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3:ダンジョンクローラーになろう
357:龍脈の回廊、セキュアと二体のシシガニャン
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「いけね、口上が――思いだせねぇ」
菫色にたゆたう化け猫は――
「まぁ良いやな、滅せよ!」
巻物に言われるがまま、唱えた。
ぼっしゅぼしゅ、しゅしゅるるるるるるるるっ――――――――♪
巻物が煙を吐いて――ばらばらと解けた!
どん、ごろろろろおん!
ぶわささささぁっ!
その勢いに弾かれた俺が――ぽっぎゅっごむん♪
跳ねあがる。
「うぉわぁぁぁぁ!?」
回転する化け猫。まわる視界。
シュルルル、シュルルルッ――――!
シュルルル、シュルルルッ――――!
無限の巻物が、無限に吐き出されていく。
すでに地は、巻物で埋め尽くされ――
その勢いが山の稜線を、越え――
その先の――出かかる月にまで届いた。
「どれだけ長ぇんだ、巻物?」
辺りが、闇に呑まれていく。
首を巨大な、満月に向ける。
あれだけ強い光を放っていたのが、見る影もない。
青い方の月も、全て巻物にまかれ――
ふたたび帳がおちる。
世界は巻物に覆われた。
月と地と化け猫だけの世界。
ぽっぎゅむん――ぽきゅぽきゅころろろろっ♪
俺が地に落ちると、近くで――がちん♪
また端まで伸びきったらしく、巻物が鉄音を奏でた。
巻物は本当に、紙を出しきったらしく――
すぽんと抜けて、足下まで転がってきた。
この不気味に笑う、巻物の軸。
とんでもなく精巧で美しい観音像を、拾いあげた。
だがそれは仏像ではなく――「長ぇ棒? こりゃぁ、そうだ独古杵だ」
§
「じゃぁ、そっちは任せたよ!」
蹴り飛ばされた青年を追って、猪のような変異種が突進。
「むあにゃごごふ、ぽきゅんにゃ♪」
おなじく牛に突進される、猫の魔物。
ふぉん♪
『おにぎり>どーんってきたらぽきゅーんだもの♪』
遠目では、木板の文字は読めない。
それでも、身振りから察する所があったらしい。
「どーいう? まさかカウンターを狙えってのか?」
シュッドオドドドゴオゴゴゴォォォン!
眼前の猪は、巨体を震わせ、地を揺るわせ、接近してくる。
たとえ両断出来ても――
あの勢いの全てを殺すか、躱すかしなければ――
「僕はおにぎりみたいに、頑丈には出来てないよぉー!」
超重量の聖剣を使った――接敵専用スキルとでもいうべき能力。
ソレなくては彼の足も、精々が十人並みだ。
いつか追いつかれる。
「ブモォォォォォブモォォォォォブモォォォォォ――――♪」
敵が何かを唱えた!
「まずい、アレは喰らったら駄目なヤツだ!」
仮にも勇者として(略)。
青年は刀を鞘に収め――下がるだけだった足の向きを、転身した!
巨体の突進。
その速度は駆動力半径、つまり足の長さに比例する。
それに打ち勝つには、相当な長さの――直線が必要になる。
そして彼は直線を――
敵へ突進することで、捻出した。
森の木々をなぎ倒し、駆け抜ける巨体。
その背後へ姿を現す、制服姿。
シュッドオドドドゴオゴゴゴォォォン!
小さな敵を見失いながらも、立ち止まることのない巨体。
敵の速度を利用した――接敵中の転身!
うぎぎぎぎぎぎぎぎぃっ――――――――!!!!!!!!
風圧にゆがむ顔。
「つぅぉっりゃぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!!!!」
回数にして数回。彼の速さはそれだけで――
猪の六倍に達した!
ッキュドッゴォォォォンッ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!
