滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

４：龍撃の学院

４９２：ネネルド村奇譚、蛸壺をつくろう

　シュルルルルルッ――――桟橋さんばしに置いといた、丸盆それを投げた。
　まっすぐ飛ばなくて逸れちまうソレを、蛸之助たこのすけが器用きようにつかんだ。

　おぉー、がははははっ♪
　わわーい、がややーい♪
　受けてやがるぜ、まったく。
　酒さけの席せきでの大道芸だしものとしちゃ、おれの居合いあいよか上出来じょうできだ。

　大蛸おおだこはレイダ材製ざいせいの丸盆まるぼんを相当気そうとうきに入ったらしく、頭あたまの上うえと顔の前めのあいだに押し当て、じっとしている。

「ふははっ♪　そりゃ何なんの真似まねだぜ？　生まれてこの方かた、蛸たこの為人ひととなり……生き方・・・には触れたことがねぇから、わからんぞ」
　つい笑わらっちまった。

　王族おうぞくも学者方がくしゃかたもネネルド村民そんみんも、おれたちを遠巻とおまきに眺ながめては――
　「あーでもない、こーでもない」と、好きなことを並ならべ立てやがる。
　面白おもしろい出し物ものというだけでなく、蛸たこの為人ひととなり……為蛸たことなりはそれを見ているおれたちの、為人ひととなりをあばく鏡かがみだった。

「興味深きょうみぶかいニャァ♪」
「はい。色いろを識別しきべつし、選り好ごのみをしています」
「じゅるりっ♪・」

「私わたしも投げて遊あそびたい！」
「確たしかに、投擲武器とうてきぶきとして使つかえるのでは？」
「じゅるるるりっ♪・」

「あそこまで大おおきいと食べられそうもないですじゃ」
「そうね丸まるくないしね」
「じゅるりっ、じゅるるるるりん♪・」
　などと概おおむね友好的ゆうこうてき――御神体ごしんたいさまは、涎よだれをふけやぁ。

　とにかく話はなしの邪魔じゃまを、されないならソレで良いぜ。

「蛸たこのお味あじ……じゃなくって生態せいたい？　えーっとねぇー昔見むかしみたぁ科学番組かがくばんぐみにーぃ、〝驚異きょういの蛸たこニズムＳＰスペシャル〟ってのがあってねぇ……ごそがそ♪・」
　ごそがそし出す、五百乃大角いおのはら。

「パパパパッパパパパッパパパパパァァ――――♪」
　なんだこの御囃子おはやしはっ!?
　湖面上こめんじょうから聞こえた。
　一斉いっせいに振りかえると――

　ぼぉぉぉぉぉぉぉっ――――ごぉぉうわぁっ♪
　突如とつぜんあらわれたのは、巨大きょだい画面モニタ。

「アナタの世界せかいのよりどころっ――――♪」
　でた、五百乃大角いおのはら（特大とくだい）が。
　阿鼻叫喚あびきょうかんの湖上こじょう。
　おれも含ふくめた全員ぜんいん（蛸之助たこのすけ含ふくむ）が腰こしを抜かした。

「いきなり飛び出すんじゃねぇやいっ！」
　フェスタで慣れたおれやガムラン町ちょうの連中れんちゅうですら、ひっくり返かえっちまってる。
　村人むらびとはおろか、天てんぷら号ごうまで逃げまどい――ぽっきゅらぽぽきゅららららっ♪
　大蛸おおだこにいたっては「ぶぶぎっ――ぶくぷしゅっ!!」
　血ぃ!?　黒くろい血を吐いちまったじゃねぇーか、かわいそうだろうが！

　ふぉん♪
『ヒント＞蛸墨は敵から逃げる際に使用される煙幕です。その味は美味とされています』
　そうわのぅ？
　ならいいけど、味あじの情報じょうほうは要らん。

「美の女神めがみちゃんＰＲＥＳＥＮＴＳプレゼンツ。２２１８年ねん／小里原おりはるアビオニクス綱疋つなひき出張所しゅっちょうじょ映像分室えいぞうぶんしつ作成さくせいの〝ナナダモン発見はっけん!?　驚異きょういの蛸たこニズムＳＰスペシャル〟を放送ほうそうしまぁす。みんな見てぇーねぇー♪・」
　どうやら画面モニタの両端りょうはし、空中ちゅうに浮かんだ二ふたつの『（ΘΔΘ）うかぶたま』から絵と音おとが出ているらしい。

