61 / 744
1:輪廻転生、おいでませガムラン町
61:シガミー(元破戒僧)御一行様、ししがに屋でござる
しおりを挟む
「シガニャぁー、本日開店いたしましたー♪」
かなり立派な店構え。
呼びこみをするリオレイニアに、恥をかかせずに済んだ。
シガミー邸のすぐ裏手。
ニゲルん家とは、逆の方角。
「しがにゃー♪ しがにゃー♪ やすくておいしいにゃー♪」
にゃぁにゃぁうるせえと思ったら、猫あたまの獣人だった。
今日は何人か暇な奴らが、手伝いに来てくれてる。
かかげられた看板には、おれが書いた筆字。
店の名前は、『猪蟹屋』だ。
とうぜんガムラン町の連中じゃ、読めねえ。
けど、前世の日の本のおれの名を、どこかに残しておきたかったのだ。
「猪蟹って声に出せるやつぁ……本当にいねえなあ」
〝リカルル〟と何がちがうってんだ、ほとんど同じだろうが、四文字でよぉ。
「(しかたありません。異言語のヒアリングは一朝一夕には、できませんから)」
わからん。けどほっとく。
陳列棚に並ぶのは、ぜんぶ同じ革ベルト。
「さすがにひとつっきゃ、売りもんがねえのは、商売としてまずいか?」
「いえ、多分この一週間でツくった、500個はスぐに売り切れテしまうので、暴動が起きタときのために、看板にトラップ……罠でも仕掛けておキましょう」
§
ひやかしの客はあとを絶たねえが、なかなか最初のひとつが売れねえ。
そこへ知った顔がやってきた。
「ニゲル、買いに来てくれたのか?」
「もちろんだよ――あー、けど思ったよりは高いなあ」
『食材一式:収納魔法具付き
ひとつ 8ヘクク』
「(日本円で……イオノファラーが使用する通貨です……一万二千円――収納魔法具の利便性を考えれば、破格の価格設定です)」
「(えーっと八十文だろ……中に詰めた飯の支度一揃えが……ざっと三十文……おれだったら間違いなく買うがなあ)……ふぃ~」
おれの困った顔をみたニゲルが、苦笑いする。
「よし、きめた。他ならぬシガミーの門出だ、三つもらうよ」
「ニゲルは太っ腹だな。まるでどっかの神さんみてえだぜ♪」
「よせよ、そんなにおだてたって、これ以上は買えないよ。じつは女将さんに買ってこいって頼まれた分も入ってるんだよ」
「なんでい……けど、お買い上げありがとうだぜ♪」
「はい、良かったですねシガミー。では商品はコチラになります♪」
リオレイニアの仕立ての良い給仕服は、そのままで立派な制服になるが、今日は趣向をかえてる。
ふだん付けてるのをはずして、『猪蟹屋』の文字が入った前掛けをしてもらってる。
あたまには布を巻いてて、まるで日の本の茶屋にでもいる気分だ。
「ニゲルさま、毎度ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております♪」
「ひゃはっ、ふぁい!?」
まっ白な、ずた袋にいれた革ベルトを受けとったニゲル青年。
その顔が、まっかになった。
どうしたニゲル? あー、あの視線……たすき掛けか。
わかる。おれぁ子供だし女だが――わかる。
胸を反るようにすりゃ、どっちかっていやぁ慎ましいリオの胸まわりが、ぼばぼーんの女将みてぇに見えるからな。
「ニゲル……姫さんには内緒にしといてやる……ぼそり」
ちなみに、おれとレイダは前掛けに、ねじり鉢巻きだが……だれも見向きもしねえ。
「えっ、ちがっこれは――――ま、またあしたきまっしゅっ!」
また来んのかよ。何個もは要らねえだろうが。
まったく。おれぁ元男だが――まったく、男衆ってぇのは。
なんて考えてたら、件の姫さんが来た。
「あら、リカルルさま。いらっしゃいませ」
ほっかむりして、化けたつもりだろうが、いっぱつでリオに見抜かれてる。
「リカルルさまだ♪」
引きつれてるお付きが、いつもと変わらねえんじゃ、子供だってだませやしねえぜ。
「な、ななな、私はそのような者でわ……あわわ!?」
ガチャ――――あの重そうな包みは……さては店の商品を買い占めようって魂胆か。
ありがてぇが、それじゃ店をやる意味がなくなっちまうぜ。
「(迅雷。さっき仕掛けてたヤツ、いけるか?)」
「はい、シガミー」
チチチ、ピッ♪
ぐらり――――どがったぁんっ!
