滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

３：ダンジョンクローラーになろう

２６５：ダンジョンクローラー（シガミー御一行様）、ミノタウロースはこのあと女神がおいしくいただきました

「にゃみゃにゃぁーごぉ――――ごろごろごろろろっ♪」
　こりゃ、化け猫だな。
「よ、よせやい。短みじけぇ夏毛なつげが、くすぐってぇだろーが！」

「はぁー、すっかり野生やせいの――おじいさんのようなシガミーに…………戻もどってしまいました……わね」
　派手はでな甲冑かっちゅうが、肩かたを落とした。
「そうですねぇー。それでなにが「――ってやるからな！」なのですか、シガミー？」
　給仕服きゅうじふくの袖そでをまくり上げ、意地悪いじわるな声色こわいろを披露ひろうする白しろい鳥仮面とりかめん。

「いやその――あんにゃろうが、ことのほか強敵きょうてきだったからよ――えーっと、もっと強つえぇ防具ぼうぐをだな？」
「――ソうですね、烏天狗カラテェーニ発注はっチゅうしたいナと相談そうダんしていたノです・――」

「そうですか、ひとまずご無事ぶじで何なによりでしたけれど――――よくご無事ぶじでしたね？」
　何なにかが大暴おおあばれした周囲しゅういの有様ありさまが、縁取り越し・・・・・でもわかる。
　折れた角つのが無数むすうに散乱さんらんしているし、暴あばれた張本人ミノタウそのものも地面じめんに横よこたわってるからな。

「ひかりのたま、ひかりのたま、ひかりのたま――――！」
　ピカピカピカッ――カッ！」
　すげぇ、さすがは生活魔法使せいかつまほうつかい。
　連続れんぞくで灯あかりの魔法まほうをとなえて、曲がりなりにも消えないひかりを作つくり出した。

　――――スゥゥゥゥゥッ。
　それも時間じかんが経てば消えるけど、他ほかの連中れんちゅうでは――
「ひかりのたま」「ひのたま！」「ほのおのたま！」
　――――ぷすん♪
　魔法まほうが出るのは一瞬いっしゅんで、スグに消えちまう。

「どうやらこのフロアでは、魔法まほうのすべてが制限せいげんされているようですねぇ」
　迅雷ジンライ経由けいゆで暗闇くらやみを見ているおれからしたら、いつものまるで昼間ひるまののような明あかるさで見えるようになった。

　彼女かのじょの仮面めんにも、迅雷ジンライと同程度どうていどの〝夜目《よめ》が利く仕掛しかけ〟が入れてある。
　給仕服きゅうじふくの裾すそを摘まんでひょいひょいと、リオレイニアがどこかへ行ってしまった。

　気づくと同時どうじに飛びかかってきた猫ねこの魔物まものを、叩たたっ斬らなくて本当ほんとうに良かった。
　しかしよぅ、わけがわからんにもほどがあるだろうがよ。
　いまおれは、どーなってやがる？
　念話ねんわと地声じごえのうるせぇ怒声どせい。
　それに気圧けおされ、たぶん腹はらぁ貫つらぬかれた……はず。

「それで、なんであいつぁ――――あそこでひっくり返かえってやがるんだぁ？」
　たぶんあのブヨブヨしたヤツが、ミノタウだ。
「「「「それはコッチが聞きたいですわよ」です」」――にゃぁ♪」

「（やい迅雷ジンライ……どうなってやがる？）」
　せつめー。
　ふぉん♪
『＞子細つつがなく、ミノタウロース討伐を果たしました。
　　しいて特筆するなら、日の本の僧兵猪蟹殿は、
　　まごうことなき、漢の中の漢でした」

「はぁ!?　おれぁ前世むかしも今世いまも――男おとこに決まってんだろーがあっ！」

「そんなに可憐かれんで勇いさましくて小生意気こなまいきな殿方とのがたなんて、この世に存在そんざいいたしませんわよ――まったく！」
　姫ひめさんはすこし、おかんむりだ。
「――こノ階層フロあへ来テからイオノファラーとノ全ぜンチャンネルが途絶とぜツしたノで、ゴ心配シんぱいをかけしたよウです・――」

「そうですよ！　あわてて戻もどってきたら地下ちかへの階段かいだんまわりが崩くずれてるし、魔法まほうが一切使いっさいつかえないしで――もう生きた心地ここちがしなかったんだからっ！」
　コイツは誰だれでぇい？
　リオの灯あかりがどっか行っちまったから、また辺あたりが暗くらくなって来やがった。

「――フォチャカ嬢じょうです――」
　フッカか、たしかに魔法杖まほうつえを持ってる。
　しかしこう暗くれぇと、気も滅入めいってくるぜ。

「――ようヤく地下二階ちかニかいノ解析かいセきが、終了しゅウりょうしまシた・――」
　ふぉん♪
『イオノ＞随分、時間が掛かったわね』
　ふぉふぉん♪
『＞さっきまでシガミーを再蘇生させるのに手一杯で、解析どころではなかったのです』
　ふぉん♪
『イオノ＞蘇生薬使ったの？　それも二回も？』

　蘇生薬エリクサーだとぅ!?　まるで――覚おぼえちゃいねぇ。
　腹はらに空いたはずの穴あなが塞ふさがってるし、こうしてピンピンしてるってことわぁ、使つかったんだろうな。

