滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

３：ダンジョンクローラーになろう

３１９：惑星ヒース神（シガミー）、聖女さま串揚げをうる

「まぁまぁ、みなさま。ようこそおいでくださいましたわ、くすくす♪・」
　陽光ようこうに照らされた金糸きんしが、上質じょうしつな薄衣うすぎぬのように流ながれる。

「ぎゃっ!?　シガミィーちゃんかい？　お、脅おどかさないでおくれよっ？」
　たまたま一番いちばんまえに居た客きゃくが、唖然あぜんとしている。

「これはこれは、お向かいの奥おくさま。本日ほんじつは何なにを、お求もとめでございますか？・」
　小首こくびをかしげる仕草しぐさに、非の打ち所どころはない。

「奥おくさまだなんてよしておくれよ、この子わぁ。いつもみたいに「おい、ばぁさま、今日きょうは何なにを買いに来たんでぇい？」って聞いておくれっ」
　うろたえる、お向かいの奥おくさま。

「そういうわけにはまいりませんわ、大切たいせつなお客様きゃくさまですもの――そうでございますねぇ……今いまでしたら揚げ芋いもができたてで、熱々あつあつのをお出しできま――――あらぁ？」
　店内てんないを見わたし、ふたたび前まえをむくまでの、わずかの間あいだ。

「ニャヤァァー！　お得意とくいさんが、ちりぢりに逃げてくニャア！」
　頭あたまを抱かかえる、猫ねこの頭あたまをした青年せいねん。

「あーぁ、そりゃぁそうわよねぇーん？・」
　カウンターの上うえ、ゴロゴロと転ころがる猪蟹屋御神体イオノファラー。
　ココは猪蟹屋ししがにや一号本店いちごうほんてん。
　売れ行きは芳かんばしくないようで、串揚くしあげも揚げ芋いもも大量たいりょうに積み重かさなっている。

「二号店にごうてんわぁ真新まあたらしいギルドの中なかに有るからかぁ、多少たしょうこじゃれた接客せっきゃくをされても、みんな買ってってくれたんだけどぉー」
　困惑こんわくの御神体ごしんたい。

「――まぁ、こうなりますわよねぇ」
　今日きょうもギルドの仕事しごとを抜けてきたのか、ギルド受付嬢うけつけじょうの制服姿せいふくすがた。
　ギルド職員しょくいんの制服せいふくとほとんど同おなじだが、襟えりを止める布ぬのやスカートが多少華たしょうはなやかだ。

「リーカールールーちゃぁん。昨日言きのういってたのわぁー、こーいうこと・・・・・・だったのねーぇ？」
　カウンターから身を乗りだす、全長ぜんちょう１０数すうセンチ。

「――まぁ、コレだけではないのですけれど……まずは今日一日きょういちにち、お仕事しごとをさせてあげてみてくださいな。本人ほんにんも楽たのしんでいるようですので」
　落ちそうな御神体めがみを、手でつかむ受付嬢うけつけじょう。

「ネコアタマさぁん♪　串揚くしあげ３０本ぽん、お買いあげでぇーす！」
「ニャはい、ただいまお持ちしますニャア！」
　すっかり気の抜けていた、猫ねこの頭あたまの青年せいねんが――
　大慌おおあわてで、串揚くしあげを袋ふくろに詰めていく。

「外そとから来たお客きゃくさん……シガミーのことを知らない人ひとだと、普通ふつうに買っていってくれるわねぇー。なんか面白おもしろい、ぷぷぷふ♪」

「――まぁ、面白おもしろいで――――!?」
　脱兎だっとの如ごとく走はしり出し、人混ひとごみに紛まぎれてしまうガムラン代表だいひょうにして最強受付嬢さいきょううけつけじょう。

「あっ、イオノファラーさまぁ、ちょうど良い所ところに。リカルル見なかった？」
　入れ替わりに現あらわれたのは、額ひたいから突き出た一本角いっぽんつの。
　同おなじく受付嬢うけつけじょうの制服せいふくに身を包つつみ、書類仕事しょるいしごとの束たばをはさんだ板いたを抱かかえている

「えっとねー……どーしたの？」
　カウンターの上うえ、上下逆じょうげさかさまにひっくり返かえった御神体ごしんたいが、問い返かえす。

「いや、いつものサボりよ、サボり。たまにはちゃんと仕事しごとさせないと、他ほかの職員しょくいんに示しめしがつかないから探さがしてるんだけど……!?」
　店内てんないを見わたし――異質いしつな者ものを発見はっけんする鬼おにの娘むすめ。

