滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

２：カブキーフェスタへの道

２２１：ギルド住まいの聖女（研修中）、赤いローブの女

　舞台ぶたいに残のこる冒険者ぼうけんしゃは、見た顔かおだけになった。
　ニゲル、姫ひめさん、女将おかみさん、短剣たんけんを使つかうヤツ、魔法杖まほうつえに乗ったヤツ、そしてぼくの六人ろくにん。
　そして、まだ二十匹にじゅっぴきくらいの紙製つかいすても残のこってる。

「――む？」
　ニゲルたち、見知みしった顔かおと目が合った。
　あの顔かおは、まだ本気ほんきじゃない。
　十中八九じゅっちゅうはっく、弱よわいヤツを先さきに仕留しとめるつもりだ。

　よし、ならぼくも、弱よわい……かどうかはわからないけど、短剣たんけんか魔法杖つえをはたき落としてやろう。
　一番近いちばんちかくに居たぼくが、地を這はうように忍しのびよる。

「――！」「――!?」
　さすがに、気づかれた。
　ガムラン町ちょうと隣となりの城塞都市オルァグラムつまり魔物最前線まものさいぜんせんの冒険者ぼうけんしゃと、央都おうとの精鋭せいえいたち。
　コイツらは概おおむね強つよい。
　お祭りフェスタに遊あそびに来た、普通ふつうの冒険者ぼうけんしゃとは一線いっせんを画かくしている。

　短剣たんけんをかまえる、革鎧レザーアーマーの男おとこ。
　魔法杖つえを旋回せんかいさせる、赤あかいローブの女おんな。
　この二人ふたりは、レイダやリオレイニアと話はなしているのを見たことがある。
　それぞれ別べつの中級ちゅうきゅう冒険者ぼうけんしゃパーティーに、所属しょぞくしていたはず。
　もちろん手合てあわせするのは、はじめてだ。

　この乱取り戦バトルロイヤルでは、冒険者ぼうけんしゃによる冒険者ぼうけんしゃへの直接的ちょくせつてきな攻撃こうげきは、禁止きんしされている。
　体術たいじゅつで場外じょうがいへ投げとばしたり、鞘さやや盾たてで殴なぐったりと、致命傷ちめいしょうになりえない攻撃こうげきは認みとめられてる。

　音おともなく飛んでくる――――黒くろい短剣たんけん。
　ヴォォォォンッ――――うなりをあげ、高たかく舞いあがる赤あかいローブ。

　避け――る間もなく、トストストス！
　割りこんできた作業服つかいすてに、吸いこまれていく黒くろい刃やいば。
　ヒュボボォ――ン！
　白しろい紙かみが破やぶけて、ぼとぼとと中身なかみを落とす。

　ゴガァァァァァン――――ッ！
「なんだ？」
　どうした？
　それは上・から轟とどろいいた。

　落ちてくる魔法杖まほうつえと、赤あかい冒険者ぼうけんしゃ。
　あー、作業服つかいすてたちを動かすために・・・・・・必要ひつような、やたらとややこしい作つくりの魔法具まほうぐを仕込しこんだ――鉄柱てっちゅう。
　舞台ぶたいの上空うえに設置せっちした、魔法具あれにぶつかったらしい。
　〝聞こえない音おと〟と〝ほとばしる陽光ようこう〟を放はなつ、大おおきな箱《はこ》。
　その一カ所いっかしょが、壊こわれて暗くらくなってる。

　すととと、すととと、すとととととととっ。
　気を失うしなった女性じょせいを受けとめようと、四方しほうから白しろい作業服さぎょうふく……まだ名前なまえがない〝使つかい捨てシシガニャン〟が、一斉いっせいに走はしりだした。
　参加者さんかしゃの安全あんぜんに配慮はいりょした、救助きゅうじょを目的もくてきとした行動こうどうだ。
　けど、顔かおのない白しろい猫ねこの魔物まものが群むらがるさまは――

「――んえっ、あ、きぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁっ――――!?」
　気がついたのだろう、当然叫とうぜんさけぶ女性じょせい。
　ローブから伸びる手に、杖つえが吸い寄せられ――ぱしりっ！
　それは彼女かのじょの、おそらくは――取っておき・・・・・。

「蒼き風Blue wind、止まUnstopない雨pable rain、大海Drops of の雫the ocean――――！」
　赤あかいローブから紅蓮ぐれんの炎ほのおがわきだして――――ゴォッバァァァァァァァァ――――ヒュゴォォォォォォォォォォォオ！

「瀑布火炎ばくふかえんの術じゅつ――カッ!?」
　いや、似てるけどちがう。
　彼女あかいのが唱となえたのは真言しんごんじゃなくて、魔法まほうの呪文じゅもんだ。

　とりあえず避けないと、ぼくまで燃えちまう。
　しょうがないから、高たかく跳んだ。

　火がついた作業服つかいすてたちは、一瞬いっしゅんでで燃えおちていく。
　なんせ紙かみだ。わらわらと逃げまどう作業服かみども。

　参加者全員さんかしゃぜんいんが場外じょうがいに落ちて失格しっかくになるか、すべての使つかい捨てシシガニャンたちを壊こわしたら、予選よせんは終了しゅうりょうとなる。

　　　§

　ここは控ひかえ室しつ。
　まいったな。予選通過よせんつうかはしたものの、五位ごいだ。
　ルコルたちの全財産ぜんざいさんが戻もどってくるには、順位じゅんいがふたつ足りなかった。