　わいわいわいわいわいわいわいわいわわわい。
　がやがやがやがやがやがやがやがやがややや。
　皆みんなで冷つめてぇ飲み物カルルや菓子アイスクリームを食いながら、その蛸番組たこばんぐみとやらを鑑賞かんしょう。
　特大とくだいの画面モニタの後ろから・・・・、蛸之助たこのすけも見てやがる。

　番組その中なかで蛸たこが〝小ちいさな口くちの壺つぼに大おおきな体からだを潜もぐり込ませた〟所ところで――
「ぶぎぎゅぎゅるる」と蛸足あしをくねらせた。

「ひょっとしたらぁ――ずずずずぅー、ぷはぁ♪　蛸壺たこつぼ……つまり〝お家うちが欲しい〟のかしらぁねぇぇー？」
　狸たぬきと無関係むかんけいだとわかってからは、奥方さまルリーロも矛ほこを収おさめてくれている。日の本もとでは海うみに近ちかい江戸えどで良い暮らしをしていたらしいから、おれよか蛸たこについて詳くわしい。

「壺つぼなぁ？」
　おれはあの酒瓶・・・・と、似たかんじの壺つぼを取りだした。
　中なかは空からだし、あの酒瓶・・・・じゃねぇから、酒さけも醤油しょうゆも出てこねぇが。
　ぶぉん――――ぽちゃんっ♪
　湖面こめんへ放ほうり投げ、浮かべてみた。

　蛸たこはそれをひょいと奪うばい――眺ながめ回まわし、やがて興味きょうみを無くし、湖面こめんに捨てた。

「どうやらルリーロさまが仰おっしゃられたように、家代わり・・・・にするために――ひっく、巨大きょだいな壺つぼが欲しいのだと思おもわれるニャァ？」
　さすがは学者方がくしゃがたの元締もとじめだぜ。
　いま奥方おくがたさまが言ったのを、そのまま返かえしやがった。
　ひょっとして……酔ってるのか？

「そぉうわねぇー。古今東西ここんとうざい、蛸たこって言ったら蛸壺たこつぼよねぇー♪」
　じゅるるりっ♪
　やめろ、お前まえさまもか。
　それと今いますぐにでも齧かじりつきそうな、その顔つらやめろ。

「要望はなしをまとめると、「レイダ材製ざいせいの大壺おおつぼが欲しい」ということでよろしいのでしょうか？」
　どうやらリオレイニアの言うとおりらしい。
　ふぉん♪
『＞素焼きの壺では構造上、巨大な物は割れてしまいます』
　そう言うことだな。

「ぷっぎゅ――？」
　さっき湖面こめんに捨てた丸壺まるつぼに、足あしだか腕うでを突っ込もうとして――
　ぱりん♪
　そんな太ふえぇのを突っ込んだら、そりゃぁ割れらぁ。

「わかったわかった。お前まえさんが入れるくらいのを、寄こせっていうんだな？」
　ふぅ、眠ねむくて辛つらくて苦くるしいってのによぉ。

　　　§

　五百乃大角いおのはら愛用あいようの一番いちばんでかい大鍋おおなべ。
　そのさらに倍ばいくらいの、大男エクレアでさえ１０人以上いじょうは入れるだろう巨大きょだいな壺つぼ。
　作つくるのは簡単かんたんだ。

　目のまえに広ひろがるのは、見わたす限かぎりの巨木きょぼくの幹みき。
　絵で板エディタを使つかい――――ゴギャガガガガゴゴォン♪
　巨大きょだいな木彫りの壺・・・・・が、完成かんせいした。
　黒筆スタイラスで一筆いっぴつ、『猪蟹屋』と銘めいを入れてやった。

「ひのたまひのたまひのたま！」
　それをリオレイニアに焼いてもらい――
「ええええええええーい！」
　レイダにレイダ材ざいに、加工しぬりかえてもらい完成かんせい。

　酒瓶さかびんそのままの形かたちじゃ、家いえにはならんだろうということで――
　香味庵こうみあんの女将おかみが漬物つけものを漬け込んでた、少すこしだけ口くちが広ひろくて蓋ふたが付いた瓶かめのような形かたちに作つくり替えた。
　ほぼ丸まるくて蒼くて――宝石ほうせきのようにも見える。