看板が、大きな音を立てて倒れた。
うるせえ!
紐でつり下がってるから落ちてはこねえが、脅かすにゃじゅうぶんだった。
「きゃぁぁっ!? お、脅かすなんて卑怯ですわよ!」
よし、姫さんを追っぱらえた。
姫さんとこには、完成した日に、まとめて五個届けてあるから、かまわねえだろ。
今日のところは、このくらいで勘弁して、さしあげますわぁー。
狐の遠吠えが、通りに響きわたった。
「あっちも、また来そうだな……」
平和なのは良いことだが――
迅雷の景気の良い予想に反して、まったく売れない〝鉄塊付き革ベルト〟をひとつ手にとった。
「なんか考えねえとなあ」
かなり立派な店構え。
呼びこみをするリオレイニアに、恥をかかせずに済んだ。
シガミー邸のすぐ裏手。
ニゲルん家とは、逆の方角。
「しがにゃー♪ しがにゃー♪ やすくておいしいにゃー♪」
にゃぁにゃぁうるせえと思ったら、猫あたまの獣人だった。
今日は何人か暇な奴らが、手伝いに来てくれてる。
かかげられた看板には、おれが書いた筆字。
店の名前は、『猪蟹屋』だ。
とうぜんガムラン町の連中じゃ、読めねえ。
けど、前世の日の本のおれの名を、どこかに残しておきたかったのだ。
「猪蟹って声に出せるやつぁ……本当にいねえなあ」
〝リカルル〟と何がちがうってんだ、ほとんど同じだろうが、四文字でよぉ。
「(しかたありません。異言語のヒアリングは一朝一夕には、できませんから)」
わからん。けどほっとく。
陳列棚に並ぶのは、ぜんぶ同じ革ベルト。
「さすがにひとつっきゃ、売りもんがねえのは、商売としてまずいか?」
「いえ、多分この一週間でツくった、500個はスぐに売り切れテしまうので、暴動が起きタときのために、看板にトラップ……罠でも仕掛けておキましょう」
§
ひやかしの客はあとを絶たねえが、なかなか最初のひとつが売れねえ。
そこへ知った顔がやってきた。
「ニゲル、買いに来てくれたのか?」
「もちろんだよ――あー、けど思ったよりは高いなあ」
『食材一式:収納魔法具付き
ひとつ 8ヘクク』
「(日本円で……イオノファラーが使用する通貨です……一万二千円――収納魔法具の利便性を考えれば、破格の価格設定です)」
「(えーっと八十文だろ……中に詰めた飯の支度一揃えが……ざっと三十文……おれだったら間違いなく買うがなあ)……ふぃ~」
おれの困った顔をみたニゲルが、苦笑いする。
「よし、きめた。他ならぬシガミーの門出だ、三つもらうよ」
「ニゲルは太っ腹だな。まるでどっかの神さんみてえだぜ♪」
「よせよ、そんなにおだてたって、これ以上は買えないよ。じつは女将さんに買ってこいって頼まれた分も入ってるんだよ」
「なんでい……けど、お買い上げありがとうだぜ♪」
「はい、良かったですねシガミー。では商品はコチラになります♪」
リオレイニアの仕立ての良い給仕服は、そのままで立派な制服になるが、今日は趣向をかえてる。
ふだん付けてるのをはずして、『猪蟹屋』の文字が入った前掛けをしてもらってる。
あたまには布を巻いてて、まるで日の本の茶屋にでもいる気分だ。
「ニゲルさま、毎度ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております♪」
「ひゃはっ、ふぁい!?」
まっ白な、ずた袋にいれた革ベルトを受けとったニゲル青年。
その顔が、まっかになった。
どうしたニゲル? あー、あの視線……たすき掛けか。
わかる。おれぁ子供だし女だが――わかる。