聖剣セキュア誕生の、瞬間である。
剣速が音速を超え、敵を敵の牙を敵の毛皮を敵の骨を敵の魂をセキュア刀身の錆び(過剰な自己修復状態)を使い手を――――
太刀筋に存在した全てを、両断した。
♪
♪
♪
「ふみゃにゃごぉー、みゃにゃごにゃや――♪」
「……なんだいその、歌みたいなの」
蘇生薬の空瓶が散乱し――
「にゃみゃぁごー♪」
ふぉん♪
『おにぎり>おきたもの♪』
膝枕をしていた、おにぎりが立ちあがる。
「いてっ!」
投げ出される青年の頭。
その時――――
「デェーンデデェンデェンデェーン♪」
たとえるなら、ボス戦まえの――嫌なイントロ。
「うげ、なにこの着信?」
プッ――♪
「はい、もしもし? 西計ですけどぉ――――?」
通話の向こうから、聞こえてきたのは――
「――もしもしって、なんですの?」
内耳をくすぐる、軽やかで横柄な艶やかさ。
「もしもしって言ったら、亀――んぅ? この声、り、リリリリリリリリリリ、リカルルさまぁー!?」
跳ね起きる西計三十六(17)、又の名を元スーパールーキー・ニゲル。
「――〝リ〟が多くってよ? それより、また出たんですの亀が!?」
「あー、〝亀〟っていったのは言葉の綾でさ、出たのはえーっと〝鳥〟、〝牛〟、〝猪〟だよ」
身振り手振りをまじえ、言葉をつむぐ青年。
「――さ、三匹も出たんですのっ!? まさか、それを全部アナタひとりで倒したなんてことは、あーり-まーせーんーわーよーねぇー」
庶民には非搭載の、ドスのきいた声。
「もちろんそうだけど……よくわかったね♪」
散乱する、かつて猪を構成していた物。
腹の辺りでスッパリと断ち切られた、自分の上着。
そんな物をしげしげと見わたしながら、青年は楽しげに会話を続ける。
「――そーでしょう、そーでしょうとも。それでこそ〝万年ルーキー〟、〝ガムランの狼〟、〝メンテナンスフリー〟、〝LV不詳事〟のニゲルですわ♪」
嬉々とした、嘲りと安堵を含む声。
「ソレ、最初のやつしか聞いたことないけどさ、たぶんそれ……全部悪口だよね?」
いつものことと、何処吹く風。
「――おほほほほほほほほっ♪ そんなことはなくってよ」
声に敵意はなく、わずかばかりの好意も感じ取れる。
「鳥と猪が僕で、牛を倒したのは、おにぎりだよ?」
誠心誠意、真心をこめた報告。
「――んんあぁぁんでぇすってぇぇぇぇぇ――――!?」
声に好意はなく、敵意しか感じ取れなかった。
「えぇー、ほとんど不眠不休でおにぎりに張りついてるのに――お褒めの言葉ひとつ無いのかい?」
兵六玉と言われる所以の、やさしく覇気の無い声。
「――ではニゲル。今回の件が片付いて無事にガムランまで帰還せしめたなら――」
「せしめたならぁ?」
「――特別報奨金が支払われますのでーえ、私の部屋まで取りにいらしてくださいなーあ!? ――ブツンッ!」
吐き捨てられ、通話は切断。
おおよそ、部下をねぎらう態度ではない。
「ええぇえっ――――いまなんて言ったのっ!? 私の部屋って聞こえたんだけど――――!?」
通話は既に切れている。
近くの切り株に腰を下ろし、じっと青年を見ていたおにぎりが、小首をかしげた。
菫色にたゆたう化け猫は――
「まぁ良いやな、滅せよ!」
巻物に言われるがまま、唱えた。
ぼっしゅぼしゅ、しゅしゅるるるるるるるるっ――――――――♪
巻物が煙を吐いて――ばらばらと解けた!
どん、ごろろろろおん!
ぶわささささぁっ!
その勢いに弾かれた俺が――ぽっぎゅっごむん♪
跳ねあがる。
「うぉわぁぁぁぁ!?」
回転する化け猫。まわる視界。
シュルルル、シュルルルッ――――!
シュルルル、シュルルルッ――――!
無限の巻物が、無限に吐き出されていく。
すでに地は、巻物で埋め尽くされ――
その勢いが山の稜線を、越え――
その先の――出かかる月にまで届いた。
「どれだけ長ぇんだ、巻物?」
辺りが、闇に呑まれていく。
首を巨大な、満月に向ける。
あれだけ強い光を放っていたのが、見る影もない。
青い方の月も、全て巻物にまかれ――
ふたたび帳がおちる。
世界は巻物に覆われた。
月と地と化け猫だけの世界。
ぽっぎゅむん――ぽきゅぽきゅころろろろっ♪
俺が地に落ちると、近くで――がちん♪
また端まで伸びきったらしく、巻物が鉄音を奏でた。
巻物は本当に、紙を出しきったらしく――
すぽんと抜けて、足下まで転がってきた。
この不気味に笑う、巻物の軸。
とんでもなく精巧で美しい観音像を、拾いあげた。
だがそれは仏像ではなく――「長ぇ棒? こりゃぁ、そうだ独古杵だ」
§
「じゃぁ、そっちは任せたよ!」
蹴り飛ばされた青年を追って、猪のような変異種が突進。
「むあにゃごごふ、ぽきゅんにゃ♪」
おなじく牛に突進される、猫の魔物。
ふぉん♪
『おにぎり>どーんってきたらぽきゅーんだもの♪』
遠目では、木板の文字は読めない。
それでも、身振りから察する所があったらしい。
「どーいう? まさかカウンターを狙えってのか?」
シュッドオドドドゴオゴゴゴォォォン!
