滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

２：カブキーフェスタへの道

１４２：龍脈の棟梁（シガミー）、遭難４日目れんらくが付く

「姫ひめさん、ソコの薬味やくみを取ってくれ――にゃ」
　がしゃがしゃと大鍋おおなべを振るう、猫耳頭おれ。

「む、人使ひとづかいが荒あらいですわよ――かわいい♪」
　リカルルには、猪蟹屋ししがにやで使つかってる紙箱かみばこを――たくさん作つくってもらってる。

　「はい」と手渡てわたされる山盛やまもりの皿さら。
　腹の毛皮をなでられる。

「わるい――にゃ」
　受けとった薬味やくみを、全部入ぜんぶいれる。
　醤油しょうゆをドバッとかけ入れて、ひと煮立にたち。

「味見あじみもたのむ――にゃ」
　小皿こざらに取り分けた炒いため物ものを、高貴こうきな口くちが――ぱくり。
「もぐもぐ……おいしい、味付あじつけですわよ♪」

「じゃあ、できたぁ♪　ポグバードの野菜やさいしょうゆ炒いため」
　姫さんリカルルの料理りょうりはリオレイニア仕込じこみで、そつが無い。
　だからこそ、たまに違ちがう味あじの物ものが食いたくなって、おれが作つくることになった。

「二人分ふたりぶんにしては、多おおすぎますわよね……１０人前にんまえはあるのではなくて？」
　首くびをかしげながらも、皿さらがわりの箱はこを差しだしてくれる。
「飯めしを作つくってる暇ひまが、無いかもしれない・・・・・・・・からな――にゃ」
　出来できた飯めしを手分けして、どんどんと紙箱かみばこに詰めていく。

　　　§

「本当ほんとうに、行くんですのね？」
　足あしだけちょっと長ながい、猫耳頭ねこみみあたまの強つよい服ふく。
　それを着込きこんだぼくが、お姫ひめさまを抱かかえる。

「行くぞ。あの大足おおあしを切るまえに、一度いちどは上うえがどうなってるのかを見てみねぇと」
　せーのっ、助走じょそうをつけて――――よっはっとっはっ、とっとっととりゃ！
　――ぽっきゅぽっきゅぽきゅむ、ぽきゅぽきゅぽきゅきゅっ♪

「わっ、ひゃっ、きゃっ、うわひゃ――！」
　うるせえ。
　大足おおあしをひたすら登のぼっていく。
　霧きりの先さきは見えるけど、その更さらに先さきの大足おおあしが霧きりにまぎれちまう。
　言葉ことばにしづらい、見通みとおしのわるさ以外いがいは、問題もんだいなくすすんでいく。

「もぉー、どういう理屈りくつでシシガニャンの足あしの裏うらが、くっ付いてるんですのぉー？」
　いままだ、せいぜい二十歩目にじゅっぽめ。
　『座標零地点ざひょうぜろちてん』に来た〝大足あし〟を、蹴上けあがり始はじめて一分いっぷんも経ってない。

「知らんけど、止まると落ちるぞ？」
「わっ、わかりぃましたわぁー！」
　むぎゅり♪
　首筋くびすじに、しがみ付かれた。
　ニゲルには見せられないな。
　たぶん不当ふとうに、うらやましがられる。

　　　§

　――ぽきゅんぽきゅんぽっきゅきゅむっ♪

「けど、シガミー。催もよおし物ものの都合つごうがありますので――そろそろガムラン町ちょうに戻もどりませんと――」
「そうだ――にゃ。ギルド再建さいけんは、おれと迅雷ジンライのスキル頼だのみで考かんがえちまったから、ほとんど進すすんでねえハズだ――にゃぁ――」
　ほんとだよな。

「まさかこんなことになるとは――まったく、お母かあさまったら何なにを考かんがえているのかしらっ！」
「それ――にゃー……おれたちを、このわけのわからない場所ばしょに閉じこめることが、奥方おくがたさまの目的もくてきだったわけじゃ無いって事ことだろ――にゃ？」
「どういうことですの？」