「なんだか、この世の物ものとは思おもえねぇ、佇たたずまいだぜ？」
　ぬぅううおっりゃぁ！
　見た目の重厚じゅうこうさよりも、それは軽かるく――どっばぁぁぁぁぁぁぁんっ！
　おれ一人ひとりの力ちからでも、難なんなく湖上こじょうへ押し出せた。

　浮かべてやると――「ぷぷぎゅりゅぷっ♪」
　大喜おおよろこびで体からだを中なかへ、押しこんでいく大蛸おおだこ――「ぷぎゅ？」
　あー、広ひろげはしたんだが、まだ口くちがすこし狭せまかったか？
　いくらお前まえさんが柔やわらかくても、その狭せまい口くちからは入はいれるもんじゃ――はいった。

　うおおおおををををおおおををを？
　がはははっはあははっ♪
　さっき番組モニタで見た光景こうけいが、目のまえで行おこなわれ――
　やっぱり受けていやがる。

「じゃぁ、あとは蓋ふたか」
　おれが手にした蓋それにリオレイニアが、生活魔法せいかつまほうを唱となえようとしたら――
「コココォォン――――!!」
　奥方おくがたさまが、木彫きぼりの蓋ふたを蹴飛けとばした。
　あれ？　やっぱり大蛸たこのすけとの和解わかいには、反対はんたいなのか？
　と思おもったが違ちがうようで、ぼごごっごわぁぁぁぁっ！

「オン　キリカク　ソワカ！」
　ぼごごぉぉん♪
　くるくると舞い上がった蛸壺たこつぼの蓋ふたを、こんがりと焼いてくれる。
　村人むらたちの手前てまえ、口くちから吐くのは止めたらしい。

「オン　キリカク　ソワカ！」
　ぼごごぼごごぉぉん♪
　そう、狐火きつべびは物ものを燃やそうと思おもえば燃やせる。
　そうでなければ、いくら燃えない炎ほのおを細く重ねた・・・・・ところで――

「オン　キリカク　ソワカ！」
　ぼっごごごごごおごごっごぼごごごごぉぉぉぉん♪
　大岩おおいわに穴あなは穿てない・・・・って話はなしだが、彼女ルリーロが結むすんでいるのは――

「ぜぇーはぁー、ふぅーへぇぇー！」
　最弱さいじゃくの焔ほむらの印いん。加減かげんをするのは、苦手にがてらしいぜ。
「「奥方おくがたさまっ!?」」
　元侍女長リオレイニアと新米メイドただのタターが、突っ伏した辺境伯名代おくがたさまへ駆けよる。

「「「「「「「「「「「「せぇえぇーのぉーおぉー♪」」」」」」」」」」」」
　出来できたた蓋ふたに群むらがる子供こどもたち。
　どうやらおれが最初さいしょに投げた丸盆まるぼんのように、投げて飛ばしたいらしいが――
　十数人じゅうすうにんの子供こどもが、全員みんなでつかんだ大おおきな蓋つぼ。
　そんな物ものが、まっすぐに飛んで行くわけもなく。

　どたり、ばたり、どたたたたたたたたたたっ！
　まずレイダが転ころび、ビビビーが転ころび、村むらの子供こどもたちが次々つぎつぎとすっ転ころんでいき――
　蓋ふたは桟橋さんばしの上うえを、ゴロゴロゴロロと進すすんでいく。

　ざぶん、ぱしゃしゃしゃぱちゃっ――――！
　水面すいめんへ飛び込み沈しずんでは跳ねる、巨大きょだいな蓋ふた。
　ぷぎゅりゅりゅっ――ぱしん♪
　その取っ手をつかんだのは、壺つぼに収おさまり湖面こめんを漂ただっていた大蛸おおだこ。

　壺つぼからしたら小ちいさな、巨大きょだいな蓋ふたが――
　クワララァァン、カッチャリィン♪
　と乗せられたっ！

「「「「「「「「「「「「やったぁ、出来できたぁっ♪」」」」」」」」」」」」
　子供こどもたちが飛び跳ねた。

　真っ蒼さおで巨大きょだいな壺つぼが、湖面こめんを漂ただよう。
　その景色けしきはやっぱり、この世の物ものとは思おもえなかった。

ーーー
小里原アビオニクス／謎の人工冬眠装置（ハイバネーションデバイス）を開発した謎の研究機関。
ナナダモン／大蛸のＵＭＡの正体。自走し潜水しアイソレーションタンクにもなり、人ひとり分のプランター（食用プラント）も完備。　
※参照ＵＲＬ　https://ncode.syosetu.com/n3069hs/