滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

１：輪廻転生、おいでませガムラン町

６２：シガミー（元破戒僧）御一行様、兵糧丸セット

「何なんでぇ、あの大群たいぐんは？」
　きゅりきゅりきゅり、すぽん♪

　草原そうげんにつながる正門せいもんから、ぞろぞろと出て行く連中れんちゅうが見えた。

「どれ？　あー、今日きょうから三週間さんしゅうかんくらいかけて、リカルルさまたちが魔物まもの境界線きょうかいせんの見回まわりにいくのよ」
　はい、新あたらしいやつ。

　おう、迅雷ジンライこれもってろ。
　わかりマした、シガみー。

　ごとん――がちり、ごりごりごり、がちん！

「ふう。できた」
　ここは冒険者ぼうけんしゃギルドのとんがり屋根やね。
　月つきはじめの、避雷針交換ひらいしんこうかんだ。

「しばらく会えなくなるから妙みょうに、リオにからんできたのか？」
　いろいろ思おもうところも、あっただろうしな。

「そうだね。シガミーはもうすこし、リカルルさまに優やさしくしてあげてもいいよね」
　邪険じゃけんにしてるつもりはねえけど、どうしてもあのぶった切りが、脳裏あたまに張はりりつく。

　狐耳ひめさんさんがちかくに居いると――景色けしきが、いつズレやしないかと・・・・・・・・生きた心地ここちがしねえ。

「（でも、そのおかげで、シガミーの気配けはい察知さっち能力のうりょくは、たえず研ぎすまされています）」
　そいつぁ、おまえの動うごくびーどろを見《み》りゃ済むはなしじゃねーか。

「（〝動く物を見アクティブえる化する窓・トラッカー〟ですか。ですが、私わたしも故障こしょうする場合ばあいがあります）」

　　　§

　避雷針ひらいしん交換こうかんを済すませ、猪蟹屋シガニャーにもどった。

「ごくろうさまです、シガミーにレイダ」
　出迎でむかえてくれたのは、店番姿みせばんのリオレイニア。
　例れいによって、客きゃくはひとりも居ねえ。

「迅雷ジンライ、全然ぜんぜん売うれねえじゃねーか……なんかやるこたぁねぇーか？」
　今日きょうの予定よていは全部ぜんぶ終おわっちまった。
　姫ひめさんは、しばらく顔かおをみせねぇーから、罠わなの仕掛しかけがいもねえ。

「では、リオレイニアの仮面かめンの整備せいび……調子ちょウしでも見まシょうか？　イオノファラーが降臨こうりンしたとキに故障こしょうでもシたら、いけませんノで」

「そいつぁいいな。じゃ、レイダ。リオレイニアの顔つらはみるなよ」
　おれとレイダは店みせのドアを見つめている。

「そうだね、リオレイニアさんのお顔かおをみちゃうと、嬉うれしくて仕事しごとにならなくなっちゃうもんね」
　とんてんかんてん♪
　レイダは細ほそい革かわベルトに、小ちいさな鉄板てっぱんを釘打くぎうちする。

　とんててんかかかんててててててん♪
　おれも同おなじ作業さぎょうに、没頭ぼっとうする。

　売りもんを増やそうと言うことになって、いろいろ考えをだしあい唯一ゆいいつ、迅雷ジンライが認みとめたのがこの――

『兵糧丸セット／
　魔法粥３個入り：収納魔法具付き
　ひとつ　２ヘクク』

　レイダん家ちで初はじめて食った、火の魔法ほのおのたまを入れてフタをするとできあがる粥かゆめし。

　あの兵糧丸ひょうろうがんを、細い鉄板しゅうのうまほうぐに詰めたらどうかという、レイダの考かんがえ。

「――迅雷ジンライが考かんがえた食材しょくざい一式まるごとよか、レイダが考かんがえたこの魔法粥まほうがゆだけの方ほうがいくらか売れてやがるもんな」
　商あきないってのは、とにかく儘ままならねえ。

「えへへ。夜中よなかに、どうしようもなくお腹なかが空くときがあるでしょう？　そういうときに家いえなら買いおきもあるけど、旅先たびさきだと我慢がまんするしかないじゃなぁーい？」
　えへっへぇぇん――――鼻高々はなたかだかの子供こども。

　しかし、レイダのおかげで、売りもんが二ふたつになったのは本当ほんとうだ。
　かといって、売れてるっていっても、まだ十個じゅっこも出てねえけどな。

「そのおかゆは、お嬢じょうさまも大好物たいへんおすきで、毎晩まいばんのように夜中よなかに隠かくれて召しあがろうとするから、そのたびに取りあげていますよ、うふふふ♪」
　うーむ。様子ようすが目に浮かぶな。

「あ、じゃあ、ひょっとして、これ、リカルルさまにこそ必要ひつようだったんじゃ？」
　この小ちいせえ方ほうの売りもんが、できたのが昨日きのう。
　売りだしたのは今日きょうから。ちょうど行きちがいで姫ひめさんには届とどけられなかった。

「そうだな～。もしも遠征えんせいが長引ながびくようなことでもあったら、差し入れてやっても良いかもしれねえなあ」

　　　§

　ヴォンウゥゥォン。
　チィーーーーーーーーチキチチッピピッ♪

　作業机つくえのうえ。
　置かれた迅雷ジンライから生えた、細ほそく黒くろい腕かいな。指ゆびのつけ根には赤あかい目がついている。

「蟹かにみたいだね」
　おおきい腕かいなが一本いっぽんあるところが、潮招シオマネきに見えなくもねぇ。

「言いえて妙みょうだな」
　この店みせの名の『蟹かに』は言えねえのに、なんでか〝かに〟だけだと言えるんだよな。
　『猪しし』のあとに続つづくと、舌したが回まわらねえのかもしれん。
　おれも迅雷ジンライが話はなす、神の世界いおのはらの言葉ことばは言えねえから、人のことは言えねえが。

「おふたりとも、こちらを向いても、よろしいですよ」
　とうとうやることが無くなったおれたちが、暇ひまそうにしてたら――――リオが声こえを掛けてきた。

　恐おそる恐おそる、ふり返かえると。
　そこには、白袋しろぶくろをかぶった――リオレイニアがいた。

「ぅはははははっははっ！」
　商品しなものをいれる白しろいずた袋ぶくろ。
　それを頭あたまからかぶった、給仕服きゅうじふくすがた。
　正直しょうじき………すっげぇー面白おもしろくて、腹はらがよじれるほど転ころげまわった！

「リオレイニアさん――カワイイ♪」
　布袋ふくろに空けた目の穴あなからは、大きな瞳ひとみがみえていたが、おれもレイダも〝魅了みりょうの神眼しんがん〟に眩くらまされることはなかった。

「（目の部分ぶぶんに遮蔽効果しゃへいこうかのある特殊とくしゅな網あみを使用しようしました）」
「（そいつぁ、仮面かめんがわりになんのか？）」

「（はい、短時間たんじかんならですが。リカルルの所持しょじする〝電磁でんじメタマテリアル装備そうび〟ほどではありませんが敵てきの目を欺あざむくのにもつかえます）」

　するってぇと、さしずめ迅雷ジンライ式しき――隠かくれ蓑みのってわけだな。
「いいな。そいつぁ、使つかえる♪」