「伯爵夫人おくがたさまが、計画けいかくしてたのもあった――にゃ？　あの黒くろい護衛ごえいの人ひとのとか――にゃ」
「エクレアの結婚式けっこんしき！　予定よていでは今日きょうでしたわぁー!？」
　妖狐ルリーロにとっても、この状況じょうきょうは不測ふそくの事態じたいってことだ。

「いまさら慌あわてても仕方しかたが無い――にゃ。それに、仮かりにも領主名代りょうしゅみょうだいがガムラン町ちょうに居るなら、任まかせておけば良い――にゃ」
「そうですわね。帰かえったら文句もんくを言ってやりませんと、気が済みませんわっ！」

　ふぉん♪
『＞高度３０㍍』
　けっこう高たかくなってきたぞ。
　下したを見られねぇのは、逆ぎゃくに良かったかもしれない。
　自分じぶんで飛んで下したを見るのと、あるいて登のぼり続つづけるのでは――感かんじ方かたが違ちがったかもしれないからな。

　ふぉん♪
『＞高度３１㍍』
　おれのビードロに映うつし出されている文字もじは、日ひの本もとの文字もじだ。

「なぁ、そっちのビードロ……光ひかりの板いたにはガムラン町ちょうの国くにの文字もじで書かれてるんだ――にゃ？」
「ええ、もちろんトッカータ大陸全土たいりくぜんどでつかえる〝共用語きょうようご〟で書かれていますけれど？」
　姫ひめさんのビードロに映うつし出されているのは、ガムラン町ちょうの文字もじで。
　おれのは日ひの本もとや五百乃大角いおのはらがつかう文字もじだ。

　この辺へんのことは全部ぜんぶ、迅雷ジンライがやってくれている。
　たしかに姫ひめさんが言ったとおりに、迅雷ジンライが居ないと、おれは――ポンコツかもしれない。
　垂直すいちょくの崖がけを登のぼれるのも、〝強つよい服ふく〟があったればこそだからな。

　――――ぽきゅぽきゅぽきゅむ♪
　ふぉん♪
『＞高度５０㍍』

「けど、アレだな。あの黒くろい甲冑かっちゅうの面つら……顔かおが良い奴やつの結婚式けっこんしきが、先延さきのばしになるのは――マジで申もうしわけが立たない――にゃ」
「そうですわねー。親族しんぞくの方々かたがたが集あつまる都合つごうも、ありますでしょうし」
「一気いっきに素早すばやく移動いどうできる、スキルとか魔法まほうはないのか――にゃ？」

「転移魔法てんいまほうが、いにしえより伝つたえられておりますけれど、成功例せいこうれいが少なくてあまり研究けんきゅうが進すすんでおりませんわ――うまくいってもせいぜい、隣町程度となりまちていどの距離きょりしか飛べないので――」
　おれは、姫ひめさんの〝聖剣切ぶったぎり〟の正体しょうたいが、転移魔法てんいまほうの一種いっしゅであることを知っている。
　けど、それは迅雷ジンライが神々かみがみの知恵ちえをもって解き明かした、想像そうぞうに過ぎない。

　黙だまってるなら詮索せんさくすることはないし、いま聞きたいのは町まちの間あいだを一瞬いっしゅんで移動いどうする方法ほうほうがあるのかの確認かくにんだ。

「けど、央都おうとの大女神像だいめがみぞうからなら、各地かくちの女神像めがみぞうまで飛ぶことが可能かのうですわよ？」
「出来できるのかよ――にゃ！　そりゃ便利べんりだ――にゃ」
　央都おうとに詰めている伯爵はくしゃくが、リカルルのところに気軽きがるに来ていたのは、ソレを使つかったからか。
　なんだよ！　まだまだ、知らないことが一杯有いっぱいあるぞ。
　なんだよ！　迅雷ジンライ。そういうことは〝先さき〟に言っとけっていつも言ってるだろ。
　本当に迅雷ジンライといい、女神したっぱらといい――気が利かねぇんだからよ。