胸を反るようにすりゃ、どっちかっていやぁ慎ましいリオの胸まわりが、ぼばぼーんの女将みてぇに見えるからな。
「ニゲル……姫さんには内緒にしといてやる……ぼそり」
ちなみに、おれとレイダは前掛けに、ねじり鉢巻きだが……だれも見向きもしねえ。
「えっ、ちがっこれは――――ま、またあしたきまっしゅっ!」
また来んのかよ。何個もは要らねえだろうが。
まったく。おれぁ元男だが――まったく、男衆ってぇのは。
なんて考えてたら、件の姫さんが来た。
「あら、リカルルさま。いらっしゃいませ」
ほっかむりして、化けたつもりだろうが、いっぱつでリオに見抜かれてる。
「リカルルさまだ♪」
引きつれてるお付きが、いつもと変わらねえんじゃ、子供だってだませやしねえぜ。
「な、ななな、私はそのような者でわ……あわわ!?」
ガチャ――――あの重そうな包みは……さては店の商品を買い占めようって魂胆か。
ありがてぇが、それじゃ店をやる意味がなくなっちまうぜ。
「(迅雷。さっき仕掛けてたヤツ、いけるか?)」
「はい、シガミー」
チチチ、ピッ♪
ぐらり――――どがったぁんっ!
看板が、大きな音を立てて倒れた。
うるせえ!
紐でつり下がってるから落ちてはこねえが、脅かすにゃじゅうぶんだった。
「きゃぁぁっ!? お、脅かすなんて卑怯ですわよ!」
よし、姫さんを追っぱらえた。
姫さんとこには、完成した日に、まとめて五個届けてあるから、かまわねえだろ。
今日のところは、このくらいで勘弁して、さしあげますわぁー。
狐の遠吠えが、通りに響きわたった。
「あっちも、また来そうだな……」
平和なのは良いことだが――
迅雷の景気の良い予想に反して、まったく売れない〝鉄塊付き革ベルト〟をひとつ手にとった。
「なんか考えねえとなあ」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
『悪魔クロとやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は秘密の力で人間の頂点を狙う』
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました
月神世一
ファンタジー
「命を捨てて勝つな。生きて勝て」
50歳の元イージス艦長が、ブラックコーヒーと海軍カレー、そして『指揮能力』で異世界を席巻する!
海上自衛隊の艦長だった坂上真一(50歳)は、ある日突然、剣と魔法の異世界へ転移してしまう。
再就職先を求めて人材ギルドへ向かうも、受付嬢に言われた言葉は――
「50歳ですか? シルバー求人はやってないんですよね」
途方に暮れる坂上の前にいたのは、誰からも見放された二人の問題児。
子供の泣き声を聞くと殺戮マシーンと化す「狂犬」龍魔呂。
規格外の魔力を持つが、方向音痴で市場を破壊する「天然」エルフのルナ。
「やれやれ。手のかかる部下を持ったもんだ」
坂上は彼らを拾い、ユニークスキル【酒保(PX)】を発動する。
呼び出すのは、自衛隊の補給物資。
高品質な食料、衛生用品、そして戦場の士気を高めるコーヒーと甘味。
魔法は使えない。だが、現代の戦術と無限の補給があれば負けはない。
これは、熟練の指揮官が「残り物」たちを最強の部隊へと育て上げ、美味しいご飯を食べるだけの、大人の冒険譚。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる