃな。けどボウズ、『夜眼』のひとつも使えねえんじゃ、この先、このお嬢ちゃんに付いてくのは至難の業だぜ?」
スグそばから厳つい声が聞こえる。ガチャガチャとした装備や鉄杭が鳴る音が聞こえるだけで、暗闇しかない。
冒険者さん達は商売柄|(?)、夜目が利くんだとしても、ワーフさんだってこうして使えている。
冒険者としてはポピュラーなスキルみたいだ。
§
「こうかな――――?」
ギュヴァギギギギィィィィィィィィン!!
――――ボッガァァァァァァァァァン!
「ぅ危っぶねーー! ぼっちゃん、あっしを殺す気ですかい!?」
横っ飛びに僕の視線を避けた〝バクチ〟さんが怒ってる。
そりゃそうだ、さっきまで彼が腰掛けていた大きな岩が丸ごと粉砕されている。
「ハハッ! さすがは、吸血鬼ロットリンデの弟子って事……か? しかし旨えなこのキノコ……モグモグ♪」
「私、弟子を取ったことなど有りませんでしてよ。ああでも少し前、素質がある小っさいのに教えましたけど」
少し前ってのはウン十年も昔のことで、小っさいのってのはティーナさんのことだ。
いまはボバボーンで、全然小さくないけど。
そしてココは、キノコが生えてない大きな隙間みたいな場所で、追っ手も撒いたみたいだしと休憩中。
「ふふふ、丁度良い腹ごなしになりそうですわねー♪」
なんて言って、ロットリンデさんが両手をニギニギしながらにじり寄ってくる。
その瞳には妖しい光が灯ってる。
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