　くきゅるるぅ～♪
　とつぜん、目のまえから、かわいい音おとが聞こえた。
『○月○日　１１：５８』
　そろそろ、時どきどきか。

「どうする？　飯めしにでもするか――にゃ？」
「こ、こんな所ところでわ、食事しょくじが喉のどを通とおりませんわっ！」

「じゃあ一気いっきにおりて、下したでたべるか――にゃ？」
　このために飯めしをたくさん作つくってきたんだけど、しかたない。

「ですが、その前まえに……」
　懐ふところからゴソゴソととりだしたのは――長ながい箱はこ。
「ぴぴっぽぱっぽぺ、ぽっぺっぺぴっ♪」
　ならんだ牡丹ぼたんを、押していく。

「ぷるるりゅるるれれ――♪」
　長ながい箱はこから音おとが出た。

「ヴュザザザザッ――――」
　このザラザラした風音かざおとわぁ――――!?

「――ザザザッ――あっるぇれぇ？　なんかぁさぁ音おとがぁさぁ、聞こぉえぇなぁいぃー？」
「――ザザザッ――ほんとうですわねぇ……気のせいかしらぁ？」
　姫さんリカルルが横よこに飛び出た大おおきな牡丹ボタンを、押しこむ――――ザヴュザザザッ♪

「気のせいじゃねぇーーふにゃみゃにゃぁー!!」
　ひっしに声こえを張る。
「気のせいではありませんわぁー！」
　大足おおあしは止まってるわけじゃねーから、あんまり揺らすと足あしの裏うらが離はなれて落ちかねない。
　けど、ソレどころじゃなかった。迅雷ジンライが駄目ないまは、五百乃大角いおのはらだけが頼たよりだ。

　――――カチャリ！
　ボタンを放はなした姫さんリカルルが、おれの大おおきな頭あたまが邪魔じゃまらしく、手で押しのけてくる。
「シガミーは、いま話はなせないでしょ」

　そうだった――――「温泉おんせん入浴にゅうりょく八町分はっちょうぶん！」
　ぷぴぽぽーん♪
　ぷっしゅしゅしゅぅぅぅぅっ――――ごっぱぁ♪
　ひらく兜頭あたま。この高たかさだってのに、風かぜはほとんど無かった。

「――――ザザヴユッワワッ――――あら、ネコチャンだ？　かわいい！　ネコチャァーン♪」
「――――ヴュザザッザッ――――あらぁ、いまぁリカルルちゃんの声こえもしたわねぇー♪」
　総そうじてやかましいな、アイツら。

　ふたたび押される、大おおきな牡丹ぼたん。
「こらっ、五百乃大角いおのはらおまえぇー！　話はなしが出来できるなら、すぐに、この箱はこに話はなししかけてこいってんだぁぁっ！」
「お母かあさまっ、この仕打しうちは一体全体いったいぜんたいどーいうことでぇすぅのぉーっ!？」

　カチャリ――牡丹ぼたん放はなす！
「「あらっ――」」
「――シガミー!？　どぉーしぃーたぁーのぉー？　ネコチャンは、どこ行ったのっ――ネコチャァーン♪」
「――リカルルちゃぁん!？　まぁーさぁーかぁー、こぉーんなぁことぉーにーなぁーるぅーなぁーんーてぇー――――」
　埒らちがあかねえ――「姫ひめさん、牡丹ぼたん押してくれっ！」

　カチャコン――牡丹ぼたん押す！
「うるせーっ。こっちはやたらと足あしの長なげぇ化け物もんに、たえず踏まれそうになってんだぞ――何なにもいねえっていったじゃねーかっ！」
　カチャリ――放はなす！

「――ザザザッ――化け物もの？　そんなの居たの!？　ゲラゲラゲラゲラッ、うけるー♪　まあ、そういうこともあるわよ。元気げんきだしてぇ～♪」
　こんにゃろう！
　いつか機会きかいがあったら死なない程度ていどに、たたっ切ってやるからな！