滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

２：カブキーフェスタへの道

１３５：龍脈の棟梁（シガミー）、シシガニャンＶＳ妖狐２

　ごごごごごぉぉぅん。
　地鳴じなりのように、震ふるえる感覚かんかく。
　けど、ここは空中ちゅうだ。震ふるえる地面じめんがねぇ。

　ごごごごごぉぉぅん。
　総毛立そうけだつ。
　ちかくで大筒おおづつでも、ぶっ放ぱなされてるみたいだ。

　〝聖剣切ぶったぎり〟が〝分断ぶんだんされて視界しかいがズレる〟、あの予感よかんなら――
　この震ふるえは――その場に居続いつづけると、確実かくじつにに体からだの熱ねつがなくなる――〝死そのもの〟だ。

　足下あそもとを見やる。

「いけねっ、伯爵夫人きつねびどこいった？」
　一度いちど、発火しひをつけたら敵てきか自分じぶんのどちらかが、〝滅めっす〟まで止まらない。
　真言しんごんっていうのは、その覚悟かくごのことだ。
　つまり、狐火きつねびはどこかで燻くすぶってる。

「――敵影消失てきえいロスト。余力よりょくをつかい、滞空たいくうします――」
　この服ふくの首くびのうしろには迅雷ジンライが埋め込まれてるから、落ちるのを遅おそくすることが出来できる。

　迅雷ジンライが掘った縦穴たてあなは――
「――深ふかさは１２０メートルです――」
　その１０倍ばいって言うと――
「――ガムラン町ちょうの直径ちょっけい……長ながさほどです――」

「（そんなに高たかい所ところから落ちて平気へいきなのに、なんでこの間あいだ、落っこちたときに、全部ぜんぶの細腕かいなを使つかい切った？）」
　ふた首大鷲くびおおわしから逃げて、渓谷けいこくから落ちたとき、迅雷ジンライの細腕かいな――つまり天狗一式こんごうりきが使えなくなって、酷ひどい目にあった。

「――あのとキは、先サきに落チた、ルコル少年しょウねんヲ助たスけるタめに全速力ぜんそくりょクで崖がケを駆け下りたから・・・・・・・でス――」
　そういや、そうだった。じゃ、ただ落ちるだけなら、大抵たいていの高たかささに耐えられるんだな。
　この服……〝猪蟹屋ししがにゃん〟を着てれば、余計よけいに。

　『▼』――ぴぴぴっ♪
「――ルリーロノ動体反応どうたいはんノう、建設予定地けんせつよていチ中央ちゅうおうへ移動中いどうちゅウ――」

　こぉぉぉぉぉぉん、こぉぉぉぉぉぉん、こぉぉぉぉぉぉん、こぉぉぉぉぉぉん、こぉぉぉぉぉぉん、こぉぉぉぉぉぉん、こぉぉぉぉぉぉん――――――――――――!!!

「お母かあさま……いえ、母ははの――遠吠とおぼえですわぁ――!?」
　ジタバタしだす姫ひめさん。
「だから喋しゃべるな、暴あばれるな！」
　どうしたってんだ？

　こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん――――――――――――!!!
　こんな、狐きつねの鳴き声ごえくらいで。

「――リカルルの脈拍みゃくはく、呼吸数こきゅうすうともに上昇じょうしょう。恐怖きょうふを感かんじじているようです――」

　ぽぅぽぅぽぅぽぅぽぅぽぅぽぅ――。
　ちいさな狐火きつねびが大穴おおあなの真ん中なか、ぼくたちの落下予定地らっかよていちから放はなたれた。
　ちいさな『▼もーしょんなんたら』が張りついて、追いかけていく。

「心配しんぱいすんな！　姫さんリカルルの母上ははうえさまは、神かみの眷属けんぞくを名乗なのってる。決けっして悪わるいもんじゃねぇし、そもそも娘むすめが居るのに――滅多めったなことをするはずがねぇだろぅ？」

「お母かあ……母ははは、スパルタなんでぇすぅのぉよぉ――――！」
　酢原焚すぱるた？
　じたばたじたばたじたばった――あぶねぇ落ちる！

「――スパルタ教育きょういく……きびしい戒律かいりつの下もとにおこなわれる――修行しゅぎょうのことです。地表ちひょうまで３４秒びょう――」
　脇腹わきばらのあたりが――ヴ。
　服ふくから、毛皮けがわみたいな細腕かいなが生えて――
　にゅにゅにゅにゅにゅぅーっ――――っきゃぁぁっぁぁぁぁぁぁぁっ!?
　細腕かいなが姫ひめさんを、しっかりと押さえ込んで――うるせえ。

　それにしても、修行ぎょうか。
　生半可なまはんかなことでは身につかない術じゅつを、手にするための唯一ゆいいつの方法ほうほう。
　おれぁ一廉ひとかどのものになるまで、２０年ねんは費ついやした。
　ソレを考かんがえたら、姫さんリカルルがこの歳としで聖剣切ぶったぎりや、ほかの奥おくの手を身につけてるのは――
「――賞賛しょうさンに値あたイしマす。もっトも生マれ持っタ資質スきルに寄ル所とこロも、大きイのでしょうが――」

「はっ、はははっはははははははははっはやく逃げないと、死んでぇしまいまぁすわぁーっ！」
　じたじたばた――――！
　必死ひっしにもがく様さまは――すこし無様ぶざまで、気品きひんのかけらも無かった。
　――どれだけ怖こわいんだよ。