　ふぉん♪
『＞はい。一度目は緊急時戦術プロトコルによる強制循環蘇生を。
　　二度目は〝卵酒（二級）〟による筋肉痛緩和処置も同時に行いました』
　わからんし、毛ほども覚おぼえちゃいねぇ。

　ふぉん♪
『イオノ＞ちょっとそれ、大事じゃないのよ♪
　　　　　あとで見るから詳細なリザルト画面、出力しといて♪』
　ふぉふぉん♪
『＞了解しました』

「――それと蘇生薬エリクサー使つかったことわぁ、内緒ないしょにしときなさいよ♪――」
　ふぉん♪
『イオノ＞特にシガミー。独断先行の責は問いませんが、
　　　　　迂闊なことを言ってガムラン町から出してもらえなくなったら、
　　　　　未知の食材や調理法、ひいては廃棄女神像探索に、
　　　　　支障を来しかねないから注意してよね♪』

「（わかったぜ。その辺は迅雷ジンライ任せにすらぁ。どうせ覚おぼえちゃいねぇんだし――）」
　しかし美の女神おまえさま。
　真面目まじめな話はなしの最中さいちゅうに、なんだよそのしまりのねぇ面つらわぁ。
　まるで見えなくても、輪郭りんかくで表情ひょうじょうがわかる。

　どさっ――どさっ――どささっ！
　なんかがテーブルに乗せられた。
　見なくてもわかる。
　五百乃大角いおのはらをここまで、喜ばせる物・・・・・なんて――ひとつしかない。

「こんなに手元てもとが悪わるい中なか、ありがとうエクレア。褒めてつかわすわよぅ♪」
　五百乃大角いおのはらが乗ってるのは、黒甲冑くろかっちゅうの手甲てっこうと兜かぶとを外はずした護衛ごえいの肩かただ。
　やたら面つらが良くてガムラン最強さいきょう冒険者ぼうけんしゃパーティーの一員いちいんでもあり、あまつさえ先日嫁せんじつよめをもらったばかりである所ところの――だ。

「いいえ解体かいたいはいつもの仕事しごとでスキルまかせですので、お安やすいご用ようですイオノファラーさま。文献ぶんけんには５００グラムと記載きさいされていたと記憶きおくしてましたが、これならば――約やく４キロほどはあるかと思おもいますよ」
「ほんっっと！　嬉うれしい誤算ごさんわよねぇー♪」
　すぽん――カシャ――『（Θ＿Θ）』
　ヴォォォォン♪
　御神体いおのはらが消えたと思おもったら、浮かび上がる丸い輪郭ふちどり。

「にゃみゃにゃぁぁーご、にゃご♪」
　猫の魔物レイダも寄ってきたが、猫公用語ねここうようごしか聞こえん。
　迅雷ジンライがおれの頭コッチに張りついてるから、しかたねぇけど――にゃがにゃがうるせぇな。

　ふぉん♪
『＞取り急ぎ解析結果をお伝えします。
　　この階層には二つの物が存在していません』
　そうだな――まずは灯あかりがねぇよな。
　もうひとつは、何なんだ？

　ふぉん♪
『イオノ＞でかしたわよシガミー。褒めてつかわすわよ迅雷』
　カシャ――『（Θ＿＜ばちーん♪）』
　〝浮かぶ玉なんたら〟が、片目かためを閉じた。
　おれは学まなんだから知っている。
　ありゃぁ虫を避けてる・・・・・・んじゃなくて、見得を切ってる・・・・・・・って事ことをなぁ！

　ヴォヴォォォォ――――ン。
　片目かたを閉じた人の形いおのはらが、色いろを濃くしていく。
　お？
　ひかりのたまも、ひのたまも出ねぇこの階かい。
　五百乃大角いおのはらがまるで女神めがみのような神々こうごうしさで。
　生前せいぜんの人ひとの大おおきさと姿すがたをさらす――――ずっと暗闇くらやみに居たからまぶしい！

　そして女神こいつさまは死んではいない。
　現うつし身の映うつし身でややこしいが、生身なまみの体からだもちゃんと持ってる。
　ただその維持いじに女神ＭＳＰスキルポイントをやたらと使つかうから、消えちまうのを防ふせぐため、こうして色いろんな物ものに憑依しとりついてやり過ごしてるのだ。

「戻もどったら早速さっそくさぁー、史上最美味しじょうさいびみ祭まつりを開催かいさいするかるぁー♪　みぃんなもぜひーご参加さんかしてくださいましねぇーん♪」
　神かみが宿やどれる物ものの中なかのひとつ、〝浮かんで姿すがたを映うつしだす球たま〟が――超役ちょうやくに立った。

「ああもう、おにぎりみてぇに小躍こおどりするんじゃねぇやいっ！」
　それに祭まつりは、この間あいだやったばかりだろーが。
　それと町まちに戻もどるためには、まず火龍かりゅうだかを倒さねぇと・・・・・いけねぇ。

「――みナさま、取り急いソギご報告ほうコくがアります。コの階層かいソうにハ二ふタつノ物モのが欠落けつラくしていマす・――」
　だから〝灯あかりがねぇ〟ってんだろう？
　そいつは、五百乃大角おまえさまの後光ごこうが――十分灯じゅうぶんあかり取りになってるじゃ――

「大変たいへんです、この階層かいそうには――下へ降りる階段・・・・・・・がありません！」
　瓦礫がれきを乗り越え戻もどってきた給仕服リオレイニアが、声こえを荒あらげた。