「ありがとぉーございましたぁわぁー♪　あらぁ、オルコトリアさん、こんにちわぁ、うふふ♪」
　異質いしつ――それは天上てんじょうの調しらべ。
　普段ふだんと変わらないはずの声こえが――
　楚々そそとして、労働ろうどうに励はげんでいる。

「れ、礼儀正れいぎただしいっ!?　ま、魔物まものかっ!?」
　手にした板いたを、盾たてのようにかまえる。
「いいえ、シガミーですニャ。串揚くしあげ、お一つどうですかニャ？」
　猫ねこの頭あたまをしたネコアタマ青年せいねんが、鬼おにの娘むすめに事実じじつを突きつける。

「あー、そーいやなんか。たしか大爆発だいばくはつした魔物まものの呪のろいかなんかで……まるで聖女せいじょさまみたいに、なったんだっけ？　いつもの悪わるふざけかと思おもってたけど……」
「イオノファラーさまの使つかいって意味いみニャら、もとから聖女せいじょさまだけどニャア♪」
　置かれた重心じゅうしんが悪わるかったのか、ひっくり返かえったままの御神体めがみ。
　ジタバタするソレをつかんで、元もとに戻もどしてやる猫頭青年ネコアタマ。

「アンタたち猪蟹屋ししがにや従業員じゅうぎょういんも、つぎからつぎへと大変たいへんよね……串揚くしあげ二本にほんもらう――」
「串揚くしあげ二本にほんで２キーヌになりますわぁ、うふふっ♪」
　すかさず、二個入にこいりの包つつみを差しだす――猪蟹屋ししがにや店主てんしゅ（カヤノヒメ）。

「ぅひゃわっ――――じゃ、じゃぁコレ、お金かねね……おだいじに」
　チャリン♪
「おだいじに？　体調たいちょうはわるくりませんけれど、ちょうど頂いただききましたわ――それと差し出がましいとは存ぞんじますけれどぉ、リカルルさまでしたらアチラの木箱きばこの裏側うらがわに、お隠かくれになられましたのを見ましたわぁ♪・」
　告げ口ぐちをする聖女せいじょ。

　通とおりの向こう、細路地ほそろじに詰まれた木箱きばこを見やる――鬼おにの形相ぎょぷそう。

「毎度まいどありがとうございましたぁ――いらっしゃいませー♪・」
　クルクルと店内てんないを舞う、聖女せいじょシガミー。

「心こころなしか……客足きゃくあしがぁ戻もどりつつ、あるわねぇ？・」
「そう、ソレを考えて・・・・・・あげないとね。これ一本いっぽんちょうだい？」
　御神体ごしんたいへのお供そなえの皿さらから、揚げ芋いもの串くしをひょいと一本いっぽんつまみ上げる――
　コントゥル家名代けみょうだいルリーロ。

「一本いっぽんだけだからねっ!?　……それで、考かんがえてあげないとってぇ、何なんのことぉ？・」
　負けじと揚げ芋いもにかじりつく、美の女神イオノファラー御神体ごしんたい。

「あのシガミーちゃん……カヤノヒメちゃんわぁ、お仕事しごとがぁものすごくぅ出来できるのよねぇ、クツクツクツクツクツ、コォン♪」
　手首てくびにまいたベルトを、確認かくにんする名代みょうだい。
　今日きょうは町娘まちむすめのような服装ふくそうに、たすき掛け一つ・・・・・・・という軽装けいそう。

　手首てくびのベルトには、小ちいさな黒板くろいたが張りついている。
「あ、ソレぇ！　腕時計うでどけいみたいでぇ、カワイイねぇ♪・」

　名代みょうだいは何なにを思おもったか、手首てくびから『シガミー（がさつ）現在位置』をはずして――カチャ♪
　御神体イオノファラーの首くびへ、巻いてやった。

「あらん♪　コレならあたくしさまの御神体からだでも、巻き付けられるわ――――ってこれじゃ、あたくしさまが見られないじゃぁ無いのっ!?・」
　美の女神イオノファラーの首くび。巻かれた黒板。
　上うえの三みっつの数字すうじが、じわじわと減っていく。

　下したの数字すうじが〝花畑きてん〟だとするなら『シガミー（がさつ）』は、着実ちゃくじつに近ちかづいていることになる。