眼前の猪は、巨体を震わせ、地を揺るわせ、接近してくる。
たとえ両断出来ても――
あの勢いの全てを殺すか、躱すかしなければ――
「僕はおにぎりみたいに、頑丈には出来てないよぉー!」
超重量の聖剣を使った――接敵専用スキルとでもいうべき能力。
ソレなくては彼の足も、精々が十人並みだ。
いつか追いつかれる。
「ブモォォォォォブモォォォォォブモォォォォォ――――♪」
敵が何かを唱えた!
「まずい、アレは喰らったら駄目なヤツだ!」
仮にも勇者として(略)。
青年は刀を鞘に収め――下がるだけだった足の向きを、転身した!
巨体の突進。
その速度は駆動力半径、つまり足の長さに比例する。
それに打ち勝つには、相当な長さの――直線が必要になる。
そして彼は直線を――
敵へ突進することで、捻出した。
森の木々をなぎ倒し、駆け抜ける巨体。
その背後へ姿を現す、制服姿。
シュッドオドドドゴオゴゴゴォォォン!
小さな敵を見失いながらも、立ち止まることのない巨体。
敵の速度を利用した――接敵中の転身!
うぎぎぎぎぎぎぎぎぃっ――――――――!!!!!!!!
風圧にゆがむ顔。
「つぅぉっりゃぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!!!!」
回数にして数回。彼の速さはそれだけで――
猪の六倍に達した!
ッキュドッゴォォォォンッ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!
聖剣セキュア誕生の、瞬間である。
剣速が音速を超え、敵を敵の牙を敵の毛皮を敵の骨を敵の魂をセキュア刀身の錆び(過剰な自己修復状態)を使い手を――――
太刀筋に存在した全てを、両断した。
♪
♪
♪
「ふみゃにゃごぉー、みゃにゃごにゃや――♪」
「……なんだいその、歌みたいなの」
蘇生薬の空瓶が散乱し――
「にゃみゃぁごー♪」
ふぉん♪
『おにぎり>おきたもの♪』
膝枕をしていた、おにぎりが立ちあがる。
「いてっ!」
投げ出される青年の頭。
その時――――
「デェーンデデェンデェンデェーン♪」
たとえるなら、ボス戦まえの――嫌なイントロ。
「うげ、なにこの着信?」
プッ――♪
「はい、もしもし? 西計ですけどぉ――――?」
通話の向こうから、聞こえてきたのは――
「――もしもしって、なんですの?」
内耳をくすぐる、軽やかで横柄な艶やかさ。
「もしもしって言ったら、亀――んぅ? この声、り、リリリリリリリリリリ、リカルルさまぁー!?」
跳ね起きる西計三十六(17)、又の名を元スーパールーキー・ニゲル。
「――〝リ〟が多くってよ? それより、また出たんですの亀が!?」
「あー、〝亀〟っていったのは言葉の綾でさ、出たのはえーっと〝鳥〟、〝牛〟、〝猪〟だよ」
身振り手振りをまじえ、言葉をつむぐ青年。
「――さ、三匹も出たんですのっ!? まさか、それを全部アナタひとりで倒したなんてことは、あーり-まーせーんーわーよーねぇー」
庶民には非搭載の、ドスのきいた声。
「もちろんそうだけど……よくわかったね♪」
散乱する、かつて猪を構成していた物。
腹の辺りでスッパリと断ち切られた、自分の上着。
そんな物をしげしげと見わたしながら、青年は楽しげに会話を続ける。
「――そーでしょう、そーでしょうとも。それでこそ〝万年ルーキー〟、〝ガムランの狼〟、〝メンテナンスフリー〟、〝LV不詳事〟のニゲルですわ♪」
嬉々とした、嘲りと安堵を含む声。
「ソレ、最初のやつしか聞いたことないけどさ、たぶんそれ……全部悪口だよね?」
いつものことと、何処吹く風。
「――おほほほほほほほほっ♪ そんなことはなくってよ」
声に敵意はなく、わずかばかりの好意も感じ取れる。
「鳥と猪が僕で、牛を倒したのは、おにぎりだよ?」
誠心誠意、真心をこめた報告。
「――んんあぁぁんでぇすってぇぇぇぇぇ――――!?」
声に好意はなく、敵意しか感じ取れなかった。
「えぇー、ほとんど不眠不休でおにぎりに張りついてるのに――お褒めの言葉ひとつ無いのかい?」
兵六玉と言われる所以の、やさしく覇気の無い声。
「――ではニゲル。今回の件が片付いて無事にガムランまで帰還せしめたなら――」
「せしめたならぁ?」
「――特別報奨金が支払われますのでーえ、私の部屋まで取りにいらしてくださいなーあ!? ――ブツンッ!」
吐き捨てられ、通話は切断。
おおよそ、部下をねぎらう態度ではない。
「ええぇえっ――――いまなんて言ったのっ!? 私の部屋って聞こえたんだけど――――!?」
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