　ぼくがニゲル青年せいねんに掛けた分ぶんで、いくらかは取り戻もどせるけど。
　それだと、ルコルは受け取らないからなぁ。
　ニャミカは遠慮えんりょなく受け取りそうだけど。

　予選よせんが終了しゅうりょうした時点じてんで残のこってた全員ぜんいんが、おにぎりとの勝負しょうぶに参加さんかできる。
　そして、おにぎりに「参まいった」させられたら、修験者しゅげんしゃ天狗てんぐとの一騎討いっきうちができる。
　あの変異種バリアント角つのウサギを、〝たったひとりで屠ほふった〟、あの・・老人ろうじんとである。

　今夜こんやの出し物イベントとしては、作業服つかいすてや強化服おにぎり相手あいての演舞的えんぶてきな要素ようそが大おおきい。
　つまりココに居る５名めいが、剣けんや杖つえを交まじえることはない。

「そーだ、ニゲル。シガミーに言っといて、オーミソー汁じるってやつ、ウチの店みせでも出したいから〝オーミソー〟をくださいってさ」
「えぇー、自分じぶんで言ってくださぁいよぉう。これおわったら僕ぼくまた二号店にごうてんの片付かたづけに戻もどらなきゃならないんでぇすぅよぉー」

　女将おかみさん対たいニゲル戦せんは、ちょっと見てみたかったかも。
　いつもは飛んでくる木さじを、青年ニゲルが一方的いっぽうてきにうしろ頭あたまで受けてるけど――
　本気ほんきのニゲルとなら、なかなか良い勝負しょうぶををしそうでさ。

　控ひかえ室しつを見わたす。
　このイベントは、ウチの女神めがみさまの仕切しきりだ。
　半分運営側はんぶんうんえいがわみたいなもんだし、このままじゃ埒らちがあかない。
　烏天狗ぼくがこの場を、仕切しきってやろう。

「じゃあ、順番じゅん――どうしましょうか？」
　おにぎりの首くびに提げた木の板ヤツじゃなくて、真っ黒くろい方ほうの板いたが机つくえに置いてある。
　雑ざつな準備しごとをしやがって、五百乃大角あのやろうめ。

「「「「なんの？」」」」
　もちろん本戦ほんせんで、おにぎりへ挑いどむ順番じゅんばんにきまってる。

『第一回バトルロイヤルおにぎり杯本戦出場順申請』
　黒板くろいたに表示ひょうじされてる申請画面しんせいがめんには、１から５の数字すうじ。

「姫ひめ……リカルルさまは、あいつ……〝おにぎり〟を切れる・・・？」
　黒筆ふでの先さきを、姫さんリカルルに向ける。

「おにぎりちゃん？　やってみないとわかりませんわね。現げんに一度いちど、〝ヴォルトカッター〟を拳こぶしで弾はじかれていますものっ、くすくす♪」
　取っておきを防ふせがれたのに、なんで笑わらってんの？

「じゃあ、女将おかみさ……コッヘルさんは、どうですか？　その〝木さじ〟であの毛皮けがわを、こじ開けられる？」
「リカルル姫ひめの技わざを弾はじくってんなら、〝木さじこれ〟じゃ力不足ちからぶそくだね」
　腕うでを組み、何なにやらかんがえはじめた。

　そういえば、きょうは前掛けエプロンの下したに〝しゃらあしゃらした服ふく〟を着てる。
　ときどき観客きゃくに向かって片目かためを閉じるたびに、おっさんどもの歓声こえが会場かいじょうを響とどろかせてたっけ。
　おっさん連中れんちゅうは……虫むしが好きなのかもな。

「――それこそ、ニゲルの剣それでもなけりゃ、切れないだろう――？」
「えー、僕ぼくぅー？　ムリムリムリムリ、こんな錆びた剣けんじゃ丸太一本切まるたいっぽんきれやしないよ」

　はぁ？　シガミーおれが着てた二号にごうを、すっぱすっぱっ切りやがったじゃねぇか！
　そして女将おかみさんはニゲルの実力じつりょくと、あのさびた剣けんの力ちからに気づいてる。
　さすがは、ガムラン最高さいこうＬＶレベルなだけはある。

「そうですわ、コッヘル夫人ふじん。いくらなんでも、ニゲルには荷が重おもすぎませんこと♪」
　そしてさすがは、姫ひめさんだ。
　ブレのない、節穴ふしあなっぷり。
　もうちょっとでいいから、ニゲルに興味きょうみを持ってくれ。

「じゃあ、そこの赤あかいローブ……じゃないね、あれ？　青いローブ・・・・・の人ひとは、おにぎり……あのねこの魔物まものみたいなのに、勝つ自信じしんはありますか？」
　いまは、本戦ほんせんの試合順しあいじゅんを決めかねてる所ところだけど。
　おにぎりが「参まいった」するより先さきに、毛皮けがわを切ってＳＤＫなかみを風にさらしたら、本戦ほんせんはそこで終わる。
　強化服おにぎりは中身なかみのＳＤＫ《おにぎり》を風にさらすと、〝ふりだし・・・・〟に戻もどってしまうのだ。

　下手へたしたら戦たたかえるのは、先着一名せんちゃくいちめいになりかねないわけで。
　こうして、自信じしんのほどをうかがってる――んだけど。

「はぁぁぁぁっ――――物心ものごころついてからコッチ、ずぅぅぅぅぅぅぅっと溜めつづけてきたＭＰエムピーが……ぶつぶつ……」
　控しかえ室しつの隅すみに倒たおれ込んだ赤あかい――青あおいローブの女性じょせいが、地獄じごくの底そこから轟とどろくような声こえで、ブツブツ言っている。