「――リカルルヲ拘束こうそクするノに、神力しんりょクヲ消費中しょうヒちゅう。滞空たいくウへ使用しヨうでキる余力ヨりょくが１８％減少パーセントげんシょう。地表ちひょウまデ１６秒びょウ――」
　ガクン、ひゅぉぉぉぉぉぉっ――――落ちる速度はやさが、はやまった。

「まったく、おれはそんなに信用しんようねぇのか？　仮かりにも御前おまえさんを――一度いちどは倒たおした男おとこだぜっ！」
　顔かおを寄せ、言い放はなつ。
「っきゅん――――！」
　獲物えものを仕留しとめたときみたいな、声こえにならない声こえ。

「――現在げんざイ、シガみーは男性だんセいではアりません。リカルルノ脈拍みゃくハく、呼吸数こきゅうスうとモに上じょウ――――」
　んなのは後回あとまわしだ――もうやべぇ、落ちる。
　落ちる先さきには――――妖狐ようこが待ちかまえていた。

　ぼぉう――ぼぉう――ぼぉう――ぼぉう――ぼぉう――ぼぉう――ごぉわぁぁぁぁぁぁぁぁっ――――――――！

　長ながく高たかく立ち上のぼる、青あおく仄暗ほのぐらい炎ほのお。

　その間あいだを、何本なんぼんもの魔法の神髄ひかりのすじが伸びていく。
　幾重いくえにも寄りあつまった活力マナの流ながれは――龍脈りゅうみゃくそのものだ・・・・・。

「あらっ、いつものバリバリビリビリする魔方陣まほうじんじゃありませぇんわぁ!?　な、なんですのぉ、この一本筋いっぽんすじの魔方陣まほうじんわぁー!?」
　みぃたぁこぉとぉがぁありぃまぁせぇんーわぁぁぁーっ！
　放心状態ほうしんじょうたいから復活ふっかつした姫さんリカルルが――うるせえ。

「こんなのは、〝星ほしの形かたち〟に決まってるだろうが！」
「星《ほし》の形かたちって、なぁんーでぇすぅーのぉー!?」
「星座せイざのことでス」
「コォンな形かたちのぉ、星座なんてぇーありまぁせんでぇーしてぇーよぉーぅ!?」

　日にち・月がつ・木ぼっ・火か・土ど・金ごん・水すい。
　つながる炎ほのおが、あらわしているのは――七曜しちようの星ほし。

「極きょくを以もって天てんの理ことわりを掬すくう、柄杓ひしゃくの形かたち。まちがいねぇ――こいつぁ、鍵星かぎぼしだぜっ！」
　ごごごぉぉぅん、ごごごぉぉうん、どごごごごごっごごががががぁぁん！
　また、あの地鳴じなりだ。どんどん大おおきくなってる。

　地表ちひょうにあらわれた、目に見える龍脈りゅうみゃく。
　そのすぐそばに、ちいさな二ふたつの星ほしがきらめく。

　薄暗ほのぐらいい穴あなの底そこでも――
　狐火きつねびのひかりの中なかにあっても――
　まぎれることなく、ソコにある――昼中ひるなかに見えないはずの双月ふたつぼし。
　言葉こえを交かわさずとも、「くつくつ、けたけた」と伝つたわってくる。
　獲物えものを見る、獣けものの目だ。

「くすくすくす、クツクツクツクツ、シガミーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん♪　わたぁくしぃーにぃー勝ったらぁー、なぁんでもひとつ、いうことをきいてあげぇるぅぅぅぅうっ――――！」
　自分じぶんの体からだより大おおきな山菜束つえを――――フォフォフォフォッフォォォォォォォン！
　頭上ずじょうに伸ばした指ゆびの上うえで、クルクルと回転かいてんさせる伯爵夫人ルリーロ（狐耳きつねみみ、狐尻尾きつねしっぽ）。

「あーもー、母娘おやこそっくりじゃねぇーか！」
　まえが見づれぇ、姫ひめさんを背中せなかに背負せおえるか？
「わ、わたぁくしぃわぁー、あそこまで凶暴きょうぼうでわぁありませぇんわぁー！」

　にょにょにょにょにょにょりん、がしり♪
　ちょっ、どこを触さわっているんでぇすぅのぉー!?
　うるせえ、いてえ――頭あたまを叩たたくな！
　毛皮腕かいなと協力きょうりょくして、伯爵リカルル・リ令嬢・コントゥルを背中せなかにまわす。
　これなら直撃ちょくげきを喰らっても、いくらか防ふせげるだろ。

「――でハ、頭部防具とうブぼうぐヲ再装備さいソうびしまス――」

　ぷぴぽぽーん♪
『＞〝頭部防具：シシガニャン・へっど〟を装備します』
　ギュッ――ばくん♪
　兜頭あたまがうしろから、急きゅうに閉じた！
　真っ暗くらになって――ヴュパパパパッ♪

　耳栓みみせんが――すぽんと外はずされ――「っぎゃぁぁぁぁっ、シシガミー!?　いますぐ助たすけてさしあげますわっ！」――そとの音おとが聞こえてきた。
　また、ソレやんのか。
「喰われてねえふみゃみゃぎゃ、喰われてねえにゃみゃぁーご。魔物じゃないよにゃるるるるぅ」

　ごごごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉうん、どごごごごごっごごががががぁぁん！
　地鳴じなりが、止まなくなり――――ごばぎゃぎぼごごぅおぅわぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――――――――かちゃり♪
　妖狐ルリーロが手にした山菜束まほうつえの先端さきが――――――ひろがっていく！