滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

２：カブキーフェスタへの道

１６９：龍脈の棟梁（シガミー）、オルコトリア（かわいい）があらわれた

「おうおう、戸が壊こわれちまうじゃねーか……おはよう？」
　壊こわされるまえに、あわてて扉ドアをあけた。

「はい、おはよう。悪わるいね朝あさっぱらから」
　いつもの綺麗きれいな顔かお。背の高たかい一本角いっぽんつのの鬼おにがいた。
　力強ちからづよさに対たいしたら、体からだの線せんはソコまで太ふとくない。
　生まれついての金剛力こんごうりきは発露せず・・・・とも、たえず屈強くっきょうな体からだを支ささえている。

「おはよぉう、鬼おにっ娘こちゃぁーん♪」
　とてちてちて。
　小ちいさなさな足あしを必死ひっしにうごかし、テーブル端はじまで駆けていく御神体いおのはら。
「イオノファラーさまも、おはようございます」
　かるく頭あたまを下げると、〝背負せおった剣けん〟が、ガチャリと音おとを立てた。

「それで、用ようは何なんだ？」
　鬼娘こいつは町中まちなかでも、出歩であるくときは長剣ちょうけんを背負せおってることが多おおい。
　それは、主おもにもめ事ごと……特とくに某伯爵ぼうはくしゃくご令嬢れいじょうを諫いさめるため、使つかわれている。

「それなんだけどさー。本日ほんじつはイオノファラーさまに、お願ねがいがございまして――」
　むぎゅ――組んだ手を、自分じぶんの鼻はなに押し当てる、この五百乃大角いおのはら信仰しんこうだけは、いまだに慣れない。気を抜くと……笑わらっちまう。

「え、なぁに？　めずらしいじゃないのよさぁ♪」
　一本角オルコトリアをみあげる、逆さ鏡餅びのめがみ。

「はい。今いま、よろしいでしょうか？」
　シガミー邸ものおきごやの中なかを見わたし、ほかに誰だれも居ないことを確認かくにんする――名物めいぶつ受付嬢うけつけじょうの、理性りせいがある方ほう。

　もっとも、頭あたまの上うえを飛ぶモノに対して執拗しつように攻撃こうげきする……鬼族オーガの性質さがのせいか、近頃ちかごろは傍若無人ぼうじゃくぶじんなご令嬢リカルルよりも手に負えない時ときがあるけど。
　厳いかつい冒険者相手ぼうけんしゃあいてじゃ、こんくれぇ・・・・・じゃねぇとやってけないから、適材適所てきざいてきしょではあるし。

「どーぞ♪　座すわって座すわって、いま、お茶ちゃおー入れるからぁ――迅雷ジンライ♪」
　ヴゥゥゥゥーン♪
　迅雷ジンライが、テーブルの上うえに茶ちゃの用意よういを始はじめたら――御神体めがみの腹はらが「ぐきゅるるぅぅぅぅぅ」と鳴った。

「――っていうかさっ、朝あさごはん食べてきなさいよ。食べながら話はなしを聞かせてちょうだい！」
　オルコトリアの近ちかくの椅子いすを引いてやっていた、おれを見あげる五百乃大角ごしんたい。

　基本的きほんてきに飯めしの用意よういは、おれがしてる。
「そうだな、肉にくと魚さかなどっちが食べたい？　よけりゃ、寿司すしもできるぞ？」

「いやその、私わたしは――くぅ♪」
　小ちいさな腹はらの虫むし。

「じゃあ、まってろ。寿司すしなら酢に漬けといた川魚かわざかながあるから、羽根芋いもを蒸ふかしゃあ、スグできる――五百乃大角いおのはらもソレでいいか？」
　リオ仕込じこみの生活魔法せいかつまほうを駆使くしすれば、ものの一分いっぷんで出来上できあがる。
　〝皿さらに盛りつけて出す〟手間てまで寿司すしは食える。

「オッケーです！　むしろ、オッケーです！　じゃあ、食後しょくごのお茶菓子デザートわぁ、例れいの央都土産おうとみやげをぉぉ、だぁしぃてぇねぇぇんっ♪」

　すぽん♪
　片側かたがわだけ耳栓みみせん……ヘッドセットというのを耳みみに差しこむ。
　コレを付けてれば、迅雷ジンライの収納魔法しゅうのうまほうにもつながる〝画面がめん〟が使つかえる。
　チカチカと目尻めじりが赤あかく光ひかり――

　ふぉん♪
『名店〝ロットリンテ-ル〟詰めあわせ
　＞朱い箱×８
　＞白い箱×１２
　＞鳥の絵が描いてある箱×７
　＞黒い箱×３』

　昨日きのう、〝冬将軍ふゆしょうぐん〟と化したリオレイニアをなだめるのに、土産みやげの半分はんぶんを渡わたしちまったけど、それでもまだ売るほど残のこってる。

「おかまいなく――くぅ♪」
　にへへと、腹はらを押さえる一本角いっぽんつのの麗人れいじん。

「（シガミー、本日ほんじつののオルコトリアは……）」
「（……わかってる）」
「（――ねぇ、ちょっと！　今日きょうの鬼おにっ娘こちゃんさぁー、なんか……かわいくなぁいー？）」
　ソレくらいは、おれにもわかるよぜ。

　普段ふだんオルコトリアは休やすみだろうが、受付嬢うけつけじょうかギルド職員しょくいんのどっちかの制服せいふくを着てることが多い。

　魔物討伐まものとうばつの時ときですら、鎧よろいの下したは制服せいふくを着てたくらいだ。
　それが、今日きょうはどうしたのか。

　ヒラヒラした裾すそ。刺繍ししゅうがついた襟元えりもと。
　頭あたまの角つのには真っ赤な紐ひもと、花はなのかたちの飾かざりまであしらわれている。

「（ぜんっぜん似合にあってねぇけど……面つらだけは良いから、華はなやぐ感かんじがしねぇでもねぇなー）」
　しゃらあしゃらした薄桃色うすももいろの、ひとそろえ。
　むさ苦くるしい物置小屋わがやに、花はなが咲いたようだ。

「（いえ、私わたしが言っているのは、服装・・ではありません）」
「じゃぁ、お言葉ことに甘あまえようかしらね――よいしょっと――――ガチャリ、ゴトリッ、ガチャガチャガチャガチャッ、ゴドドン！」

　机テーブルのよこ。部屋へやの隅すみ。
　立てかけられていく、背負せおっていた剣けん……の数々かずかず。

「（投げナイフダガーや暗器かくしぶきを除のぞき、８振りの刀剣とうけんを確認かくにん）」
　いつもの長剣以外ちょうけんいがいは、長ながさがないから目だたなかったけど……そんなに背負せおってたのか。
「（えらいたくさん持もってきたな――）」

「――はいよ、お待ち！」
　大皿おおざらに山積やまづみにした、拳こぶし程度ていどの大おおきさの〝羽根芋寿司はねいもずし〟。

「じゃあ、ひとまず。いっただぁきぃまぁーっす♪」
　小皿こざらに取りわけてやると、途端とたんに御神体いおのはらが寿司すしにかじりついた。
　……どっちが寿司すしだかわからねぇ。

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冬将軍／冬のこと。極寒の厳しさを擬人化したもの。